ぼくとゆきのうさぎさん
『きょうはいちねんでいちばんさむいひ。』
『いちねんでいちばんみじかいひ。』
『きょうはゆきがふっています。』
『つもっています。』
『たくさんつもっています。』
『あそべるくらいつもっています。』
『いろいろつくれるだけつもっています。』
『おうちのまえのひろいひろいにわに。』
『いまはさんじのおやつがおわったじかんです。』
『ぼくはおそとへでました。』
『ぼくはゆきをあつめて、ゆきだるまをつくりました。』
『でもまいとしまいとし、おんなじゆきだるまつくってばっかりです。』
『ことしはかまくらとかもつくってみたりしたけれど、あんまりおもしろくありません。』
『そこで、ちょっとねむたくなりました。』
『だからぼくはゆきでおふとんをつくりました。でもとちゅうできづきました。おふとんはおおきくて、かまくらにははいりません。』
『だからぼくは、かまくらからでて、おそとでおふとんをつくり、そのうえにねっころがりました。』
『けっこうじかんがかかったので、おそとはくらくなりはじめていました。ふゆだから、もう、おつきさまがでていました。』
『ぼくはそれをぼうっと、ねころがってみています。』
『おつきさまがよくみえます。そのひのおつきさまはまんまるでした。おもちつきをするうさぎさんがみえました。』
『それをみておもいつきました。おもしろいことをおもいつきました。』
『ぼくは、うさぎさんをつくることにしました。』
『おてていっぱいのゆきだまをマンゴーみたいなかたちにして。』
『うしろにまんまるゆきだましっぽをくっつけて。』
『おめめはウメモドキのまっかっかでまんまるな、み。』
『みみは、ぴぃんとまっすぐな、ササのはっぱ。』
『できたー!』
『ぴょん!』
『え~、えっ? えぇぇぇぇぇぇ! うさぎさん、いま、はねたよね、いま。あれぇ?』
『ぴょん! ぴょんぴょん!』
『やった~。うさぎさんがうごきだした。うさぎさん、こっちきて、ねっ、ねっ。てまねき、てまねき。』
『ぴょん、ぴょん、』
『よしよし。』
『くるん。』
『えっ? うさぎさん?』
『ぴょん、ぴょん、ぴょん。……。』
『うさぎさん、どうして、ぼくからはなれるの?』
『ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん――――』
『え、えっ? まってよぅ、うさぎさんんんっ!』
『ぼくはうさぎさんをおいかけました。』
『でもすぐにみうしないました。』
『とってもとってもがんばりました。おそとはどんどんくらくなっていきます。』
『そらをみあげます。』
『おつきさまのうさぎは、ちゃんとおつきさまにいます。』
『でも、ぼくのうさぎさんはどこかへいってしまいました。』
『ぼくはかなしくなって、なきました。わんわんなきました。』
『あきらめてゆっくりといえへかえりました。』
『まわりはもうまっくらで、どれだけがんばってもうさぎさんはみつかりそうにありません。』
『ぼくはおうちにかえってねました。』
『あしたになったら、おひさまがのぼったら、またさがそう、って。』
『でも……。』
『つぎのひ。あさおきると、もう、ゆきはありませんでした。』
『とってもぽかぽかしていました。』
『ゆきはぜんぶとけてしまったのです。』
『ぼくはとってもかなしくなりました。』
『ぽかぽかなのに、かなしくなりました。』
ことしの2がつ、そんなことがありました。
そして、きょう。
あのひからきょうまでいちどもゆきはふりませんでした。
そして、きょう、ゆきがふっていました。
あさおきたら、ゆきがふっていました。
きょうはいちねんのさいごのひ。
きょうはゆきがふっています。
つもっています。
たくさんつもっています。
あそべるくらいつもっています。
いろいろつくれるだけつもっています。
おうちのまえのひろいひろいにわに。
いまはさんじのおやつがおわったじかんです。
ぼくはおそとへでました。
ぼくは、きょねんのことをおもいだしました。
なみだがとまりません。
でも、さけびました。
いきをいっぱいすって、いのるように、さけびました。
「うさぎさぁぁぁぁんんん、どぉぉこぉぉぉにぃぃ、いる、のぉぉぉぉぉおおおおっ、……。」
いきがきれるまでさけびました。
でも、へんじはかえってきません。
ぼくはさっきよりもずっとかなしくなりました。
あったかいはなみずがとまりません。
うさぎさんは、もういないんだ。
どこか、さむいところにいって、とけないでいてくれたかもしれないっておもってたけれど。
そんなことはなかったんだ。
すっと、でてきてくれるとおもってたけれど……。
……。
…………。
……、ん?
