現場検証
明らかに密室だった。
いや。完全に密室ではないが、実質、密室だった。
入口の鍵は掛かっていた。
しかも、鍵は華さんのポケットに入っていた。
スペアの鍵があるとはいえ・・・。
使用人の誰がどう保管しているのか、
一番親しい有栖川さんも知らなかった。
あるいは犯人は知っていたのかも知れないが・・。
それは少々無理があるだろう。
しかも、密室を作ったなら、
使用人に罪を被せても良さそうなものだが・・。
使用人は全員死んでいる。
後で調べたら、鍵はちゃんと執事長が
金庫のような小箱に管理していた。
スペアの鍵は使われなかったということだ。
外部犯に見せかけるにしても中途半端だ。
窓に何の痕跡も残していない。
血糊や足跡をわざと残してもいいようなものだが。
密室にしても中途半端だ。
―――窓が、開いていたのだ。
しかも、窓枠には血痕も、足跡もなく、ただ雪が積もっていた。
宴のときには降っていた雪が、
私が部屋に戻ったときは止んでいた。
つまり、華さんは部屋に戻った直後、
私と別れてすぐ殺されたのだ。
私が部屋に戻って窓を見るまでの僅かな間に。
―――犯人はどうやって部屋に入り、
出て行ったのだろう?
勿論、入口のドアは頑丈で、下に鍵の入る隙間もない。
窓の雪も、なんの跡もない、綺麗な雪だ。
それより私は気になることがある。
―――玲さんが居ないのである!!!
私にとってはそれがある意味、
殺人トリックより重要だった。
皆で探したところ・・・。
玲さんは隣の部屋に居た。
隣というか、続き部屋で物置のような部屋だった。
これまた鍵が掛かっていて、
華さんのポケットの鍵束の一つで開けられた。
玲さんは気絶していて、縄で縛られていた。
縄はその部屋にあったものだろう。
これまた窓が開いていて、
窓枠は同じように雪が積もっていた。
こうなると、犯人は
窓から出て行ったように思えるのだが・・。
窓にはなんの痕跡もない。
この犯行現場の簡単な図を記してみる。
二つの部屋は密室で、続きの扉は施錠されている。
鍵は被害者のポケットの中。
窓の外には何の痕跡も無い。
部屋同士の窓も離れている。
比べると使用人部屋は密室でも何でもなかった。
鍵はついていたが開いていた。
華さんの部屋とは違う、離れた使用人寮だ。
だが、どちらの現場も異常だ。
これだけの犯行を為せる凶器は存在するのだろうか?
相当長い刃物と切れ味の良い刃物の筈だが。
どちらも血まみれだろう。
何の処理もしていなければ。
その場の現場検証はそのくらいだった。
医者の河東さんに玲さんを診てもらい、
命に別状はないことを確認する。
私達はその惨劇の場を後にして、
大広間に移動することにした。
その際、皆が青ざめた顔で目配せしているのを、
これまた私は見逃した。
気を失った玲さんを心配していて。
Excelで作った下手な図を載せてみました。
見ることが出来ない方、ごめんなさい。
出来る限り文章で記述しました。
しかし、これ、トリックでも何でもないので、
はっきり言って関係ないです。