18 坑道と鉱山夫
前回のあらすじ
ヴォルドン様の男魂祭への不参加を咎められ、坑道の魔物討伐を押しつけられた。
【ロックバット】が変則的な軌道でこちらに迫る。
牽制に軽く剣を凪いだらフラフラとして躱し、噛みついてきた来た。
あまりに手応えが無いからと、少し気を抜きすぎた。
今度は僕の方が相手の攻撃を躱して気合いを入れ直して一閃。躱す迄も無く真っ二つになって落ちた。
敵の目立った攻撃は噛みつき攻撃ぐらいだった。密集しなければ十分に躱せる。
魔剣の力が凄いのか能力値が上がったからなのか、酷い斬れ味だった。
後ろの人物に辿り着かないように一匹づつ確実に仕留めた。
「はー。おめえら本当にレベル3だか4だかの冒険者なのか?」
「ええ、そうですよ」
「いやいや、あんたらちょっとおかしいぞ」
「そうですかね。山道に居た【スイムベアー】のほうが手応えがありましたよ」
「は?!お前ら二人であの群れを相手にしてきたのか?!」
ちょっと剣術道場に籠もってレベル上げをしていた期間が長いけど嘘は言っていない。
僕たちは採掘ギルドのエギルさんと一緒に坑道を進んでいた。
坑道にはそれはもう沢山の魔物で溢れていた。
数だけは多かったが、坑道に出てきているのはそんなに強くない個体ばかりだ。
事前に告知があったとおり【ロックバット】【ロックイーター】ばかりだ。
【犬鬼】はまだ見ていない。
【ステータス】を見ても全体的に能力値が低い。苦戦する要素はあまり無かった。
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ロックバット(魔物・オス)
能力値
体力 35 /35
魔力 40 /40
筋力 31
器用 82
敏捷 126 (105+21)
スキル
・身体
【敏捷強化】2
【回避】3
【気配察知】3
【暗視】2
・魔法
【光魔法】2
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ロックイーター(魔物・―)
能力値
体力 70/70
魔力 64 /64
筋力 107
器用 62
敏捷 78
スキル
・身体
【気配察知】1
【金属察知】2
・魔法
【土魔法】2
・加工
【採掘】2
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「【ロックバット】が【光魔法】!?そこ【闇魔法】じゃないの?」
「あん?【光魔法】で何がおかしい?影は光が無きゃ生まれねえから当然だろ?」
エギルさんによれば、そういうことらしい。
蝙蝠の回避の能力が高いという話は良く聞く話だ。
高い敏捷と【回避】スキルが売りの嫌らしい敵なんだと思う。
だけど、敏捷が既に200を越えている僕やルニから見ると、ちょっと当てにくいなぐらいの感じだった。
むしろ、すぐ千切れて地中に逃げようとする【ロックイーター】の方が厄介だった。
それも一匹逃げられた時点で、エギルさんが、頭の方を潰せば大丈夫と教えてくれたのでその後はきちんと倒せている。
【ロックイーター】は明かりを見ると逃げるらしいのだが、【ブライトネス】で輝度を上げたところ、光源が知覚できないせいか、逃げようとしなかった。
【ロックバット】は【光魔法】で暗闇を放って来るらしいが、それも多分【ブライトネス】が台無しにしていた。
結構な魔力を食うが、異世界スキルの勝利という所だろう。
僕が4匹倒す間に、ルニは6匹ぐらい倒していた。
血の臭いに集まるのか【ロックバット】はどんどん寄ってくるのでどんどん討伐した。
【ロックバット】から得たスキル経験値で【回避】がレベル4から5に、【気配察知】がレベル2から4に上がった。
新たに得た【光魔法】と【暗視】はレベル3まで上がった。
僕だけで無くルニも【気配察知】がレベル3から4に上がり、新たに得た【光魔法】と【暗視】がレベル3になっていた。
聞けばエギルさんも【暗視】を持っていたのでそこからは【ブライトネス】を延長するのをやめた。
【ロックイーター】は岩ではなくて金属を食べてるようだ。
コイツはエギルさんが、餌として置いた毒入り金属に寄せられてやってきた。
そこから得た経験値で僕もルニも新たに得た【金属察知】【土魔法】【採掘】がレベル2になった。
さっきから続いていた【ロックバット】の襲撃が一旦止んだ。
魔力消費を抑えるためにまだ【解体】が終わっていなかった。
これだけ血の臭いが充満しているのに【ロックバット】が来ないということはこの辺りはあらかた討伐したのかもしれない。
【解体】は1回あたりの魔力消費が3のスキルだ。
腕輪の分も含めて【魔力操作】の効果で消費魔力が2になっている。
いっそ魔石だけ回収しようかと思ったのだが、【ロックバット】の羽根は薬の材料としてそこそこの値段で売れるらしい。
【瞑想】は立っている状態でも、目を閉じ心を落ち着けると効果を発揮した。
今は【魔力吸収】の効果で15秒に1の魔力が回復するが、【瞑想】が発動すると立っている状態で15秒に2、座ると3づつ回復するようになった。
【瞑想】で休憩を挟みつつ【解体】を終えた。
戦利品の魔石を数えてもらうと討伐数が200匹近くになっていた。その9割方は【ロックバット】だ。
「そろそろお昼です。休憩にしましょうか」
「感謝の気持ちに飯作ってきたからコイツを食べてくれや」
「ありがたく頂戴します」
「ありがとうございます」
エギルさんがくれた採掘ギルドの人達が一般的に食べているというご飯は、おにぎりだった。
手が汚れるからそういうものを避けるというのはこの世界には関係無いようだ。
