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2 二人の悩みと男女の距離

前回のあらすじ

 ロックバルトに向けて出発し、炭焼き小屋に泊まった。ルニが不穏な発言

「ユ、ユーキ殿!おにゃが、お願いがあるのですが……」

「はい」


僕はある一線を越えて女性と仲良くなるのが怖い。

中高生の頃のある出来事が原因なのだが、そのことを人に説明するとその根幹を思い出すことになるので出来ればそれも避けたい。

女性のことはとても好きだし、自分は割と惚れやすいとも思う。

矛盾している自覚はあるけれどこれは自分ではコントロール出来ないのでいつも悩ましい。


いつも僕は女性が一定距離以上に近くならないように気をつけていた。

大学生時代や社会人になってからはうまくやってきたと思うし、周りも多分気を使ってくれていたと思う。

お金を目当てに近づいてくる人は全然怖くないけれど、好意を持って近づいてくる人が怖い。


ここはゲームの世界で僕の常識は通用しないことだらけだった。

ルーファスさんに娘さんをやると言われたときドキリとしたが、ルニートさんからは一定以上の好意が感じられなかったので安心していた。

ところが腕輪をプレゼントする辺りで失敗した。

旅についてくるという話が出た時点で僕の心臓はバクバク言っていたが、最終的には従者でも良いと言うルーファスさんの発言を持って良しとした。

女将さんの発言は……うん……あれは気にしないことにしよう。

ルニートさんは素敵な女性だが、必要以上の好意を向けてこないので少し油断していたのだ。


ゲームの世界だから僕の恐怖が当てはまるとは限らないけれどこの世界のNPCは人間味に溢れすぎている。

彼女は何を言い出すのだろうか、内容によっては言いたくないその話を開示しなくてはいけない。

嫌な汗が流れた。部屋が暗くて良かった。僕はきっと青い顔をしているだろう。


「こうして一緒に旅をすることを許して頂きましたので、我々は共に協力する必要がありますよね……」

「は、はい」


何を言い出すのだろうか、彼女の言い出すことを聞くのが恐ろしい。

ベットに横になっているせいか自分の心臓の音がやけに良く聞こえる。


「ゆ、ユーキ殿というのはあまりに他人行儀ですので……」

「は、はい?」


まだ予断を許さない。彼女は何が言いたいのだろうか?


