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12 剣術道場の午後の風景

前回のあらすじ

 講習会で調理スキルを習得した。

【調理】スキルの講習会が終わると同じ班だった3人にしきりにお礼を言われた。


「ユーキ君ありがとう!他の講習会で覚えられなかったスキルも覚えられそうだよ」

「ユーキ殿ありがとう。この世の深奥を覗いたような気がいたします」

「ユーキ様ありがとうございました。お嬢様が一生お嫁に行けないかと思っていましたが、これで何とかなりそうです!」

「いえいえ、講習会に漂うスキルの力のなせる技ですよ」


パワースポット凄いしね。それはそうとレイチェルさん!それは酷いと思うよ。ルニートさんは美人さんなのに。


別れを告げてみんなぞろそろと部屋から出ていく。

僕も流れに乗って部屋を出たところで、ルニートさんに呼び止められた。


「ユーキ殿、お待ち下さい。本日これから、お時間はありますか?」

「えーと、午後は……あれ、受ける講習会は無いか!あ、暇みたいです」


報酬で【ウィスパー】もらったので午後からの予定が無くなっていた。


「それでは!昨日のお礼もありますので、是非、道場までお越し下さい!」

「それじゃ、ぜひ訪問させてください」


道場か。【剣術】のパワースポットはちょっと行ってみたい。

ビガンの町に唯一ある武術道場のようだから他にもいろいろ教えてるかもしれないな。


ルニートさんと、やっぱり門下生だったレイチェルさんと一緒に剣術道場にお邪魔した。

レイチェルさんは目がキツいので最初は怖い人かと思ったけど話してみると普通に笑顔がかわいい女性だった。

道場に向かう途中で広場を通るのが地味に心にダメージがあるな。

【魔力吸収】を覚えるヒントになってくれたので今日は感謝しておこう。


道場は午前中は全体での型の訓練、午後は隊を分けての模擬戦や武技(アーツ)の訓練となっているそうだ。

スキルで言うと【剣術】【短剣術】【槍術】を主に教える道場としてビガンでは知られた存在らしい。

一応【大剣術】【双剣術】【棒術】【斧術】なんかも教えて貰えるらしい。


「今の時間帯は武技(アーツ)の訓練をしていますので周りに気をつけて下さいませ」


ルニートさんにそんな風に言われながら立派な門をくぐる。やたらと頑丈そうな石造りの柱に木製の分厚く大きな扉が付いていた。


道場に入ると広い庭に3つの集団に分かれて訓練していた。

まばらにジャージの人も混ざっていて、ゲームプレイヤーもここの門弟になっているらしいことが分かる。

真ん中の集団はみんな片手で持てるぐらいの剣を持って居るのでこの集団が【剣術】を訓練しているのかな?

4人が等間隔に並んで同じ動きをしているけど、横方向に剣を振り回しているので【剛斬(ごうざん)】とも【撃突(げきとつ)】とも違う。

あれは僕が知らない武技(アーツ)のようだ。


「あ!お嬢!お帰りなさい!」

「あ、姉御だ!」「姉御お帰り!」「姉御!」

「姉御!おかえりやさい!」


ルニートさんは姉御って言われてるのか。意外と姉御肌な人物なのかな。


「お前らー!!ちゃんとお嬢様って呼べって言ってんだろ!!」


レイチェルさんが突然大声を出すのでびっくりした。

この人、こんな人だったっけ?女性はよく分からないことが一杯だ。


「すいやせん。言い聞かせておきやす!」


なんか強面のおじさんがルニートさんにそんなことを言っている。集団の代表の人なのかな?


