23 古き英雄との出会い
前回のあらすじ
ワイバーンを討伐した。ユーキも活躍。トドメはスールさんの一撃。
洞穴の入りぐるりと見渡したが、想像していたような光る物は無かった。
部屋の隅には石造りの柱や棺のような物がいくつか転がっていた。
「おお!!コイツだ!ようやくコイツと対面出来た。中身は無事だろうな」
スールさんが目の色を変えて石棺に近づいていく。
これ、変な物入ってないよね?開けたら呪われるとか。
ちょっと不安になったが後ろを付いていった。
「留め金は壊されてるな。それじゃ持ち上げれば開くはず。どれ」
ズズ、ズズと蓋が横にずらされていく。中には沢山の硬貨が見えた。
スールさんはもう一つ、別の石棺の蓋をずらしていくと、兜のようなものが見えた。
「これ、なんですか?」
「コイツか?コイツはヴォルドン様を祭る神殿にあったご神体よ」
「財宝箱のようにも見えるんですが?」
「確かにこれは俺たちロックバルトに住む物にとってはお宝だな。なにせヴォルドン様に縁のある品々が納められているからな。これなら分かるか?」
スールさんが硬貨を一枚つまみ上げると渡してきた。
これは知ってる。僕が集め始めたオズワルド銅貨だ。[穿山]ヴォルドンと書かれている。
裏面には片側が尖っていて、片側は平らな鎚を持っている髭人の意匠が掘られている。この人が噂のヴォルドン様か。
いいね!いいね!ようやく新しいメダルに出会えた。
スールさんは兜が入っていた棺を確認している。
僕は貨幣が入って居た石棺の中をのぞき込んで確認した。
中には金貨と銅貨が大量に入って居たのだが、なるほどなるほど、確かにご神体なのかもしれない。
なにせ、両方共同じ意匠が掘られており、ヴォルドン様に縁の貨幣だ。
金貨の方にはロックバルト5000周年記念と書かれていた。
硬貨の山を掴む……ヴォルドン様だ。
かき分けて別の硬貨を何枚か掴む……ヴォルドン様だ。
石棺の反対側の方を……ヴォルドン様だ。
石棺は風呂ぐらいある大きな物だ。こんなにあるのに2種類しか、いや、ヴォルドン様のものしか無いだと!?
幾らメダルが好きと言っても、これだけ同じ硬貨を並べられるとなぁ。
石棺を開けた瞬間の興奮がしおれてきた。
諦めきれず石棺の中を一生懸命探していくと、底の方に魔法金属アミールで作られた小さなケースが幾つか出てきた。
アルミニウムのまがい物みたいな名前の魔法金属は意外といろいろ使われている。安いんだろうか?
中身は同時代に5高弟を勤めた5人分のオズワルド硬貨がセットになった物だった。
ようやく違うものを見つけた!
後で【洗浄】すれば一緒かも知れないが、荷物から綺麗な布を取り出して、慎重に硬貨を調べた。
[瞬断]フェリーチェ、[鉄塊]ボロッゴ、[魂断]ヨールセン、[自在矢]ヴォーズリンと[穿山]ヴォルドンで5高弟だ。
このケースの中にもちゃんとヴォルドン様は鎮座していた。
ケースに収められているのはプルーフ硬貨の様なものだろうか?少しピカピカしていた。
ヴォルドン様は7000年以上前の人物らしい。
なんとも気の遠くなる話だが武神様が5高弟を選ぶようになったのが60万年前らしいのでその視点から見れば最近だ。
フェリーチェ様はパズルーロ様の師匠で、[瞬断]の異名を継承したんだとか。
当然これはルニの知識だ。さっきから彼女はとてもイキイキしている。
僕はフェリーチェ様とヴォーズリン様の硬貨に見入っている。とても精巧なプレスがされていた。
造幣ギルドは女性の貨幣の時だけ気合いが1.5倍ぐらい違うと思う。
「それで、ヴォルドン様は高弟として900年の時を生きられましたが……」
「おい!」
「他の方々はもっと長く生きられたので、ヴォルドン様と一緒に5高弟を勤められたのはこの4人の高弟様だけとなるわけです」
「おい![旋回姫]!ちっと話きいてくれ」
二人で硬貨の話に夢中になっていたら、スールさんをほったらかしてしまったようだ。
先ほどまで別の石棺を調べていた彼がこちらに来ていた。
「あ、すいません」
「何でしょうか」
「ご神体が心配で後回しになっちまったが……これで、ご先祖様に顔向けが出来るようになった。感謝する!」
そういうとペコリと頭を下げた。髭人が頭を下げているのは初めて目にする。
「頭を上げて下さい。僕たちも無事解決して安心しました」
「うむ。スール殿、頭をあげてくだされ。共に戦い抜いたのですから」
「分かった。そうか、そう言って貰えるなら俺も捨てたもんじゃねえな」
朝には荷物を運ぶための小隊が着くとのことで、僕たちは番をするため、その日は山頂の洞穴で一晩を過ごすことにした。
石棺は全部で4つあり、1つはヴォルドンに縁のある武具で、1つが先ほどの硬貨類。残りの2つは町を興した頃に書かれた歴史的な資料だった。
一緒に4つ程転がっていた石柱も曰くのある貴重なものらしい。
資料は何冊か見せてもらったが、書かれた字が読めなかった。
町にも読める人は居なくなってしまった古代文字だと言われた。
待機所の部屋にあった壁画に刻まれた文字に似ているのでこれと同じものかもしれない。
【インタープリター】のレベルが上がれば読めるようになるんだろうか?
