9 ロックバルトは近くて遠い
前回のあらすじ
回想『山は甘く見たらいけない』。【マップ】スキル習得できず。
この集落は最初に攻略したものより規模が小さく、魔法を使う個体が居なかった。
ルニは[旋回姫]の通り名の示すように竜巻が通り過ぎるように【小鬼】の命を飲み込んでいった。
僕は彼女の後を追って打ち漏らしを倒しながらどんどん【解体】して行った。
取れるのは魔石ぐらいなので、例の省エネ版の【解体】で十分だった。
弓を使う個体は慌ててまともに矢を放てないでいるうちに前と同じく僕が【飛剣術】で対応した。
「このような場所で魔物の集落を見つければ、人の生存圏を守るためにも殲滅するしかありません」
「そうですね。今回は見つけられて良かったですよね」
【小鬼】は生まれて数ヶ月で大人と同じ体格を備えるため、繁殖力が強く半年程度で集落を築き始めるようだ。
今回、僕たちは道に迷ったせいで遭遇したけれど、整備された山道を通っていれば気付かなかっただろう。
彼女が言うようにロックバルトの町はずっと見えている。
今日は全く近づいている感じがしないが、それが問題かと言うとそうでも無かった。
多めに食事も用意しているし、急ぐ旅でも無かった。
当初予定していた行程とは全然違うけれど、これはこれで良しとしよう。
最短で3日の行程を考えていたけれど、地図を見て考えるのと実際の行程は大違いだった。
ただいま絶賛迷子中だけど、そのうち【マップ】スキルを覚えれば改善するだろう。
それに【小鬼】の集落を2つ攻略してみれば、結構能力値が伸びていた。
やはり能力値は魔物を討伐すると伸びやすいように感じる。
今朝から【フォレストウルフ】の集団や【ロックベアー】を討伐した効果も出ている。
能力値を伸ばすのもゲームの醍醐味だ。
今の【ステータス】はレベル3でレベル変動付きで見るとこうだ。
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ユーキ(地球人・男)
通り名:便所の魔神 <隠蔽 4>
能力値
体力 129 /129 (107+22) [ 877 /1070 ] +34 Up
魔力 92 /114 (103+11) [ 677 /1030 ] +17 Up
筋力 124 (103+21) [ 58 /1030 ] +39 Up
器用 139 ( 99+40) [ 601 /990 ] +25 Up
敏捷 145 (111+34) [ 917/1110 ] +31 Up
体力回復力 1/30秒
魔力回復力 1/15秒
スキル
・身体
【体力強化】2 [ 9705 /15000 ] +1 Up
【魔力強化】1 [ 1307 /3000 ]
【筋力強化】2 [ 5027 /3000 ] +1 Up
【器用強化】4 [ 143551 /300000 ]
【敏捷強化】3 [ 36370 /60000 ]
【視力強化】2 [ 1235 /30000 ]
【聴覚強化】2 [ 1441 /30000 ]
【嗅覚強化】2 [ 123 /30000 ]
【受け流し】4 [ 17602 /300000 ]
【回避】4 [ 19308 /300000 ]
【体術】4 [ 20029 /300000 ]
【瞬発】4 [ 53601 /600000 ]
【静止】4 [ 83600 /600000 ]
【拳術】1 [ 400 /3000 ]
【蹴術】3 [ 18504 /60000 ]
【舞踏術】1 [ 5600 /6000 ]
【再生】2 [ 12232 /15000 ]
【切断耐性】1 [ 2601 /6000 ]
【刺突耐性】1 [ 2601 /6000 ]
【圧迫耐性】2 [ 25000 /30000 ]
【毒耐性】1 [ 234 /6000 ]
【魅了耐性】2 [ 1105 /30000 ]
【気配察知】2 [ 10955 /30000 ]
【気配隠蔽】1 (0+1) [ 514 /600 ]
【瞑想】1 【 94 /6000 】
【魔力吸収】1 [ 2717 /12000 ]
【魔力操作】3 (1+2) [ 587 /6000 ]
【魔力視】1 [ 234 /12000 ]
【並列思考】3 [ 92122 /240000 ]
・武器
