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14 待機所と女性プレイヤー

前回のあらすじ

 祭り期間中の女性の待機所に案内された。宿泊場所を獲得。

彼女と暫く相談したけれど、祭り期間はそれほど長くは無いようなので期間中は待機所で過ごすことにした。

話している間、さっきゲルズさんが破壊した壁の下に何か模様みたいなものが描かれているのがチラチラと目に入ってなんだかとても気になる。

囚人が脱出しないようにするための魔法陣みたいなものだろうか?


「ギュウ……」

「あっ」

「あっ、もうこんな時間ですね。ご飯をもらいに行きましょう」

「はっはい」


彼女のお腹が鳴った。なかなか時間に正確なお腹だ。

気がつけば午後6時を過ぎて晩ご飯の時間だった。


最初に通された広い食堂では既に多くの髭人(ドワーフ)の人々が食事をしていた。

見た目は雑然としているが、みんなきびきびと動いている。

その広間には食事だけではなく、お酒の臭いが強く漂っている。

広間ではゲルズさんがテキパキと指示を出して人の流れを仕切っていた。


「おう!あんた達かい!あっちに積んである食事は男共が取りに来るから、俺たちが食べるのはその机の上に積んである分だ」

「はい、分かりました」

「飲み物はそっちの樽から入れて持っていってくれや」

「はい」

「食べきれないほど用意したからな!遠慮せずにドーンと食べな!ガハハハ」


言われた机に向かうと、深い大皿に恐ろしく山盛りに積まれた肉多めの料理の数々が積まれていた。

なんとなくドイツ料理っぽいと言えば伝わるだろうか?

