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7 冒険者ギルドの講習会

前回のあらすじ

 歌唱道場に連れ去られたが、快適に過ごした。

目が覚めると、楽器の音に合わせて綺麗な女性の歌声が届いていた。

トーンが高いから若い人かな?このゲーム世界の人はスキル習得で寿命が延びるらしいので年齢がいまいち分からない。

朝から格調高いな。営業でいろいろ回ったけどこんな所に泊まったのは初めてだ。


歌が聞こえるということは、朝のレッスンが始まっているようだ。

まだ窓の外はうっすらと明るい。

この客間のふかふか布団は何で出来ているんだろうか?モンスター素材なのかな?

昨日は弟子の女性に【生活魔法】で【洗浄】をかけてもらったのでとてもすっきりしている。


ああ、そうだ。今日は冒険者ギルドに行って講習を受けよう。

【生活魔法】と【ウィスパー】と隠蔽系のスキルを習得しておきたい。


大きく伸びをしてベッドから出ると、頭は意外とスッキリしていた。

お酒が残るかなと思ってたけど、全く残っていなかった。

お酒飲んだらいい気持ちになってたから、ゲームでは酔っ払う所までは表現したけど、二日酔いまでは実装しなかったのかもしれないな。


ぼーっとして、聞こえる歌声に耳を傾けていると、ドアがノックされた。


「あ、はーい!」

「おはようございます。入室してもよろしいでしょうか?」


昨日から寝る時も安定のジャージ姿だからいつでも問題ない。


「大丈夫ですよ!どうぞ~!」


ガチャリとドアが開き、カートを押して現れたのは、昨日寝る前に洗浄してくれたお弟子さんだった。

彼女はえーと。そうそうマリアンヌさんだ。


「おはようございます。マリアンヌさん」

「こっ光栄です名前を覚えて頂けるなんて!」


いや、突然来た居候だからそんな反応されても逆に困ります。

シナリオライターの人の悪意を感じるな。むしろ謝罪の意味なんだろうか。


「あの、朝食をお持ちしました。その前に、よろしければ【洗浄】をおかけしますが、いかがでしょうか?」

「あ、ありがとうございます。お願いします」


彼女はわざわざ【洗浄】を掛けてくれた。

【水魔法】の【水洗浄】とは違って息苦しく無いのが素晴らしい。【生活魔法】いいね!


その間もカートから朝食の良いにおいが漂ってきている。

このゲームは本当に臭いが多彩で凄いな。VRデバイスでどうやって臭い表現しているんだろう。

直接脳に働きかけるような信号を送る技術があるのかな?


彼女は部屋にあったテーブルに朝食をサーブしてくれた。

凄い洗練された所作だった。良いところのお嬢さんなんだろうか。


朝食はパンにサラダに軽い肉料理だった。コーヒーかお茶か聞かれたのでコーヒーをお願いした。

これ下手なホテルよりずっと高級なサービスじゃないですか。ゲーム様々のリッチな体験だった。

彼女はサーブすると下がってメイドさんのように控えていた。


「えーと。そこまでして頂かなくても。あと自分で出来ますよ」

「いえ!この役目はお願いしてやらせて頂けることになったんで、ぜひ最後までやらせて下さい」


ものすごい胃が痛くなる展開だった。

なにこれ。悪意の方だろ絶対に。


部屋に人がいるのに自分だけ食べるというのに慣れないが、仕方ない。

コーヒーから手を付けた。はー。うまいな!

