4 【植物魔法】と山道の歩き方
前回のあらすじ
フォレストウルフの群れが沢山攻めてきて沢山倒した。【植物魔法】ゲット
急ぐ旅でも無いのでルニートさんとお互いの持つスキルの情報を交換しながら歩いていた。
彼女は魔物が多い地域に出かけることが多いため【市民カード】ではなく【冒険者カード】を持っているようだ。
町に住む人は基本的に【市民カード】を取得する。
【市民カード】では町に住むための行政支援が貰えたり店舗での割引があるようだ。
それに加えて冒険者ギルドの仕組みと一緒に【冒険者カード】生み出されたスキルだ。
【冒険者カード】は頼まれごとに対応するので、クエスト受領する機能があり、移動に関する許可が簡素化されているらしい。
それ以外には【貴族カード】が存在するが、これは時の貴族の要請を受けてアンネ様が追加で生み出したスキルだ。
あらゆる店舗での買い物が高かったりするが、貴族としての矜持であり義務であるらしい。
統治機構に関する機能があるようだが【冒険者マニュアル】にも書いてなかったし、道場の面子もよく分かってなかった。
彼女は【冒険者カード】のレベルが3だった。一人前の冒険者と言われるレベルだ。
腕前だけ言えばもっと上の印象があるので、冒険者ギルドでのクエストを受けないと上がらないのかもしれない。
先ほど取得したスキルについても話を振ってみた。
ちょっと気になるのでルニにも聞いてみたい。
「そう言えば先ほど【フォレストウルフメイジ】を倒したら敵の覚えていた【植物魔法】というスキルを覚えました」
「そのようなスキルを覚えたのですか?」
「あれ?ルニは覚えませんでしたか?」
「ええと、おそらく覚えていないと思います。自信が無いので見て頂けますか?」
そうだ、ルニには【ステータス】スキルが無かった。
普段当たり前に使っているからNPCにスキルが無いのを忘れがちだった。
「それじゃ調べてみます。【スキル習得】【植物魔法】」
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ルニート(真人・女)
習得中スキル
・魔法
【植物魔法】 193 /750
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スキルは習得していなかったけれど、彼女も経験値は取得していたようだ。
彼女の口ぶりからすると以前も戦ったことがあるようなので、以前の経験値との累計の値だろう。
「やっぱり経験値をお持ちですね。ちょっと僕の【ステータス】と比べてみます。【ステータス】【植物魔法】」
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ユーキ(地球人・男)
スキル
・魔法
【植物魔法】1 [ 1252 /9000 ]
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この魔法は習得までに750必要で僕は2割引だから600で習得できるので今の戦闘だけで1852稼いだのか。
彼女と僕でずいぶんと違うな。
「このスキルはランク3なので750で習得できるようなのですが、獲得している経験値だけで言うとルニートさんが193で僕が1852でした」
「私にもそんなに経験値があるんですね」
彼女の感覚ではこれは多いのか。僕の感覚では少ないように思えるのだけれど。
「【フォレストウルフメイジ】は【植物魔法】がレベル2でした。
僕の経験で言うとレベル1のスキルを持っている魔物を10匹倒すとスキルを習得する感じがします。
レベル2以上のスキルを持っている魔物であれば大抵は1匹でスキルを習得できると思っていたのですが……」
「え?そ、それは凄いですね」
うーん。他の人よりスキルを覚えるのが早いというのは分かってきたけど、何か違うんだろう?
