殺人のはじまり
豪華な夕食を詰め込み過ぎて、胸ヤケのような状態の私。
そんな状態でも『彼』―――玲さんを眼で追ってしまう。
亜麻色の髪に天使の輪。
琥珀の瞳は優しげだ。
仕草は優美で気品がある。
彼のところだけスポットライトが当たっているようだ。
華さんがファンであることを説明してくれても、
ついつい隣の彼を盗み見る。
「それで明日の昼食後に推理ショーを披露して頂きたいの。
如何かしら?」
「え?ああぁ、大丈夫です。」
つい生返事をしてしまったが・・。
どうやら華さんはミステリーファンらしい。
だが、どうしてもトリックが
よく分からない小説があるらしい。
よほど気になるらしく、同条件の部屋を作らせたらしい。
(さすが元華族のお嬢様だ)。
その推理ショーを皆で楽しもうという趣向らしい。
その準備のため、華さんが小説を貸してくれるらしい。
もし間に合わなければ先に延ばすとのことだが・・。
小説の本筋はトリックとは関係ないらしいので、
トリックのところだけ理解すればいいらしい。
それなら大丈夫だろう。
聞いたところ物理トリックのようだし。
改めて了承し、華さんに小説を借りる為、
引き上げることになった。
「では皆様。これにて一旦お開きに致しますわ。
私達は明日に備えて先に失礼致しますわね。
勿論、バーや映画館もありますから。
使用人がご希望のところに案内致しますわ。
良い夜を。」
・・・なんと豪勢なことか・・・。
だが、私は呆れていて、客の大多数が
意味ありげな目配せをしていたのを見逃した。
彼が虚ろな悲しそうな眼をしていたのも。
「では、少しお待ちくださいな。」
部屋の前で一旦私達は待たされる。
うう・・っ!き、気まずい・・・っ!!
「あの・・玲、さん・・」
勇気をもって私が話しかけたとき、
「ありましたわ。どうぞ。」
「・・・あ、はい。」
彼と一瞬、眼が合った。
でも、それだけだった。
彼は少し悲しそうに微笑んだ。
勘違いでなければ。
私は残念に思いながら、小説を受け取る。
「では、失礼いたしますね。
明日はよろしくお願い致します。
お休みなさい。
・・・玲、行きましょう。」
「・・・・はい。」
意味ありげな彼女の微笑みと彼の縋るような瞳。
二人は部屋の中に入って、鍵が落ちる音がした。
私は未練がましく部屋の前に佇んでいたが、
自分の割り当てられた客室へ向かった。
・・・・・それが最後だった。
私が、白鳥館の女主・嶋嶺 華が、
生きているのを見た。