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11 歩行術と健脚の怪人

前回のあらすじ

 【スイムベアー】を倒して【水魔法】他を習得した。ルニートさんの飛ぶ斬撃格好いい。

「ユーキさんは[健脚]ルーク様をご存じか?」

「ええと、知らないです。5高弟様ですか?」

「はい。とは言っても武神様の高弟ではなく、健康神様の高弟の一人です」

「そういえば、元々5高弟というのは、健康神様の高弟から始まったという話でしたね」


これは【歩行術】の話だ。昨日、彼女が水の上を走って行くのを見て、僕も使いたくなってしまったのだ。

【見取り稽古】で【歩行術】を習得したので、これ幸いと教えて欲しいと切り出したら冒頭の話になった。


「【歩行術】は元々ルーク様が生み出したものと言われています」

「そうなんですか、健康神様が作ったスキルじゃ無いんですね」

「いくつかそのようなものがあると言われています。ルーク様は今なお健在なのですが…」


なんだろう、何か言いにくそうにしている。


「【歩行術】は何か問題なのですか?」

「あ、いえ、【歩行術】ではなくて……我々の間では小さい子供が悪さを致すと、『ルーク様がやってきて連れ去られるぞ』と言って脅かされる恐ろしいお力を持つ方なのです。悪い方では無いはずなのですが……。実際に迷子の子を親元に届けようと隣の国まで来てしまって余計に大事になったという逸話もあります。[健脚]の通り名は控えめな言い方で、一晩のうちに海の隣の陸地まで行って帰ってくるとか、伝書鳩を追い越して先に本人がやってきたとか、魔境の端に咲く花が見たくなって翌日には摘んできたとか嘘のような逸話が絶えません」

「それは……凄すぎますね。よくそんな方に技を教えて貰えましたね」

「私が教えて頂いたのは、ルーク様本人ではなく、遠当(とおあて)のライザーク様と言う武神の5高弟のお一人です」

「へぇ、ルニは5高弟の方と会う機会が結構あるんですか?」

「いえ、私も会ったことがあるのはクルサード様とライザーク様のお二人だけです」


ライザーク様は弓術に長けた鳥人(バードリング)の武人で、鳥人(バードリング)なのに弓が苦手な自分を変えたくて弓を納めたという変人だ。

それは苦手と違うのではと喉元まで出かかったが、ルニの手前遠慮しておいた。


「ルーク様にライザーク様が大陸の端までどちらが早く行って帰ってこれるかの勝負を挑んで、負けたそうなのですが……」

「負けたんですか?空を飛べるのに?」

「はい。それで弱点を克服したくて、ライザーク様はルーク様の元を通って【歩行術】を習ったそうです」

「え?そういう展開?!」


ライザーク様の行動は意味が分からない。むしろ空飛ぶ方を鍛える流れじゃないの?

