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9 貴重なメダルの使い道

前回のあらすじ

 【冒険者マニュアル】を読んでたら、先輩プレイヤーに会った

北門での町に入る時と違って、西門を出るときは【冒険者カード】でタッチ&ゴーで手続き完了だった。

ファンタジー世界で凄い違和感なんだけど、便利だから歓迎したい。

ちなみにカードを確認すると出町税が100(ヤーン)取られていた。

入町税は200(ヤーン)だけど、異界の旅人は特別に初回だけ免除されてるみたい。


そして今、丘陵地帯を目の前に眺めているけど、【ラージラット】が多かった。多すぎだ!

ゲーム開始地点の感覚で来てみたけど、ぱっと見ただけでも両手じゃ足りない数の個体が徘徊しているし数が全然違う。

ここまで増えたらネズミって共食いしたり、大移動したりするのでは?

そうか、大移動して欲しくないから、クエストが発行されてるのか。勝手に納得した。

依頼が張り出してあった場所も冒険者レベル2に寄った場所だったのには訳があった。


とはいえ、出町税を100¥払っちゃったから1匹ぐらい倒して元を取りたい。

少しはぐれた奴が居ないか遠巻きに調べはじめた。

周囲を1時間ぐらいかけて調べると、離れた場所に巣穴を作っている2匹組を見つけた。

なんとか行けるかもしれない。僕は遠巻きに観察を続けた。


さらに10分ぐらいかけて観察したが2匹が周囲を徘徊している以外、他の個体は姿を見せなかった。

2匹が同じ向きに向いたので、近い方の個体に背後からそっと近寄る。

草が揺れる音がするが、風が吹いているのでそれほど目立たないはずだ。

残り2m、動いてくれるなよ。1m、右手に逆手に持った剣を振り上げて、背中に突き刺した!


「ピェー」


もう1匹がこちらを振り向く。背中に足をかけて刺した剣を引き抜く。と後ろによろめいてしまった。

と、もう1匹がこちらに走ってきている。結構早い!

後ろ足をぐっと踏ん張って体勢を持ち直し、剣を右側腰だめに構えて、左手を添える。


「キュッ」


体の右寄りに突っ込んできてくれたので、眉間付近を狙って突き刺した。

それだけで、2匹とも動かなくなった。落ち着いて剣を引き抜く。

巣穴を見ると、やっぱり!もう一匹出てきた。まっすぐ突っ込んで来るので落ち着いて剣を振り下ろす。


「キュー」


結局2匹追加で出てきて4個の魔石を手に入れたが、なんかちょっと小さい。

動きもゲーム開始地点のやつより遅かったような気がする。

しかも期待していたメダルは4匹で1枚だけで、既に持ってる意匠のものだった。

このゲームはリアルに出来てるから、数が増えすぎて食事にありつけてない設定なのかもしれない。


それはそうとして、ちょっと弱い個体だったとしても結構簡単にやれたな。

最初に持っていた剣が本当に優秀だ。骨に弾かれずに刃が刺さっている。

結構スプラッタだけど、過剰な血糊が飛び散る訳でも無い。ゲームとしては控えめな、驚きの無い範囲の表現で助かっている。

魔物とはいえいちいち断末魔を上げるので、心弱い人は続けられないと思う。

そういう表現的な評価の意味も含めてのβテストなのかもしれない。


鼠討伐はなんとかやれそうなので、もうちょっと挑んでみることにした。


―――――――


先ほど周囲を徘徊していた時に見た範囲では2匹組の場所は他には無かった。

仕方が無いので離れた場所に巣穴を作っている3匹組に挑んでみた。

しかし、これが間違いだった。


最初の一匹を始末するところまでは良かった。

断末魔に気づいて他の2匹が突っ込んできたのに対して、避けながら切りつけて、先頭の一体は仕留めたけれど、続く1匹を避けきれずに足に突進を受けてよろめいてしまった。

腰に力が入らない状態で剣を振り下ろしたら、打ち所が悪くて前歯に弾かれてしまい、剣がすっぽ抜けて後ろに飛ばされてしまった。

まずい!ネズミと体を入れ替えて確認したが、草むらに飛ばされてしまったようで落とした剣が見つからない。

既に1匹は姿を消してメダルと魔石を落としているし、一匹は倒れて動いていないので1対1だが、これまでのパターンだと巣穴から増援が出てきそうだ。


「やめときゃよかったー!」

言っても無駄だが、口に出さずには居られなかった。

このゲームは死んだらどうなるんだろう、そういえばそんな説明は無かったな。


意外と頭は冷静だった。【ラージラット】相手に武器無しで戦えるんだろうか?

