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30 剣術道場の達人達と【飛剣術】

前回のあらすじ

 ルニートさんが腕輪を欲しそうにしてたのでプレゼントした。

師範代チームの全員が【見取り稽古】を習得したのを受けて、宣言通り今日からは【飛剣術】をテーマに講習会を開催する。

他の門弟達へ【見取り稽古】スキルを教えるかについてはこれからひと協議するらしい。


「それでは本日より【飛剣術】の指導を始めます」

「「「「よろしくお願いします」」」」


何から教えようかと思ったが、まずはシンプルに剣が一直線に(まと)に飛んでいく様を見せることにした。

地面にお借りした短剣をずらりと並べて、(まと)を立てて準備は出来た。

今回もグラットさんに短剣を用意してもらった。

グラッドさんは道場住み込み鍛冶でみんなの武器を整備する凄腕の鍛冶職人さんだ。


「まずは【飛剣術】を使っている所を見てもらいます。【騎士剣術】を習得した時のように【見取り稽古】で習得してみましょう」

「「「「はい!」」」」


ここに集まっているのはこの道場の指導者の皆さんだ。

道場主のルーファスさんまでが門下生のように振る舞うのがすごい違和感だけど慣れるしか無い。


「これから【飛剣術】で地面の短剣をあの(まと)に飛ばします。山なり、一直線、右旋回、左旋回といろんな軌道で飛ばすので良く見て下さいね」

「「「「はい!」」」」


並べてある左の端の短剣を【飛剣術】でふわりと浮かせて的に飛ばす。

【飛剣術】人が持っていなければ結構自由に操作することが出来る。

的に刺さるのを確認して、次の短剣を今度は違う軌道で飛ばしては突き刺す。

一本、また一本と短剣を飛ばして的に刺しながら【飛剣術】の要諦を伝えていく。


「【飛剣術】を使うと細い魔力の糸が自分の体と対象を繋がっています。見えない魔力の手で剣を振るとイメージしてみてください」


【魔力視】を得てから気がついたのだが【飛剣術】を使う時、僕の体から対象の剣まで魔力の線が繋がっていた。

魔力の線は物や人で遮ってもすぐに迂回路が出来るし、ある程度までは対象を通過していた。

ただ動作に比べて魔力の消費が少ない気がするので剣の近くの魔素を使っているのかもしれない。


「明確に軌道を意識しながら飛ばすと正確な斬撃が出せるようになります。この辺りは普通の【剣術】と同じですね」


僕は軌道を変えてどんどん短剣を飛ばしていった。準備してもらった50本の短剣が的にしている木の柱に綺麗に等間隔で突き刺さっている。

【魔力操作】が腕輪(バングル)の支援もあって魔力消費が30%削減されているので魔力的にも余裕があった。

一度刺さった短剣を再び床に戻していった。

ガッチリ刺さると的から引き抜くのに少し魔力が必要だったが、剣を回収するのも【飛剣術】で対応できた。


「こんな感じです。どうですかね?」


なんかみんなが難しい顔をしていた。みんなの顔を見回すとダーズ師匠がこう切り出した。


「だはは。こりゃまいったな。まったくイメージできねえ」

「魔力の手で剣を振るですか……ムムム。この手以外に手があるというのはなんとも難しいですな」


ギャトールさんにも難しいようだ。

獲物を手に持たないというのが、武術の達人達にはなかなか受け入れられないようだ。

棒術や槍術では掌意外に腕や足で振り回す技があるようだが、それでも身体を使うものだ。

浮かばせるというのは【重力魔法】【念動魔法】【風魔法】といろいろなスキルがあるためイメージが固まらないのかもしれない。


ふと昨日貴金属店でメダルを入手した『幻視のソールズ』の話を思い出した。

ルニートさんによれば【躁糸術】という武術の使い手で、糸を使って攻撃するだけではなく【躁糸術】で別の武器を振り死角からの攻撃を得意とした人だ。


「【操糸術】という武術のように糸で操ると考えればイメージしやすいかもしれません。

魔力の糸で剣まで繋がって操作する感じですね。剣までが自分で操作する対象なのでそこが少し違いますが」


丁度良さそうなので【躁糸術】を例に挙げて説明してみた。

