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ex3 後輩プレイヤーの不思議

前回あらすじ

 ギンタークさんがユーキに絡まれた

「みんなで合宿すんぞ!!」


所属するオリエンテーリングサークルの部長がそう言った。

先日みんなで合宿しよう!と盛り上がったときにも彼女はいつもこう言う。


「資金が足りねえだろ!日帰りだ日帰り!」


そんな康子がどういう風の吹き回しだろうか。


「なんだよ!そんなことかよ!」


松下君が憤慨してるのも分かる気がする。

なんでも最新式のゲーム機でリアルな体験が売りのゲームが発売されるらしい。

そのゲームを利用してオリエンテーリングサークルの合宿をしてみようということだった。

スキルクリエーターズワールドというそのゲームは8月からスタートらしい。


でも、私はちょっとわくわくしてしまった。

見せてもらった映像が本当に自然の中にいるようだったから。

私がオリエンテーリングサークルに入ったのも自然が大好きだったからだ。


何となく先輩に副部長を指名されて続けてきたけどこの合宿は成功させたい。

ゲーム機が高かったので康子と相談して、融資を募ってβテストというのに参加してみることにした。

元々ゲーム好きの子の中から4人が立候補してくれて6人で挑戦することになった。


情報に詳しい男子が噂をかき集めたところ、βテストは1回ログインしたらそれ以上出来ないらしい。

私達は期間を分けてログインしてみることにした。

前半が康子と松下君と文香で、後半が私と大和君と風祭君だ。


オリエンテーリングに丁度良い山を探したり、コースを決めたりするのが大きな狙いだ。

既にβテストは始まっていて、7月30日には一旦終わるらしい。

7月26に前半組が挑戦して、7月27日にその感想を聞く会を開いて、7月28日に後半組が挑戦することになった。


―――――――


7月27日に待ち合わせのファミレスには康子と文香の2人が現れたけど、二人ともすごい勢いだった。


「森が!!凄いのよ!ちょっと危ないけど!!」

「あの動物かわいかったなー。マッツがねじ切ってたけど」


なんか後半がちょっとおかしいけど、凄く良かった。それが伝わる2人だった。

それから、一日ゲームしてきただけなのになぜかちょっと言動が大人びた気がする。


不思議だったのは3人の呼び方が変わってた。松下君のことを二人ともマッツって言うようになってたし。

あの内気な文香が康子のことを「ヤスがさ~」と良いながら肩をバンバン叩いている。

康子も元来の勢いで文香のことを「フミカがさ!」とやっぱりバンバン叩いている。


二人が言うにはゲームの中で数年一緒に過ごしたらしい。私達は半信半疑だった。

でもゲームしていた時間は実際には6時間ぐらいだったそうだ。私だったらトイレが厳しいと思う。

トイレ大丈夫だったの?と聞いたら二人とも苦笑いしていた。


なんと松下君はまだゲーム継続中なんだって!ゲーム好きの彼はおむつを履いてゲームに挑んだらしい。

ちょっとそれは無いわ。話を聞きに来ていたサークルの仲間はどん引きだったけど、2人の話を聞くのはものすごく面白かった。


曰く、康子が作ったハイキングコースが凄い立地のお城を経由するプランで一週間がかりで踏破したとか。

お城に寄ったら吸血鬼が出てきてしまって松下君の泥攻撃で固めて倒したとか。

松下君はゲームの中では[泥沼]って通り名を自分でつけてるらしい。変なの!


いきなり6時間で数年分経験して混乱しないの?って聞いてみたら、何でか平気みたい。

こっちの世界の記憶とゲーム体験の記憶が分かれているような感じがするって言っていた。

うーん。英語が得意な人が英語で考えるというけど、そういうものかしら?