5高弟の人はみんなどこかおかしい。変人大集合という感じだ。過去に500名もの変人が居たと考えると恐ろしい。


「空を飛べるのに【歩行術】を極める必要あったんですかね?」

「【歩行術】はその足に地を掴み、岩を掴み、砂を掴み、水を掴み、塵を掴み、やがて空を掴むに至るとそう言われております」

「そ、空を歩けるようになるんですか?」

「実際にライザーク様は何も無い中空を歩いておられました」

「それは、凄い……ですけど、やっぱり飛んだ方が良いのでは?」

「凄い嵐の地域などでは、地上を行く方が良い場合があるそうです。あとは降り立つ場所が無い時に水の上に立てるのは素晴らしいと力強く仰っていました」

「なるほど。意味があるんですね」


ルニは相当鍛えたそうだが、まだ空を掴むに至っていないという。

どれ、ちょっと調べて見よう。


■■■

【歩行術】

歩行の極意に至り歩く力が向上する。レベル上昇で効果が強化される

レベル1で地を、レベル2で凹凸を、レベル3で難所を、レベル4で水上を、レベル5で波を歩く力を得る

■■■


ルニはレベル5になっているから、波がある海上もいけるということか。めちゃくちゃ凄いな。

でもステータス表示には空を歩けるとは書かれていない。

やっぱり、レベル5以上は特別なのかも知れない。


「【ステータス】で調べて見ましたがレベル4で水上、レベル5で波を歩けるみたいですね」

「左様ですか、ビガンの町に居ると水路程度しか鍛錬する場所が無いので波を歩いたことはありませんね」


ルニも水上を行けるのは知っていたが、滝壺を歩いたのは初めての経験だったようだ。

行けそうだという直感があったそうだが、この人も結構無茶をする人だな。


「道場では【歩行術】を使える人は多いんですか?」

「クルサード様に縁ある道場ということで、旅の途中にあったライザーク様が気まぐれに教えてくれたのですが、その期間は短かったため、使い手は多くはおりませぬ」

「他に教えちゃいけないと言われてるんですか?」

「あまり言われてはおりませんが、我々真人族(ニューマン)にはルーク様は恐ろしい存在であるため、【歩行術】には少し抵抗があるようなのです」

「そうだったんですか」

「正直に言えば、私がこの技についてあまり指導に向いていないというのもあります。当時ユーキさんの【見取り稽古】があれば、というのは言っても仕方が無いことですね」

「じゃ、そのうち僕みたいに覚える人が出てくるかも知れませんね」


僕はルニに【歩行術】の基礎を習った。手足のフォームから入るのかと思ったが少し違っていた。

彼女はあくまで自然体で立ち、体重のかかる両足の先に広がる地面を感じるのた大事だと言う。

自分と地面が一体となったとき、その真価を発揮するのだという。


ルニの後をついててくてくと歩く。滝壺の周りをてくてくと歩く。

なんか不思議な感じだ。二人で居残りの行進練習をしているようだ。

てくてくてくてく。


頭を空っぽにして足の裏の感触を味わいながら、地面の下に思いをはせる。

硬い土、柔らかい土、石があり、微生物や虫がいて、水脈があり、その上にちょこんと僕が乗っている。

てくてくてくてく。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【歩行術】のレベルが2に上がりました』


てくてくてくてく。


「【見取り稽古】は不思議なものですね、【歩行術】を人に指導する日が来るとは」

「そうですか。僕にとってはとてもありがたい話です」

「私にとってもとても貴重な経験です。人に指導するというのは修行の極意のようなものですから」


てくてくてくてく。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【歩行術】のレベルが3に上がりました』


てくてくてくてく。


「レベルが3になりました。少し難所も歩ける気がします」

「そうですか、それでは少し変わった場所を歩いてみましょうか」


たたたたたたっ!たたた。


少しじゃない。それ、少しじゃ無い。

ルニが木々の中に突っ込み、枝を蹴って進み始めた。慌ててそれに着いていく。

底上げされた能力値もあってついて行けている。そういえば【グラスレペル】を掛けていないが、木立を抜けるのもスムーズだ。

僕は今、ルニの立体戦闘の一部を垣間見ている。


森の中の追いかけっこは続く。木の上を【フォレストウルフ】のように進むのはやり過ぎだと思うんだ。

僕はおっかなびっくり進むのでルニは時々振り返り待っていてくれている。

その時立っている場所がいろいろおかしい。葉っぱの上って。

この人、実は空中歩けるんじゃないだろうか?


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【歩行術】のレベルが 4に上がりました』


「レベルが!4!にっなりましたっ」


必死で追いかけているので、喋るのもなかなか辛い。

それを聞いたルニはこちらに戻ってきてくれた。


「そうですか!それでは水の上もいけますね!」


そういうと、滝壺に向けて恐ろしい勢いで走り出した。

これ【歩行術】じゃなくて【疾走術】じゃないのか?!そう思ったが、僕が必死に追ってもそこまでの速度は出なかった。そのあたりは敏捷の影響が出ているらしい。


ルニは水の上に行く手前でまってくれていた。

滝壺に着いたが、これ、滝が落ちてるから波があるじゃ無いですか?凄い心配だ。


「これ、波があるんですけど、大丈夫ですかね」

「大丈夫です!ユーキさんなら!」


全然大丈夫じゃなさそうだ。おっかなびっくり一歩踏み出す。

ポチャン!とそのまま水に入ってしまった。


「だ、ダメじゃないですか?」

「ふーむ。ユーキさんは今、水と一体になっておりますか?」

「あ、なってないです」


そうだ、基本に戻ろう。水面があって、その下には水があって、魚がいて、虫がいて、水草が生えていて、岩があって、土があって……その上に自分が居て、ルニがいて。

そんな姿が当たり前だと思って一歩を踏み出した。

水面ではなく、それら全てが僕を支えてくれている気がした。


ぱちゃぱちゃぱちゃぱちゃ


ルニが進むに合わせて僕も進む。おおおおお!すごい!水の上を歩いている!!

水の上と認識したとたん、足がとられた。


ザブン!!


そのまま水没した。【水泳】スキルがあって良かった。

水辺まで戻って【洗浄】スキルで水分を飛ばす。


「ユーキさん、いっそ下着のほうが良いのでは無いですか?」

「そう……ですね」


彼女のすすめに従って、僕は今パンツ一枚だ。

水の上を行くルニは普通に道着で、僕はパンツ一枚だ。

水の上という幻想的なシーンだがパンツ一枚で美女を追う僕は紛う事なき変態に見えるだろう。

滝の近くで波に取られて何度も水没したので水浸しの変態だ。

少し慣れてきて、水に落ちてもそこから水を踏んで水面に戻れるようになってきた。


そうして僕の【歩行術】はレベル5になった。

5高弟のあの変態の方々に一歩でも近づけただろうか。


次話「12 ロックバルトの町と入門の儀式」

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