ex5 続・異界神アンネの悩み
前回のあらすじ
ルーファスさんがアップを始めました。
ユーキ殿が新たなスキルを生み出す事に成功したことで、試しの期間は延長することになったのじゃ。
試しとはゲームという舞台装置の力を借り、地球世界に済む者達をヴァース世界に呼び出す試みのことじゃ。
地球人がこのヴァース世界に与えた影響は殊の外大きかった。
エドガー殿は地球人の考え方に興味を持ち新たに【生活魔法】を生み出された。
そして、3年の前より地球人が再びヴァース世界に訪れるようになっていた。
我らは長く生きている故、待つことに慣れておると思っている者も多いようじゃが、そうでは無いのじゃ。
神見習いたる我が身であっても、時間には濃淡があってあっという間に過ぎる時とそうでない時はあるのじゃ。
ユーキ殿が訪れるのを待つのは辛いものじゃった。
【ログイン】は魂の力で異世界に顕現するスキルじゃ。
ユーキ殿はヴァース世界に用意した現し身をその身に取り込んだため、現し身を利用して顕現するはずとは兄上の弁じゃ。
兄上にお願いしてユーキ殿がヴァースを訪れる場合には、この神殿に転移されるように準備しておったが一向に現れる気配は無かった。
神見習いの身とは言え、神殿は我が身の一部のような領域じゃ、変化があればすぐに分かる。
「はぁ……」
とはいえ、最近では決まった予定以外は神殿でユーキ殿を待つ生活となってしまった。
躊躇することなく、この世界で共に歩む道を選んでくれたあの姿が忘れられぬ。
「遅かったのじゃ!!!遅すぎるのじゃ!!もう来ないかと……妾は心細かったのじゃ!!」
「ぐるじい」
「す、すまぬ。ちょっと感極まったのじゃ」
ユーキ殿の来訪の気配に思わず飛びついてしまった妾を誰が責められようか。
少しはしたないとは思うが、長らく一人であった妾と共に並び立つ者の出現ゆえ、仲良くするのは当然のことじゃ。
何かこうして張り付いていると兄上とは違う安心感を感じる。
「ちょ、ちょっと離して頂けますか?ち、近いですし!」
「い、嫌じゃ。ずいぶんと待たされたのじゃ!また地球世界に行かれては叶わん!」
9年も待たせたのじゃから、これぐらいは許容すべきじゃ。
他の神々には恐れ多いし、兄上も望ましいことではあるが、最近では何やら忙しそうにしておって、妾にもゆるりとする時間が必要じゃ。
「えーと、まだ【ログアウト】スキルを習得してないので多分死なないと帰れないですよ」
ユーキ殿がそんな風に言われるので渋々と離れることにしたが、己を貫く力の強い彼が本気で望めばすぐに習得されてしまうじゃろう。
兄上の持つ【次元魔法】のようなの次元を越える力を習得されるかもしれぬ。
ユーキ殿は現し身の姿のままじゃった。
そうじゃ!マーガレット殿が何か言うておった。
『ちゃんと現し身を作っとけば良かったヨ。年嵩を調整するのが途中で面倒になってたらこんな人が来るんだモン。あ、これ内緒ダヨ』
「ユーキ殿には謝らねばならん!」
マーガレット殿すまぬ。ユーキ殿には正直に話をすることにした。
スキルの力で若くなるのはヴァース世界では当然じゃが、アース世界ではあり得ない事というのは長らくあちらの世界を見てきた妾には良く分かっておる。
しかし彼はあっさりと受け入れてくれたのじゃ。
「なるほど!別にかまいませんよ」
妾はその度量の大きさに魅せられ再びユーキ殿に飛びついたのじゃが、力加減を間違えてしもうた。
ヘルマン殿に言われるままに体を鍛えておったのが裏目に出るとは!
