24 隠蔽スキルの使い手と回復魔法
前回あらすじ
隠蔽スキルの講師が突然ワープして現れた。
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【スキル隠蔽】のレベルが3に上がりました』
スキルは結構あっさり習得することが出来た。
【魔力操作】や【魔力視】無いと習得が難しいと言われたのは何だったのか?
黒いモヤモヤは普通見えないらしいので【見取り稽古】スキルが仕事をしたかもしれない。
そのまま【能力値隠蔽】【スキル隠蔽】の両方がレベルが3になった。
これでレベル6までスキル情報が【ステータス】と【解析】で見られなくなった。
まずはこれで十分だろう。
ちなみに2つのスキルはこんな感じでした。
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【能力値隠蔽】 魔法/ランク3
自身の能力値を選択して隠蔽する。レベル上昇で解析系スキルへの抵抗力が上昇する
レベル1あたり2レベル分の【解析】系スキルを無効にする
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能力値隠蔽は隠したい能力値を指定して隠蔽できるようだ。
人に実力以上に見せたり、人から実力を隠したりするのに使うらしい。
魔物でも解析系のスキルを使う種類もいるらしいのでその時にも有効なんだとか。
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【スキル隠蔽】 魔法/ランク3
自身の習得済みスキルを選択して隠蔽する。レベル上昇で解析系スキルへの抵抗力が上昇する
レベル1あたり2レベル分の【解析】系スキルを無効にする
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スキル隠蔽は中々使い勝手の良いスキルで、隠蔽したいスキルを指定して使うようだ。
道場の門弟の方々によれば僕のスキルは多すぎるらしいが、ゲームプレイヤーは異世界カテゴリーのスキルを多く持つので一般的に多くなるらしい。
僕は【冒険者カード】のレベルが4なのでそこそこのスキルを持っていないのは逆に変だ。
とりあえず悪目立ちするレベル10の2つと固有スキルを隠蔽しておこう。
「ゆ、ユーキ殿、こんな事を講師が聞くのは恥ずかしい話ですが、どうやって習得されたか聞いても良いでしょうか……」
「あー。えっと、そのスキルを隠蔽したいのでこの講座を受けたんですけどね。ハハハ」
【見取り稽古】は衆目の前で習得してしまったので、そのまま道場の方々には教えたが、周りの反応を見る限りあまり広めて良いものか判断が付かない。
門弟の方々を中心に広めれば、剣術道場発のスキルと良い感じに誤解してくれるかも知れない。
「むむむ。私は隠蔽系のスキルを得意としていまして……代わりに講習会では公開していないスキルを教えるのでそこを何とか教えて頂けないでしょうか?」
「もしかして通り名の隠蔽スキルとかあったりしますか?!」
「も、もちろんあります。私もいつも使って……いや、まぁ得意ですから、教えても……いいんだっけ……いいでしょう!」
「よし!お教えします!」
なんと、それを教えて頂けるとは!言ってみるものだ!
ゲオリックさんが何かゴニョゴニョ言っていたが決断したようだ。いいんだろうか。
僕もいいんだろうか?
いや別に困ることは無いはず!通り名の隠蔽スキル欲しい!
便所の魔人が脱出できるかどうかの重要ミッションだ。
「通り名を隠蔽するスキルは【名前隠蔽】スキルです。名前、種族名、年齢などに加えて通り名も隠蔽することが出来ます」
「名前の隠蔽は怪しさ満点で使えそうにありませんが、通り名が隠せるならそれでだけで満足です」
なんかいろいろ混ざっているらしい。年齢は別スキルかと思っていたら一緒だった。名前じゃ無いよね?