「こんにちは~。お邪魔してます」


ともかく挨拶しておく。


「お?いらっしゃい。お嬢、こちらは?」

「この方は昨日今日とお世話になった方でユーキ殿です。

あ、ユーキ殿、彼は【剣術】師範でダーズ殿。元山賊だが【剣術】の腕はすばらしい御仁だ」

「お嬢!もうちょっとまともな紹介はないんですかい!山賊の前は没落しちまったけど貴族だったんですから。

ユーキさん。ここは来る物を拒まない懐が広い道場なんでさ。俺みたいな奴でもこうやって拾ってもらって師範としてやっていけてます」

「ダーズ師範はこの道場でも10本の指に入る実力者ですよ。【斧術】もかなりの腕前です」


最後にレイチェルさんがフォローしてくれた。

歴戦の戦士のような雰囲気がちょっとかっこいい。

【斧術】はちょっと似合いすぎだった。


「お嬢がお世話になったんなら、ちょっと良いところを見せねえとな。丁度今はレベル2武技(アーツ)の【飛旋(ひせん)】に取り組んでたところでさ」


飛旋ひせん】は旋風を飛ばす中距離の攻撃技らしい。威力はそれほど無いけど1対多のシーンで囲まれないように使うそうだ。


「レイチェル!おまえちょっとやってみろ……とその前に着替えだな。おーいヤンベル!お前が手本を見せて見ろ」

「わかりやした!」


さっき姉御と言って怒られていた一見ひょろっとした男の人が出てきて、みんなが少し下がった。

他の人が木の棒に倒れない様に足がついた物を少し遠くに等間隔に並べている。


ヤンベルと呼ばれた彼は、右手に持った剣を左腰あたりに構えた。この人ひょろっとしてるように見えて結構筋肉あるなー。


「我が剣旋に魔の力宿りて敵を切り裂け!【飛旋(ひせん)】!」


剣を勢い良く左から右に振り切った。動きが淀みなくとても綺麗なフォームだった。

間髪入れずに「カカカカン!」と音がして木の棒が揺れていた。


「振り抜く思い切りがちっと足りねえが、まぁそんなもんだな!もうちいと威力が無いと相手さんは下がっちゃくれんだろうからも少し訓練だな」

「ありがとうございやす!」


僕には綺麗に振れているように見えたけど流石剣術道場だな。


「いかがでしたか?そういえばユーキ殿は冒険者とお見受けするが、武器に何を使われるか聞いても宜しいですか?」

「ええ、【剣術】はまだレベル1なのでとても参考になります。武器スキルは【剣術】【短剣術】【爪術】【投擲術】がそれぞれレベル1ですね」


ルニートさんが聞いてきたので武器カテゴリーのスキルを告げる。【飛剣術】は誰も知らなそうなので一旦保留にしておいた。


「ほう!アースリングの門弟も結構居るが、既に【剣術】スキルを得ているのはなかなか筋が良いじゃねぇですか」

「せっかくですから、【飛旋(ひせん)】に取り組んでみますか?」

「そうですね、それじゃやらせて下さい」


ルニートさんが誘ってくれて、師範もいらっしゃるので見てもらうことにした。


『森崎さん導入の剣ください』

『承りました』


打てば響く反応で右手には導入の剣が現れた。


「うぉ、突然取り出したぞ!」

「あれ見たことある!ちょっと熟練の冒険者がやるやつじゃねーか?」


なんかざわざわしている。【インベントリ】と【イクイップ】でも出来ることだし普通だよね。

でも、最近じゃ【インベントリ】の習得が大変になったんだっけ。


「それじゃ行かせてもらいます」


腰の脇に剣を構える。少し目を閉じこの道場に溢れかえる【剣術】の力を体に吸収するイメージを構築していく。

ぐんぐん集まってきた【剣術】の力を剣に流し込んで魔力と一緒に解き放つイメージだ!

