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16 剣術道場には鬼が棲む

前回のあらすじ

 新しく獲得した【見取り稽古】について確認してたら道場主に絡まれた

「あんたがあのユーキさんだな。武神様が会いたがってたぜ」

「あー。スキル魔石の件ですね。アンネ様から依頼がありましたよ」


そう答えると、ルーファスさんはますます口角をつり上げてニンマリした。


「やっぱりな!アンタ新しい武術を生み出したらしいじゃねーか!俺はその話を聞いたときに年甲斐も無くわくわくしちまってよ」


あれ、なんか引っかけられていたらしい。別に隠すつもりは無かったんだけど。


「クルサードの叔父貴(おじき)が【鍬術(くわじゅつ)】を生み出した時は、なんでまたそんな物で戦うのかねと思ったもんだが、そりゃーもう一方的に叩きのめされてよ。

鍬なんか持ってるから最初は油断してたんだが、叔父貴が槍持ってるより強くてコイツはやべえと思ったもんだ」


クルサードさんが同じように【鍬術】を生み出した時の話か。

10人の神様達以外にもこの世にスキルを生み出したことがある人は居る設定なんだな。

それならプレイヤーがスキルを創っても不思議は無い。


「当時、クルサードの叔父貴(おじき)は俺より遙かに強かったから結局どんなもんだか分からなかったが、あんたなら丁度いい。

ほとんど素人のあんたが生み出したっていう武術で俺と試合ってもらえんだろうか?」


えぇ?この人と試合ですか?さっきの中級の試合でも太刀打ちできそうにないのに、普通に死んじゃいそうなんですけど。

それに、なんとなく【飛剣術】をバンバン使ってるとゲーム体験が狭まりそうで嫌なんだよなぁ。


「ええと、てことは【飛剣術】でってことですよね?ちなみにルーファスさんのレベルはどれぐらいなんでしょうか?」

「おっ【飛剣術】っつーのか。そういえば武神様がそんなこと言ってた気がすんな。ガハハ。

俺は【剣術】がレベル8だな。あとは【大剣術】がレベル6、【槍術】がレベル5だな。

武神様は全部通じるもんがあるから何でも身につけろってむちゃくちゃ言うんだけどよ。

俺は器用じゃねえから最近じゃ【剣術】ばっかりだな」


レベル8って想像も付かないな。

僕は謎の教祖扱いされてる【AFK】ですらレベル7なのに。

突然レベル10だった【飛剣術】に至ってはどのくらいなのか自分でも全く分からない。


「ちょっと敵わないと思うんですけど。先ほど仰ったようにほとんど素人なんで」

「まぁそう言うなよ。クルサードの叔父貴(おじき)から聞いたんだが、新しい武術は生み出した時点でレベル10なんだろ?それこそ自分の手足のように分かるって言ってたぜ」