パンも外側がかりっとしてて、中がもちっとしていた。焼き加減が絶妙だし、においがとても良い。

気がついたら一気に食べてしまってデザートのフルーツ盛りが残ってるだけだった。

結局人がいても問題無かった。元々、僕はそんなこと気にする性質じゃなかったらしい。


素晴らしい朝食に幸せな気分になった。


「とても美味しかったです!作った人にそう伝えて下さい。毎日これが食べられる人は幸せですね」

「ありがとうございます!これ、私が作ったんです。ふふ、とても嬉しいです」


ええ?!そのケースは想定してなかった。こんな建物だから専属のシェフがいるのかと思ってた。

ちょっと恥ずかしいことを口走ったかもしれない。


「そうなんですか、ごちそうさまです」

「私と何人かはここに泊まり込みで修行させてもらってるんですけど、交代で料理もするんですよ」

「結構な料理の腕前ですね!」

「ふふ。ありがとうございます。お上手ですね。

こちらに住み込みになる前に、冒険者ギルドの生活講座で【調理】スキルを覚えたのでレベルはそれほど高く無いんですよ」


マリアンヌさんはコーヒーのおかわりを注ぎながらそう教えてくれた。

ここでも出てきた冒険者ギルドの講習会!地元民の生活に密着しすぎだろう。


「僕も冒険者ギルドの講習会に行こうと思ってるんですよ。どんな感じなんですか?」

「あら、ユーキ様も興味がおありなんですね。

午前中に生活系のスキルの講座が4講座開設されていて、午後は冒険者の方に向けたスキルの講座が4講座開設されています。

それぞれ2時間づつ2回開催されますが、一日では全部出られません。

平日は毎日開催されているので、今日は木曜日ですから今日も開催されてますよ」

「予約は必要なんですか?」

「予約は特に無くて、行って席が空いていれば受けられますよ」


これはすごいありがたい。

冒険者ギルドは広いと思ってたが、次元神様が空間を拡張しているらしく講座の部屋も中が結構広いので沢山の人が受けられるようになっているらしい。

ただ、最近ではプレイヤーが大量にログインするので、時々一杯になって溢れることもあるようだ。

午前中の講座は【生活魔法】【調理】【清掃術】【裁縫】の4つで、午後の講座は【ウィスパー】【解体】【武器整備】【防具整備】の4つなんだそうだ。

隠蔽系の講座が無かった……確かに不人気講座だったと言っていたけど。


―――――――


「大変お世話になりました。そろそろ行きますね」

「残念ですがお約束ですので……あの、是非これをお持ち下さい。昨日スキルを取得されたようなので練習に丁度良い物です」


そう切り出すと、ドルニエットさんが手に持ったバンジョーを渡してきた。

【再生】のスキルの力が付いていて弦が切れてもチューニングが乱れても一日置けば自動修復されるため練習に向いてるらしい。

昨日、とても楽しかったのでありがたく頂くことにした。


「いろいろ歓待戴きありがとうございました」


ドルニエットさんもバーバラさんも口々に「また来て下さい!」と言っていた。

「またそのうちに」と社交辞令を返すと「今日にでもぜひ!」と返されたので苦笑いするしかなかった。


ここは気持ちの良い空間だから、出来ればずっとでも泊まっていたい。

だけどここに連泊すると通り名が[便所の魔神]で固定化されそうなのでそれは避けたい。


シナリオ担当の人は、僕で遊びすぎだと思います。

絶対【GMコール】を習得してシナリオ担当の人に文句を言ってやろう!そう心に決めた。


ご飯を頂いて間もなく道場を出てきたが、町は朝から冒険者で溢れていた。

途中で広場を横断したが既に木の前には大行列が出来ていた。

【AFK】の経験値を見るのが恐ろしい。


冒険者ギルドも朝からなかなかの賑わいだった。

けれど、増えたカウンターのせいかそれほど混乱はしていなかった。

カウンターはよく見ると初心者用と書かれた札が立っている左側の2つに講習受付という札もついていた。

素直に左側の端っこのカウンターに並んだら、前の人達は店の所在を聞いているだけだったので間もなく受付の番が回ってきた。


「講習会を受けたいのですがどうすれば良いでしょうか?」

「講習会ですね。そちらの階段から2階の講習会場の部屋に直接入って待っていて下さい。

ルームAが【生活魔法】、ルームBが【調理】、ルームCが【清掃術】、ルームDが【裁縫】になります。