さっきヤンベルさんが言っていた呪文のようなのも言いながらやってみよう。


「我が剣旋に魔の力宿りて敵を切り裂け!【飛旋(ひせん)】!」


ゆっくり目を開いて、かけ声と共に剣を振るとすっと綺麗に体が動いた 。

あれ?打撃音が聞こえない?失敗した!!!恥ずかしい。


と思ったら「カラン」と(マト)の木の棒が真ん中で折れて落ちた。

よかった。なんとか成功したらしい。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【剣術】のレベルが2に上がりました』


「あ!【剣術】スキルのレベルが上がりました!さすが剣術道場ですね」


ふとルニートさんの方を見るとなんだか固まっていた。あれ?やっぱりなんか間違えたらしい。


「ゆ、ユーキ殿は訓練の才がありますな」

「お嬢!こいつは一体。この(マト)はこないだ取り替えたばっかりでまだまだ新しいんですが……」

「お頭、武器じゃないすかね?ちょっと見せてもらったら?」


あ、武器がこれじゃまずかったかもしれない。そういえば何も考えずに自分の剣を使ってしまったが、道場では刃を落とした練習用の剣を使っているのかも。


「あー、この剣使ったらまずかったですかね?」


そう言って、師範のダーズさんに導入の剣を手渡した。

ダーズさんはジロリと剣を眺めるとこう言った。


「いや、コイツは違うな。一応魔剣だが(マト)だって(こしら)えが魔道具だ。ヤンベルが振ってもああはならねえよ」

「ヤンベルの剣だってそこそこの業物だしな!俺ぁどんだけ自慢を聞かされたことか」


みんなも自分の剣を使っているようだ。安心した。

すぐに剣を返してもらったので、森崎さんにしまってもらった。


「ユーキ様はスキルを習得する才能がおありですからね!私もお嬢様もおかげで【調理】スキルを習得してきた所なんですよ」

「なんと!お嬢!なんて言いました?!念願の!念願の【調理】スキルを手に入れたんですかい!!」

「なんだって?!そいつはめでてえ!!」

「おい!お嬢が【調理】スキルを習得したんだってよ!!コイツはめでてえ!!」


レイチェルさんの一言が周りに広がると、もう練習どころじゃない雰囲気になってしまった。

ルニートさんはどれだけ【調理】スキル習得に失敗していたんだろう。


結局、そのまま道場はルニートさんの【調理】スキル習得の報に浮き足立った状態になってしまったのでみんなで室内道場のような場所に大移動することになった。

僕もなぜか連行されている。


「おい、アンタ!お嬢には変なこと吹き込んでねーだろうな」

「お嬢には恩人かもしれねえが、道場のしきたりは守れよ!」

「お、俺だってレベル3になってようやく親衛隊の末席に加えてもらったんだからな!」

「え、あ、はい。なにもしてませんよ」


ルニートさんは皆さんに愛されているようだ。道場主の娘さんで美人ですもんね。そりゃそうだ。

ジャージの彼はプレイヤーだと思うが親衛隊って何のことだろうか?


道場では軽い宴会が始まった。なぜかルニートさんの前には包丁とまな板が出てきていて、簡単な野菜を剥いたり切ったりさせられている。

そのたびに周りの人が拍手して大喜びしているというシュールな空間だった。


なんでも、ルニートさんは剣の腕は凄く、跡継ぎ予定のお兄さんに勝るとも劣らないものらしいが、女性らしいスキルの一切が苦手だったらしい。

見かねて道場主が週に一回はまかない作りにルニートさんを加えていたらしいがそれはもう酷いことになっていたんだとか。


まかないはレベルが上がって住み込みの権利を得られた門弟が作る物らしく、レイチェルさんも先日住み込みの許可を得られたので準備のために今日の講習会に出ていたんだとか。

レイチェルさんは今回で3回目だったらしい。ルニートさんに至ってはすごい回数らしいが誰に聞いても目を背けて教えてくれなかった。


「お、お嬢に叱られますんでそれだけは勘弁して下さい!」


さっきまで凄い勢いで威嚇していた面々についても同じだった。


懐から手ぬぐいを出して涙を拭う道場のみなさんを見ながら、今日はもう身動き出来そうに無いな。そう思った。


次話「13 剣術道場の宴会はひと味違う」

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