2人は【ログアウト】というスキルの取り方を教えてくれた。

とても大切なものらしいけど、本をよく読む必要があるらしい。


あと、私が魔法使ってみたいと言っていたのを覚えてくれたみたいで、魔法使いに入門する方法を教えてくれた。

町には隠れた場所に魔法使いギルドがあって、入門条件を満たすと魔法を教えてくれるようになるんだとか。


話は終わりそうも無かったけど、ちゃんと体調を整えてから始めた方が良いという2人のアドバイスに従ってその日は早くに解散になった。

一緒に話を聞いていた後輩の畑山君は今日、このままゲーム機買ってきます!!と凄い勢いだった。

28日になって私はゲーム機の前でずっとそわそわしている。

午前中に用事があるのでという大和君と風祭君との待ち合わせは午後からだったけど、待ちきれなくなっていた。

そうして、私の冒険が始まった。何がとは言わないけど、準備もばっちりしたわ。


―――――――


「ちょっとヒロシ!!ちゃんと止めてよね」

「悪ィ。見逃した」


私達もお互いに呼び方が変わっていた。もうベテラン冒険者の一角だ。

私は結局、我慢出来ずに午前中からログインしてしまったのでこちらの世界では3年も先輩だ。

まだゲームを続けていた松下君と暫く行動を一緒にするうちに魔法使いの試練を手伝ってもらった。


このゲームは凄い不思議だ。町の人達がイキイキと生きている。

森や山も青々として自然の臭いが深い。

ちょっと魔物が出てくるのが玉に瑕だけど。さすがにもう慣れた。


しばらくは4人で遊んでいたが、マッツの状態異常が尋常じゃなくなって【ログアウト】していった。

最近は3人でそろそろゲームから出ようかと相談することが多くなっている。

コツコツと準備したオリエンテーリング用のコースも初級編から上級編、エクストリーム編まで揃えて十分なラインナップになった。

皆で話し合い、始まりの町に戻ってそこでログアウトしよう。そう決めた。


久しぶりに寄ったビガンの町が変わらないことになんだか懐かしい気持ちを抱きつつ町を巡っていると、公園でβプレイヤーに出会った。

ユーキさんはなんでも今日初めてログインしたらしい。

今日はβテスト最後の日だったはずだけどいろんな人がいるんだなと思った。


夜はβテストの初日に泊まったキンブリー亭で久しぶりの鼠料理を堪能していたら、昼に会ったユーキさんがやってきた。

黙って見ていると……やっぱり!水洗浄魔法の洗礼を浴びていた。

ふふ。本当になつかしいわ。

ヒロシが大笑いしてる。ちょっとやめなよ!!