部屋に入る際に料金を徴収しますので、部屋をお間違えないようにご注意ください。

朝は間もなく8時から、2つめの講習は10時半からになりますので、開始前にお入り下さい。

廊下に一週間の講座の予定と料金が張り出してありますので、確認してご参加ください」


彼女はいつも紹介しているようで言い淀むこと無くそう説明してくれた。

マリアンヌさんに聞いた事前情報通りだった。


「それから隠蔽系のスキルが習得出来る講座があると伺ったのですが?無くなってしまったのでしょうか?」

「そちらも2階の廊下に張り出されておりますが、週末が冒険者向けの上級講座になっておりまして、そちらで受けられるようになっております。

ただ、そちらは受講資格が冒険者レベルが2以上となりますので、ご注意ください」


良かった。講座は無くなっていなかった。マリアンヌさんは冒険者には見えなかったので知らないのかもしれない。

【冒険者カード】のレベルがβテストで上がっていたのが幸いした。

受付の彼女にお礼を言って階段から2階に上がった。


2階の廊下には小学校の時間割のようなものが張り出してあった。数人がその掲示を見ていた。

大きな字で『スキルの取得は保証しませんので、考慮の上申込みください』と書かれていた。

絶対習得できるというわけでは無いようだ。

近づくと時間割には料金の他に講師の名前や注意事項も書かれていた。

一日4つ枠が用意されていて、開始時間は8時、10時半、13時、15時半にそれぞれ設定されていた。


ええと午前中の生活系スキルの講座は……【生活魔法】の受講料は1万ヤーンらしい。

まだ8時前だったので、2枠受けられるようだった。せっかくなので【調理】も覚えよう。こっちは8千ヤーンだ。


午後の冒険者向けの講座は、コータさんに連絡しろって言われてるから【ウィスパー】は覚えたいな。

【解体】は既に覚えたから不要だ。残りは武器整備と防具整備が受けられるのか。

武器整備と防具整備は曜日で日替わりで、月曜日が【刀剣整備】と【金属鎧整備】、火曜日は【槍整備】と【革鎧整備】といった具合になっていた。


今日は水曜日らしい。時間割の上に大きな印が付いていた。

日替わりメニューは【盾整備】と【鱗鎧整備】だった。

盾は武器扱いなのか、ちょっと認識してなかったので面白い。

僕が参加したいのは月曜日の【刀剣整備】と金曜日の【布鎧整備】かな?ジャージは多分布鎧だよね?


注意事項を読んでいるとこう書かれていた。


『整備スキルは魔道具は修復できないスキルとなりますのでご注意ください』


うわーがっかりだよ。ジャージは魔道具だから適用外じゃないですか。

ん?まてまて、他にも書いてある。


『魔道具は自然回復能力がありますので故障時は暫く丁寧に保管することをお勧めします』


なんだって!勝手に直るのか!

僕の持っている装備は短剣と鉄球以外は魔道具だ。ありがたい。


週末の上級講座は予約制の講座だった。

掲示されている講座の説明の横に小さめの黒いプレートが用意されていて冒険者カードを翳すと予約できた。

一枚の掲示に4つづつプレートがあってそれぞれ開始時間が8時、10時半、13時、15時半の予約用だった。

但し書きがあって『予約状況によって時間が変更されることがあります』と書かれているのであくまで希望を伝えられるだけか。

もう流石に驚かなかったが、こういうところまで本当に良く出来ていると感心する。


偽装系のスキルはいくつかあったが、通り名を隠すようなものは見当たらなかった。

まずは【能力値隠蔽】【スキル隠蔽】を申し込んでみた。一つあたり2万ヤーンだ。

他には【罠察知】【気配察知】【体術】【瞬発】【再生】【インタープリター】その他にもいろいろあって、冒険者としての基本技能は一通り用意されていた。

覚えられる保証は無くても教える場があるというのは素晴らしい。


8時が近づいてきたので僕は【冒険者カード】を取り出すとルームAに入った。

早朝なのに、既に30人ぐらいが席についていたがジャージ姿は僕だけだった。


そうか。普通はジャージの支援があるんだったな。


次話「8 最新魔法はご都合主義に溢れている」

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