【剣術】6 [ 255705 /12000000 ]
【騎士剣術】4 [ 845400 /900000 ]
【曲剣術】2 [ 100 /45000 ]
【短剣術】5 [ 17961 /3000000 ]
【双剣術】3 [ 13500 /120000 ]
【槍術】4 [ 27680 /600000 ]
【棒術】2 [ 1001 /30000 ] New
【斧術】1 [ 800 /6000 ] New
【爪術】1 [ 700 /6000 ]
【弓術】1 [ 1551 /6000 ] New
【投擲術】1 [ 276 /6000 ]
【操糸術】1 [ 1314 /9000 ]
【飛剣術】10 [ 10955 /12000000000 ] <隠蔽 3>
【盾術】5 [ 561 /3000000 ]
・魔法
【風魔法】2 (1+1) [ 4706 /9000 ]
【念動魔法】1 [ 181 /9000 ]
【植物魔法】1 [ 1200 /9000 ]
【火魔法】1 [ 386 /9000 ] New
【回復魔法】5 [ 3807332 /6000000 ]
【生活魔法】4 [ 120002 /1200000 ]
【風圧耐性】1 [ 3603 /9000 ]
【冷寒耐性】1 [ 303 /9000 ]
【名前隠蔽】4 [ 101630 /180000 ] <隠蔽 3>
【能力値隠蔽】3 [ 22931 /45000 ] <隠蔽 3>
【スキル隠蔽】3 [ 30750 /45000 ] <隠蔽 3>
・芸術
【鑑定】4 [ 615400 /900000 ]
【歌唱】1 [ 1825 /3000 ]
【弦楽器術】1 [ 1133 /6000 ]
・加工
【調理】4 [ 284400 / 600000 ]
【解体】1 [ 728 /6000 ]
【解錠】1 [ 3 /6000 ]
・成長
【見取り稽古】10 [ 11627234 /9000000000 ] <隠蔽 3>
・異世界
【コンソール】1 [ 1310 /9000 ]
【ステータス】2 [ 258 /60000 ]
【イクイップ】1 [ 5 /12000 ]
【エネミーサイン】1 [ 191 /9000 ]
【ターゲット】1 [ 214 /9000 ]
【ターゲットライン】1 [ 112 /9000 ]
【インベントリ】1 [ 507 /12000 ]
【インタープリター】1 [ 32 /9000 ]
【ウィスパー】1 [ 101 /6000 ]
【AFK】7 [ 6988742 /90000000 ]
【ファンファーレ】1 [ 815 /6000 ]
【ブライトネス】1 [ 210 /6000 ]
【ミュート】1 [ 201 /6000 ]
【冒険者カード】4 [ 217501 /1200000 ]
【冒険者マニュアル】2 [ 1162 /60000 ]
【ログイン】1 [ 10 /15000 ] <隠蔽 3>
・固有
【スキル習得】2 [ 18278 /60000 ] <隠蔽 3>
【成長加速】1 [ 5905 /15000 ] <隠蔽 3>
【金玉飛ばし】1 [ 482 /12000 ] <隠蔽 3>
【森崎さん】1 [ 1561 /15000] <隠蔽 3>
【GMコール】1 [ 211 /15000 ] <隠蔽 3>
装備
右手 血食いの剣
左手 なし
右腕 なし
左腕 魔猫の腕輪 連環の腕輪
頭部 なし
胸部 上級剣術着
腕部 なし
腰部 風牛の鞘
脚部 上級剣術袴
足部 猫足の靴
持ち物
所持金
29,788,035¥
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レベル3で見るとその日の分の変動が表示されるようだ。
スキルだけではなく、能力値でもβ時代のカナミさん達を越えた気がする。
伸びた能力値のおかげで【剣術】スキルのアシスト以上に戦いやすくなっていた。
先ほどの戦いでは戦利品となったのは剣が2、短剣が24、弓が11、斧が1だった。
前の集落でもそうだったが、弓や棍棒はとても原始的な作りなのに比べて剣や短剣、斧はしっかりとした作りのものだ。
ロックバルトの町から移動する行商人から奪っているのだろうか?