「ユーキさんと呼んでもいいだろうか?」

「ん?ええ、大丈夫ですよ。単にユーキと呼んで下さっても平気ですよ」


なんだよもう!良かった。

あまりにも慎重な物言いに一線を越えるかと思ったが、僕の恐れていた線は越えてこなかった。

彼女の悩みは僕よりもずっとずっとピュアなものだった。


「呼び捨てなど!そんな失礼なことは」

「いやいや、同年代の友人はだいたいそんな風に呼びますから、失礼ってことは無いですよ」

「はい。いえ、私が耐えられそうに無いゆえに、ユーキさんとお呼びさせてください」

「分かりました、僕はこれまでと同じくルニートさんとお呼びしますけど良いですか?それともご両親のようにルニって呼びましょうか?あはは」


急に力が抜けたので少し悪乗りしてしまった。


「え?はい。いや、ええ……ええと……はい!是非『ルニ』とお呼びください!!」

「はい。え~と、分かり……ました」


しまった!絶対選ばなそうと思って口に出したのにそっち選んじゃいますか。

墓穴を掘ってしまった。僕は少し間違えたようだ。

こうして少し彼女と親密になり、ちょっと心臓に悪い関係となった。


───────


「ユーキさん、おはようございます」

「おはよう、ルニ」


あーしまった。これはかなり恥ずかしい。

恐れていた事態とは違うけどこれは参ったな。


「どこかでもう一泊する必要がありますが、宿泊施設があるのはここまでですね」

「ビガンで買った地図でもそんな感じですね。みんなが宿泊する定番の場所とかあるのかな?」

「開けた場所が何カ所かありますが、大物の空飛ぶ魔物が徘徊しているので前に来たときは木陰で一泊しましたね」

「地図で言うとどの辺りですか?」

「えーと、おそらくこの辺り、ここから1日で到着すると思います」


二人で朝食を食べながら地図を出して今日の行程を確認する。

ルニが指し示した地点は残る行程の半分地点辺りに見えた。


「ここからの行程では魔物が現れるようになります。小鬼(ゴブリン)や【フォレストウルフ】、【フォレストバット】などが主に生息しています」

「急に物騒になりますね。【フォレストバット】以外は戦ったことがあるので想像がつきます」

「【フォレストバット】はコウモリで夕刻を過ぎるとどこからともなく現れてきます」

「なるほど、昼間は気にしなくても良さそうですね」


炭焼き小屋から先は魔物が出る領域となるらしい。

道場で鍛えたスキルが役に立つと思えば準備は十分だろう。

小屋の持ち主に感謝して、使った施設を片付けを始めた。

施設にはコンポストのような設備もあって生ゴミはそこに捨てて下さいと書いてあった。

ゲーム世界ながらこの痒いところに手が届く展開には毎度感心する。


「ルニートさん……ルニはその曲剣で行きますか?」

「はい。私は【曲剣術】をもう少し体得したいので。ユーキさんは飛剣を使われるのですか?」

「ちょっと考えたのですが今日の所は【剣術】で当たりたいと思います。あと【風魔法】を使ってみようかと」

「なんと【風魔法】も使えるのですか!本当にいろいろ出来るのですね」

「ルニートさん……ルニも【見取り稽古】があるから覚えられると思いますよ」


うーん。ちょっと照れもあって言いにくいな。


「ええと、やっぱりルニートさんって呼んでも良いですか?」

「だ、駄目です!1度決めたことですから!!」


間髪入れずに却下されてしまった。

決めたことを曲げるのが嫌なのか、気に入っているのか分からないけど駄目そうだ。

もやもやした気分のまま出かける準備を整えることにした。


ルニートさんが同行するのも含めてシナリオライターの陰謀が酷い。

これは先日覚えた【GMコール】で一度苦情を入れるなら今だろう。


■■■

【GMコール】

場所を問わずにゲーム管理者に連絡できる。レベル上昇で継続利用時間が拡張される

■■■


ルニートさんが身の回りの準備を整えている間にスキルを使ってみよう。

よし、言ってやるぞ!【GMコール】!!


『ピロリーン』

「あ!ゲームマスターさんですか?!」

『な、なんじゃ?!ゲーム。そうかアースリングの者か?』


なんか気の抜けた音でつながった。この声は聞いたことがあるような無いような。

使ったこと無いけど【ウィスパー】で話すとこんな感じかな?


「あ、はい。えーとゲームしている者なんですけど、ゲームの運営の方ですか?」

『まぁそういうことじゃな?ところでおぬしは誰じゃ?』


ちゃんとゲームの運営らしいけど、どうにも要領を得ない。

連絡してきた人の情報は手元に出ないのかな?


「あ!そういうログ出ないんですね。ええとユーキと申します」

『おお!ユーキ殿!(わらわ)じゃ、アンネじゃよ。』

「え?アンネ様?」


相手はチュートリアル担当の女神様だった。ゲームマスターも兼務なのか。

この人は運営の人だと思って居たけど、ゲームを開始したときの反応からして人が入っているとは思えない。

窓口のインターフェースとしてAI搭載のNPCを立てているのだろうか?

コータさんの話では中々出会えないと言っていたけど、そうでも無いかもしれない。


『ところでどうされたのじゃ?ここには【ウィスパー】が通じないと思うのじゃが?』

「ええ、【GMコール】っていう固有スキルですね。」


【ウィスパー】では届かない場所でも【GMコール】なら届くのか。

場所を問わずにという【ステータス】の表示はそういう意味だったのか。


「ええとそうじゃなくて、ゲームの苦情なんですけど?」

『ゲームがどうしたんじゃ?何か問題が起きておるのか?』

「ええ。あのシナリオが酷いんですけど?」


ここぞとばかりシナリオの愚痴を伝えてみた。

・中央広場で絡まれて強制的に歌唱道場に連れられて女性陣に囲まれて居心地が悪かった話

・剣術道場に行ったら強制的に戦わされて切り抜けたと思ったら娘をやると言われた話

・その流れで親衛隊の人に絡まれた話

・賄いチームの女性陣に絡まれて大変だった話

・女将さんの仕込みでデートするハメになって大変だった話

・プレゼントした腕輪が結婚申込みみたいになってて大変だった話


本当に回避不能でいろいろ絡まれていた。

それらの出来事を時系列で伝えていくと「ほう」とか「なんじゃと」とか言ってたので多分聞いて貰えたと思う。


「そんな訳でこういうプレイヤーが回避出来ないようなシナリオを止めて欲しいんですよ」

『馬鹿者!そんなシナリオなど無いわ!女共にうつつを抜かしおって!精進せい!』

『プー・プー・プー』


え?あれ?聞いてくれてると思ったら突然怒られてしまった。

シナリオが無い?そんなことは……あるの?


思わずルニートさんを見つめる。

同行してるのはシナリオのせいじゃない?

彼女もAI搭載の自律するタイプのNPCということなの?

僕はなにか不味いことになってるんじゃないかと不安になった。


次話「3 山道と魔獣の群れ」

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