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33 ダーズ師匠と守りの力

前回のあらすじ

 【短剣術】のチームは女性多めだった。

【飛剣術】の指導は既に2週間を過ぎたが師範代の多くが習得に苦しんだ状態で週末に突入した。

ちょっと煮詰まっている感じもあったので、週末の休みは丁度良いだろう。


僕は【短剣術】がレベル5になったので別の鍛錬をと思って道場にあるいろんな武器を物色していた。

斧を振ってみたり、大剣を振ってみたりしているとダーズ師匠がやってきてこう言った。


「おう、こんな所に居たか。ユーキ殿はひょろっこくていけねえ。もうちょっと守りを強くするために【盾術】を覚えな!」

「わかりました!」


ダーズ師匠の言うことならそうなんだろう。素直に習うことにした。

誰に教えてもらえるんだろう?指導者を探さなきゃと考えて居たのだが、普通にダーズ師匠が教えてくれた。

普通【騎士剣術】は【盾術】とセットで覚える物らしい。


「俺が貴族だった頃にうちで居候してたのが中々の武人でな。

ちょくちょくその人の元に行っては指導してもらったんで【騎士剣術】と【盾術】それと【鎧術】は当時結構自慢だったな。

そんなわけで山賊やってても敵無しだったんだが、その安いプライドも頭領にあっさり折られて今に至るって訳よ」

「そうなんですか、【盾術】に【鎧術】も修めてたんですね」

「まぁ腕っ節だけなら貴族としての水準は超えてたな【盾術】もその一つだがユーキ殿に指導できるなら自慢出来るってもんよ」


そんな風に言われて習い始めた【盾術】は意外と面白かった。


「ほれ!よそ見しないで攻撃をいなしたらそのまま盾で叩く!」

「はい!!」


面積のある盾での圧迫攻撃(チャージ)は中々の威力だった。

盾は道場にあったものだが、それ自体が攻撃が逸らしやすく出来ているから、ただ単に突っ込むだけでもそこそこの効果があった。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【盾術】を習得しました』


