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20 見取り稽古と邪眼の男

前回のあらすじ

 剣術道場の日常に触れた。

夕食の後は、それぞれが思い思いの練習をするらしい。

適当な相手を見つけて模擬戦をしたり、師範代を捕まえて指導を依頼したりとそれぞれの鍛錬だ。


僕は昼休みに約束したとおり【見取り稽古】のスキルを伝授するために特別講座に挑む。

受講するのは、道場主のルーファスさんにルニートさん。

剣術師範のダーズさん、短剣術師範のサイモンさんと槍術師範のギャトールさんとそれぞれの師範代が2名づつで6名が参加している。

僕を入れると合計で12名がこの場の参加者だ。

ちなみにバイヤードさんは槍術の師範代らしくここに同席している。

ルニートさんに迫るという実力者のお兄さんは遠征しているらしく暫くこの町には居ないとのことだった。


道場の奥にある師範用の特別な鍛錬場を使って講座を行うことになった。

上級者になると人には見られたくない奥義を練習することもあるため必要な空間なんだそうだ。


「よろしくお願いします。ユーキです」

「「「「よろしくお願いします」」」」


こういうときは武芸者は真摯だ。普段の荒くれ者感は微塵も無くきちんと挨拶が帰ってきて気持ちが良い。その分だけ身が引き締まる。


「今日一日ずっと考えていたんですが、誰かに模範演技をして貰いながらスキル習得に挑みたいと思います。

けれど皆さん高レベルですから習得にふさわしいスキルが思いつかなくて困っています。

この中でここにいる12人がおそらく持っていないだろう武術系のスキルをお持ちの方はいらっしゃいませんか?」

「誰も持ってないってことか?うーん」

「無ければ2回に分けて、相互に見たことの無いスキルで模範演技する形にしますが、出来れば誰か一人模範演技する形にしたいのですが……どうでしょうか?」


暫く皆が考え込んでいたが一人が手を上げた。


「あの~。頭目イテッ。じゃなくて剣術師範が変わった剣術スキルを持ってるって酒の席で言ってたんすけどアレはどうなんですかね」

「あ!!それだ。オイ!ダーズ!おめぇが昔貴族だった頃に習ったつー奴だな。あっはは!あの似合わねえ奴!」

「頭領。やる前から笑うのはやめて下さいよ。しょうがねぇ。あんまり見せたくないんだがこの部屋ならいいか」

「おう悪いな。ダーズが【騎士剣術】つー貴族御用達の剣術をそこそこ使えるんだが、それならみんな持ってねえし丁度良いな」


そんなレアな剣術もあるのか【騎士剣術】か。剣術とどう違うんだろう。面白いな。


「ダーズさんよろしくお願いします」


良かった、ずっとそのことで気に病んでたのだ。

最悪は自分で【飛剣術】を使いながら教える展開を考えていたのでダーズさんに感謝だ。


「それじゃどう進めるかを説明します」


簡単に言うとダーズさんに演舞してもらって、それを見ながら【調理】スキルを習得したときのように解説しながらスキル習得に挑むのだ。

僕は【見取り稽古】がどのような物かを説明しながら指導することになる。


「始める前にきちんと効果が出てるか知りたいので皆さんの【騎士剣術】の習得度を見させて下さい。ちょっと【解析】のようなことをしますがよろしいですか?」

「なんだそりゃ。まぁなんでも良いぜ。どんどんやってくれ。お前らもいいよな?」

「「「「はい!!」」」」


許可が出た。【スキル習得】で一人ずつ【騎士剣術】の経験値を調べていく。


「じゃ、ルーファスさんから現在の経験値を読み上げるので覚えといて下さいね。えーと【騎士剣術】はランク3なので750になれば覚えられるのですが、ルーファスさんが205、ルニートさんが1、ええと…」


11人分の経験値を告げて準備完了だ。


「それでは最初に【見取り稽古】を習得するための心構えを伝えますので、その後で合図をしたらダーズさんは演舞を始めて下さい」

「おう。まかせな」


まずはパワースポットの説明からか。


「この剣術道場は武術にとって特別な修練場です。そしてダーズさんは【騎士剣術】の使い手です。

また、今日お伝えする【見取り稽古】についてもこの場にふさわしいスキルですし、僕は既にレベル10の使い手です。

皆さんもそれを習得しようと考えて居ますから、今、この部屋に漂う魔素には【騎士剣術】と【見取り稽古】のスキルの力が混ざり込んで溢れています。そんな風に想像してみて下さい」