ユーキ殿の現し身は人たる身に近い。懇意にする冒険者ギルドにその身を任せることにしたのじゃ。
早速、地球人が多く訪れておる試しの中心地ビガンの町を訪れた。
「これはこれは!アンネ様!ご来訪感謝に堪えません!」
「そのような挨拶は抜きじゃ。こちらのユーキ殿の容態を明らかにし速やかに処置せよ」
過剰に妾を立てようとするこのガルディウスは少し苦手じゃが、とても優秀な男じゃ。
あっという間に容態を確認し、暫くすれば回復する見込みを述べた。
「少しお時間をよろしいでしょうか?現在の地球人の活動について相談したいことがありまして……」
「ふむ。聞くとしよう」
この世界を良くするためには必要なことゆえ、ユーキ殿の身は大事ではあるが聞かない訳にはいくまい。
ギルドマスターの部屋に赴いて地球人の人々の来訪で、大きな変化も無いが順調という話を長々とされていた。
この男は話が長くていかん。
やがてユーキ殿の気配の変化を感じた。冒険者ギルドは妾と関係が近しいためか、神殿の力が一部及んでいる。
話を切り上げてユーキ殿の元へ行くと、またガルディウスが長い話をしようとするので、一旦退けて話をすることが出来た。
ところがじゃ、兄上から連絡が入ったのじゃ。火急の用事があるので神殿で待てとはどういうことじゃろう。
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「なんで会っては駄目なのじゃ!」
「だからセルマさんから、10神みんなで介入するのは少し自粛しようという不可侵条約の提案があったんだよ。セルマさんおっかないんだぞ!あのヘルマンさんが怒られてシュンとしてたんだから」
確かにセルマ殿は恐ろしいお人じゃ。魔神の名は魔力の存在を見つけたという意味もあるが、その強大な力を指して言うこともある。
セルマ殿の提案はこの世界の広がりを心配してのことじゃった。
神たる身が直接出向くとユーキ殿が今後発現させるであろう力が間違った方向に導かれるかもしれぬと懸念されたようじゃ。
「しかし妾は神見習いたる身じゃ!」
「またそう言うだろうから、兄貴が言い含めるのが良いじゃろうとか言われて伝えに来たんだから。みんなは認めてるんだし見習いって言うのをやめなよ」
兄上はそう言うが、妾の生み出したスキルが世界を割るところを見たことが無い。
話は平行線じゃった。腑に落ちぬ事もあるが、世界の広がりを懸念されるのであれば暫くは自粛しよう。
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「会っては駄目では無かったのか?」
「いやー!だから偽名でエディーっつって講師のフリして会ってきた訳よ」
エドガー殿は神たる身を偽って会いに行ってきたらしい。
「ユーキ殿はほんと面白いわ。あいつ何もしてねぇのに、教える前から勝手にスキル覚えるし!
調子に乗ってレベル10まで魔言を披露しちゃったら、またまたレベルがどんどん上がってるし!
アレ何?すげー!周りもなんか影響されちゃってみんなでスキル覚えてるし。あんなの見たこと無いわ~。
俺はもうおかしくておかしくて!吹き出すのを我慢してたからさっさと逃げ帰ってきちゃったぜ」
「なんと!流石己を貫く者。そういうことじゃろうか」
ユーキ殿の話を聞けるのは嬉しいが、エドガー殿は後でセルマ殿にこってり絞られるじゃろう。
「ギルド職員ちゃんも、ユーキ殿を見つめる目がちょっと熱っぽかったからモテモテかもしんねーな?」
「な、なんじゃと!!」
「アンネちゃんも、もうちょっと可愛い言い回しに戻した方がいいんじゃねーか?だってユーキ殿に惚れてるじゃん?」
「な、な、何を言われるか!」
「ほらそういう言い方、神様っぽいけどユーキ殿と近くなりたいんだったら女の子っぽくしなよ~。またね~」
エドガー殿は一方的にそう告げるとすぐに立ち去られた。
女性らしくか、長らくそんなことを考えてこなかった故、すぐには難しいが……ユーキ殿はそういうのが好きなのじゃろうか?
