7 初めてのクエストはネズミ退治
前回のあらすじ
カード決済便利だったけど、メダル収集に暗雲
受付嬢さんは僕の気分とは関係なく話を続けた。
「異界の旅人の方々は懐が寂しいからみんな先立つものが無いと不安なんだってね?
何故か何匹かの魔物を討伐してから町に来ることが多いんで、最初に買い取りをするのさ。
それが終わったから、ようやく冒険者向けの入門手引きのスタートだよ」
そうして僕は冒険者ギルドについての一通りの説明を受けた。
冒険者にもレベルがあって一般的には1~5ぐらいらしい。5は超ベテランで、時折それより上の人もいるようだ。
一般的にはレベル1は仮免許、1年ぐらい続けばレベル2で初心者、5年ぐらい続けばレベル3で一人前らしい。
というか【冒険者カード】スキルのレベルで判定されるらしい。
今更だけどカードを確認するふりをしてスキルの【ステータス】を確認した。
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【冒険者カード】
冒険者の身体・素養・行動を証明するカードを呼び出すことが出来る。魔道マネーの決済機能を持つ。
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受付嬢さんが言うには冒険者レベルに応じて斡旋されるクエストのレベルが制限されるとのこと。
「じゃ、これも口から飲み込んでちょうだいな」
再び大玉の飴を渡された、なんかスキルをくれるのか。素直に飲んでおこう。
『ユーキはスキル【冒険者マニュアル】を習得しました』
「さっき説明したようなことを含め必要な情報はそれで調べな」
なんだこれは、説明は不要だったんじゃないだろうか?
「異界神様がスキルを作ってくれた当初はスキルだけ渡してたんだけど、内容をちっとも見ずに迷惑をかける連中が増えてね。
最初に説明をちゃんと聞いたらスキルを渡すことになったのさ」
見透かされているような説明をもらった。
「【冒険者カード】と【冒険者マニュアル】の代金で500ヤーンだよ。冒険者カードよこしな」
「・・・あっ、はい」
最初に飲ませてくれたからサービスなのかと思ったが、そんなことは無かった。確かにこれが無いと成り立たなそうだけど。
「異界の旅人さんには割引料金で出してるんだからそんな顔しなさんな」
受付嬢さんは冒険者カードを返済しながらそう言った。
さて、これで一通りチュートリアル終わりかなと思ったら先生が次の指示をくれた
『クエストを受けてみましょう』
「じゃあ、次はクエストでも受けてみるかい?」
チュートリアル先生と受付嬢さんのタイミングはばっちりだ。
聞き取りにくいので、被らないようにタイミングをずらして欲しいぐらいだ。
「あんたから見て左手の壁際に依頼を張り出してあるからよ…あそこら辺が全部そうだよ。
受けたいのに冒険者カードをかざしたら受領できるようになってるからね。
あんまりレベルが足りないのは受けられないようになってるけど、危ないのもあるから良く選ぶんだよ。
じゃ、初心者受付はここまでだ。稼いでおいで!」
肩をつかまれてぐるりと左を向かされると、背中を勢いよくたたかれた。
左の壁沿いには一面に依頼が張り出されていた。
上から「討伐」「護衛」「収穫」「支援」「その他」という並びになっていた。
右側から左に向けて難易度が高い物が張り出されている。当然右端はレベル1向けだ。
依頼の掲示は紙かと思ったら板に投影されているようだ。
ディスプレイみたいなものかと思ったけど、収穫依頼では特徴的な草が立体ホログラムのように浮き出していた。
このゲーム世界はこれでもかって勢いで現実を超えてくるな。
僕は【ラージラット】の討伐依頼を見つけたので、これを受けることにした。
こいつならさっき相手にして勝手が分かってるし、まだレベルが上がりそうな気がする。
報酬は魔石一つに付き90ヤーン以上で買い取りとなっていた。報酬金額は魔石の大きさや傷の有無で多少変動するらしい。
場所はビガンの町西門前の丘陵地帯となっていた。
依頼書には地図が付いていて、先ほど冒険者ギルドに来たの通りをまっすぐいくと西門で、その先の丘陵地帯で【ラージラット】が大量発生しているらしい。
早速【冒険者カード】と念じて出現させ、掲示の前にかざすと少し経って「ピローン」と鳴った。
カードを確認すると、『受領クエスト:ラージラット討伐』と書かれていた。
なんかNPCの受付嬢さんがやけに人間臭いのでちょっと雰囲気に飲まれていたが、ようやくゲームらしくなってきた。
冒険者ギルドを出ようと思い、周囲を見回すとさっきの受付嬢さんがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
すましていれば美女なのに、美人の無駄遣いが田波部長みたいだ。
このゲームは門番の人も受付の人もNPCが本当に人間臭い。不気味の壁は確実に越えている。
僕は受付嬢さんに黙礼して冒険者ギルドを出た。
次話「8 冒険者マニュアルは魔法のスキル」