表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/226

22 賄いチームの不審

前回のあらすじ

 剣術師範のダーズさんの凄さに気付いた。

時間は少し戻って金曜日の朝

僕は朝食前に起き出して門衛をしている人に外出を告げて冒険者ギルドに向かった。

昨日の【見取り稽古】で習得出来た【瞬発】の講座をキャンセルするのだ。

出来なかったらどうしようと心配していたが、手続きは簡単だった。申し込みした黒いパネルにもう一度【冒険者カード】を押し当てるだけだった。

確認したらちゃんと受講料が返却されていた。ただし、前日の受講開始時刻になるともうキャンセル出来ないらしい。


急いで行ってきたので、朝食開始前までに戻ることが出来た。

いつものように師範代チームに混ざって朝食を頂こうと思ったら、待てがかかった。


「ユーキさんは我々といただきましょうね」

「ちょっとレイチェルとお嬢様の【調理】スキルの上達について聞くことがあります!」


朝食の賄いを作っている女性チームだった。

え?どうして?それは別の時でもいいのでは?と思っているうちにぐいぐい腕を引っ張られて厨房の脇のテーブルまで連れて来られてしまった。

賄いチームは師範代達の次にこの席でご飯を食べるらしい。この席は配膳の合間合間に座って休憩する席としても使うんだとか。

その後は、他のチームが全員食べ終わるまでここで作業をするらしい。

住み込みとなった女性の中から当番を決めてこの賄いチームを回しているようだ。

道場では身につかない生活系のスキルが身につくことと、話すきっかけが無い異性と仲良くなるチャンスとで人気の役割なんだとか。


僕がこの席に座っていると代わる代わる誰かが来ては、冒険者ギルドの講習会の話を聞くんだけど、なんか様子がおかしい。

話を何となく聞いてはいるけど、師範代達がご飯を食べてる席をチラチラ見ているのだ。

最初は配膳のために食事の進み具合を見ているのかと思っていたけど、全て配膳が終わっても食卓の方を見ている。

こっちが話している話も聞いているような聞いていないような。どちらかというと聞いていないような感じだ。

なぜか時々こっちの方をたたいたり、手を持ったり肩を叩いたりとボディタッチしてくる。

このゲームの女性はそういうの嫌がらない設定なのかな?ゲームの倫理機構的にはこんなリアルなゲームなのに大丈夫なんだろうか?


やがて師範代達がご飯を食べ終わり食事の時間となった。

賄い席の話題は今日は賄いチームに参加していないルニートさんの話が多かった。

ルニートさんの【剣術】の腕前の話とか、立ち居姿がかっこいいとか、こんな所が可愛いとか、もうちょっと言葉遣いを可愛くすればいいのに、とかそんな話だ。

後は、僕のことをいろいろ聞いてきた。【飛剣術】と【看取り稽古】以外に得意なスキルは何かとか、所持金がいくらぐらいなのかとか、そんなことをグイグイ聞かれた。


この世界も女性は強いようだ。

所持金が幾らか聞かれた時に、素直に異界神様の報酬で5千万ヤーンもらった話をしたらなんか一瞬猛攻が止んだけど。

この反応は現実世界でイベントの打ち上げなどで話しかけてきたコンパニオンの女性に年収いくらぐらいですか?と聞かれて答えたときの反応と一緒だな。

会話が中断するし良いのか悪いのか分からなくなるのでちょっと困る。

こういうのはゲーム世界でも共通なんだろうか?


ちなみに得意なスキルは?に関しては【AFK】とは言いたく無いのでレベル4のスキルの中から【剣術】と答えておいた。

レベルが4ですね。と言ったときにみんなが苦笑いしていたのはその程度で師範達とご飯を食べてるの?ということなんだろうか?よく分からなかった。


―――――――


賄いチームの不審行動は昼ご飯の時も続いた。

午前中の全体練習について、ダーズさんに聞きたいことがあったのだが、朝食同様に連行された。

なんかルニートさんが厳しい目でこちらを見ていた。女性に手を引かれて少しにやけていたのだろうか?


たしかに剣術道場という武術所ではあるけれど、この世界はスキルレベルが高いと若く綺麗でいられるというのもあって、賄いの女性チームは美人揃いだ。

そのメンバーに囲まれてぐいぐい接近されると……正直に言えばうれしいです。

は!いけない。また緩んでいたかも。ルニートさんを見ると厳しい目が続いていた。


賄いチーム用のテーブルに連れてこられたが、手持ち無沙汰だったので厨房の様子を見ていた。

今日の昼ご飯は汁物のようだが、丁寧にアク取りをしていた。これから作る鍋のようだ。

なるほどあれだけの人数のご飯を作るのだから、何杯もの鍋を用意する必要があるのか。


ご飯作りに挑む彼女たちの表情は真剣そのものだった。

一つ一つの作業も丁寧だったがそこよりも段取りがすばらしかった。

限られた作業机を広く使えるように材料の下ごしらえが手際よく実施されていた。

次から次に鍋を作り直す必要があるけれど、無理なく次の料理の準備が整っていった。

それを指導している人物をみんなが女将さんと呼んでいるので、どうやらルニートさんのお母さんであるらしい。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【調理】のレベルが4に上がった』


