14 中級交流戦と見つめる男
前回のあらすじ
宴会が始まったと思ったら交流戦が始まった
続けて中級の部の交流戦に突入した。
中級の部といっても中級に上がったばかりの人はほとんど出ておらず、レイチェルさんも見学だった。
中級はレベル3と4、上級はレベル5かららしい。
たしかレベル5はスキル魔石が作れるようになるとアンネ様の手紙にも書いてあったな。
レベル5からは次元が変わってくるのかもしれない。
「中級の部だ。参加する奴は前に出ろ!!」
ルーファスさんの掛け声ともに一斉に参加者が中央に出て行った。
どの人も雰囲気がある。レベル4の使い手なんだろう。みんな目が真剣だった。
レイチェルさんによれば交流戦の機会自体が貴重なものだという。
みんな結構怪我をするので、治療もそうだし武器防具の欠損もかなりあるらしいが、この時は道場でその費用を持ってくれるらしい。
中級の部の試合は別次元だった。ものすごい攻防が繰り広げられている。
レベルが上がるというのは剣の振りが力強くなるとかそういうことだと思っていたが全然違う。
確かに斬撃は一撃一撃が力強いが、そこに至る攻防は繊細だしフェイントが単なる隙作りじゃなくて両方行けるように2択を迫っている。
【並列思考】の力で両方のケースを見られるから分かることだけどこれを普通にやっているなんて凄い。
これは本腰を入れて見学しなきゃ行けないに違いない!
この機会を作ってくれたルニートさんに感謝します。
―――――――
僕は小学校の頃、大勢の友達がそうであるようにサッカークラブに通っていた。
よく遊んでいた友達がサッカークラブに通い出したので、なんとなく始めた口だ。
その日もコーチがいろいろ教えてくれていたが、僕は帰りに買う駄菓子のことを考えていた。
そうこうしているうちに友達や周りのメンバーと実力の差が開き、だんだんクラブがつまらなくなっていった。
友達の話題も前はテレビの話題が多かったが、最近じゃサッカー選手の話題が多い。
僕はその集団に居ながら、その話にいまいち参加出来ないことが多かった。
今だから分かることだが真剣さが違っていたのだ。
まあまあ器用だったので、なんとなくついて行けては居たが、面白みが見つけられなくなっていた。
僕の技術はなかなか上達していかなかった。
当時指導者だった元プロの女性コーチがそんな僕を見かねて声を掛けてくれた。
女性は本当に子供のことをよく見ていると思う。
「ユーキ君は他の子がプレーしている時、何を考えていますか?」
この人は何でこんなことを聞くんだろうか、そう思った。
「帰りに買う駄菓子のことを考えたり昨日のテレビ番組を思い出したりしています」
素直にそう答えた。
女性コーチは悲しい顔をしてこう続けた。
「ユーキ君。先生はね、足を痛めちゃったからもうプロでは活躍出来ないけど、みんなのために出来ることをしたいから、みんなに見せるプレーもいつも真剣だよ!
ユーキ君にも先生や他の子がプレーしている姿を真剣に見て貰えると嬉しいな」
僕はそれで態度を改めた。だってその女性コーチは美人だったから。
それからコーチの動きを目で耳で全身でよく見るようになった。
たまに友達の動きもよく見るようになった。友達の動きはあまり参考にならなかった。
「ユーキは目がやらしい!」
友達によくそう言われたが気にせずプレーを見つめ続けた。
やがて僕はイレブンに選出されるようになったが、コーチは子供が生まれて離職してしまった。
それ以来、見学の大切さに気がついて自分のプレー時間以外でも集中することは続けた。
そして、その頃から僕はこう呼ばれた。『邪眼のユーキ 』と。
―――――――
あっと、最後のは思い出さなくて良い奴だ。高校でもあだ名を知ってる奴が隣のクラスに居て苦労したな。
あのコーチ元気かな?そうじゃなくて、見学は大事ってことだ。
今は目の前の試合に集中しよう。
体を皿のようにして入ってくるものすべてを受け止めよう。
周囲を漂う魔素に、スキルの力に目から入ってくる情報に、臭い、肌で感じる衝撃全てだ!
男性剣士が、女性の槍使いに飛び込んでいく、さっきの僕とは違って避けてから突っ込むのではなく、避ける動きが攻撃に直結している。
槍使いの人は円の動きをうまく使って相手との距離を取っている。かといって近距離を嫌うわけじゃなくて果敢に攻めている。
凄い。いろんなことが行われている。スキルのアシストがあるにしてもこれは凄いことだ。
現実世界に持ち帰ることが出来たら剣術の大会で優勝出来そうだ。
飛び込む動きも足が浮いているからどうかと思っていたが、武器を振り回す動きをうまく使って反動で体を動かしている。凄い。
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【受け流し】を習得しました』
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【槍術】を習得しました』
おお!やはり真剣に見るといろいろ違うね。流石剣術道場だ。見ているだけでスキルを習得できてしまった。
五感を使ってどんどん経験値が体に流れ込んでくるような気がするので当然だろう。
すごい!さすがパワースポットだ。なんかぐわっと空気が圧縮された気がする。
濃厚な試合の気の打ち合いがこちらまで届いているんだろう。ビリビリする。空気が震えているようだ。
突き出す腕の動き、それに反応して引っ張られる反対の腕と武器。
避ける動きが攻撃に繋がり防御の動きが攻撃に繋がり、二人の動きが演舞のようだ。
『テッテレテー』
『ユーキはスキル『見取り稽古』を習得しました』
『世界に成長のスキル分類が生まれました』
なんだ?【ファンファーレ】の場違いな音がやけによく聞こえた。じゃなくて、余計なメッセージが聞こえてきた。
ゴーーーーーーーーン!!!ゴーーーーーーーーン!
突然大きな鐘の音が聞こえた。
地面が揺れている!やばい!!あれだ!固有スキルじゃないスキルを作ってしまったらしい。
試合をしていた人達も動きを止めてキョロキョロしている。
この鐘の音はみんなに聞こえるもののようだ。
だんだんと揺れが大きくなっているが前ほどでは無いようだ。
そして視界に細かなヒビが入って空間が割れていく。
ギシギシッ、ゴリッ、ゴリゴリッ、ガガガガッ
やっぱり何か重たい物が引きずられるような音がする。
ああ、だめだ!やっぱり立っていられない。
空間のヒビがから光が溢れていく。どんどんどんどん光が強くなる。
あれ、これって前よりも規模が大きくないか?ヤバいヤバい!
ここは大丈夫なのかな?
ガッシャーーーーーーーーン
視界が真っ白に染まった。
次話「15 2度目のスキルの芽生え」