23 隠蔽スキル講習会と黒い教官
前回のあらすじ
賄いチームの悪巧みの結果、ルニートさんをデートに誘うことになった。
週末は道場は個人鍛錬の日らしい。普通に言うと休日だ。
週末もずっと鍛錬してる人はいるらしく、賄いも用意されているらしい。
ちなみに賄いチームには週末の当番は不評だった。
僕は前々から申込みしてあった上級者向け講習会を受けるために早い時間に冒険者ギルドに行く予定だ。
賄いを食べていると遅刻しそうだったので、朝ご飯は仲良くなった賄いの女性に食器を借りていつかの宴会の席で収納しておいた米料理を出して食べた。
お皿も【生活魔法】の【洗浄】でさっと綺麗になるので片付けが楽で良い。
冒険者ギルドに着いたが受講の教室が分からなかったので講習会の受付カウンターに並んだ。
土曜日の早朝だというのにギルドは賑わっていた。
よく考えてみれば正式サービスが始まってからクエストを1回も受けていない。
思い返してみるに初日以外は剣術道場にご厄介になりっぱなしだった。
まあいいか。
ゲームなんだしそんなこともあるだろう。
隣の精算カウンターを見ると屈強な冒険者が懐から巨大な角を取り出した。
へ~あんな魔物も居るのか。そういえば魔物とも全く戦ってないな。
まぁいいか。
報酬で懐は温かいし。
そうだ!報酬で魔力消費が減らせる指輪を買えないか見に行きたい。
注文してあった短剣の鞘も土曜日以降受け取り可能だと言っていた。
今日の講習会が明けた後にでも取りに行こう。
そんな風に週末の予定を考えて居るうちに僕の番が来た。
「今日の講習会の開催場所が分からないので教えて欲しいのですが?」
「講習会の会場ですね?会場は金曜日の昼に発表になります。
2階の掲示に部屋名も表示されるようになります。
尚、今朝の8時からの講習会はルームAが【体力強化】、ルームBが【罠解体】と【罠設置】、ルームCが【魔力強化】、ルームDが【能力値隠蔽】と【スキル隠蔽】になります。
ルームDは途中休憩もありますが、お昼まで続けての講習会となりますのでご注意下さい。
尚、料金は事前徴収済みですが、冒険者カードが入室のための鍵になりますのでカードを翳してお入り下さい」
「ありがとうございます」
いつも優秀な受付嬢さんは流暢に説明してくれた。
早速2階に上がってルームDに向かった。
廊下の掲示を見ると会場が書かれていた。
午後に受ける予定の【鑑定】を確認すると続けてルームDだった。
今日はルームDで一日過ごす感じか。
午後からの講義では演習場なんて書かれているものもある。
確かに体を動かす必要があるスキルなら講習会場より演習場の方が良さそうだ。
少し時間に余裕があるが、早々とルームDに入ることにする。
ピッとカードを翳して入るとルームDは少し狭い部屋だった。
普通に講堂のような作りでルームAに似ている。
部屋の中には誰も居なかったので最前列に座ってみた。
この部屋は何故かちょっと薄暗いような気がするな。
そうだ!あれを試してみよう!
いつの間にか覚えてた【ブライトネス】!
最初に説明書を読んでから使おう。
回復時間もあるので魔力を奮発してレベル5の【ステータス】で調べた。
■■■
【ブライトネス】 異世界/ランク3
視野の輝度を上げる。レベル上昇で効果範囲と効果時間が拡大される
効果範囲はレベル1あたり5メートルづつ、効果時間はレベル1あたり30分づつ拡大される
効果中の明るさは使用時のイメージで決定され、明るさ変更時は再度魔力が必要となる
■■■
ほー。
説明を読むとレベル4で使えば講習会の2時間は持つってことらしい。
ちょっと魔力消費30は痛いけど使ってみるか。
あ、小鬼の杖使ってみたらどうなるかな?
『森崎さーん』
『承りました』
早速ゴブリンの杖を持って【ブライトネス】を使ってみた。
『【ブライトネス】レベル4!』
久しぶりに【ステータス】の能力値表示を出したまま魔力消費を確認した。
消費魔力は30予想が29になった。
杖はやっぱり加工しないと駄目かもしれない。
この杖には【魔力操作】の力を僅かに備えると書いてある。
【魔力操作】が消費魔力を減らすスキルなのか。
昨日ダーズさんに借りた指輪の【ステータス】を見せてもらっておけば良かったな。
講師を待つ間【瞑想】の練習をしながら座って待っていた。
【魔力吸収】を覚えてホクホクかと思ったが、魔力を過剰消費していると全然足りなかった。
―――――――
ぼーっと【瞑想】を練習しながら教壇付近を見ていると、一際暗く真っ暗なものが渦巻き始めた。
また変な強制イベントが開始するのか?
真っ暗な中から人が出てきた。
なんだなんだ?ワープらしきものは何の演出だろう。
この人耳の上に後ろ向きの角が生えているから竜人だ。
なかなかモテそうなルックスの人物だ。
「うわ。眩しいな。ちょっと暗くしておくようにお願いしておいたのに……」
その人物はこんな事を言い出した。
部屋が暗かったのはこの人のリクエストだったらしい。
顔はモテそうだけどこの人が着ている服は黒いけどジャージだ。
3本線が入っている。ジャージはプレイヤー以外では女神様も愛用していたな。
ちなみに僕はジャージ修復中のため剣術道場の胴着を着ている。
改めて女将さんに確認したらくれるというのでありがたく頂いた。
【ステータス】で確認した名前は上級剣術着と上級剣術袴だった。
足下は運動靴なのが残念な感じだ。
「こ、こんにちは!本日講師を務めますゲオリックと申します!よ、よろしくお願いします」
「あ、よろしくお願いします」
やっぱりこの人が講師のようだ。
やけにビクビクしているけど大丈夫なんだろうか?