受け止める、逸らすだけじゃなくて、全力でぶち当てたり盾そのもので殴ったり想像よりかなり忙しい防具だった。いや武器だった。

名前の印象とは逆で明らかに技術が守りよりも攻めに向かっている武術だった。

その昔、盾術を得意としたという武神の高弟『不動のリーゼルト』の印象が180度変わった。


ダーズ師匠は週末の間、ずっと【盾術】を指導してくれた。

僕も師匠も剣と盾を装備してガンガンと打ち合っているだけだが、ものすごい量の情報が詰まっていた。


師匠の振る剣が躊躇無く振り下ろされてくる、剣筋に合わせて盾をひねって合わせその攻撃をはじき飛ばすとそのまま盾を突き込む。

届くかという時に師匠が当たり前のように盾を合わせてきた。そのまま受け止めるかと思いきやそのまま引き込まれる。

体が流された所に、盾で受け止めた威力を回転に変えて再び師匠の剣が振り下ろされる。

僕はそのまま前転してなんとか躱し、再び対峙した。


「ほれ!攻撃がまっすぐ過ぎんぞ!サイモン殿に指導してもらったんじゃ無いのか?彼のように柳のようにしなやかに戦え!」

「え?えっとサイモンさんはいっつも寝ていて」

「は~。しょうがねえな!もうちょっと盗んでこいや!」

「は、はい!すいません!」


ダーズ師匠もサイモンさんには一目置いているのか。

師匠の動きにはバリエーションが豊富で振り回されるが、サイモンさんのあり方がその対応のヒントになるのか。

面白い!なんだかぐっときた。このゲームはNPCの人物像が厚い。


サイモンさんといえば脱力しているように見えるが気がつくと指導に立っていたり、と思ったら寝ていたりと行動が読めない人物だ。

でも寝ているなと視線を向けるとこっちを見てきたりする。サボることに情熱をかける達人だ。

違う、そうじゃない。ダーズさんは柳のようにしなやかにと言っていた。

つまりサイモンさんのように動きに遊びを持たせろと言ってるんだな。


ずいぶんと難しい注文をされている。

だけどダーズ師匠は僕にそれが出来ると言っているということか。

その信頼が嬉しく誇らしい。不思議な気持ちだ。

この人はNPCにしては人間らしすぎる。


―――――――


週末が開けても、ダーズ師匠は【盾術】の鍛錬に付き合ってくれた。

そうこうしているうちに【盾術】はぐんぐんレベルが上がり5になった。【剣術】に至ってはレベル6まで上がってしまった。

流石に自分の状況が分かって来たが、プレイヤーの中でレベル6に到達している人はおそらく居ないだろう。

【スキル隠蔽】で隠すかどうしようか真剣に悩んでいたら、ダーズ師匠にこんな風に言われた。


「ユーキ殿、あのな!そんなもんはバンバン見せてバンバン鍛えりゃいいんだ。

5高弟様達のレベルに比べりゃ俺だって頭首殿だって、まだまだひよっこもいいところだぜ。

あんたは恐るべき才能がある。武神様が目指しているというレベル20のさらに上の頂を目指せ!」

「は、はい!」


急に目の前が晴れた気がした。

レベル20なんて想像も出来ないが武神様はそんなレベルを目指して居るのか。


そういえば冒険者ギルドで隠蔽スキルを教えてくれた講師の黒ジャージの人は殺しても殺せないような謎の強さを見せていた。今の僕が彼を相手にしてなんとか出来るかと聞かれたらなんとも出来ないと思う。あの謎のワープをどうすれば良いか想像も出来ない。


他にもβテストの最終日に熊をホームランしていた人のレベルに到達出来ているかというと全然相手にならないと思う。あの人は武術というレベルではなく、笑えるような膂力(りょりょく)だけで熊をはじき飛ばしていた。あれがもう2周りも大きい魔物であっても、同じような結果になるイメージしか沸かなかった。


そうだな、頂はまだまだはるかに高いのだ。

もっと研鑽して、バンバンレベルを上げよう!そう思った。


「おお!いい顔になったな!それじゃもいっちょいくぞ!」

「はい!」


ダーズ師匠の持つ技を教えてもらう機会をもらえたことに感謝しよう。

そんな気持ちで目一杯打ち込んでいった。


―――――――


「ありがとうございました」

「全くアンタはたいしたもんだよ。また自分のレベルが上がっちまった。俺もまだまだってことだな。ガハハハ」


ダーズ師匠はそんなことを言いながら記念にと盾を譲ってくれた。

青黒い金属で組まれた楕円形の盾でどう見ても高そうなものだ。

ルーファスさんに打ちのめされて山賊をやめた後に心を入れ替えた誓いを込めてしたためた物らしい。

ずいぶん重たいものだった。


「そんな物おいそれと受け取れませんよ」

「いや、あんたに受け取って欲しいんだ。ここ暫くの鍛錬は俺にはそれだけの価値があった。

ちっとな思い知らされたんだわ。いつの間にかルーファス殿に守られ過ぎてたんだってな。

もう一踏ん張りしようと思った記念だ。もらってやってくれや」


僕には分からない理由だったが、これを断ったらいけないということだけは分かった。

ありがたく頂戴することにした。


僕にはダーズ師匠がNPCとは思えなくなってきている。

時々スキルが超常の力を発揮している所を見かけなければゲームと思えなくなっているだろう。


―――――――


その夜の講習会において師範代の全員が【飛剣術】を習得した。

結局全員の習得までに3週間かけてしまった。

ずいぶんかかったなと思ったが、新しい武術のスキルを一ヶ月未満で覚えるのは相当凄いことらしい。


ただ【見取り稽古】はその間も威力を発揮してルニートさんを初めとして何人かは【飛剣術】のレベルが2になったようだ。

サイモンさんに至っては【飛剣術】とずいぶん相性が良いらしくてレベル3まで上がっていた。


「ユーキ殿!俺は【飛剣術】に身を埋めるぜ!」

「ったく。おい!ホルドー!お前の師匠がこんな事言ってるぞ!」

「サ、サイモン殿!!まだまだ我々を指導してください!!」

「くそっ!折角面白そうなもの見つけたのによ。半年だ!半年で実力を付けてもらうぞ!お前がちゃっちゃと腕を上げて成り代われや!」

「はっはい!頑張ります!!あれ?」


サイモンさんがむちゃくちゃ言ってる!

誰も止めないのかな?と思って周りを見るとなぜか周りはうんうんうなずいていた。

すでに織り込み済みの話のようだ。

よく考えてみればサイモンさんはいつも寝ていてほとんどホルドーさんが指導していたかもしれない。


3週間も教えることをやっていると、この世界ではだんだんそういう能力が目覚めてくるらしい。

【スキル習得】の待機中リストに【指導】というスキルが増えていた。成長カテゴリのこのスキルは経験値が100から一向に増えなかった。

いつの間に発生したのか分からない。僕にはどうやれば経験値が増えるのか皆目見当が付かなかった。

3週間も指導していたのだが、普通に指導するだけでは経験値が入らないようだ。

新たなスキルを生み出すのは難しいというのは本当だった。


ともあれ【見取り稽古】と【飛剣術】を指導するというルーファスさんからの依頼を果たすことが出来た。見返りとして要求した他の武術指導も期待以上に受けることが出来た。


そろそろ次のことを始められそうだ。


次話「34 剣術道場に集うプレイヤー」

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