やばい。なんでもお見通しですか。

またシナリオライター事案だよ。なにしてくれてんですか。


「は~。これはやらないとダメな流れなんでしょうね」

「お、いいねぇ。報酬ははずむぜ!万が一にも俺に勝てたら娘をやってもいいぜ!ガハハ」


やる気満々じゃないですか、周りに門弟が囲んでて一対一とか回避不能ですよね。【GMコール】求む。

中央広場で同席したコータさんが死んでも復帰可能って言ってたし、やるしかないのか。


「分かりました。ちょっと特殊なものなので、短剣を50本貸して欲しいのですが?」

「ん?獲物は何でも良いが、そんなに扱えるのか?」

「ええ、そういう剣術みたいですよ」

「そういえば【投擲術】を得意としたひと昔前の5高弟[百剣]のヴィズリーが名前の通り100本以上の投擲用の武器を持ち歩いてたらしいな。

よし、ちょっと準備してやる。おい!グラット!ちっと短剣を50用意してくれや」

「あいよ!」


髪を後ろで結んだ小柄なガッチリとした男性が近くの若者に指示を出して道場脇の小屋に向かって歩いて行った。

グラットさんは髭人(ドワーフ)のようだ。結構な年輪を感じさせるが雰囲気が柔らかい人物だった。

あそこは武器庫ってことなのか?簡単な鍛冶場なのかもしれない。あの小屋だけちょっと離れている。


しかし、どうなんだろう。100本はいきなりは扱えそうに無いから50本にしてもらったけど、それでも多すぎるよな。

やってみないと分からないからやるだけやって砕けるか。

この手の人はARスポーツの試合でも良く居たけど手を抜いて負けると怒るし全力でやるしかない。


やがてグラットさん達が専用のラックのようなものに入れて短剣を運んできてくれた。

短剣が綺麗に5本づつ10の棚に立てかけられてある。

その一本一本は僕が最初に買った鋼の短剣よりもちょっと良い物のように見える。


「業物とは行かねえが鍛錬程度じゃ刃こぼれ起こさねえ程度は保証するぜ。坊主死ぬなよ。あっはっは」


刃こぼれ起こさないとか、それって結構な業物じゃ無いかとおもうんですけど。

グラットさん達は笑いながら観客席に戻っていった。


「それじゃ、ちょっと準備させてください」

「おういいぜ!その本数でどうやんだかちょっと見させてもらうわ」


『森崎さん、両手に短剣を下さい』

『承りました』


両手にすっと短剣が収まる。魔剣になった僕の短剣だ。

ステータスによれば配下の剣にも浮かぶ力が及ぶはずだ。


まずは10本連隊という扱いで、右手の剣の配下扱いで行ってみようか。

右手の剣じゃ、言いにくいな。

葛西が持ち込んだ役割理論じゃないけど、何となく右手はフォワード、左手はディフェンスがしっくりくる。


誰だっけ軍事オタクのお客さんが言ってた名前でも付けてみるか。

右手が短距離弾道ミサイルでスカッド、左手が弾道弾迎撃システムでパック。そんな感じでいってみるか。


短剣が急に光りだした。かなり熱かったので思わず手を離したが2本ともそのまま浮いていた。

スカッドの刀身が薄緑色から緑と赤のグラデーションの掛かった色になっていた。

パックの方は緑と黒のグラデーションが掛かった色になっていた。

見分けが付くのはいいけれど、これはどういうことだろうか。


確認は後ですることにしてとりあえずラックに収まった短剣を10本スカッドの配下に付けてみる。

ふわりと浮いた10本は刃をルーファスさんの方に向けて、スカッドを中心に円を画いて等間隔に並んだ。

今度は短剣10本をパックの配下につけてみる。同じように10本が綺麗に円形に並んだ。特に魔力消費も無い。これなら行けそうだ。

さらに20本をスカッドの周り外側に、10本をパックの外側10本に加えて20本の円にしてみた。

目の前に円が2つ綺麗に出来ている。スカッド側が2重の円だ。


「おいおいおい!そりゃ何だ?それがあれか?【飛剣術】なのか?【念動魔法】の曲芸みたいだな。そんなんで戦えんのか?」

「どうでしょうね?こんだけ浮かべてみたのは初めてなので、もう倍は行けるみたいなんですけど、ちょっとやったことないので」


試しに右手のスカッドの囲みの外側の短剣を飛ばして空中を切りつけてみる。

おお、思っていたのと違い、ものすごくしっくりくる。

【金玉飛ばし】で飛ばしていた時よりも制御が簡単だ。

30本ぐらいならなんとか狙って動かせそうだな。


パック側はどうだろうか。守りを任せちゃっていいのかな?

試しにスカッド側の短剣を僕の腕を刺すように飛ばしてみるとうまく力をそらせる様に防御してくれた。

これならなんとかなるかもしれない。


「よし!準備良いですよ!」

「お、おお!楽しみだ!腕が鳴るぜ!おい!ダーズ!合図を頼む!」

「へい!」


改めてルーファスさんに向かって姿勢を整える。


「それじゃーいきやすぜ!双方構えて!!……始めっ!!!」


自分が飛び込む必要が無いので最初から積極的に仕掛けていくことにした。

まずは一本、続けて二本、その次は三本と波状攻撃を掛けていく。

ルーファスさんは、それを剣で、手のひらで、肩で打ち返し、躱し、そらしていく。

ものすごい動きだ。


はじめからその手に収まるように投げつけたかのように打ち払われていく。

この動きをずっと見ていたい。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【受け流し】のレベルが2に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【回避】のレベルが2に上がりました』


