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16 待機所と謎の壁画

前回のあらすじ

 ユーキのトラウマ話。女性方面は厳しかった。

その日は結局ダウンしてしまい。部屋で一日過ごした。

ルニは料理番の合間におっかなびっくり距離を取りながら介護してくれた。

お昼休憩の時間になるとご飯を持ってきてくれた。


「今朝はあんな近くで吐いてしまい、ご迷惑をおかけしました」

「いえ、あれは私の不用意が招いたこと。それに道場でも良くあることですから」


そう言えば、相手の攻撃を躱し損ねて打ち所が悪く吐いている人を時々見かけたな。

あれも洗浄魔法が使える門弟が片付けていた。

そう考えると意識してなかったが、道場にも魔法が使える人は結構いたんだ。

ルニが【水魔法】で【水洗浄】が出来るようになっていて本当に良かった。


彼女が配膳を置いていった後、一人残されやることも無いので部屋をぼーっと眺めていた。

僕はゲルズさんが破壊した壁の下にあった模様が気になっている。

ちょっと指でひっかいたら上から被せた石膏のようなものがポロポロとはがれてきた。

これ全部はがしたら怒られるかな?

【土魔法】が使えれば一気に取れそうだけど、あいにく【土魔法】は持っていない。


不思議な模様は何が書いてあるのか気になって、鞘から短剣を出してカリカリと削り始めてしまった。

段々見えてきたそれは人の踊りのような意匠と、解説のような文字がセットになっているものだった。

見えている範囲で縦に 3、横に 3で9個の意匠が見えている。

表面を覆っていた石に比べて下地はずいぶんと硬いものだった。


細かいゴミを【生活魔法】の【洗浄】で取ってみると意匠がはっきり見えた。

それは入門時の踊りを模しているように見える。

文字は形がはっきりしているので欠けている訳ではなさそうだ。

だけど【インタープリター】のレベル1では読めなかった。


2時間ぐらいそんなことをやっていたが、別の事に意識が行ったせいかだいぶ気分が良くなった。

いつまでも一人だけこうしているのは悪いと思い、配膳を返しに行くことにした。


──────


調理場は戦場だった。

みんながゲルズさんの号令の元に必死な顔をしてご飯を作っていた。


「あ、ユーキさん」

「おう!良いとこに来たな!ちっと顔色も良くなったじゃないか!」


ルニに続いてゲルズさんの視界に捕捉された。

良いところに来たって言っていたが、晩ご飯にはまだ早い。むしろその準備中だ。


「ほれ、そんな顔してないで、その皿はあそこの隅に置いてこっちに来な!」

「あっはい」

「取って食う訳じゃ無いんだからリラックスしてきびきび働きな!」

「えっ?はい」


ゲルズさんの段取りは適切で僕はルニと一緒の下ごしらえ班に入れられた。

周りのみんなもかなり手際が良いが、ルニの包丁捌きは神がかっていた。

それはもう、【調理】スキルじゃなくて、【包丁術】というスキルなんじゃないかと思うほどだ。

僕も無心になってみんなの作業を見よう見まねで肉をさばいてく。


「おう!おめえもなかなかの腕だな!」

「おめえの方が【調理】スキル高えんだろ?こっちのルニ嬢がそう言ってたぜ」

「一応そうなりますが、そろそろ抜かれるんじゃ無いですかね?」

「だよな!ルニ嬢の方が俺らより【調理】スキルが低いのにこの包丁捌きはすげえよな」


そのまま黙々と材料の下ごしらえだけを続けた。

少し経つと髭人(ドワーフ)の皆さんは変な歌を歌いだした。


「「「我ら髭人(ドワーフ)は~ヨゥホゥ」」」

「「「ロックバルトの、火山にヨゥホゥ」」」

「「「魔物を潰して、生きる~ヨゥホゥ」」」

「「「鉱山を掘って、生きる~ヨゥホゥ」」」

「「「鉄を溶かして、生きる~ヨゥホゥ」」」

「「「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」」」

「「「鎚を振れ~ホゥホゥホゥ」」」

……


どうやらロックバルトに住むようになった経緯のが歌で残っている様だ。

アップテンポの曲だった。みんな当たり前のように歌っている。

ルニも、数人混ざっているプレイヤーも当然の顔をして歌いながら作業をしている。

僕も周りがやっているように歌に合わせて黙々と肉を捌く。

開始から2時間を過ぎて、いよいよレベル上がっちゃいそうだなと思い始めた頃にそれがやってきた。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【調理】のレベルが5に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【包丁術】を習得しました」


