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13 待機所と料理番

前回のあらすじ

 ようやくロックバルトの町に到着した。門番さんが謎の踊り。

「あんたら、『英雄ヴォルドンの男魂祭(だんこんさい)』の期間中に来るなんてツイてないね」

「男魂祭は廃止されたのでは無かったのですか?」


だんこんさいってなんだ?

迎え入れてくれた人物とルニの会話の意味が分からない。もう少し大人しくしておこう。


「近頃じゃ男共の元気が無ぇってんで、俺たちの旦那が復活させたのさ!」

「旦那さんがですか?」

「オレの名前はゲルズ。旦那はこの町の長フグスタリよ!」

「私はルニートと申します」

「あ、ユーキです」


大人しくしておこうと思ったけど思わず質問をしてしまった。

この人が所属する機関のボスが町長をやってて復活させた祭りの最中らしい。

男根祭じゃなくて、男のたましいと書いて男魂祭だった。

下ネタかよ!と思った自分が恥ずかしい。

遠回しに確認することが出来たけど、直接確認しなくてよかった。

なんで祭り中だとツイてないのか分からないけど。


「ゲルズさんはフグスタリさんの所で何やってるんですか?」

「オレか?旦那が採掘ギルド長だから、そこで副ギルド長をやらせて貰ってるぜ」

「そうでしたか」

「とは言っても、祭り中はこの待機所で料理番だけどな!ガハハハ」

「待機所ですか?」

「おうよ!おめえらと一緒で参加資格が無い奴は、祭り期間中は待機所で下働きだな」


道理でさっきから肉を焼くような良いにおいがしていた訳だ。

それよりも、この人、さらっと僕達を一緒にしたな。下働き?

ここに通されたのは労働力と判断されたってこと?


「まぁそんな顔しなさんな。ちゃーんと報酬も用意してあるし、料理を一緒に作ってくれれば良いだけだからよ。」

「料理ですか」

「あー苦手なら下ごしらえだけでも大丈夫だから心配すんなって。ところで【調理】スキルは持ってるか?」

「「はい」」

「おお!コイツは助かる。あいつらこの期間中はよく食うからな!ガハハハ!ちなみに幾つだ?」

「私は先日レベル3になった所です」

「僕はレベル4です」

「おお!たいしたもんだな!頼りにしてるぞ!」


まぁ、期間中に一緒に料理作るぐらいならいいか。

急ぐ旅でも無いんだしね。


「まぁ、来たばっかりで働かせるのも可愛そうだから、明日からよろしく頼むわ」

「承知した」

「わ、わかり……ました」

「おう!スルーズ!こいつらを休憩所に案内してやんな!」

「おう!こっちについてきな!」


なんて理不尽なゲームだ。「イエス」か「はい」かも選ばせて貰えずに話が進んでいる。

ルニは即答で同意していたが、この強制イベントっぽいのも強制イベントでは無いんだろうか?

スルーズさんという髭人(ドワーフ)に連れられて、鉄の扉が付いた石壁作りの手狭な部屋に案内された。

部屋の温度は丁度良いけど、ベッドが2つドーンと置かれているだけの簡素な部屋だった。

これってもしかしなくても囚人用の部屋じゃないの?


「ダハハハ!その情けない顔!この部屋が心配か?祭の期間中は待機所が手狭だからな。男魂祭復活ってんで、使ってねえ囚人施設を繋いだのよ」

「囚人施設ですか?」

「近頃じゃ【市民カード】や【冒険者カード】のおかげで犯罪者もめっきり減ってな!施設が余ってたのよ。だからそのベットもそこそこ上等のもんだぜ。この町はモノ作りの町だからな!」


ベットを触ってみると意外としっかりしたクッションだった。

確かに囚人向けにこれは無いわ。


「確かに立派なものですね」

「ガハハ、そうだろ、そうだろ!今日は自由だ。腹減ったらさっきの部屋に来な。風呂は祭り期間中は魔法で我慢してくれ」

「承知した」

「分かりました」


スルーズさんはドスドスと足を鳴らして去って行った。

髭人の方々は定番通りの体格で、身長はやや低いけど体つきががっしりしていてラグビーしたら強そうだ。

あ!流れるように相部屋にされてしまった!!!