幸先いいな。

ルーファスさんの動きは他の人と比べても飛び抜けて洗練されていて勉強するところだらけだ。

剣を飛ばすのに段々慣れてきたので、だんだんと飛剣同士の連携を緊密にしていく。

一本の後ろに続けて2本飛ばしたり背後から切りつけたり同時に避けられない角度で5本突っ込んだりとARスポーツで鍛えた動きを下敷きに攻めてみる。

いろんな工夫をしているが、それをルーファスさんはどんどん躱し、打ち落とし、叩き返して捌いていく。

ただし、大きく身を動かして躱されても飛剣は追いかけていくので完全に避けるのは難しい。


「ガハハ!面白え!!ただ剣が軽いな!軽すぎるぜ!!」


なるほど、威力が足りないのか。少し魔力を加えていこう。

さっき【ステータス】を使って失った魔力も時間が経ってだいぶ戻ってきている。

剣速を徐々に上げていく。少し制御が甘い部分が出てしまうがスカッドが補助してくれているようで【ターゲットライン】の軌道が修正されていく。

めまぐるしく動き回る剣の動きが一段上がった。

それでもルーファスさんはどんどん捌いていく。これは勉強になるな。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【剣術】のレベルが3に上がりました』


うおー。やっぱりそうだですよね。勉強になりますからね。

さっき僕がやられた槍を避けるのに使える動きも結構ある。


そうだ槍か。試してみよう。

飛剣を10連で連ねて一本の槍の様に突っ込ませてみた。

少しづつ角度を変えたので簡単には受けられないはずだ。


「ハハハ!いいぞ!楽しくなってきたァーーー!!!」


ルーファスさんはそう言うと剣の束を力強い一振りでまとめて打ち落とすと、こちらに打ち込んできた。

もうそこまで迫っている。

パック!守りは任せた!


ルーファスさんの剣を10本の剣が打ち上げ、逸らし、徐々に角度をずらしていく。

その間にもう10本の剣が腕の関節や足元めがけて飛んでいく。

パックが綺麗にルーファスさんの攻撃を捌ききった所に、先ほどから集中して準備していたイメージ通りの攻撃が降り注ぐ。


これで、ルーファスさんはどう防ぐのか!!よく見よう!!

ルーファスさんは振り切った剣を回して剣を弾き、躱して……

あれ?ルーファスさんにドスドスと剣が刺さる。良く狙ったので筋や関節など急所を撃ち抜いていく。


「まてまてまて!!!勝負ありいいい!!!!!」


僕は攻撃をピタッと止めた。あの速度からピタッと止められるんだな。

もうちょっとで目をくりぬく所だったよ。危ない危ない。

周りはシーンとしている。やばい!やり過ぎました?到底敵うと思ってなかったんだから仕方ない。

ちょっと周りを見るのが怖い。


「ガハハハ!いやーすげえ!!これが始祖たる者の力か!!愉快愉快!!」


ルーファスさんは血まみれで笑っている。いやあなたの方がずっと凄いですよ。

わっと歓声が上がった。


「すげー!!おめえすげーな!!」

「すげえ!!俺を弟子にしてくれ!!」

「お頭が負けるなんて!!すげえええええ!!!」

「お頭もすげえ!俺なら最初の一本でもう無理だ」


あれ、意外と好意的だった。ふうと息を吐くと、短剣50本を飛ばしてラックにしまった。

僕の上で浮いていたスカッドとパックも森崎さんに収納してもらった。


「あー負けちまったなー。こいつは修行のやり直しだ。つっても暫くは療養だろうがな。

まだまだ工夫の余地はあったんだがなぁ。攻めが厳しすぎて思わず武技(アーツ)を使っちまったのが大きな敗因だな。

最後のあれは一応3つの余地を残して仕掛けたんだが綺麗に全部潰しやがった」


後で聞いた話だが、達人同士の戦いでは武技(アーツ)は基本使わないらしい。

なぜなら武技(アーツ)自体が達人の高レベルな動きを写し取った物だから、高レベルであれば自身で適切に動いた方が良いとのことだった。

そう言われればなるほどと納得せざるを得ない。

【飛剣術】の武技(アーツ)も僕が使った技から生まれるんだろうか。


「ありがとうございました。それから、良かったらこれ、使って下さい」


森崎さんに死蔵していた体力ポーション(低)を出してもらって手渡した。


「おお!こいつは最近出回るようになったポーションじゃねーか。ありがとな」


そういうとぐいっと飲み干し。瓶をこちらに返してきた。

急所を撃ち抜いたはずなのにすっと立ち上がってにやりと笑っている。

【再生】スキルなんだろうか。いくら何でも早すぎないですか?

見た目血まみれなのにその笑顔が逆に恐ろしい。


勝ったはずだけど、相手の方が元気な気がする。道場の主は恐ろしい人物だった。

さらに恐ろしい一言が待っていた。


「あーそうだ!初めの約束だが、俺は本気だからな!報酬としてルニのことをもらってやってくれ!」


ゲーム開始以来、最大の難題が突然やってきた。


次話「17 嫁取りのその前に」

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