と再び突っ込んできたので、左に飛んで横腹に蹴りをたたき込んだ。

衝突で鈍い音がなったがやけに重たくて振り抜けない。これは……効いてるんだろうか?


効果的な攻撃は他に何か無いかな?刃物、金属…金属?メダル…は刃物じゃないし。

ふと【スキル習得】で確認した中にあった【金玉飛ばし】が脳裏をよぎった。

あれがARデバイスのように使えたら、メダルが飛ばせそうなんだけどなー。

なんでなのか分からないけど嫌な記憶を思い出す度にスキル覚えたような?


蹴りの後【ラージラット】はちょっと怯んでいたが再び突っ込んできた。

鼻先は牙が硬そうなので、僕は右に飛んで躱し、右側から蹴りをたたき込んだ。

鈍い音とともに今度は横倒しになる。機動力がやっかいなので前足を上から踏みつける。

【ラージラット】は必死に後ろ足をバタバタさせて起き上がり巣穴に逃げようとする。

と、そこに増援が出てきていた。しかも2匹。


僕と【ラージラット】の敏捷は大きく違わないから多分逃げられない。

そして武器が手元にが無い。そして先ほど突進を食らった足のすねがちょっと痛い。


やっぱり【金玉飛ばし】だ。なんだっけこのゲーム。そうだ【スキルクリエイターズワールド】

プレイヤーはスキル作る人みたいな設定に違いない。

あれか?トラウマじゃなくて、必要だと思えばスキルを習得する可能性があるのか?

今は【スキル取得】スキルもあるからさらに習得しやすいに違いない。

いや、今習得しないでいつ習得するんだよ。


『ユーキはスキル【金玉飛ばし】を習得しました。………チッ』


ほらね!そこに落ちているメダルがビューンと飛んで【ラージラット】を打ち抜くぜ。

「よっしゃー!行け【金玉飛ばし】!」


「バン!!!」


凄い音が出た。僕は思わず驚いてびくっとなってしまった。

「はー……びっくりした」

地面からメダルがすっ飛んだと思ったら、増援に出てきた【ラージラット】の頭が爆ぜた。

増援に出てきていたもう一匹と逃げていた奴は一目散に巣穴に逃げ込んでいった。

そのまま、巣穴からは何も出てくる気配は無かった。


草むらのなかを探して先ほど取り落とした剣を確保すると、魔石とメダルを拾い集めた。

【金玉飛ばし】でぶつけたメダルは、衝突の勢いで大きくひしゃげて悲惨な形になっていた。

なんとか確認できる意匠は見たことの無い初めてのものだった。

「くっそー!貴重なメダルだったかもしれないのに」

とはいえ、窮地を救ってくれたメダルだ。これは大切にしよう。


【金玉飛ばし】はおっかないスキルだった。

よく考えたらARスポーツのARデバイスは一応飛行するものも出てきたけど、最新型でもあんな勢いでは飛ばない。

先ほどのメダルの飛びっぷりは、ARデバイスを開発中に将来実現したいと想像していたような機動力だった。


ARスポーツが流行りだした頃、まだ転がる程度だったARデバイスを操作していた大学生の頃を思い出す。

当時の僕らは立体機動への憧れも有り、こぞって地形を利用してARデバイスを飛ばしていた。

整備していたマネージャー兼メカニックの竹下にみんなで良く怒られたな。

将来への期待を込めて部活の連中でARスポーツを【金玉飛ばし】と呼んでいたんだった。


ちょっと昔のことを思い出して感傷に浸っていたら、チュートリアル先生が割り込んできた。


『町に戻って宿泊してみましょう。早く』


早くって、口調がなんかちょっと怒ってないか?どんな演出なんだ。

そういえば、さっきも舌打ちみたいなのが聞こえたけど、あれは聞き間違えじゃなかったようだ。


確かに疲れたので、町に帰ることにしますか。

次話「10 宿屋もある意味進んでる」

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