スルーズさんが出ていった扉の方からルニに向き直る。


「ユーキさん!」

「え?は、はい!」


わかります。町の中までこの距離は不味いよね。

相部屋を解消してもらう方がいいよね。


「言い出すタイミングをすっかり失ってしまったのですが……」

「ん?なんの話ですか?」

「待機所は女性用の施設です」

「え?!」

「待機所は男魂祭の間、女性が待機するための施設なのです」

「ええ?!待って待って!!てことは、さっきのゲルズさんもスルーズさんも?」

「はい。女性です」


ルニによれば、ボタンの掛け違いは入り口の変な踊りからだった。

祭は数百年前ぐらいに廃止されたため、ロックバルト行きが決まっても誰も言ってなかったが、かつてはこの時期に毎年行われていたものらしい。

期間中は町の入り口の門衛の問いに合わせて男性は男性の踊りを、女性は女性の踊りを踊るのが習わしらしい。

あの変な踊りは英雄ヴォルドンに由来した由緒正しい踊りなんだとか。


ルニは過去にこの町に来たときに物好きな髭人(ドワーフ)の女性からその踊りを伝授されたらしい。

ルニの踊りを真似てしまった僕は、女性だと思われたとのことだった。

何も踊れないと本当に軟禁されるらしいので、それよりはマシとのことだけど……やってしまった。

来る途中の彼女の『やってしまったな』という表情はそういうことだった。


「えーと。僕が男なのは見れば分かりますよね?」

「いえ、髭人の男女感覚は我々と異なります。実際ここの方々が女性だと分かりましたか?」

「わ、分かりません……でした」


なにかものすごい疲労が全身を襲った。すっかり勘違いしていた。

しかも、さっきのゲルズさんは、町長の奥さんらしい。旦那というのはそういう意味での旦那だった。

このミスリードするように作られたシナリオが酷い。さすがにこれは仕込みだろう。


「男女で相部屋になってしまいますし、次にゲルズさんにあったら打ち明けることにします」

「左様ですか。私はユーキさんに付いてきた身。相部屋で何も困ることはありませぬ」


そう言うとにっこりと笑った。

やばい!やばい!大変なことになる前に彼女にきちんと話をするべきだろうか。

NPCだとしても、こんな可愛い女性にそんな風に言って貰えるなんて本当に光栄なんだけど。


「おう!お前らこの部屋どうだ?」


開いていた扉から、突然ゲルズさんが入ってきた。

ものすごいタイムリーな登場だな。リカバリーのチャンスありか。


「この石壁!しゃれが聞いてるだろ?なかなか頑丈なんだぜ!」


そう言うと腰に下げていたハンマーを入り口脇の壁にガーンと叩きつけた。

すると表面の大きな石が剥離してドスンと落下した。


「おおっといけねえ。ここは作りが悪かったな。ガハハハ!」


そう言うとひょいっと石をつまみ上げて小脇に抱えた。

このままだとずっと彼女のターンで喋る暇がない。

意を決して切り出した。


「あの、相談したいことがあるですけど」

「おう!なんだ?」

「入り口の踊りを間違えてしまって。僕は男なんですけど」

「おう、そんなことか!ここで一緒に働いてるローニだって男だが、まぁそういう事もあらあな!オレもみんなも気にしねえぞ」

「いや、そうじゃなくて、僕は普通に女性が好きなんですけど!」

「あー、言いにくいこともあるよな!わかるぜ!うまいことしといてやるから!ガハハハ!」


そういうと、軽々と石を抱えたままドスドスと出て行ってしまった。

僕はちゃんと説明したよね?嘘はついてないよね?

呆然としていると、ルニと目があった。


「その……髭人(ドワーフ)は人の話を聞かないことが多くて……これは仕方無いでしょう」

「仕方無いですか」

「私は本当に相部屋で構いませんよ。また一緒に料理できるのも楽しみです」

「は、はい」


僕も嬉しくないとは言い出せないし本当に困った。


次話「14 待機所と女性プレイヤー」

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