8 冒険者マニュアルは魔法のスキル
前回あらすじ
鼠退治の依頼を受けた
ログインしてから連戦してギルド受付まで済ませて、ちょっと疲れてきた。
リアルなゲームは何かやるのに結構な疲労感がある。
一旦ログオフしようかと思ったけれど、せっかくなのでゲームの中で一息ついてみることにした。
冒険者ギルドから左手に進み、先ほど通った広場まで戻ると、カフェっぽい屋台にやってきた。
お昼時が近づいたようで広場の人が増えており、数人が列を作っていた。
どうやら注文してから席に着くルールのようだ。素直に列の最後尾に並んだ。
と、そこにチュートリアル先生から次の指示があった。
『【冒険者マニュアル】を確認してみましょう』
そうだ、幾つかスキルを獲得したので、後で確認しようと思ってたんだ。
まずは【ステータス】を確認してみよう
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【インタープリター】
対象の文字・言語を読み書き出来る。レベル上昇で利用者が少ない文字・言語にも対応する
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【冒険者マニュアル】
冒険者にとって必要な情報が参照できる。レベル上昇で参照可能な情報が拡張される。
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どのスキルも予想していたようなテキストが出てきて驚きは無いな。うん。
地味に魔力を吸われるからいちいち【ステータス】使わない方が良い気もするけど、レベルを上げるためにはマメに使った方が良いよな。なんとも悩ましい話だ。
それじゃ【冒険者マニュアル】を確認していこう。そもそもどんなスキルなのか【ステータス】だけでははっきりしない。
「どれ、【冒険者マニュアル】っと」
変な効果があったら嫌なので周知するためにも口に出す方でスキルを呼び出してみた。
目の前にパッとA4サイズの通販カタログのような本が中空に浮かんで現れた。
表紙はテカテカした材質の紙で、白地に黒文字で『レベル1冒険者マニュアル』と書かれている。
受付嬢さんの説明を後から簡単に振り返るためのメモ帳程度のものを予想してたので良い意味で裏切られた。
そのままページをめくってみる。手で押さえなくてもページが維持されて良い感じだ。
丁寧に『発行にあたり』とか『謝辞』とか入っていたので飛ばして、目次を探した。
『それを飛ばすなんてとんでもないです』
ん?チュートリアル先生のような声が聞こえた気がするが……昼時の屋台喧噪で何か聞こえたのかもしれないな。
辞書のように章ごとにインデックスがついており、目次は簡単に見つかった。
目次を見ると中身は大きく『世界編』『身体能力編』『冒険者編』に分かれていた、
【冒険者マニュアル】だから冒険者ギルドの説明ぐらいしか載ってないと思っていたからありがたい。
前から気になっていた能力値については『身体能力編』の中に載っていた。
前段の説明では『存在の力を取り込んで強化される』とか書かれていてちょっと意味が分からなかったが続く文章は分かりやすかった。
一般的な町に暮らす成人男性の平均で50ぐらい、冒険者の平均で75ぐらいとのこと。
昔は一般人でも70ぐらいが平均だったとか微妙な歴史知識も書いてあって、必要性は低いけど読み物として面白い。
【体力】は身体の頑強さが表されているらしい。頑強さのパラメータも含まれているんだな。
食事や休憩で回復するらしい。これが消費されるうちは怪我が軽くなるようだ。
【魔力】は身体に備わった魔力が表されているらしい。残量が極端に少なくすると気絶すると書かれている。
世界に満ちている魔素を吸収して常にゆっくり回復し、休憩したり集中することで回復力が向上するらしい。
魔素はどこにでもあるもので場所により濃淡があるようだ。
ゲームにありがちな魔法の力を伸ばす【知力】【精神】等の能力値は無いことも分かった。
【筋力】は素直に力の強さが表されているようだ。
世の中には魔法金属でも水飴のように引きちぎる人がいるらしいが、それは本当に筋力なんだろうか?
ともあれ、能力が数値で見えるのはすばらしい!
怪力自慢が500円玉曲げるとか貴重な硬貨を破壊する余計なパフォーマンスはしなくても良いんだ!
【器用】は指先の器用さだけじゃなくて身体操作全般の精密さが表されているらしい。
魔法操作の器用さにも適用されるらしく、両手の指一つづつでそれぞれ別の魔法を同時に操る人がいるらしい。
ARデバイスの複数制御に振り回されていた身としては感心しきりだ。
【敏捷】は身軽さが表されているらしい。素早く動くっていうと筋力な気がするがそうでは無いらしい。
身体をの重さや間接の動きにくさを軽減して動きを早くする能力とのこと。
世の中には漂う綿毛の上に立つことが出来る人がいるらしい。
そこまで行くと人なのか確認したいレベルだ。体重が軽すぎて直立するのも大変そうな気がする。
感心しながらマニュアルを読んでいると前の客まで順番が進んだようだ。
前の客が注文をしているのを見ながら何を頼むか考える。
「焼きそばとミルク」
「私はサンドイッチとコーヒーにするわ」
「同じくサンドイッチとコーヒーで」
3人組は慣れた調子で注文している。ファンタジー設定でもゲームだけに焼きそばやコーヒーはあるようで安心した。
ふと、真ん中の女性が振り返って目が合う。
「あら?あなたβプレイヤーじゃない?そのジャージ懐かしいわー。」
「ん?そうですよ。ゲームを始めたばかりです」
素直にプレイヤーであることを告げる。何かのイベントだろうか?
