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20 待機所と新たな依頼

前回のあらすじ

 坑道の討伐依頼を終えた。ギルマスがごねて酒比べ(飲み比べ)で決着。相手が弱くてルニが憤怒。

待機所では打ち上げの真っ最中だった。

待機所に詰めていた女衆はほどんどが打ち上げに来たらしい。

後夜祭みたいなものかな。

初日に一緒になった女性プレイヤー達も来ていた。


「タモツも参加したいって言ってたんだけど、こればっかりは内輪だけで盛り上がりたいよね!」

「タモっちゃんが他の子にデレデレしたら、カヨが気分悪いやんなぁ」


タモツさんとリーダーのカヨさんは付き合ってるらしい。僕には縁遠い世界の話だ。

いや、ルニもああ言ってくれたんだから、いつかは何とか、なったらいいなぁ。


もうお酒は一巡したようで、みんな飲みよりも喋りの雰囲気だった。

僕は空腹でお酒飲んでしまったので、ルニと一緒にご飯の食べ直しだ。

ルニはさっき大立ち回りをしてしまったせいかお酒は控えめだった。

ここにある飲み物はお酒しか無いので彼女は【水魔法】で用意した水を飲んでいた。


「あれなぁ。カヨちゃんが説明してくれんのやけど、ようわからんのよね」

「とある掲示板でSCWの情報交換がされてるのですが、諸説ありまして効果がはっきりしないのです」

「デメリットは無いようなので、ずっと使ってますが、まだウチらはレベル2ですね」


祭り期間中はいろいろあって忘れていたが、他のプレイヤーと話せる折角の機会に【パーティ】の効果について情報交換中だ。

断り無く【ステータス】を見ても犯罪履歴が付かないというのは検証済みでわざわざ確認してくれた人がいるらしい。

その他に効果として言われていた経験値の増加と【ウィスパー】の拡大の話についてはどうも怪しい。


「そもそも【ウィスパー】はレベル毎に200メートル届くのに、【パーティ】の効果範囲がレベル毎に10メートルなんです」

「【パーティ】中に全員に声が届く【パーティチャット】というのがあるのでこれと混同したのでは無いかと言われています」


【パーティ】の効果範囲がレベル毎に10メートル拡大するのは検証済みであるらしい。

装備も含めてレベル5なので、50メートルまでは切れずに居られるようだ。

あと、装備の場合は範囲内に入ると勝手にパーティ状態が復元するらしい。


「経験値が増えるというのはどんな効果なんですか?」

「それがなぁ、そもそも経験値が何なのかわからへんやん」

「βテストの時に経験値を知る事が出来る固有スキルを持つプレイヤーが居たという情報もあったのですが、要領を得なくて」

「そちらは検証が進んでいないみたいです。一旦ログアウトすれば情報があるのかもしれませんが」


レベルが上がるにつれてルニの経験値が増えている効果があったのだが、このあたりは個人差の可能性もあるからはっきりするまでちょっと黙っておこうか。

それではレベル4でいきなりルニのレベルアップ情報が流れるようになったのは何だろう?


