謎解き不要の独白
「・・・・あなたは『誰』ですか?」
私は夢の中にいるように尋ねた。
「あ?おまえ、『分かる』のか?
ま、そりゃそうか。
『俺』は『レイ』とは違うように『出来てる』からな。」
彼の口調は全く違う。
柔らかで優雅な声とかけ離れた粗野な口調。
まるで・・違うところから出ているような・・。
「そうだ。ご明察。
――――俺達はいわゆる二重人格ってやつだよ。」
「俺は零だ。零と零。
レイとゼロ。
違うが同じ。二人で一つ。」
彼は獲物を品定めするように歩き廻る。
「それは分からなくとも、名探偵。
おまえはだいたい事件の真相が分かってたんだろ?
だって、おまえは幾つもの証拠を見ないフリしてたからな。」
それを侮辱ととっているのか、彼は怒っている。
「俺は密室なんて作るつもりなんて始めは無かった。
あの女は自分で自分の部屋に鍵を掛けた。
それを俺が殺した。
そして、雪が降っているうちに窓を開けた。
そこから壁を伝って、使用人寮で皆殺してやった。
面倒だから一列に並ばせてな。
そこまでは、俺はそのまま逃げだそうという気だった。
だが、気が変わった。
この館の人間、皆殺してやろうと思ったんだ。
それにレイの身体は限界だったからな。
車のタイヤを切り裂いて、橋を落としてから、
仕方なく自分の部屋に戻ることにしたんだ。」
彼は凶悪な笑みで自らの犯行を曝け出す。
「だから、証拠なんてそこらにわんさか残ってた。
おまえが俺を犯人だと推理したら、
まっさきに殺そうと思ってた。
なのに、おまえは・・・っ!!」
彼はまた憤怒を隠そうとしない。
「まず、おまえは壁に残った跡を見ただろう?
それだけで犯人が壁伝いに移動したことが分かっただろう。
なのに、おまえはそれをしなかった。
物置部屋にしてもそうだ。
窓にはくっきり桟の跡が残ってただろ?
あれは、俺が帰ってくるとき、
真上から器用に窓を開けたからだ。
そのときは雪が止んでいたからな。
極め付けは服だ。
血を洗い流した服が、
物置部屋に隠してあるのを発見したときは、
おまえを殺そうかと思ったぜ。
なのに、おまえは素知らぬ顔だぜ。
だが、流石に凶器までは『これ』
だと分からなかったんじゃねぇか?」
そう言って彼はそれを掲げた。
――――――長く長く鉤爪のように伸びた十指の爪を。
「俺の能力『超強化』。
凄いだろ?」
彼は狼のように舌なめずりをする。
「さて。あんたが俺を見逃したのは何でだ?」