「なんだと!」


まだ説明してる最中なのに、反応が早い。

でもこういう時は素直なのが一番習熟が早いと聞いたことがあるので良い傾向だろう。


「力を抜いて体を空っぽにします。脱力です。空っぽになると周囲の魔素が【騎士剣術】と【見取り稽古】のスキルと一緒にぐんぐん体に入ってきますよ」


実際パワースポットでは良くそんな感覚になる。

他の人や場の持つスキルの力が魔素と一緒に入り込んでくる気がする。


「そうそう、体に剣気なんかを纏っちゃうと魔素に嫌われて入ってこないので注意して下さいね」

「くっマジか」


誰だ?ルーファスさんか。そんなところが親子ですね。


「【騎士剣術】と【見取り稽古】のスキルの欠片がぐんぐん体に流れ込んでいますよ。この部屋にはそんな魔素が充満していますからね」


パワースポットの説明はこんなところだろう。


「それじゃ、ダーズさんお願いします!」


ダーズさんは剣を縦にすると右脇にどっしりと構えた。構えの時点で違うのか。


「【見取り稽古】では五感の全てを使って目の前で起きていることを吸収します」


【見取り稽古】の要諦を伝えていく。

ダーズさんが剣を振り下ろす。未練の無い思いきりの良い剣だ。静から動、動から静がはっきりした動きだ。


「体を皿のようにして入ってくるもの全てを受け止めて下さい。

目で追えるダーズさんの手の動き、剣の動き、構え、足運び。

耳から聞こえる息づかい、床がすれる音、剣が空を切る音、握り手から聞こえる音。

鼻から入ってくる舞い上がる埃の臭い、汗の臭い、鉄の臭い。

全身で感じられる地面の揺れ、空気の揺れ、ダーズさんの発する圧力。

ダーズさんの周囲に漂う魔力の流れ、剣に秘められた力。その全てを受け止めて下さい」


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【聴覚強化】を習得しました」

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【嗅覚強化】を習得しました」


おおっと、五感を強化するスキルが来た。これは【見取り稽古】にプラスに働きそうだ。

ダーズさんから伝わってくる情報量がぐっと増えたような気がする。

ドン・ドン・ドドンと、圧を掛けながら剣を振り地面を踏みしめる。引きながら剣を振る。一つ一つが一撃必殺の威力を秘めていると感じる。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【騎士剣術】を習得しました」


ダーズさんから流れ込む情報量が跳ね上がり、経験値が十分となったらしい。

早速本日の題材である【騎士剣術】を習得出来た。


「ダーズさんから伝わる圧がどんどん増えていきますが、体を空っぽにして全てを受け止めて下さい。

戦いてえ!とか思っちゃダメですよ。全て真摯に受け止めて下さい」


皆が真剣にうなずきながらダーズさんを見ている。リラックスしている人も居れば、体に力を込めて全力で見ている人も居る。

うーん。魔素を受け止めるには体をリラックスさせるのが大事だろう。


「しっかり見るのも大事ですが、体からは力を抜いて周りに漂うスキルの力に満ちた魔素が受け入れられるようにしてくださいね」

「あっ!!」


あの顔と反応は……ルニートさんが何か覚えた様だ。どっちのスキルだろうか?でもここで中断したら邪魔になりそうだ。このまま続けよう。


「おおお!?」「これは!?」


ダーズさんの演舞が続く。これは結構なものだということがよく分かる。レベルはいくつなんだろうか?

【剣術】に比べて勝るとも劣らない技術だ。重い剣だ。騎士剣は重たい物なのかもしれない。

ドン・ドン・ドドン・ドドンと凄い圧力が不規則に上下に左右に掛かっているのがよく分かる。

【騎士剣術】の要諦は静と動ということなんだろう。

ダーズさんの動きはまさにそれを体現しておりかっこいい。

むしろ静止している方が肝かも知れない。変なところでぴたっと止まり、止まりと始まりがとても読みにくい。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【瞬発】を習得しました」

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【静止】を習得しました」


ああああ?!予約した講座で習う予定のスキルを習得してしまった。

予約キャンセルできるんだろうか?

いけない。気を散らすべきではない。みんなの時間を頂戴しているんだから。


「ダーズさんをもっともっとよく見て下さい。指先の動き。肩の腕の足の筋肉の動き。重心の動き。

どこに圧がかかってどこに遊びがあるのか。全て受け止めることが肝要です」


そのまま20分ぐらい演舞を続けたところで一旦休憩することにした。


「そこまで!!……一旦休憩としましょう。ダーズさんありがとうございました」

「お、おう」


それではみんなの習熟具合を見ていこう。


「えーと、じゃ、ちょっと聞いてみますが【騎士剣術】を習得された方は居ますか?」

「おう、なんか覚えたぜ。余興では何度か見せてもらったことがあるんだが、こうやって習得すると不思議なもんだな」


ルーファスさんは【騎士剣術】は覚えちゃったようだ。流石ですね。

他にルニートさんを含めて4名の方が覚えることが出来たらしい。11分の5だからなかなかじゃないだろうか。

ちなみに僕は【騎士剣術】【静止】【瞬発】が全てレベル3まで上がってしまった。

この上がり方から考えるに、多分だけどダーズさんはレベル5ぐらいはあると思う。


「それじゃ【見取り稽古】を習得された方は居ますか?」

「私は覚えました!」


ルニートさんはこっちも覚えたようだ。武術の才能があるんだろうな。

他には覚えた人は居ないようだった。剣術道場だけに【騎士剣術】の方がなじみが良いのか。

習得までの経験値についてもう一度チェックしてみよう。

そういえば経験値の説明をしてなかったな。


「【騎士剣術】と【見取り稽古】はランク3なので、習得までは750、レベル2までは9000の経験値が必要なスキルです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。昼から気にはなってたんだがその経験値とかランク?ってのは何だ?」


あれ、ルーファスさんまでそんなことを言い出した。これは知ったらまずい奴なんだろうか?