ユーキさんとはゲームの主にスキルの情報を交換した。

このゲームは世界が広すぎるのでβプレイヤー同士が中々会わなかったりする。

ご飯を食べながら、久しぶりに会う後輩プレイヤーにいろいろ聞かれてとても楽しかった。


一日空けて、3日後のお昼に公園でユーキさんを見かけた。

彼はキョロキョロしながら公園の大きな木に近づいて……あれは!ちょっとやめてほしい。


「おいおい!ユーキっち!そりゃいかんスよ」

「ちょっと、何声かけてんのよ!」


いきなりヒロシがユーキさんに話しかけた。静止してももう遅い。


「え?なんですか?」

「この世界、公衆トイレは充実してないけど、さすがに町の真ん中はちょっと」


ヒロシがユーキさんを追い詰めていく。


「ち、違いますよ!!水筒の水が余ったから水やりしてただけですよ。」

「いやいやいや、その慌てようは怪しいス」


あれ、本当だ。彼は右手に水筒を持っていた。

その後もヒロシが彼を問い詰めていくが、明らかにそういうことじゃない。


「おおおおおーー!」


ユーキさんも急に大声を上げないで欲しい。

恥ずかしい!ちょっと止めて欲しい。そんな風に思っていたら、現地の人に囲まれてしまった。

後で3人で一緒に謝ってユーキさんには許して貰えた。

あんな雄叫びを上げるほど我慢してたなんてそっち方面でも悪いことしたな。


―――――――


翌日、お詫びを兼ねて何か手伝えることは無いかと聞くと、ボスモンスター討伐を受けていると言い出した。

何度も聞き直したけど嘘は言っていないようね。

何より、冒険者レベルが2でボス討伐クエストが受けられるようになっていた。

ちょっとこれはいくら何でも早すぎる。

私達はマッツがいたので1年ぐらいで受けられたが、それでも凄い早いと言われていた。ユーキさんはまだ一週間経ってないはずだわ。


失敗してもしょうが無い。経験だよねと3人で示し合わせてボス討伐に行くことにした。

いろんなやり方を教えるつもりで馬車を手配して移動してみることにした。

私達もマッツに手配してもらって何度か使ったことがあるけど、最近じゃ自分たちの足で歩く方が早いから久しぶりだ。

ヤマトと私が【騎乗】スキル持ってて良かった。


「狼だ!囲まれてるから気をつけてっ」


ヤマトの号令で私達はいつものように戦闘のスイッチが入る。

道中は軽い魔除けがかかっている馬車のおかげで順調だったがヴィッセルの森で狼に遭遇した。

これはボスモンスター討伐中に遭遇する中でも大ハズレのイベントね。


初心者のパーティで挑んだらここでクエストは失敗になるところよ。

私達でも戦い方を間違えると危ないこともある。油断せずに馬車を守るしかない。

ユーキさんをこんな所で死なせたら先輩としての面目が立たないわ。


長期戦を覚悟しつつも魔法で相手の動きを奪っていく。

風魔法で的に部位欠損を起こせば戦闘が楽になる。


ぴゅん!後ろからなんか飛んできたと思ったら狼の頭が爆ぜた。

あれ?誰か助けに来てくれたのかな?その割にはかけ声が無い。


ぴゅん!また狼が一匹倒れる。馬車の方から飛んできているようね。

そっちを見るとユーキさんが神妙な顔をしながら右手を前に持ち上げている。

何をやっているか分からないけど、私達が手薄なところに居る狼はぴゅんと何かが打ち出される度に倒れていった。


戦闘はあっけないぐらいにすぐ終わった。

ユーキさんは「大変でしたねぇ」なんてとぼけているけどはっきり言って異常よ。

急いで敵を【解体】したけど彼が打ち出した武器らしきものは何も出てこなかった。


気を取り直して森を急ぐ。

流石にあのレベルの魔物の集団との遭遇は運が悪かった。もう無いだろう。


「ゴブリンだ!遠巻きから囲んで居るぞ!」


ヤマトの号令は非情にも再びの敵の襲撃を告げた。

よりによってゴブリンよ。ヴィッセルの森では上から数えた方が早い驚異との遭遇に緊張が走った。


ゴブリンは数多くスキルを持つ敵で、何を持っているか確認するまで油断出来ないのは常識だ。

しかも藪の後ろにもまだまだいる気配がするわ。

ヒロシとヤマトが必死に前線を維持しているので、私も負けずと【火魔法】をお見舞いする。

何度も練習した森の中で火を付けない戦い方だ。


ぴゅん!ゴブリンの頭がはじけた。ヒロシの剣をはじき返すヘルメットを何も無いような勢いで貫いていた。

ぴゅん!ぴゅん!恐ろしい勢いでゴブリンが倒れていく。


ああ!!あそこにゴブリンメイジがいるわ!!

ヤマトも気がついたようだけど、藪が邪魔で近づけない!

ヤマトも前線に出ているので弓を持ってなかった。


ああ!何か詠唱しているわ!これはまずい!……ぴゅん

切り札を見せることも無くゴブリンメイジは倒されていた。


ユーキさんはガンナーとかなのかな?

【銃術】は銃社会から日本に来ているようなプレイヤーにしか習得できないと聞いたけど、ああ見えて帰国子女とかなのかな?