「レベルアップで効果が追加されるようなのですがその辺りは分かっているんですか?」

「その辺が面倒くさい話やねん」

「まずレベル1では普通に【パーティ】状態になるためのパーティ申請が使えるようになります」

「レベル2になるとパーティの状態異常を知る事が出来るのですが、、、」

「それな!ほんま面倒くさい話やで」

「【コンソール】がレベル2になると能力値の変化が、レベル3になると状態変化が流れるようになるんです」

「【コンソール】で流れる情報がパーティに流れるので、【コンソール】のレベルが3無いと効果が見えないのです」

「レベル3はもっと酷くて【アラート】というスキルがある場合だけ警告アラート音が鳴るのです」


リーダーのカヨさんと解説役が定着しているアキさんがたたみかける様に説明してくれた。

レベル2は【コンソール】前提の効果で、レベル3は【アラート】前提の効果のようだ。

なんともちぐはぐな感じだが、複数の効果を持つスキルは固有スキルになってしまうようなので、何となくは理解できる。

スキルの習得とレベルアップ時だけ流れる【コンソール】のレベル上げはどうするのか聞いたら、採集クエストをお勧めされた。

回収数を指定されるクエストの場合、現在の取得数が【コンソール】に表示されるので繰り返すことでレベルが上がるそうだ。

【アラート】というのは、【ファンファーレ】や【エフェクト】のようなスキルで、【罠察知】【攻撃察知】スキルのオプションとして動作するものらしい。


「【罠察知】取って【アラート】も取らんと効果が無いなんて酷い話やろ?」

「たしかに両方というのは大変ですね。そもそも【エフェクト】や【アラート】はどこで取得できるんですか?」

「そっちもかなり周りくどい話やで」

「魔境近くの領主が異界スキルに理解の深い人物らしくて、クエスト報酬にスキル魔石を配っているのです」

「【パーティ】みたいに冒険者ギルドの講習会で教えてくれれば良いんですけどね」


【パーティ】も冒険者ギルドの講習会で教えていたようだ。

当時は完全に一人で移動するつもりだったから、完全に見落としていた。


「レベル4以上はまだ情報を聞いたことがありませんね」

「あっ、レベル4はレベルアップ情報の共有でしたよ。【コンソール】を持ってないと音声情報だけらしいですが」

「ほんまに!?」

「ということはもうパーティのレベルが4って、ユーキさんたちはベテランなんですね」

「いや、1レベル分は連環の腕輪(バングル)という魔道具で補助してるんですけどね」

「あ、これですか?良く買えましたね」

「条件も厳しいし、えらい高いんやろ?」

「ルニートさんのお父さんからのいただきものでして……」


パーティ機能を持つ魔道具は犯罪に使われてしまうケースもあるので販売は認可制だという。

隠蔽スキルの講習会で講師のゲオリックさんが事も無げに貸してくれたので勘違いしていた。

この腕輪は、ルーファスさんの紹介でも無いと売って貰えない物だったらしい。

確かに腕輪には一度手続きしないと機能が有効にならないような特別な認証が施されていた。


「なんや!親公認なんかい!」

「ちょっとそのお話詳しく聞きたいですね!」


それ以上の情報交換はもう駄目だった。

完全に話の流れはそっちに持って行かれてしまった。

それほど酒が入っている訳でも無いのに、女性はそっち方面の話になると恐ろしい。

ルニは僕に気を遣って、肝心なところをはぐらかしながらの受け答えに四苦八苦していた。

そして、僕もルニもへとへとになった頃、ゲルズさんがお開きを宣言した。


「よし、一旦仕舞いにするぞ。飲み足りない奴はここで飲んでもいいが男共にも構ってやれよ。ガハハハハ。

それから、今日はここに泊まってってもいいぞ!昨日と同じ部屋だがな」


僕たちはゲルズさんの好意に甘えることにした。

ルニも今日はお酒を飲む気になれないようなので、二人とも少し早めにいつもの部屋に寝に行った。


―――――――


翌日食堂に行くと既に朝食が用意されていた。

働いても無いのにもらったら悪い気がしたのだが、遠慮せずに食え食え言われてありがたく頂くことにした。


「僕はこの腸詰めがやっぱり好きですね」

「腸詰めも良いですが、私はこのギャブリーの炒め物が好きですね」


これが最後かと、ルニと料理に舌鼓を打っていると人がやってきた。

あれは、あー、ちょっと会いたくない人物だ。こっちに向かっている。


「ルニ、ユーキ、俺の旦那が話があるってんだけど今ちょっといいか?」

「「はい」」

「失礼する。まぁそのまま飯食いながら聞いてくれ」


ゲルズさんさんにつれられてやってきたのは、昨日大立ち回りしてしまった場所に居合わせた人物、町長のフグスタリさんだ。

相変わらず一回り大きい。

何の話だろう、昨日うやむやになった酒比べの話ですよね。


髭人(ドワーフ)殺しをあのような勢いで飲まれてしまうとは思わんかったわ。そこの竜巻娘の言うとおりだ。アンタには申し訳ないことをした」

「いえ、昨日は少しやり過ぎてしまいました。面目ない」


ルニが謝る前に、フグスタリさんが謝ってきた。髭人(ドワーフ)的にはあれで良かったと言うことなのか。

道場に居たときは気づかなかったけど、種族間コミュニケーションは結構大変だな。

ルニは困った顔で居心地悪そうだ。

あの大立ち回りを見て、逆に謝られてしまったら立つ瀬が無いよね。


「今日はおぬしらに2つ用事があってこうして邪魔させてもらった」

「2つですか」

「そうだ。一つは討伐報酬の話だ。ストゥルールの奴も反省しとるんだが、(まぶい)振いはこの町ではちょっと曰くのあるもんでな、町の古株から待ったがかかってしもうた。酒比べの名誉にかけてきちんと納得できる報酬を用意させるので、別の物で勘弁してもらえんだろうか?」