まぁいいだろう。ゲームシステムの説明をしても元々この世界の人達だしね。


「経験値は習熟の度合いを数値で表したものですね。

そしてランクですが、スキルはそれぞれ習得難易度が設定されていてランク1から5まで存在しています。ランクが上がるごとに必要な経験値は増えていきます。

僕のスキルの表示を見る限りランク1は習得までに250、そこから250づつ増えていってランク5だと1250になりますね。

それからランク5が1レベル上がるのに必要な経験値よりもランク1がその次のレベルに上がる経験値の方が多くなっているようです」

「な、なんだそりゃ。覚えるのに時間が掛かるスキルがあるこた分かってたが……」


どうやらみんな知らないことだったようだ。

ここまで昼ご飯時のバイヤードさんと同じ反応だった。


「ちなみに【体術】【回避】【受け流し】などはランク1で【剣術】【短剣術】【槍術】などはランク2でした。ランク5は僕は固有スキルでしか見たことがありません」

「武術は同じランクなのか、道理で、でも【騎士剣術】は3なのか」


なんかみんな素直に聞いてくれて嬉しい。

『あぁん?!そんなわけねえだろ!』とか言われなくてほっとした。


「ここまで良いですかね?それと、これって言わない方が良いんですかね?」

「い、いや良い。教えてくれて感謝する」


ルーファスさんがやけにしおらしい。


「じゃ、みんなの現在の経験値を見ていきますね。

先ほど覚えた人はレベル2になるための貯まっている経験値を、覚えてない人は覚えるまでの経験値をお伝えします。

【見取り稽古】【騎士剣術】の順番でそれぞれの経験値を言っていくのでさっきと比べて増えているか判断してください。

ルーファスさんは231、52、ルニートさんは13、132、折角なのでダーズさんも……53、13……」


この作業が結構な魔力食いだった。

ただし、相手が承諾してくれているとパーティ相当の2までは行かないけど、魔力消費3で見ることが出来た。

11人分見るだけで66の魔力がじわじわ持って行かれる。といっても今なら33分で全快だから【魔力吸収】が鍛えられている気がする。


そして、全ての人が間違い無く経験値を獲得出来ていた。

それでは2回戦目!と思ったら、そこで待ったがかかった。


「ちっと、ユーキ殿の顔色が悪いから今日はここまでとしようや!習得できることはルニが実証してくれたし、経験値ってので数値を教えてくれたからな」

「そうですね、ちょっとフラフラするので今日はここまでにさせて下さい。ダーズさんもありがとうございました」


ダーズさんを見ると神妙な顔をしていた。


「あの、俺も久しぶりに【騎士剣術】を鍛錬したんだがな……何でかその……レベルがあがったんだが、これはどういうことだ?」


道場だからな、相互作用でそういうこともあるだろう。パワースポット偉い。


「ここは剣術道場ですからね」

「そんなわけねえだろ!と言いたいところだが、そうとしか言えねえもんを今日は実感しちまったからな」


あれ?意外と受け入れられなかった。

剣術道場でみんなで研鑽するとレベルが上がりやすいということはみんな認めてくれているのに、意外とその力を信じられていないのかな?


「それじゃ、ユーキ殿しめてくれるか」

「本日の鍛錬はこれまでとします。お疲れ様でした」

「「「「ありがとうございました!」」」」


気持ち良い挨拶だった。よし!良い仕事をしたな!

終わると、早速皆さんで情報交換をしていた。


「ルニ!お前【見取り稽古】があるとどんな感じなんだ?」

「鍛錬中と同じかそれ以上に成長のための気づきがある感じです。ダーズさんの【騎士剣術】を見て、なるほど!と理解したこと以上にいろんな情報が流れてきて頭が溢れそうな感じです。それに向き合っていると成長しているというのが何となく分かります」

「なるほど。今日だけでもいろんな伸びしろが見つかりましたな」


ルーファスさんの質問にルニートさんが答えギャトールさんや周囲の人が理解を深めていた。


「なんでレベル上がったんだかな?ユーキ殿の目線が鋭くて体に震えが来たのに耐えたのがよかったんだろうか?」

「あ!分かりますぞ!昨晩対峙していたとき、ユーキ殿に睨まれるとこう体から力が奪われるようなそんな感じがありますな」


ダーズさんもバイヤードさんも何言い出してるんですか!!ちょっと酷くない?集中しているとき目つきが怖いと女性陣に良く言われてはいましたけど。


「ダハハ。ユーキ殿は邪眼の使い手か。さしずめ邪眼のユーキだな」


ルーファスさんやめて!本当に。通り名をそっちに持っていかないで下さい。


その日は日中に体は動かしたし、程よく疲れていて、良い睡眠を……取ることが出来なかった。

予断を許さない通り名の行方に悶々と夜を過ごした。


ちなみに通り名に邪眼のユーキは付かなかった。ひとまず安心……できない。

次話「21 剣術師範ダーズ」

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