ヘンリック殿から頼まれた頼み事の手紙も少し書き直してみるとしよう。
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「あれはどうやって作ったの!?大事件なんだヨ!ちょっと教えなさいヨー!!」
「そう言われましても、見ていた訳では無い故。勘弁してくだされ」
マーガレット殿が言うておるのはユーキ殿から届いたスキル魔石じゃ。
なんでも習得したらレベル3になったらしいのじゃ。妾……私も聞いたことが無いのじゃ……無いわ。
神殿を訪れたヘンリック殿に渡した【飛剣術】も同様に習得すると同時にレベルが3になったと聞いた。
『なるほど!更に上を目指せ。そう言われますか。ククク。ユーキ殿も上を目指されますか』
ヘンリック殿が何を言われているのかは理解できなんだが、大層喜ばれておったことに間違いは無い。
中々途方も無い事じゃ。ユーキ殿は一体何のどのようにあの魔石を作られたのじゃろうか。
「むー!じゃ、じゃあサー。空のスキル魔石をまた幾つか渡してスキル詰めて貰う依頼をして確認するってのはどうかナ?」
「依頼したいところじゃ……ですが、例の不可侵条約もあるので、確認のために顔を合わせる訳にはいきませんので」
「トホホー。あの町は私が行くと目立つし、やっぱだめかナ~~」
マーガレット殿はため息をしながら帰って行かれた。
───────
「兄上!!!ずるいでは無いですか!!!妾……私だって会いたいのに!」
「ゴメンゴメン。だってユーキ殿が隠蔽スキルの講習会に申し込んでるなんて千載一遇のチャンスじゃん!」
「だからと言って!エドガー殿のように絞られても知りませんよ!」
「今回は大丈夫!!!マーガレットちゃんがセルマ殿に話を付けてあるから」
「マーガレット殿も共犯か!!!」
「いや、ちがう、いやそうだけど、許可を貰ったんだよ。スキル魔石を作るところを見るって名目でだから!ね!ね」
兄上をじろりと睨むがもう起きたことは仕方が無い。
マーガレット殿は諦めておらず、あの町でもそれほど目立たない兄上に言って貰うことにしたようじゃ。
「それでさ、エドガー殿が言ってたことが本当で、隠蔽系のスキルなんて【魔力視】でも無いと理解するのが難しいかなと思ったら、そりゃもうあっさり覚えちゃってね。
その訳を聞いてみたんだよ。そしたら!ユーキ様はもう一つ新しいスキルを生み出したって言うんだよ!!」
「な!なんと!」
兄上は愕くべきことを言い出した。
地球人が来るまでの数千年、新たなスキルが生まれておらなんだのに。
影響を受けて新たなスキルを生み出したエドガー殿にも驚かされたが、ユーキ殿はやはり神たる身に相応しいということだろうか?
「そのスキルは【成長】っていう新しい分類のスキルで【見取り稽古】っていうものだったよ」
「新しい分類じゃと!!」
スキル分類は【身体】はヘルマン殿やセルマ殿が主に管理しておられるし、【加工】はヨハンナ殿とマーガレット殿が、【芸術】はフィリーレース殿一人で管理されておる。
兄上の言葉に目の前が暗くなるのを感じた。共に歩こうなどと考えていたのは思い上がりだったようじゃ。
既に神たる身として一歩を踏み出されたようじゃ。
「それを教えてくれるって言うから嬉しくて!だってあのユーキ様のスキルだよ!
いやー調子に乗って【回復魔法】でエドガー殿と同じ事しちゃったんだけど、なんと!その場でユーキ殿のレベルはあっという間に5だよ!
秘蔵の薬を投入した甲斐があるってもんだよね!