なにせ【洗浄】のスペルですぐに綺麗になる。
エギルさんは【火洗浄】を使っていた。一瞬発生する炎で綺麗になるのは僕には違和感が凄いけど髭人としては一般的らしい。
おにぎりの具はとてもスパイシーな腸詰めと、これまた味の濃い野菜を炒めたものだった。
僕は結構平気だけど、ルニには……うん、美味しそうに食べている。
こういう所、彼女は凄く良いよね。
「荷物が一杯になっちまったから、出発前に荷物をまとめとくか」
「まとめる手段があるんですか?」
「おう、鉱石のままだと嵩張っちまうからゴミを捨てっちまうのよ」
「見せて頂いても宜しいですか?」
「おう!いいぜ。一緒に処理してやるから、岩食い共が落とした鉱石を出してみな」
「はい、ここに出しますね」
【ロックイーター】の戦利品は魔石と胃の中で消化中の鉱石だった。
【森崎さん】に全部出してもらった。
「あんたら地球人つったか?【インベントリ】が使えるのは良いよな」
「これは便利ですもんね」
使ってるのは【インベントリ】じゃ無いけど説明が難しいのでそのまま誤解してもらう。
エギルさんは背中に背負ったマジックバックに入った鉱石を取り出している。
彼の鉱石は僕らが魔物を討伐している間に祭り前後の検査のために坑道を試掘した分だ。
「コイツは【金属分解】つうスキルでな、鉱石に混ざった金属を素材ごとに分離するスキルなんだ。
昔は鍛冶ギルドの独占だったんだが、今のギルド長が採掘ギルドにも公開してくれたのよ。
おかげで鉱山の採掘量も上がってあいつらもホクホクで、俺たちも大助かりよ。
ちいっと大きい音が出るからびっくりしねえようにな。
こいつは本来は工房でやる作業だが、俺らは坑道で作業すっから、まずは作業場所を【土魔法】で作るのが一般的だな。
我らを育む土の力よ、集いて大地を固めよ……【金剛】」
エギルさんが魔言を唱えると地面の一画が平らになり黒くなった。
金属では無いが、綺麗に踏み固められたような硬そうな床だ。
「そしたら、鉱石を用意して、いよいよ【金属分解】スキルの出番だな」
先ほどバックから取り出した鉱石を、その硬そうな床にゴロリと転がすと、腰からハンマーを取り出し、振り下ろした。
ガン、ガン、ガン、ガン、と何度も鉱石に向かって振り下ろしていく。
鉱石がブルブルと震えながら色と形が整っていき、最後に大きな塊の石が残り、周囲に円形のチョコレート粒のような形の金属片が幾つか転がった。
色も形もまちまちで、エギルさんの説明によれば、それぞれ違う金属のペレットだ。
「残った一番デカい奴が残念ながら要らない土だな。
我らを育む土の力よ、その身を飲み込み無に帰れ…【廃土】
最後にこうやって【土魔法】で消して終わりだ」
「結構なものを見せて戴きました」
「凄く参考になります」
エギルさんは照れて頭をボリボリとひっかくと、次の鉱石を手に取った。
「それじゃ、残りもやっちまうわ」
カン、カン、カン、カン、と小気味よくハンマーを振り下ろしては片付けていく。
「我ら髭人は~ヨゥホゥ」
「ロックバルトの、火山にヨゥホゥ」
「魔物を潰して、生きる~ヨゥホゥ」
「鉱山を掘って、生きる~ヨゥホゥ」
「鉄を溶かして、生きる~ヨゥホゥ」
「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」
「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」
……
またこれを聞くとは思わなかった。
リズムに合わせてどんどん鉱石が【金属分解】されていく。
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【金属分解】を習得しました」
あ、このスキル、鍛冶ギルドが秘匿していたという……大丈夫かな?
僕らは待ってる間、特にやることが無いので、エギルさんの歌に愛の手を入れる。
「「「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」」」
「「「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」」」
……
「おい!終わったぞ」
「あっ、はっはい!」
すっかり気持ち良く歌うことに集中していた。
ちょっと注意散漫だったけれど、敵が寄ってこなくて良かったな。
エギルさんは【金属分解】の後、【金属加工】というスキルを使って僕らの分の金属片をひとまとめにしてくれていた。
金属片をひとまとめに集めて、ハンマーでぶったたくだけなのに何故か溶けて集まりインゴット状になっていた。
金属はほとんどがブロンズで、あとはアミールと一部ミスリルだった。
【金属融合】スキルも【見取り稽古】でしっかり頂いてしまった。
「もうちっと行くと俺らの休憩所にしている場所に出るんで、そこまで付き合ってくれるか?」
「はい、行きましょう」
「分かりました」
犬鬼のスキルも確認したいと考えて居たが、結局遭遇しなかった。
休憩所付近に少しだけ【ロックバット】が徘徊して居るだけだった。
「もう200以上を倒したんだろ?毎年そんなもんだ」
「そうなんですか、犬鬼は倒してないですが大丈夫ですか」
「あいつらは用心深いからな、血の臭いが強かったから、今日はもう出ててこねえぞ」
「そうですか……」
「なんにせよ、こんだけやって貰えれば十分だ。仕舞いだ。帰るぞ」
依頼のノルマはすでに達成していたので、エギルさんの助言に従って坑道から出ることにした。
次話「19 腕っ節だけでは認められぬ」