戦闘前は身動きするのに妨げにならない程度にご飯を食べただけだったので、遅めの晩ご飯となった。
待機所で補充してあったご飯を広げてみんなで食べながら今日の行程を振り返っていた。
スールさんは当たり前の顔で酒を取りだして煽っていた。
「それでその【飛剣術】と言ったか、あれはとんでもねえな」
「ユーキさんがこの世に生んだ新しい武術なのです」
「自分自身より、飛んでく武器が強いっていうのがちょっと締まらない話なんですけどね」
本当にそうだ。【飛剣術】以外の活躍はオスの左足を切ったことぐらいだ。
あれだって、潜り込むときに【飛剣術】のサポートあってのことだ。
「まぁ、あれほどの武威をもっとりゃ、同じ事よ」
「全くです。結局私は翼を落としきれませんでしたから、後で見た左足の断面を見て肝が冷えました」
「あれはバイヤードさん直伝の【二の閃】です。敵の意識が僕に来てなかったから出来たことですよ」
「なんと、あの益荒男の技か。そういわれりゃ見覚えのある槍だが、それもまたユーキ殿の力だ」
二人がそんな風に言ってくれるのは素直に嬉しい。
確かに攻撃は十分だったけれど、防御面が足りないと考えるのが良いかも知れない。
「それにルニは【曲剣術】ではなくて、【剣術】だったら違ってたんじゃないですか?」
「いえ、曲剣であっても、少し慣れが要りますが【剣術】の技は十分に使えます。あの滝壺で使って見せた【飛刃】や【波斬】は【剣術】の技なのです。それにこの剣は父上より選別として送られた竜の爪を切り出して作られた魔剣です。【ワイバーン】を目の前にして、絶叫を聞いて、少し心が気圧されたようです」
「武技って奴は思いの丈でその効果が変わるといれとるから、そういうこともあらぁな」
「ユーキさんの、あのような場面で迷いの無いあの一振りは見事と言えましょう」
「そ、そういうものですか」
「まぁそういうもんよ。思い込みが強えって事でもあるがな。ダハハハハ」
なるほど、【剣術】スキルは適用範囲が広いのか。確かに同じ剣を獲物として用いても【騎士剣術】も使える訳だから、言われてみれば納得だ。
武技は思い込みの力か。異界神様もスキルについて似たような事を言ってたな。
僕は思い込みが強いの……かな?それって、良いことなの?素直に納得できない。
「ところで……戦いの後でレベルが上がったという声がどこからともなく聞こえたが、あれはどういうことだ?」
「あ、あれは【パーティ】スキルの効果ですね。みんなのスキルレベルが上がると共有されるようです」
「うむ。それは聞いたことがあるので知っておる話だ」
【コンソール】が流れることについて聞かれてるのかと思ったが、そうじゃないのか。
スールさんは冒険者ギルドのギルドマスターだ。プレイヤーが習得しやすいという異世界カテゴリのスキルについて詳しくても不思議じゃない。
「えーと。それじゃないとなると、何の話ですか?」
「ユーキさん、スール殿はレベルが上がるその勢いの事を言われているのでは?」
「そう、それよ。あんなにスキルのレベルが上がるとは偶然にしても出来すぎておる。俺のレベルも幾つか上がりおった」
「スール殿!それこそがユーキさんの力なのです!私もここしばらくだけでも驚くような経験をしております」
「ん?よく分からんなユーキ殿が何かしているということか?」
僕も細かいことはよく分かってないんだよな。ギルドマスターのスールさんに説明したら分かるかな?
「スールさんは【ステータス】をお持ちですか?」
「いや、何度か試したがものにならんかった。次元神様の作られた【解析】の方ならいけるぞ」
「見て貰えれば早そうだったのですが、僕もよく分かってないので一部推測ですが説明します」
固有スキルに【スキル習得】【成長加速】があることや【見取り稽古】というスキルがあるせいか、どうも僕はスキルレベルが上がりやすいらしいという話と、【パーティ】のレベルが上がったら、僕の得た経験値がどうやら仲間にも入るようになったという話を伝えた。
「う~~~む。【スキル習得】に【成長加速】か、すげえ話だが聞いたことが無えな。経験値がそんな風に増えるなんて話も初耳だ。」
「なんと、そのようになっていたのですか?」
スールさんも経験値についてはよく分からないらしい。
それはそうとして、なぜそこでルニまで驚いてるのかな?知っててスールさんに言ったんじゃ無いの?