うぉっと!棚ぼたでレベルが上がってしまった。確かに凄いものを見たけれど。

ふと気がつくと、例のあざとい女性門下生の方が隣に座っていて。びくっとしてしまった。

自分が考えるより集中して見ていたようだ。


「ちょっと!そこでびくっとするのは酷いですよ~!こんなかわいい子が隣で座ってるのに。ぷんぷん」

「えーと、すみません?」


なんというか一周回って凄いと思う。彼女はミーアさんと言うらしい。

あまりお近づきになりたく無かったが、ミーアさんは非常に積極的に話しかけてきた。

最初に見た時に水商売の女性を連想したように、綺麗系のお姉さんで猫人(ワーキャット)だ。

この世界は見た目で年齢が読めないが、見た目は25歳前後に見える。

最も僕は女性の年齢当てを迫られて正解したことは一度も無いが。

どう答えてもなんか機嫌が悪くなった印象しか無いから本当にやめて欲しいけど、あれは何だろうな。


彼女は水商売の女性と比べれば健康的で元気な女性だった。

それはそうと、なんかベタベタ触ってくるのはなんだろう。このゲームは例の機構的に本当に大丈夫なんだろうか?


そうこうしているうちに食事の時間になった。食事中はとてもたわいのない会話が続いた。

僕は朝の全体練習についてとても感動した!という素直な感想やダーズさんが凄いという話をしたら、剣術組の女性が私もそう思います!と合わせてくれて楽しく話せた。

ちなみにミーアさんは短剣術を専攻しているらしく、会話に入れないためあざとく拗ねていて、ちょっと可愛かった。


昼ご飯が終わって、流石にこれはおかしいと強く思い始めた。

最初に調理スキルの講習会の話をしたいと言って引っ張られたけど、講習会のことを聞かれたのは朝食の賄い作業中の休憩の時だけだった。

今日は賄いチームでは無いレイチェルさんのことについては聞かれてもいない。


―――――――


晩ご飯時も予想していたことではあったが、同じようにミーアさんに連行された。

模擬戦で全身切り傷だらけになってしまって、体の傷は【再生】と【生活魔法】の【治療】ですっかり直っていたが、服はどうしようもない。

血糊や泥などの汚れだけは【生活魔法】の【洗浄】で綺麗にしておいたが、【修繕】は魔道具には効かないようで、ジャージはちょっとボロボロだ。

ミーアさんが腕を絡めて来るのでいろいろ当たって恥ずかしい。


「すいません、この服は魔道具なんで修復するとは思いますが、着替えの服を貸して貰えませんか?」


そんな風に切り出すと、もう用意してくれてあったようで道場で多くの人が来ている胴着を貸してくれた。


「じゃーん!これは剣術の上級者クラス用のものです!なんとお嬢様とお揃いですよ!」

「ありがとうございます」


丁度良く着る服を用意してくれたようだ。こんな気遣いもできる女性なのかと感心した。

ありがたく受け取ると早速着替えることにする。

【イクイップ】いやこんな所で失敗して下着を晒したら酷いことになるな。


『森崎さん、この服と今着ている服を入れ替えることは可能ですか?』

『可能ですよ』

『じゃ、着替えをお願いします。ジャージは修復するみたいなんで格納しておいてください』

『承りました』


バサっと衣擦れの音がしたかなと思ったら、一瞬で胴着に着替え終わっていた。

ベルトで長さを調整して留める部分が幾つかあったがそれもちゃんとぴったりに留められていた。

さすがに現実には森崎さんに着替えまで手伝って貰うわけには行かないが、ゲーム上のスキルで良かった。

あの精霊の姿で出てこられて着替えさせてもらうのはちょっと申し訳ないしね。


『私は構いませんよ』

『……ありがとうございました。またこんな感じでお願いします』


森崎さんが変なことを言い出すのでちょっと焦ったが、ちゃんとお礼を言っておいた。

着替えを済ませたのでミーアさんを見るとポカンとしていた。


「あれ?まだ着替えちゃいけませんでしたか?」

「ちょっと-!なんでもう着替えちゃってるんですか?作戦が台無しじゃないですか!」


あれ、この人作戦って言ったな。

なんか変だな~と思ってたんだよな。


「ちょっとミーア!あはは、着替えのサイズが合って良かったです」

「ああ、そうそう。お嬢様とお揃いで良いですね!」


後ろから賄いチームの別の女性が明らかに不自然なフォローを入れてきた。

なんだろうこのお揃いをやけに強調してるのも変だ。


「あの、計画ってどういうことですか?」

「「ははは」」


二人は顔を見合わせた後、愛想笑いをこちらに向けて来た。


「えと、えー詳しくはご飯の時に!」


そういうと二人は厨房に撤退して行った。どういうことなのだろう。

やがて賄いチームの食事の時間になった。