【飛剣術】も魔力の糸のようなものが繋がっているので若干似たような部分がある。


「あ~【操糸術】かよ。ありゃーあんまり使い手が居ねえんだよな」

「そうなんですか、確かにちょっと毛色が違う感じですよね」

「だが、見たことはあるぜ!ふむ。糸かが繋がってか、なんとなく分からんでも無いな」


ルーファスさんは少しイメージが出来たようだ。道場主だけあって、武術への知識は流石だ。

そこに【短剣術】の師範であるサイモンさんがこう言い出した。


「えーっとルーファスの旦那、俺ぁ、一応【操糸術】使えるぜ」

「そういえば練習してたことあったな。ちょっと見せてくれや」

「うーん。あれは面倒くさいんだよな。見た目は似てそうだがちっと違うと思うんだが、おいホルドー!俺の部屋の壁に糸かけてあっから持ってきてくれ」

「はい!」


サイモンさんは【短剣術】の師範代であるホルドーさんに【操糸術】の獲物を持ってきてもらうことにしたようだ。

これはありがたい。実際に見ると違いが分かりそうだ。


「おいおい。相変わらずおめぇは興味以外には動かねぇな」

「こいつは性分なんで諦めて下せえや」


サイモンさんはちょっとな面倒くさがりの人らしい。この人が師範で大丈夫だろうか。


「【操糸術】はよ、糸を振り回す力で獲物を引っ張ったり切りつけたりするのよ。

今ユーキ殿がやったように短剣を投げつけることもできるんだが、糸を振り回して短剣に絡ませて、また糸を振り回して短剣を投げるって感じよ。

俺ぁ【投擲術】もちっと出来るが普通に投げた方が早えんだよな」

「ほう、そのような武術だったのですか、相変わらず器用な御仁ですな」


ギャトールさんが両手を組んで深くうなずいてる。二人の師範は対照的な性格だった。


「いろいろ糸でやりゃー楽出来そうに見えっから頑張って習得してみたんだが、ちっと違ったんだよな。

糸で掴もうとしたら柔らかい物だと切れちまうし、相手の獲物を掴もうと思ったらそりゃまぁ糸を繰るのが面倒くせえしよ。

そこんとこ行くとユーキ殿の【飛剣術】はもうちっと直接操作できる感じで良さそうだよな」

「そ、そうですか」


ちょっとじゃなくて結構な面倒くさがりの人だった。

それが理由で【操糸術】を習得するなんて徹底しすぎじゃないだろうか。


「持ってきました!」

「おうご苦労!」


ホルドーさんが糸の束のようなものを持ってきてサイモンさんに渡した。


「よっと、こいつが【操糸術】の獲物でよ十指鞭(じゅっしべん)っつうんだが、ちっと同じ事してみっか」

「お願いします」


サイモンさんはその武器を両手に装備した。

糸の束の先には小手が付いていてそれぞれの指の先から糸が伸びていた。


「単純な動きとしてはこうだな。ほい」


的からバチっという音が聞こえた。

サイモンさんが右手から伸びる糸の一本がヒュっと音を立てて的に切りつけたようだ。


「そんでまあ【飛剣術】の真似事をするとすりゃーこうだな」


地面に並べられた短剣の一本が弧を描いて飛んでいって的に当たった。

短剣はそのまま地面に落ちた。


「あーちっと腕が落ちたか。うまく刺さらなかったわ」

「おめぇは本当に器用な奴だな。【操糸術】は糸で切りつけるための術だから、普通はそんな風に使うもんじゃねえんだよ」

「まぁ旦那の言うとおりだけど、遠くの物を掴むのに便利そうだったんでよ。魔法の才能がありゃー【念動魔法】を習ったんだがなぁ」


【短剣術】の師範もまた凄い人だった。ちょっと使ってみたというレベルじゃないようだ。

気軽に眺めていたが、もう少し真剣にその様子を見よう。


「せっかくなんでもうちょっとやってみるわ」

「お願いします」


そのままサイモンさんは地面に並んでいる短剣をぽいぽいと糸で掴んでは的に当てていった。

糸をしならせて掴んで投げるというだけなのにいろんな軌道で投げていてしかも的に全部当てていた。

みんなの表情を見るにかなり凄いことだということは分かる。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【操糸術】を習得しました』