「経験値っつーのはあんたら地球人が来る前から異界神様が言ってた話で聞いたことはあるが、ユーキ殿のように数値で見えるという話を聞いたことが無えし、【パーティ】は経験値が増えるって話は良く言われる話だ。だが増えてるってのは分かるがどんな風なのかよく分かってねえ」
「ユーキさんの言われるように多く経験値を得ているものが居る場合、仲間がその恩恵を受けるという話は?」
「初めて聞いた話だ。それぞれの才能によって得る経験値の多い少ないは分かっとったが……これはすげえ話だぞ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだ。地球人は何故か【パーティ】を組みたがるが、元々【パーティ】は【解析】の度に相手に許諾を得るのが面倒だってんで、使われる程度のもんだからな」
「あとは、パートナーとして相手を認めて、いつ【解析】されても良いという心構えを示すために【パーティ】を組むのも良く聞く話ですね」
恩恵があるから組むのじゃなくて、相手を認めるから【パーティ】か。
てことはルニだけじゃなくて、スールさんの【ステータス】見ても良かったのか。
「ただまぁ、今回のことはユーキ殿のその成長の力があっての事って訳か。髭人は【風魔法】とは相性が悪いからありがてえ話だが、こいつは広められるもんじゃねえな」
「【見取り稽古】や【飛剣術】なら時間があれば教えられるんですけどねぇ」
「おい、本当か?あの剣や槍が飛ぶ馬鹿げた力の武術をユーキ殿は教えられるのか?」
「ええ、私も教えて頂きました」
そう言うとルニが腰の剣を抜いて目の前で手を離すと、そのままピタリと空中に留まっている。
ルニの【飛剣術】もレベル2になって、止めた時にフラフラしなくなってきた。
「ほう。既に使い手が他にもいるのか」
「しかし、ユーキさんのように恐るべき威力を発揮するまでには至っておりませぬ」
「そうなのか。う~む。うちのギルドの講習会でそれを扱ってもらう事は出来るか?」
「【見取り稽古】込みで教えたのでちょっと講習会で扱うには時間が足りなそうです」
「そいつは残念だな……」
「ビガンの町まで行けば、我が父の道場で上級者向けに【見取り稽古】を教えておりますし、サイモン殿が【飛剣術】に通じております」
「[怠惰]殿か。う~む、我が町からも何名か弟子入りを考えねばならんな」
[怠惰]殿!サイモンさんにはぴったりの通り名が用意されていた。思わずにやりと口が緩む。
僕がもっと簡単に【飛剣術】を教えられればいいんだけどなぁ。そうだ!スキル魔石!あれなら簡単に教えられる。
「スキル魔石を使うという手もあるのですが、この町では空のスキル魔石は入手が可能でしょうか?」
「あれか、リビングロック程度の魔石があれば確かに作ることは可能だが、ダリヤの婆さんが譲ってくれるか……帰ったら考えてみるとしよう」
この町にはどうやらスキル魔石が作ることが出来る人がいるようだ。
僕の持っている魔石の何個かは使えるものがあるかも知れない。
「所であんたらはこの討伐の報酬について話は聞いてるのか?」
「そういえば確認してませんでしたね」
「この鎚の代わりの報酬をまだ用意出来てねぇ俺が言うのも何だが、あんたらも大概だな」
「あはは、そうかも知れませんね」
「あのヴォルドン様由来の武具類はちっと渡す訳にゃ行かねえが、資料の一部や硬貨ぐらいだったら分けられると思うが……」
「僕はロックバルトにはまだ見ぬ硬貨を集めるために来たので、硬貨や金属加工に関する技術や道具なんかだと嬉しいですね」
「そうか、帰ったらグスタの親父と相談してみるか」
僕たちは、スールさんのバックパック一杯に詰まった酒を酌み交わした。
英雄ヴォルドンの男魂祭が復活した話や、ロックバルトの町と【ワイバーン】の因縁を聞いたり、高弟様達の逸話をルニが熱く語ったり楽しい時間だった。
僕がバンジョーを取り出して演奏を始めると、やがて僕たちはロックバルト縁の歌を誰からともなく歌い出した。
「「「髭人は~ヨゥホゥ」」」
「「「ロックバルトの、火山にヨゥホゥ」」」
「「「魔物を潰して、生きる~ヨゥホゥ」」」
「「「鉱山を掘って、生きる~ヨゥホゥ」」」
「「「鉄を溶かして、生きる~ヨゥホゥ」」」
「「「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」」」
「「「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」」」
……
夜はそうして更けていった。
次話「24 髭人族は重たいものが好き」