「それで、どうやって習得されたのか教えて欲しいのですが?」
「はい【見取り稽古】という新しいスキルで、」
「な、なんと言われましたか?!新しい?!」
ゲオリックさんが説明に被せてきた。ちょっと落ち着いて欲しい。
「え、ええ一昨日にあの例のガシャーンてやつで生まれたスキルです。あれ、あんまり無いんでしたっけ。ガシャーンてやつ」
「ガシャ……なんと新しいスキルを生み出されたと。素晴らしい。そ、それはどのようなものなのでしょうか?」
クルサード様も【鍬術】作ったというからまぁまぁ珍しいけど無いことじゃないはずだ。
そういえば【生活魔法】だって講師のエディーさんが新しい魔法だって言っていた。
「はい。相手がスキルを使う姿を五感で感じ取ることで訓練の代わりとして、自分の経験値を獲得するスキルですね。簡単に言うと見て学ぶスキルです」
「そ、それは私にも覚えることは可能でしょうか?」
「出来るんじゃ無いですかね?剣術道場の人にも習得して貰えましたし、ゲオリックさんは上級講座を持ってるぐらいだから結構なお力をお持ちだと思うので大丈夫でしょう」
「な、そ、そうですか。しかし対価が……偽装系は……むむ……そうだ!回復魔法でどうでしょうか?!」
突然ゲオリックさんがなんか言い出した。
どうでしょうと言われても困る。
「はい?どうでしょうか、というのはどういうことでしょうか?」
「あ、ええと先走りました。幸い時間はまだ2時間しか経っていませんで、【見取り稽古】というスキルを教えて頂くわけにはいかないでしょうか?対価として私の持つ【回復魔法】スキルをお教えします。冒険者にとって人気があると聞いたことがあります。も、もちろん午前中の講演会の時間一杯までで覚えられなければそこまでで良いですから!」
これは凄く良い条件な気がする。回復魔法はカナミさんが持っていたけど、正直どうやったら取れるのか見当も付かなかった。
これは願っても無いが、まずは通り名の隠蔽から確実に行きたい。
「ええ、良いですけど、まずは【名前隠蔽】を教えて貰えると助かります」
「ユーキ様の懸念は当然です!どんどん行きましょうか!」
ゲオリックさんはそう言うと、【名前隠蔽】スキルを実演してくれた。まずは種族を隠したようだ。
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ゲオリック(???・男)
能力値
体力 ??? /???
魔力 ??? /???
筋力 ???
器用 ???
敏捷 ???
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【能力値隠蔽】や【スキル隠蔽】と同じく黒いもやもやが出てきてゲオリックさんを包んだ。
ほんのちょっともやもやの色が違う気がするけど、ぱっと見ではその違いは分からない。
【名前隠蔽】を【見取り稽古】で習得しながら、後で習得するときのために【見取り稽古】のやり方をゲオリックさんに伝えていく。
ゲオリックさんに何度も何度も【名前隠蔽】をかけて貰ってそれを全身で体験して覚えていく。
あっという間にレベル3になった。この人のレベルは幾つなんだろう。聞くのが恐ろしい。
「レベル3になりました!ありがとうございます」
「もうですか!もう少しやっても良いですけれど」
「そうですね、これだけは4まで上げさせてください」
すぐにレベル4になった。【見取り稽古】は観察対象のスキルレベル依存で経験値が増えて、スキルのレベルで上限が抑制されるスキルだ。
僕はレベル10なので抑制されていないも同然だがそうなるとこの人の【名前隠蔽】のレベルが凄い事になる。レベル6以上は確実な経験値の入り方だった。
「ゲオリックさんって凄いですね。このスキルは相手のスキル依存で獲得する経験値が増えるんですが、もうレベル4になりました」
「そ、そうですか、それは凄いですね」
これでいろいろ安心だ。お礼を言ってゲオリックさんに【パーティ】効果の腕輪を返却した。
そういえば【パーティ】って何処で習得できるんだろうか。カナミさんだけが持ってたんだよな。
「次は【回復魔法】からお渡ししましょうか、ユーキさんの場合はレベル1にしかならないスキル魔石よりも【見取り稽古】の方が良さそうですね」
スキル魔石は必ずレベル1で習得するものなのか。
その後、ゲオリックさんが【回復魔法】の魔言をレベル1から10まで順番に使うというデモ方式で見せて貰った。
あの【生活魔法】講師のエディーさんのようなノリノリでは無かったが同じようなやり方だ。
レベル1は【解毒】と【克毒】の凝固毒、麻痺毒、石化毒など毒の回復と耐性の付与
レベル2は【鎮静】と【平安】の混乱、魅了などへの回復と耐性の付与
レベル3は【快方】と【剛健】の癌のような体内環境原因の状態異常の回復と耐性の付与
レベル4は【治癒】と【再健】の体力回復と欠損部位の回復
レベル5は【蘇生】と【再起】で死亡直後の人体蘇生
レベル6以降はそれを範囲内の複数の対象にかけるエリア版だった。
なんでも風邪のようなウィルス性のものはウィルス毒という扱いで解毒で解けるらしい。
コータさんは【快方】じゃなくて【解毒】を使ってもらった方がよかったんじゃ無いだろうか。
レベル5の【蘇生】は死者復活来た!!と思ったが死後直後のみ復活できる電気ショックのようなものだった。
レベル4の【再建】で復活してから、レベル5の【蘇生】でばっちりだと思ったら死んだ人には【再建】の回復効果が及ばないそうだ。
尚、【回復魔法】が得意そうなアンデット対策系の魔法は【光魔法】が得意としているらしい。
ゲオリックさんは、魔言の説明をしながら、ちょっと味がイマイチだなぐらいの態度で恐ろしい色をした薬品を飲んでは自身を回復して行った。
【蘇生】は流石に実演しなかったが、それを事前に付与する【再起】をかけてから死亡毒を飲んだのには声も出なかった。
この人は本当に凄い人なんじゃ無いだろうか?下手すると剣術道場の頭首であるルーファスさんより剛の者かもしれない。
というか、どこからもってきたんですかその死亡毒。
鬼気迫るゲオリックさんにこちらの方が追い詰められて必死に向き合っていたら1時間ぐらいの実演の間に【回復魔法】はレベル5まで上がった。
これまでで最高の効率で経験値を稼いだのでは無いだろうか?ゲオリックさんが本気すぎて怖い。
「ど、どうでしょうか?【回復魔法】の魔言はこれで全てですが、習得出来ましたか」
「はい!レベル5まで覚えましたのでばっちりです。というかここまでして貰って申し訳ない」
僕はもうコクコクうなずくしかなかった。さあ、それでは僕から伝授する番だ!!!