「おっ!新人なんスか。もう募集してないのかと思ってたわ」
「私たちもβプレイヤーなのよ。もう結構やってて熟練パーティになるわ。
せっかくだからごちそうするから一緒にご飯にしましょう。
この店は割と普通だけど、サンドイッチとコーヒーがおすすめだから、それにしなさい。
お兄さん、サンドイッチとコーヒーをもう一つづつね」
流れるように同席と注文を決められてしまった。
最近女性に主導権を取られっぱなしな気がする。
ご飯代が浮いたようなので、ありがたいし、まあいいか。
先輩プレイヤーの案内で座席に付くと、自己紹介が始まった。
「ユーキです」「カナミです」「ヒロシです」「ヤマトです」
まずは、名前交換からと、ゲーム世界の情報で自己紹介をする。
声を掛けてくれたボブカットの女性は後衛で魔法職のカナミさん。25歳ぐらい?もうちょっとかな?
背の高い角刈りの男性は前衛役のヒロシさん。カナミさんよりちょっと下ぐらいかな?
線の細い清潔感のある無造作ヘアの男性は斥候役のヤマトさん。ヒロシさんと同じぐらいの年に見える。
「みんな結構若いですよね?」
「いやいや!君がそれ言う?君の方が若いでしょ?」
「むしろ現実より老けたっていうか」
素直な感想を言ったら即反論された。名前は変更できなかったけど、姿も個人情報から勝手に作っていると思うんだけど。
姿は実年齢が反映されて、ゲームを始めてからじわじわ年を取るらしい。
3人は大学生で競技オリエンテーリングサークルの仲間らしい。
ゲームでは現実世界よりも早く時間が流れていて、ログイン中は年齢時間が止まっているらしい。
リーダーが若干年上に見えるのは単純にログイン時間が長いからだとか。
それはそうとして、僕も30歳だ。見た目も普通に年相応のはずで若いと言われるのがおかしい。
パラメータが低いってことを言ってるのかな?
自己紹介をしているとサンドイッチと、コーヒーカップがトレイに乗せられて配膳された。
サンドイッチはミックスサンド風だ。有名なコンビニで売ってるのよりサイズが一回り大きい。
コーヒーも良い香りがする。外回りでカフェは結構行ったから善し悪しが分かるようになってきたと思うがこれは良いものだ。
このゲームは臭いも工夫されているようだけどどんな技術なんだろう?
「コーヒーはスキルで抽出してるから淹れたてなのが良いわよね」
カナミさんが聞いても無いのに解説をくれた。彼女は面倒見が良い性格のようだ。
ついでにいろいろ教えてくれてゲーム内では体力回復のために定期的に食事を取る必要があるとのことだった。
ご飯を抜いていると【空腹】という状態異常になって行動にペナルティがあるらしい。
「そういえばさっき【冒険者マニュアル】見てたみたいだけど何調べてたの?
迷い人シリーズ着ているから、まだ初心者みたいだけど」
「あ、はい。 能力値について調べてました」
「あー能力値かぁ。スキルと違ってレベル制じゃないから戸惑うよね」
割とみんなが気になるポイントだったらしい。ちなみにNPCは数値を知らないで生活している設定らしい。
βプレイヤーは伸びが良くなっていて、前衛職のヒロシさんの体力は250あるらしい。桁が一つ違ってた。
ヤマトさんが丁寧に解説をしてくれた。
「能力値を伸ばすスキルもあるんだよ。
それぞれのパラメータに対応して【体力強化】【魔力強化】【筋力強化】【器用強化】【敏捷強化】 が用意されてるんだ。
効果はレベル×10%の強化だね。ヒロシの【体力強化】は最近レベル3になったから30%強化されてるんだけど元は190ちょっとだね。
【ステータス】スキルのレベルが上がると増加分が分けて表示されるようになるよ」
「あっ【体力強化】と【敏捷強化】は持ってます。やっぱり他にもあるんですね」
「へぇ。初心者っぽいけどもう数ヶ月は活動してるのかー」
「迷い人シリーズは性能の割に動きやすいから一人前になっても愛用してる人もいるから分からなかったよ」
あれ?なんか変なことを言い出した。
ヤマトさんの説明によるとスキル習得には3ヶ月ぐらいかかって、レベル2になるためには1年ぐらいかかるらしい。
さっき【体力強化】がレベル3だと言っていたヒロシさんはどんだけやってるんだろうか。
現実よりも時間の流れが早いらしいが、そこまで時間の流れが早いとは考えていなかったので驚きだ。
βテストの期間は1週間ぐらいだったと覚えているので、これはすごいことじゃなかろうか。
カナミさんは喉を鳴らしてコーヒーを飲み干すと席を立った。
「よし、私達は先に行くけどゆっくりしていってね」
「はい!いろいろありがとうございました」
もうちょっといろいろ教えて欲しかったけど、午後から依頼主との約束があるそうなのでそのまま見送った。
3人の背中を見送るが、通行人とプレイヤーの区別は付かなかった。服装以外に見分け方とかあるのかな?
いろいろ教えて貰ったので改めて習得中のスキルを見てみよう。【スキル習得】っと
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ユーキ(地球人・男)
習得中スキル
・身体
【魔力強化】
【筋力強化】
【器用強化】
【刺突耐性】
【体術】
・武器
【剣術】
・加工
【金属加工】
【金属分解】
・固有
【金玉飛ばし】
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早速、先輩プレイヤーに聞いたスキルが増えていた。
このゲーム世界はプレイヤーに優しいようだ。
次話「9 貴重なメダルの使い道」