おお!覚えた!ちょっと触らせてもらいたいけど、今はみんなのための時間だ。やめておこう。

糸を操るサイモンさんの両手は忙しく動いていた。あのあたりが面倒くさいという所以なんだろう。

そうこうしているうちに50本全部が的に飛んで行った。


「ありがとうございました」

「まぁこんな所だな。たしかにユーキ殿が言うように糸が魔力の線と言われりゃなんかそんな気がしてきたわ」

「確かに少しイメージできるような気がしますな」


サイモンさんは糸をくるくると丸めるとホルドーさんに放り投げた。

僕は【飛剣術】短剣を元の場所に戻して並べ直した。


「おお!それだよ!絶対にそっちのほうが便利そうだ!やる気出てきたぜ!」

「ったくおめえは子供みてえだな」


その後何度か的に当てては戻してを繰り返して【飛剣術】のデモンストレーションをしてみた。

サイモンさんのおかげでこの場のみんなが魔力の糸が繋がっているというのはイメージ出来たという。


「それでは、少しイメージ出来たというので、皆さんの前の短剣を浮かべる訓練をしてみましょう。

それじゃ、立ち上がって隣の人と間を開けて広がってください。」


ざっと立ち上がり隊列を揃えたみんなの前に一つづつ短剣を並べた。

あのものぐさなサイモンさんですら綺麗に並んでいて練度の高さに改めて感心した。


「こんな感じにふわっと浮かべてみて下さい。持ち上げるというよりは魔力を貸してあげた短剣が自分で勝手に持ち上がる感じですね」


今度はただ単にふわりと浮かべて、ピタリと止めてみた。

みんなは短剣に向き合って真剣な顔をしている。

サイモンさんとルニートさんの前の短剣はプルプルと動いているように見えた。


「お、動いている人もいますね!今、皆さんには【飛剣術】の力が流れ込んでいるはずです。受け入れてみてください」


みんな顔が怖い。改めて見たらものすごい強面の集団が獲物を睨んでいる構図だ。

僕も知り合いじゃなかったら恐ろしくてここには立っていられないだろう。


「ブブーッ!!」


ん、なんか聞いてはいけない音がしたな。


「ダハハ!すまんちっと余計な力が入っちまった。こりゃー力加減が難しいな」


ダーズ師匠だった。力を込めるというよりは魔力を込めるという感じなのだけれど、力が入ってしまったようだ。

そういればここに居る人達は達人ではあるけれど魔法は苦手そうな面子ばかりだった。

【魔力視】で見てもみんなの魔力がフラフラしてなかなか落ち着かない。


「ええと、筋肉に力を込めるのではなくて、自分の中を流れる魔力を細く束ねて放出する感じですね。

魔力は皆さんが演舞の最初に心を落ち着かせるようにしている時に綺麗にまとまっているかもしれません」


そう言うとみんなが一斉に居住まいを正した。すると体に纏う魔力が少し整流されたように見える。

サイモンさんからは少し魔力の線が出ているように見える。


「ふーこれはダメだな。ハハハ。改めてユーキ殿の凄さを実感する思いです」


ギャトールさんは肩をすくめてそんな風に言った。

この日は結局誰も【飛剣術】を習得することは出来なかった。


あの後も聞いてはいけない音を何度か聞いてしまったので【風魔法】が少しだけ活躍した。

ルニートさんが顔を赤らめていたのは見なかったことにしよう。


次話「31 怠惰を愛する男」

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