ふとももがつめたい。
くつしたもつめたい。
ながぐつをはいてるのに、つめたい。
ぬれたみたいにつめたい。
ぼくはひだりのあしをみた。
すると――――
「う、う、うさぎさぁぁぁぁんんんっ!」
うさぎさんはぼくのひだりあしのふとももに、うさぎさんがくっついていた。
うさぎさんだぁ。
まちがいなく、うさぎさんだぁ。
ぼくがきょねんつくった、うさぎさんだぁ。
ぼくはうさぎさんをゆっくりつかんで、じめんにおいた。
だって、うさぎさん……、すこしとけてたから。
じめんはゆきがあってつめたい。
だからぼくはそうした。
ぼくはしゃがんだ。
ぼくとうさぎさんはむかいあった。
うさぎさんは、まっすぐぼくをみている。
にげそうにはない。
「うさぎさん、ごめんなさい……。きょねんは、びっくりさせて、こわがらせて、ごめんなさい……。おいかけまわして、ごめんなさい……。」
ぼくはうさぎさんにあやまった。
きょねん、うさぎさんをみつけるのをあきらめたときから、ぼくはそうしようときめていた。
あとは……。
ありがとう、うさぎさん……。
うさぎさんはぼくのひだりのながぐつのさきにすりすりしていた。
ちかよってきてくれた。
すりよってきてくれた。
そう、ゆるしてくれた。
ぼくはとってもうれしかった。
「ねえ、うさぎさん。なでなでしていい?」
ぼくは、そう、うさぎさんにおねがいした。
またにげられないか、こわかったけれど、おねがいした。
「ぴょん。ぴょんぴょん。」
うさぎさんははねた。
はねて、のぼった。
ぼくをのぼった。
ぼくのむねへ、のぼった。
ぼくはうさぎさんをかかえて、なでなでした。
ずっと、なでなでしていた。
すこしでもながくそうしていたかった。
だって、もうじかんがないから。
じめんのゆきはもう、はんぶんくらいとけていた。
おひるになってきて、ぽかぽかしてきたから。
ことしは、ゆきはおひるでおしまい。
だから、うさぎさんも……。
ぼくはこんどはあやまらなかった。
ただ、うさぎさんをなでていた。
とけていくうさぎさんをなでていた。
うさぎさんはぴょんぴょんしなかった。
そして――――、うさぎさんはとけてきえた。
ふたつのササのはと、ふたつのウメモドキのまっかっかでまんまるな、みをのこして。
ぼくはなきました。
あのときよりもずっとかなしくて、ずっとないていました。
そして、つぎのひになりました。
あさです。
しんねんです。
おしょうがつです。
おしょうがつ。
でも、ぼくはうれしくありませんでした。
むしろ、かなしくなりました。
もう、うさぎさんとはあえないんだ、とおもいました。
ふたつのササのはと、ふたつのウメモドキのまっかっかでまんまるな、み、をみて。
ぼくはそれをおいて、おかあさんのところへいきました。
おもちをつくそうだからです。
おもちつき。
おもち。
……、あっ!
ぼくはもどって、ふたつのササのはと、ふたつのウメモドキのまっかっかでまんまるな、み、をつかみました。
そして。
かぞくみんなでのおもちつきがおわったところで、おかあさんがおもちをもっていこうとしたところで、ぼくはてをのばしてさけびました。
「まってぇぇぇぇぇぇっ」
そして、ぼくは、ぼくのおてていっぱいくらいのそのおもちに、ふたつのササのはと、ふたつのウメモドキのまっかっかでまんまるな、み、をさしました。
すると、
「ぴょん。ぴょんぴょん。ぴょんぴょんぴょん。」
うさぎさんはあのときみたいにはねました。
ちょっとおもそうでしたが、はねました。
「おかえり、うさぎさん。」
ぼくは、とびついてきたうさぎさんをだきかかえました。
こんどは、うれしくって、なみだがとまらなくなりました。
とってもとっても、うれしかったです。