魔石はまとめて小鬼のもの65個と中鬼のものが1個だった。
中鬼が同じように一匹居て獲物は斧だった。
同じ群れの中に斧を使う個体は居ないのでどこか別の場所から来ているのかもしれない。
「日が落ちてきました。そろそろ寝床を確保しなくてはいけませんね」
「この集落の横穴の一つを使えば良いと考えます」
「ここですか?!」
「はい」
僕は予定の場所になんとかたどり着いてテント用意してとかそればかり考えていたが、固定概念に囚われすぎていたようだ。
倒した敵の拠点にキャンプするなんて考えもしなかった。
確かに【解体】で血糊は既に無い。
若干不衛生な気もするが【洗浄】で綺麗にすればバイ菌類も処理できそうだ。
「なるほど、それは良いかも知れませんね」
「兄上達と移動の際にもそうしたことが何度かありました故。そういうものだと思って居ました」
女性の常識としてはどうなんだろうと思うが、このゲームの世界観としては不思議なことでは無かった。
僕たちはここに一泊することにした。
集落には独特の生活臭が漂っていた。
食べかけらしき動物の死骸が木に吊されてかなりの異臭を放っていた。
これが彼らの食料だったのだろう。しかし臭い。腐った臭いが立ちこめている。
僕は覚えたての【火魔法】で炭にしておいた。
【火魔法】レベル1の魔言は着火魔法の【発火】と【消火】火の玉を投げる【火投】だった。
着火の魔法は【生活魔法】の【着火】【鎮火】よりも強力な感じがする。
生活魔法もそうだったけど創造神様の何も無いところから事象を生み出す創造魔法は魔言が漢字に翻訳されているみたいだ。
魔力を込めて【発火】で動物の死骸に火を付けると乾いていたせいかすぐに燃えた。
皮ごと焼いたのが悪かったのかとても臭かったので【風魔法】で換気しておいた。
それでも臭いが残っていたので周囲を【洗浄】で綺麗にした。
この作業は魔力を無駄に使うことになり、【解体】スキルのありがたみがよく分かった。
そんな片付けをしているうちにすっかり日が落ちてきていた。
小鬼の棍棒は武器には使えないが木の枝として見れば立派なものだ。
それを薪として火を起こしてゆったりとくつろぐ。
晩ご飯は出来合いの食事を【森崎さん】に出してもらって食べた。
今日も道場の賄いご飯だ。何度か食べた料理だが、外で食べるだけでも大分雰囲気が違う。
取り出した瞬間に香草の香りが広がって素晴らしかった。
食後にはコーヒーも取り出して二人でゆったりと杯を傾けた。
話題は今日討伐した魔物についての二人反省会だ。
「【ダンスベアー】は気配を感じたら十分に用心することにします」
「僕も魅了への対策として【回復魔法】の【平安】を掛けるようにしますね」
今日一番の失点は【ダンスベアー】の対処だろう。
ルニのセクシーなダンスシーンは今でも思い出すとドキドキするけど彼女はあまり覚えていないようなのでそっと封印しておこう。
魅了状態とはなかなか恐ろしいものだ。耐性スキルがあって本当に良かった。
寝る前に自分達と寝床を【洗浄】すれば寝る準備はあっという間に完了だ。
たまには風呂にも入りたいが、着替えのハプニングが回避できるので【生活魔法】と【AFK】があって本当に良かった。
下着の替えも沢山持たなくて良いので荷物にもやさしい。
「魔物から身を守るために同じ横穴で寝ることに致しましょう」
「えっと?あー。別の穴の方が良いんじゃないですか?いくつもありますし」
ルニが同じ穴での宿泊を提案してきた。
うーん。これはちょっと困るな。これは回避出来ない奴なの?どうなの?
「いえ。私は旅の経験から、寝ていても魔物の接近があれば起きられますが、隣の穴となるとそうは行きません」
「そ、そうですか。しかし男女で同じ場所というのは大丈夫でしょうか?」
「不思議なことを申されますな。野外での宿泊は危険が多いですから、もとより寝床を共有出来ない相手とは一緒に旅に出ないものです」
「あーはい。分かりました。変なことを言ったようですね。すいません」
野外は現代日本のように安全では無いから、そんなことを気にする方がおかしいようだ。
同好会の合宿や遠征でみんなと雑魚寝するのと同じような感覚かもしれない。
荷物から2人分の毛布を取り出すと、早速くるまって寝転がる。
ルニと距離が近い。山の中を進む彼女は生き生きしていた。
まっすぐで、恐ろしく腕が立ち、周囲の変化を受け入れてしなやかに生きている。
この人は本当にNPCなんだろうか?
かといって誰かプレイヤーが操作している様子は無い。
ぼーっとそんなことを考えて居たら思わず目が合ってしまった。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
就寝の挨拶を交わすと星空に視線を移して目をつぶった。
疲れていたのか、僕はそのまま意識を失った。
次話「10 滝壺と魔物」