大量に積まれているそれは香辛料の強いにおいを漂わせていて凄く美味しそうだ。


横に積まれた金属の皿を一つ手に取り食べたい料理を積んでいく。

能力値が伸びたせいか、この頃ものすごくお腹が空きやすくなっている。

普段の2倍ぐらい積んで飲み物コーナーに向かう。


「おう!遠慮するなよ!」

「あ、ありがとうございます」


そう言って近くにいた髭人の……女性?女性が柔らかそうな肉の部位をさらに積んでくれた。

ちょっと食べきれるか心配だが、ゲームのこの体は能力値が最初の2倍以上だから多分いける。

能力値と消費量の関係に特に根拠は無いけれど。


ルニが同じように肉を盛られるのを待って、飲み物の樽に向かう。

樽の中身は案の定お酒がだった。むしろお酒しか無かった。

この世界は【毒耐性】スキルがあるからそれでも大丈夫だろう。


「おう!新顔だな!こっちの酒がカーッとしてうめえぞ!」

「ええと、最初はさわやかな奴でお願いします!」

「なんだぁ?真人(ニューマン)の舌は変わってんな!ほれ!持ってけ!ウハハ!」

「ありがとうございます」


その女性?は適当な樽から柄杓(ひしゃく)ですくって、ジョッキに注いでくれた。

うーん。女性か、言われてみれば女性かもしれない。

門番さんに比べると肌が綺麗だし、大胸筋かと思っていたけど、ちゃんと胸が、うん、あるよね。

日本でも男性には髭を生やしている人は結構見かけるけれど、女性は生やしていないから違和感が凄い。


大皿とジョッキを持って空いている席に座る。

大食堂だし、もちろん相席だ。

髭人(ドワーフ)の方々はものすごい世話焼きで、どんどん話しかけてきて、料理を一品づつくれるので切りが無い。

そうしているうちに、人が入れ替わってジャージを着た4人組の女性の集団が相席してきた。


「こんにちは~。相席良いですか~?」

「はい」


少しふっくらしたリーダー格っぽい女性が話しかけてきた。

山歩きも少し長かったのでプレイヤーの人と話をするのは結構久しぶりかもしれない。


髭人(ドワーフ)の皆さんは優しいんですけど、お替わり攻撃がなかなか厳しくて」

「そうそう!美味しいからさらに困っちゃうのよね!」

「確かに、この腸詰めは本当に美味しいです」


ルニもいっしょになって相づちを打っている。

相席がプレイヤーの人になったので落ち着いて食べられるようになった。


「お二人はビガンの町の人ですか~?」

「ええと、彼女……ルニートさんはビガンの町の道場の娘さんで、僕はプレイヤーです」

「きゃー!二人旅なの?!」

「どうして男子がここに居るの?」

「二人の馴れ初めは?!」


もとい、髭人(ドワーフ)からプレイヤーに相席が変わっても全然落ち着けなかった。


「カヨです」

「アキです」

「レイですー」

「エルザです」

「ユーキです」

「ルニートです」


4人は別のネットゲームのクランのメンバーでチャットで話題になったこのゲームを一緒に始めたそうだ。

ふっくらしたカヨさんが盾職で、アキさんが斥候職、レイさんとエルザさんが魔法職だった。

本当はもう一人前衛職の男性でタモツさんが居るらしいが、祭に参加中だった。


「ほんまに間が悪かったやんなあ」

「カヨとタモツの装備を作りに来ていたら祭りが始まっちゃったのよね!」


この関西弁がレイさんで、解説を適宜入れてくれるのがアキさんだ。

エルザさんは相づちがメインで仲が良いことが伝わってくるパーティだ。


「ユーキさんは、ここに居るってことは、そっち系の人なん?」

「いえ、普通に男子ですよ」

「じゃあ、なんで、ルニちゃんに手をださへんの?」


関西弁ヤバい。突っ込みが容赦無い。

僕の悩みは通りすがりの人に話すにはちょっと重たいし、話すと自分が辛い。


「まあまあ、そうグイグイ行ったら可愛そうだよ」

「でもなあ、こんな女の園に入り込んだんだから天罰みたいなもんやんか?」

「それは、あるかも?あははは」

「その前に、馴れ初めを聞いちゃいましょうよ!」

「きゃー賛成!」


僕が、何となく辛そうなのを察してくれたのか、カヨさんがうまくはぐらかしてくれた。

その後、ハキハキと何でも喋ってしまうルニを魚にして5人で楽しそうに話している。

なんか、不味いこと無いよね?

僕はちょっと蚊帳の外で、楽しそうに話す彼女達を不安な顔で見ていたら、カヨさんが話しかけてきた。


「彼女、可愛い子ですよね」

「ええ、はい。そうですね」

「このゲーム世界ってNPCがとてもイキイキしてるのよね。不気味の壁はどこってぐらい」

「そうですよね」

「私はこのゲーム、本当にある世界なのかもって思うんです」

「それは僕も時々思います。道場の皆さんもずいぶんと人間らしかったですね」


そんな風に思うのは僕だけじゃなかった。

今日食べてるご飯はまだしも、お酒で酔う感じとかどうやったら再現できるんだろうか?

最近ではゲームじゃなくて異世界だといわれた方が納得できることが多い。

【ステータス】や【コンソール】のような視界に飛び出す表示が無ければゲームだというのも忘れそうな時がある。


向こうのテーブルの面々がルニの腕にある腕輪を指さしている。

ルニがこちらを見ながらの話をし始めたので不味いと思ったが手遅れだった。


「おい!ユーキよ!男なら責任取れやー!!」

「ユーキさんに付いて来られただけでも私には得るものが一杯あるのです」

「なんやこの子!凄い良い子や無いか-!もう私が貰う!!ユーキにはあげない!へたれ男は滅びろ-!!」


レイさんが、髭人(ドワーフ)もビックリの男勝りな酔い方をしていた。

テーブルに片足を乗り上げてジョッキを右手に突き上げて大騒ぎだ。

他の3人の目が泳いでいる。これが毎晩のペースなの?ちょっと飲み過ぎでしょ。

しかも、周りの髭人(ドワーフ)が止める気配は全く無くて、一緒になってそれに乗っかってきた。


「へたれ男は男魂祭(だんこんさい)で鍛え直せー!!」

「そうだ!腕っ節が無ぇ奴は駄目だ!!」

「飲めねえ奴は男じゃねえ!いや髭人(ドワーフ)じゃねぇ!!!」


なんか変な方向に行っている。もう僕は全然関係無い話だよね?

レイさんは髭人(ドワーフ)と肩を組んで楽しそうに騒いでいた。

待機所とは名ばかりで、ここも祭の真っ盛りだった。


明日からは料理番だ。女性の宴からそっと抜け出した。

すると後ろからルニが付いてきた。

彼女は結構飲まされていたはずだ。【毒耐性】とか無かったはずだけど大丈夫なのかな?


「大丈夫ですか?」

「…………」


返事が無い。ちょっと眠いのかな?

無言のまま二人で部屋まで帰った。

部屋についてベッドに腰掛けると、向かいのベッドにルニが腰掛ける。

目が眠たそうだけど、何故かぎらりと光っている。


「ゆ、ユーキさんは女性のおしゃれな下着が好きなんですか?!」

「え?なに?ええとどうしたの?」


え?なにこれ、さっきの誰かが変なこと吹き込んだのか?

助けて。嫌な予感に手がぶるぶると震える。


「お、おっぱいの大きな女の子が良いんでしゅか?!」

「え、何の話ですか?」


確かにジョッキを突き上げるレイさんの胸元が気にならなかったと言えば嘘になる。

チラチラ見てしまったのは事実だけど。

ルニはそういうこと気にするタイプだったの?

いや、それはいいけど、この展開が不味い。


「わ、私はアピールが足りましぇんか!」


彼女がガバッと抱きついて来た。


「ルニ、ルニートさん!ま、待って!」


手に力が入らない。

ダメだ。やめるんだ!ルニ!

声が出ない。

目の前が真っ白になる。

僕は意識を失った。

次話「15 ユーキの悩み」

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