一人で盛り上がっているとゲオリックさんが懐から箱を取り出した。
それはアンネ様が依頼で渡してきた箱にとても良く似ていた。ただしアンネ様の箱は赤基調だったけどこの箱は黒基調だった。
ゲオリックさんがパカッと開けるとそこには空のスキル魔石が収まっていた。
「私はユーキ様のように習得できる自信がありませんのでこれにスキルを詰めてくれませんか?」
「え!空のスキル魔石はかなり貴重なものと伺いましたが、よろしいのでしょうか?」
「え、ええ、えーと、私もそこそこの収入がありますので大丈夫ですよ」
「分かりました」
それはそうだ。レベル10の【回復魔法】を涼しい顔で使う人物だ。
さっき飲んでいた毒だって聞くのも恐ろしい値段に違いない。
というか、おどおどした態度に騙されていたけど、この人物と一対一で部屋に居るのは結構恐ろしいかもしれない。
なにせ本当に殺しても死なないのだから。
うん。真剣にやろう。先日の依頼で魔石にスキルを詰めた時のことを思い出す。
この場に【見取り稽古】のスキルを持つのは僕だけだから僕の中のスキルを活性化して流し込むイメージかな?
「それでは行きます」
両掌で包むように魔石を持って、自分の中で魔力を練って、先ほどゲオリックさんから【回復魔法】を習得したときの【見取り稽古】の動きを思い出す。
五感全てを使い、目で、耳で、鼻で、体で、魔力から伝わる全てを受け止めるイメージだ。
その待機状態のイメージを両手を伝わるように魔力を纏わせていく。
魔力に染みこんだ【見取り稽古】のスキルの力を腕を循環させてグルグル回していくそんなイメージだ。
じわりと魔石が明るくなった。まだまだもっと光ってたよな、あの時は。
さらにスキルの力を魔力に載せて循環していくイメージを強めていく。なにか体が温かくなってきたかも知れない。
おお、明るさも良い感じになってきた。魔石から出る光が強くなっている。
あれ?前よりちょっと光が強いか?気合いを入れすぎたかもしれない。
包んだ手を開く。
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【魔力操作】を習得しました』
あ!!まずい【魔力操作】のスキル魔石になってしまっていたらどうしよう!慌てて【ステータス】で確認する。
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【見取り稽古】の魔石
【看取り稽古】のスキルの力を溢れるほどに秘めた魔石。
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よかった~。と安心しながら魔石を渡そうとしたら、ゲオリックさんがちょっと怖い顔でこちらを見ていた。
ヤバいなんかまずいことをしたんだろうか?貴重な空のスキル魔石を無駄遣いしていたら申し訳ない。
「なんかまずかったですかね?これ、【見取り稽古】を入れてみたんですけど」
「ゆ、ユーキ様はいつもこんな風に魔石を?」
「ええ、とは言ってもまだ3個目ですけどね」
「そうですか、それではありがたく頂戴します」
いや、当然の報酬なんだから当然の顔をして受け取って欲しい。死ぬような真似までしてスキルを伝授してくれたのだから。
ゲオリックさんは魔石を口に含んだ。
「なんと!!スキルを習得出来ました!!ありがとうございます!ユーキ様のスキルをうぉおー!」
なぜかゲオリックさんがやけにテンションが高い。
もう一度お礼を言おうと思ったら、例の暗く真っ黒な渦がゲオリックさんを包み消えてしまった。
なんだかとても謎なキャラ設定の人物だった。
今後のストーリー展開でも出てくるのだろうか。
ゲーム的には面白いと思うけど自分だったら目の前で消えられると辛いな。
そんなことを考えながらゲオリックさんに感謝し、一礼して教室から出て行った。
時間はまだ11時半だった。
ちょっと早めに終わったから昼ご飯の前に短剣の鞘を受け取りに行けるかな?
次話「25 新たな装備とカムカム亭」