そういえば僕以外にこの部屋に入ってきている受講者が居ない。
「あれ?今日の受講者は僕だけなんですか?」
「あ、あれ、聞いてないですか?今日はマンツーマンでの講習会になりますけど……大丈夫ですよね?」
「ええ、僕は大丈夫ですが、こんなに少なくて会費は大丈夫ですかね?」
「あはは、ま、まぁ、隠蔽系のスキルは人気無いですからね~」
今日は【能力値隠蔽】と【スキル隠蔽】の講座だ。
必要になるか分からないけれど固有スキルは見られないようにしておきたい。
「今日勉強する隠蔽系のスキルは【ステータス】や【解析】などに対しての防御手段です」
【解析】は一問一答する形で能力値を調べるスキルだ。
消費魔力が少ない代わりに表示機能が無い。
スキルの場合はレベルが4だなとか、能力値の場合は筋力が55だなとか何となく分かるらしい。
それぞれの項目に対応する隠蔽スキルが用意されている。
但し、犯罪履歴部分を隠蔽するスキルは犯罪防止の観点から非公開だった。
「じ、次元神……様は持ってるらしいですよ」
さすが神様は格が違った。何でも隠蔽出来るのか。凄いな。
隠蔽系スキルはレベル1つあたり【ステータス】と【解析】に対する2レベル分の防壁を貼るらしい。
【ステータス】がレベル5で【能力値隠蔽】がレベル2の場合レベル1の効果が発揮される。
魔力でレベルを上乗せすれば見えるようになるけれどそこからは魔力との戦いなんだそうだ。
「隠蔽よりも強力な偽装系のスキルもあります。これもぼ、次元神……様は持ってるらしいです」
偽装系は【ステータス】と【解析】に対する偽情報の防壁を貼るものだ。
相手がそのレベルを上回らないと設定しておいた偽情報を読み取る羽目になるらしい。
実際に読んだ結果が成功か失敗まで気にする人はほとんど居ないので強力なんだそうだ。
ものすごく習得が難しい上に、犯罪履歴が付くのを避けるためにステータスを盗み見する人がいないせいもあって。習得者はほとんど居ないそうだ。
「は、犯罪履歴は、【パーティ】のように仲間や、見ても良いと思っている人相手にステータスを見ても付かないけど、見せたくないなという人相手に使うと付いてしまいます。
グレードが設定されていて軽犯罪、中犯罪、重犯罪、市外追放、国外追放、異界追放の順に上がります。
これが付くと町に入ったり、町の中の施設が使えなくなります。
具体的には【冒険者カード】や【市民カード】が使えません」
最初はやけにつっかえながら喋っていたけど、僕に慣れてきたのか少しづつ普通に話すようになってきた。
「一度犯罪履歴が付いてしまうと回復させる手段は無いんですか?」
「一定期間過ぎると段々犯罪グレードが下がってきます。そ、その途中で再犯があるとさらに高ランク犯罪者に後戻りです。また、その途中で善行を重ねると回復が早くなります」
なるほど、回復手段もあるにはあるってことか。
ログアウト中はどうなるんだろうか?そこはNPCに聞いてもしょうが無いことかもな。
「じゃあ、隠蔽スキルを覚えなくても結構へっちゃらなんですね」
「誤解されているけれどそうじゃないです。酔って居るときにうまいこと言い聞かせてステータスを読み取る犯罪者もいます。アイテムを使って読み取る方法もあるし、みんな自分は平気って思ってるから意外と覗かれてる可能性はあります」
「え~。それは嫌ですね」
「第三者を連れてきて無理矢理【ステータス】や【解析】を使わせるような犯罪も定期的に起こっているのでガードしていないステータスはいつか見られると思って下さい」
「それじゃやっぱり覚えておいた方がいいですね」
この人営業として意外と優秀かもしれない。
来る途中まではとりあえず保険として覚えとこっかなぐらいの認識だったが、今の僕は絶対覚えるという決意に満ちている。
「それでは実際の指導に入ります。受講者が犯罪者になると僕が困るのでこの腕輪を付けて下さい」
腕輪を渡してきたので右手にはめてみた。
この腕輪には【パーティ】スキルの効果がついているらしい。
そうか、パーティだとステータス読んでも平気だった。
「気がついたと思いますがこれがアイテムを使って読み取る方法です。
まず、僕が能力値に【能力値隠蔽】を使いますので覗いてみてください。
うーん。どうやってやり方を教えようかなぁ。
【魔力操作】とか【魔力視】とかあればもうちょっと分かりやすいんですけれど。
とりあえず一回使ってみます。【能力値隠蔽】」
あ、なんか黒いモヤモヤがゲオリックさんに覆い被さって収束し、やがて見えなくなった。
どれどれ、【ステータス】能力値!
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ゲオリック(竜人・男)
能力値
体力 ??? /???
魔力 ??? /???
筋力 ???
器用 ???
敏捷 ???
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「おおー本当に見えない!全部3桁で?が並んでいます。桁数は実際の桁数ですか?」
「これは誰がやっても3桁の?になるんですよ。
自分の能力値が一桁しかなくても同様です。
どのレベルで設定するかの切り替えが出来ますが、切り替え時には魔力の使用が必要です。
王城なんかに登城する場合には害意無しを示すために解除するのが一般的です」
うーん。
講師のゲオリックさんが言うように【魔力操作】や【魔力視】があると良かったんですがね。
生憎と持ってないものは仕方ない。ちょっと長丁場になりそうだ。
集中して行こう!
次話「24 隠蔽スキルの使い手と回復魔法」