「ええ、私は特に構いませんよ。ルニは?」

「私は特に望むものはありません。ユーキさんの意志に従うまでです」

「そう行って貰えると助かるわい。2~3日中には用意させるが、希望するものはあるか?」

「希望ですか、この町にはメダル収集に来たので、記念硬貨や金属加工に関するものだとありがたいですが……」

「造幣ギルドに関するような物でもええんかの?」

「そんなものがあるんですか?むしろ大歓迎です」

「ふむ。承知した。となると、あれが報酬に使えるか……いや待てよ……」


報酬について確認するとぶつぶつと考え込んでしまった。

町長もやっぱりマイペースだった。


「おい旦那!もう一個はいいのか?!」

「おお、いかんいかん。もう一つが肝要じゃ」

「それをさっさと言いな」

「そう急かすな。おぬしらは坑道に出て来とった魔物を二人だけで討伐したと聞いたが相違ないな?」

「ええ、エギルさんと一緒に行きましたが、討伐は二人でやりましたね」

「おう。間違い無いか。恐ろしい腕っ節だ。そんなおぬしらを見込んで頼みがある」


フグスタリさんからの依頼は町の近くの峠付近に住まう【ワイバーン】の討伐だった。

【ワイバーン】は前足の代わりに羽根がついたような魔物でドラゴンの一種だ。

ファンタジーゲームも一通り遊んだことがあるのでお馴染みの敵だけど、結構強かった記憶がある。

ずっと山頂付近に居座っている個体が一匹居たのだが、数ヶ月ほど前にもう一匹飛来してつがいになったという。


ロックバルト山は大昔に魔の領域を切り開いて人の領域とした場所だが、最近では再び魔の領域が広がってきているそうだ。

ここに来る道中も結構な数の魔物が徘徊しており、ルニの話してくれる事前情報と状況が違っていた。

確実にこの地に住む魔物が活性化してきている。

そんな状況を悪化させない為にも、【ワイバーン】がタマゴを生んでその数を増やす前に、速やかに倒す必要があるとのことだった。


「奴らは一匹づつがヴィッセル湖畔にたむろする【グリフォン】にも匹敵する強さじゃ。先日、討伐隊を送り込んだが、そやつらはほうほうの体で帰って来おった。それで心が折れた者がおってのう……」

「そんなに強いのですか?」

「我らは筋力に長け、鎚や斧を得意とするが、奴らは空を飛ぶ上にあの鱗じゃ。【火魔法】、【土魔法】、【弓術】までまともに効かんので相性が悪いのよ」

「それだと僕らも相性が良いとは言い切れませんが……」


僕たちもそれほど相性が良いとは思えない。

久しぶりに【金玉飛ばし】で鉄球を飛ばすか、魔剣の斬れ味に期待して【飛剣術】で挑むべきか?

そもそも【グリフォン】に匹敵する強さっていうのはどれぐらいだろうか。

一瞬その対比で表された強さを飲み込みかけたけれど良く分からない。

【グリフォン】は以前倒したときの印象では今なら一人でも大丈夫だと思う。

だれど、ビガンの町でコータさんが強くなってるって言っていたな。

それも魔の領域が近づいたことが影響しているのだろうか?

深く考えてみようと思ったが沈黙を割る声があった。


「ユーキさんの【飛剣術】があれば【ワイバーン】の一匹や二匹程度、恐れるに足りませぬ」

「おお!そうか![旋回姫(せんかいき)]殿がそう言うなら間違い無い。引き受けてくれるか!!」

「あ、ええと?」

「よし!こうしてはおられぬ。依頼の準備を整えるぞ!!善は急げじゃ、出発は夕刻。冒険者ギルド前集合じゃ!!!」


フグスタリさんはゲルズさんの背中をバンバンと叩くと、ドカドカと出て行ってしまった。

今の発言のどこにOK要素があったんだろうか。

ルニは満足そうな顔をして黙々とご飯を食べていた。

ここに来るまでの無駄道で鍛えた能力がどのぐらい通用するか、確認してみたい気持ちはある。だから挑んでみたい気持ちが0では無いが、そんな発言はしていない。

髭人(ドワーフ)は話を聞かないという事実に基づいた偏見が自分の中で固まりつつある。


「おめえらがあの山の主をねぇ、あんまり無理すんなよ!」

「いえ、ユーキさんならば必ずや成し遂げられることでしょう!不祥の身なれど私も助力致します」

「あ、はい」


ルニの信頼が痛い。

そろそろ強制イベントには慣れて来たけれど、僕はいつになったらゆっくりメダル探しを堪能できるんだろうか。


次話「21 髭の武人と転がる魔物」

次回更新は9/26(月)です。

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