なんだと!やっぱり【包丁術】あるのか!!と思ったら固有カテゴリのスキルだった。

僕はさっきからルニの動きを参考にしながら下ごしらえをしていたので、おそらく彼女のスキルを【見取り稽古】が吸収したんだと思う。

固有カテゴリはいくつかの複合要素が混ざったスキルが多い。

【調理】+【短剣術】というところだろうか。なんとなくしっくりきた。


その日はへとへとになるまで肉の下ごしらえをした。

肉はあっという間に焼かれて消費されてしまうので、きりが無い。

その日は結局下ごしらえした分を全部消費されてしまった。


「ほれ、お前らも食堂行って飯食って寝ちまえ」

「ありがとうございました」

「風呂も入れてやりてえが、祭り期間終わるまで我慢してくれや」

「はは、大丈夫ですよ」


明日は負けないぞ!と小さく目標をつぶやいて調理場を後にする。

今日は調理中に気になっていた腸詰め料理とギャブリーを使った辛そうな料理を美味しく頂いた。

お酒も程々にして、さっと【解毒】をかけて席を立つ。


「ユーキさん、お願いがあるんですが」

「ん、なんでしょうか?」

「今日は飲み過ぎないようにしますが……私が部屋に帰ったら【解毒】を貰えませんか?」

「お安いご用ですよ」


ルニも同時に席を立ったのだが、昨日の女性プレイヤー軍団に捕まっていた。

彼女はあれはあれで楽しそうだ。

立ち去り際にそっと毒耐性を上げる【克毒】の魔言(スペル)をかけておいた。


──────


昨日の反省もあって早く帰ってきたが、寝る準備は全身に【洗浄】をかけて終わりだ。

ちなみに【生活魔法】の【洗浄】よりも【水魔法】の【水洗浄】の方が洗い上がりがスッキリした。

一瞬水で濡れるのが良いのかもしれない。

頑固な汚れになれば違うのかも知れないが、綺麗になるのは一緒だった。


部屋に帰ってくるとやっぱり壁の彫刻が気になる。

一つ一つが印象に残る意匠で、文字と合わせて良い味を出していた。

相変わらず文字は読めないが、意匠の方は明らかにダンスのようだった。


幸いな事に僕にはダンスベアーから取得した【舞踏術】があった。

抽象化されているその意匠からなぜかポーズが読み取れた。

右腕を耳にぴったり付けて上に伸ばし、左足を前にまっすぐ伸ばし、左手を腰に当てて、そのまま左膝を胸の高さまで持ち上げる。


「なんだこれ」


思わず口に出てしまった。そのまま左足を指呼を践むように横に伸ばして地面を踏みならす。

書いてあるポーズは一々へんなポーズだったが、所々のパネルのポーズは見覚えがあった。

門衛さんが踊っていたポーズが中に混ざっているので確実にあの踊りだと思う。

だけど見覚えが無い物が多い。これが男子用って事なのかな?


「うわ~これ変なポーズだな」


芸人でもなければしないようなポーズだ。

両足を開き、左手を腰に当て、右手で股間を押さえて、腰を前後に振っている。

ちょっとこれ卑猥なポーズじゃなかろうか。


ガチャ。

その時、ドアが開いてルニが入ってきた。

反射的に彼女に【解毒】をかけ、これで安心だ。


「おかえり」

「ありがとうございます。ところでユーキさん、それは一体なんの格好ですか?」

「え、どういうこ……」


手ぶらで魔法がかけられるのが裏目に出ていた。

僕の右手は股間を押さえたままだった。


「アハハハハ。これはあの、そこの壁のね……」

「ユーキさん……もし……自らの困難を克服されようとしているのであれば、私が一肌脱ぐのも厭いませぬが?」


顔を真っ赤にしてもじもじしながらルニはそんなことを言い出した。

彼女は凄く可愛かったが、これはよろしくない!


「違う!違います!」


女性プレイヤーからは昨日はどうだったか問い詰められて、僕の状態を過去に女性と大変なことがあったと説明したらしい。

彼女達からは同じ部屋で寝泊まりしているのだから大丈夫!

今日も女性の胸やお尻をチラチラ見てたから本当は克服しているんじゃないか?

そんなことを延々と聞かされてきたらしい。

僕のポーズもあって、その誤解を解くのにはずいぶん苦労した。


いや、思わずチラチラと見てしまったのは本当のことなんですけど。

汗をかいて一生懸命働く女性って凄くステキですよね。


そんなわけで、町に来て二日目の夜はぐったりと眠りについた

次話「17 祭りの終わりと女性問題」

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