いつもは厨房を守っていて出てこない女将さんも一緒だった。


「ユーキ殿にはもうばれちゃったみたいだねぇ。ミーアは変な所で素直だからね」

「け、計画が悪いんです!エルミンが立てた計画が悪かったんですぅー!」

「ちょっとミーア!あなたが計画とか言わなきゃ大丈夫だったんだからね!」


女将さんがそう切り出すと、ミーアさんとエルミンさんが仲良くけんかを始めてしまった。

その間も二人ともモグモグとご飯を食べている。

賄いチームのご飯時間はちょっと短いから仕方が無いのだ。

僕もさっさと収束するようにさっさと切り出した。


「ええと、計画とはどういう話でしょうか?」

「もういいよね?!話しちゃうよ?題して"お嬢様を乙女にする計画"です!」

「あはは、あんた達は可愛いねえ。

いやね。うちのルニがさ、男共に混じって鍛錬してたせいか、ちっとも年頃の娘らしくしないじゃない?

この子達みたいにもうちょっとお洒落したり、女の子同士で甘いもの食べに行ったり、恋の話をしたりしたりさ。

それで、あたしに相談してきたり、一緒に服を買いに行ったりしたいじゃない?」

「はい。ルニートさんと女性の親子ならではの関係を楽しみたいということですね」


そこまでは分かりました。

ちょっと女将さんが乙女っぽいこと言ってるのが若干気になりますが。

この人何歳なんだ……いや、考えるのはやめよう。

今一瞬、身の危険を感じた。


「女将さんの悩みを聞いて我々で作戦を実施することにしたのです」

「頭首様が珍しくルニートさんの婚姻を認める発言をしたんですから、これを有効利用しない手は無いと」

「お嬢様は表現がわかりにくすぎて男らしいですが案外乙女な所がありますからそれをつついてみようと」


えーと良く分かりません。


「作戦1、お嬢様の乙女なポイントをアピール作戦!これは周りの目を変えるのが狙いですね」

「ユーキさんが女子力高すぎて失敗しちゃいましたけどね。全く。なんで【調理】レベル3なんですか!ぷんぷん」

「ハハハ」


昼にレベル4になりましたとは絶対に言えないな。

そんな作戦だって教えてくれたら低めに申告して協力したのに。

成功すると思えないけど。


「作戦2、お嬢様が見える場所でユーキさんと仲良くする作戦!お嬢様に焼き餅を焼かせるのが狙いですね」

「これは効いたんじゃ無いですか?腕組んでこっちにユーキさんを連れてくる時お嬢様はこっちの様子を気にしてましたしね。ユーキさんも隅におけないね!コノコノ」

「いや、アレは武人のくせにだらしないって僕を睨んでた雰囲気でしたけど。これって、僕の株が下がっただけじゃありませんか?」

「え?そんなこと無いヨー。アハハ」


これはどうだろうか?

一方的に僕がダメージ受けているような気がする。


「作戦3、お嬢様が見える場所でユーキさんの着替えを手伝う作戦!同じく焼き餅を焼かせるのが狙いです」

「私とユーキさんと仲良く着替えるシーンをお嬢様に見せつけようと思ったのにー!!」

「もうあんなに一瞬で着替えちゃうなんて何ですか?台無しですよ。」

「あーそういうスキルですね。アハハ」


良かった。

この胴着を着ること自体は何も問題無いようだった。


「この子達はそんなところも可愛いんだけど、もう回りくどいことするのはやめなさいって言ったのよ」

「ユーキさんのせいで、作戦20まで考えたのに台無しですよ」

「それでね、ユーキさんにお願いがあるんだけど」

「はい何でしょうか?出来ることだと良いんですけど」


僕にはミーアさんみたいな役どころは厳しすぎる。

お世話になっているし、簡単なものだったら受けてもいいけど。


「あなたとルニでデートしてきて頂戴!」


女将さんも頭首と同じぐらいの爆弾発言を突っ込んできた。

似たもの夫婦ってこういうことを言うんだっけ?


「いやいや!無理ですって。僕には彼女は似合いませんよ」

「あ”?うちのルニが可愛く無いって訳かい?ちょっと聞き捨てならないね!」

「えぇ?違います違います。彼女は可愛いと思いますよ」

「じゃあ何も問題無いわよね?」

「いやいやいや。ルニートさんが良しとするかどうか本人に聞かないと分からないですよね?」

「じゃ、デートに誘ってくれるって事だね。よろしく頼んだよ!!」


全然どうにもできない強制イベントだった。

またシナリオライターさんが遊んでいるようだった。


【GMコール】はまだか!!

次話「23 隠蔽スキル講習会と黒い教官」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクセス研究所
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