本当はサインも欲しかったんだけど、スキル魔石作って貰ったからもう大満足だよ!!」
なんか兄上が言うておったが、妾の耳には入ってこなんだ。
「で、そのスキル魔石が凄くて!飲んだらなんと!レベル4になったんだよ!!信じられないよね!」
「な、なんと!レベル4じゃと!!?」
「ユーキ殿が作ったスキル魔石は前評判通りピッカピカだったね。それを使ったら一気にレベル4まで上がったよ」
先日頂いたものより、明らかに強い力が宿っていたということか。何をどうすればそうなるんじゃろうか?
「目の前で作ってもらったんだけどね。
両手でこう空のスキル魔石を包んでさ、何やってるか良く分かんなかったけどなんか魔力込めて、循環させていたのかな?
ちょっとこれからマーガレットちゃんに会って報告してくるよ」
兄上はそのままウキウキとした足取りで出て行かれた。
こうなると、不可侵協定とは本当に必要だったのじゃろうか?もうまもなく解除されるやもしれん。
ふむ。そうなると会いに行けるようになるな。
その前にエドガー殿に言われたように女の子らしくか……長く身につけた神見習いたる振る舞いが妨げとなろうとは!
───────
『ピロリーン』
『あ!ゲームマスターさんですか?!』
なんじゃこれは?突然脳裏に人の声が届いた。この神殿は兄上が作った隔離された空間に備えられてあるゆえ【ウィスパー】は通じないのじゃが?!
我々が連絡を取る際も【冒険者ギルド】の通信員を利用して相互に直接職員を派遣し、兄上の作った空間に相手を呼ぶことが多い。
「な、なんじゃ?!ゲーム。そうかアースリングの者か?」
『あ、はい。えーとゲームしている者なんですけど、ゲームの運営の方ですか?』
確かにゲームという舞台装置を魔道具として起動し【ログイン】スキルを擬似的に生成できるようにしてある。
そういう意味では舞台装置の管理人は妾じゃ
「まぁそういうことじゃな?ところでおぬしは誰じゃ?」
『あ!そういうログ出ないんですね。ええとユーキと申します』
なに?!そう言われてみればユーキ殿の声じゃ!間違い無い。
「おお!ユーキ殿!妾じゃ、アンネじゃよ。」
『え?アンネ様?』
「ところでどうされたのじゃ?ここには【ウィスパー】が通じないと思うのじゃが?」
『ええ、【GMコール】っていう固有スキルですね。ええとそうじゃなくて、ゲームの苦情なんですけど?』
なんじゃろう、舞台装置に何か問題でも発生しておるのじゃろうか?
それは困る。試しはまだまだ始まったばかりなのじゃ。
「ゲームがどうしたんじゃ?何か問題が起きておるのか?」
『ええ。あのシナリオが酷いんですけど?』
それから、ユーキ殿の話をいろいろ聞いたのじゃが、なんというか、年頃の女性の登場が多すぎでは無かろうか?
そういえば兄上がユーキ殿が婚約されたと聞いて祝いに行ったとか申されていたが、それは誤解だったはず。
それらが全て妾のせいじゃと?!バカを言うでない。それならば何故こんな気持ちになっておるのじゃ!
「馬鹿者!そんなシナリオなど無いわ!女共にうつつを抜かしおって!精進せい!」
『プー・プー・プー』
それをきりに、ユーキ殿の声が届かなくなってしまった。
ああああ!!失敗してしもうた!これでは仲良くなれぬでは無いか!!
それに何じゃそのスキルは!!ゲームやGMコールという概念は良う知っておるが、そんなスキルは聞いたことが無い。
そ、そうじゃ!また連絡が来るかもしれないのじゃ!その時に挽回すれば良い!そうじゃ!!
う、うむ。まずは話し方から変えることとしよう!
「え、えーとユーキ殿……ユーキさん……ふふ……ユーキくん!」
その日、神殿に籠もり自分の発言に身もだえる異界神の姿は、幸運な事に誰にも見れなかったという。
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