アンネ様は強く願えば覚える的なことを言ってたのでまずはその差はあるだろう。
「ルニは【フォレストウルフメイジ】と戦ったことがあるような口ぶりでしたが、戦闘経験があるんですよね?」
「はい、何年か前、同じようにこのロックブレーズの森に道場の皆と来た際に遭遇しました。
あの時は兄上が注意を引きつけてくれている間に皆で切りつけて何とか倒すことが出来たのです」
「【風魔法】は見えないから結構大変ですもんね」
止めを刺しているならさっきの僕と大きくは違わない。
プレイヤーとNPCの大きな違いといえばやはり【ステータス】スキルか。
魔物が【植物魔法】を持っていると知っているか知らないかは習得に差があるかもしれない。
ちなみに【ステータス】で見るとこんな感じだ。
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【植物魔法】
植物を操作する。レベル上昇で効果と規模が拡大される
レベル1で移動、レベル2で成長、レベル3で回復、レベル4で攻撃、レベル5で変質に力を示す
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【ステータス】の表記はもうちょっと親切にして欲しいけれど意図があるのかもしれない。
人によって使える魔言は違うらしいので、この記述範囲なら発現する可能性があるのかも。
とはいえ、最初からこの説明だとちょっと参ってしまう。
「ところで【フォレストウルフメイジ】がレベル2の【植物魔法】を習得してることは知っていましたか?」
「父上からそのような魔法を持っていることは言い含められていたゆえ、知っておりましたがレベルまでは知りませなんだ」
「そうでしたか」
相手のレベルを知っているかどうかは差があるかもしれない。
その後も幾つかやりとりしてみたが決定的な違いは分からなかった。
少なくとも敵の持つスキルの経験値を得られるのは間違い無さそうだったので前進だ。
「次の戦闘では敵のスキルレベルを最初に説明しますね。レベル2のスキルがあったら覚えられると思って倒してみて下さい」
「分かりました。ユーキさんが言うならきっと出来るんでしょう」
彼女の信頼がありがたいが少し重い。
そういえば話したい内容は【植物魔法】についてだったことを思い出した。
「そういえば話したかったのは【植物魔法】についてでした。これどんなスキルかご存じですか?」
「クルサード様が得意とすると聞いたことがありますが、具体的に使われている所を見たことは無いですね」
「クルサード様!全く気がつきませんでしたがそういえば得意そうですよね」
[開拓]の通り名は伊達じゃないってことか。
そういえばビガン中央広場の例の木をクルサードさんが育てたという逸話もあった。
でもこの様子では何が出来るかは知らないかもしれない。
こんな時はこれの存在がありがたい。
「それじゃ、これで調べます。【冒険者マニュアル】!」
「なるほど。それがありましたね」
【冒険者マニュアル】の目次を確認する。
ええと、身体能力編の……スキルについての……あった!【魔言】についてだ。
「えーと、【植物魔法】レベル1は【魔言】は【グラスレペル】と【グラストラップ】の2つか」
「効果は草が避けて歩きやすくなるものと、草が足に絡むものですか。中々便利そうですね」
彼女はいつの間にか横に来て僕の開いた【冒険者マニュアル】を覗き込んでいた。
ええーと、自分のやつあるんですよね?レベル3の冒険者なんだし!
ちょ、ちょっと近いです!
彼女はちょっと良いにおいがした。
「【グラスレペル】!」
自分たちに【グラスレペル】をかけて草むらを歩いてみるとその効果に驚いた。
草が避けるというそれだけで圧倒的に歩きやすくなった。
近づくと目の前が開けていくので視界も改善され、草に隠れた段差に足をかけることも無くなった。
僕たちは【植物魔法】の支援も得て進んだ。
どんどん進むとロックブレーズの森の雰囲気が少し変わってきた。
標高が高くなった影響なのか、木々や草に覆われ暗い感じの森だったが、少し木々の間隔が広くなり少し見通しが良くなってきた。
ただ足下の草はちょっと元気で【グラスレペル】が大活躍だった。
【フォレストウルフ】を討伐してから暫く魔物が出てきていない。
そろそろお昼休みにしてご飯を食べようかなと考え始めていたら、ルニから声がかかった。
「この辺りからは少し大型の魔物が出始めるので注意していきましょう」
「分かりました」
そう確認して間もなくのことだった。
「ヴォ――――――!!ヴォッヴォッヴォッ」
威嚇しながら大きな茶色の塊が近づいてきた。
明らかに大型で熊のような魔物だ。
βテスト時代に討伐した【フォレストベアー】よりも少し大きな個体だった。
未知の敵だ。気を引き締めて当たろう。
次話「5 戦場に踊る二つの影」