でもどこにも銃らしいものを持っていない。謎は深まるばかりね。


あっさりと戦闘が終わり、森を抜けたので休憩を挟むことになった。

【グリフォン】との戦いは長期化することも多いからね。

ユーキさんがどこからともなくサンドイッチを出してきた。

キンブリー亭のお弁当らしい。ヒロシが手を付けたのを皮切りにごちそうになることにした。

キャンプの準備もちょっと手間がかかるしね。


好きだけど冷めてるのはなぁ。どうかなあ?そう思いながら食事を眺める。

スープも……スープには湯気が立っていた。

「そ、それは結構あったかそうね?」


【インベントリ】に入れたご飯は時間と共に冷めていく。βテスターの中で有名な話よ。

というか今日のイベントの報酬が【インベントリ】だったはずだけど……。

ご飯は普通に温かくて美味しかったわ。


どんどん謎が深まる。ヤマトと情報交換したけど溝が埋まらない。

「火魔法?いや、念動魔法で揺らして?」

「違うでしょ?【インベントリ】がまだ未習得だから……」


ごちそうしてもらったのもあってちょっとどうしてなのか聞けていない。

そろそろ【グリフォン】に挑む時間だ。


山を見ているとまっすぐに敵影が近づく!あれは……間違いない。グリフォンだ。


「来たよ!集中して!」


ヤマトから号令が飛ぶ。集中しても飛んでいる魔物に魔法を当てるのは至難の業なのよね。


まっすぐ向かってくる!…...ぴゅん。ユーキさんの手元からまた何か飛んで【グリフォン】の羽根にあたったように見えるわ。

というか羽根がもげていた。あれはそんなに勢いのある武器なの?!!

【グリフォン】は真っ逆さまに落ちた。あんな可哀想なボスモンスターははじめて見たわ。


「ケエエエエエエエ――――――!!!」


だけど流石ボスモンスターだけあって、まっすぐにこっちに向かってきたわ。

【グリフォン】は落下した分だけ、弱ってる気がする。ヒロシ!がんばって!!

ヒロシの武技(アーツ)【鉄壁】が発動して「ドーン」という音と共にグリフォンを食い止めた。


良かった!でもこんなに近くじゃ魔法が使えない!どうしよう?!

ふとユーキさんを見ると黒い玉を持っていた。

ものすごい顔で【グリフォン】を睨んでいる。ちょっと【グリフォン】より怖いかもしれない。


「ドゴーーーーーーン!!」


恐ろしい音がして飛び跳ねてしまった。みんな大慌ての顔をしている。

ユーキさんの手元の黒い玉が無くなっていた。そして【グリフォン】はバタリと倒れた。


ユーキさんはなんかおかしい。それは確実だ。

だけど私達の経験の中に彼のやっていることの答えが無い。先輩なのに。

今日はほとんどユーキさんの活躍で終わった。私の良いところほとんど無かったわね。


―――――――


ほとんど無言で町まで帰ってさっさと精算してキンブリー亭に集合した。

ヤマトも何も言ってないけどあれはなんだ?!そんな顔をしていた。


いろいろ問い詰めてみたがユーキさんの話はほとんど意味が分からなかった。

私達とは別のゲームをやっているようだった。


ユーキさんは既に【風魔法】を持っていた。

私が【風魔法】を取るために、何度も神殿のような場所に通ったときの、風を感じるために一日中風に吹かれた経験は何だったんだろう。

途中何度も風邪をひいて中断する羽目になったりといろいろ大変だったんだけど。

マッツが苦労して取ったという【念動魔法】まで持っていた。


ユーキさんは固有スキルというカテゴリのスキルを持っていた。

私達はいつのまにかこのゲームを型にはめて狭い世界で遊んでいたみたい。


ユーキさんのスキルはとても自由だった。ゲームだっていうのに私達はなにをやっていたんだろう。

あの森を、山を、湖を見たときの感動はどこにいっちゃってたんだろう。


ユーキさんは普通のスキルの使い方も自由だった。【ステータス】があんな風に使えるなんて誰も言ってなかったわ。

彼に調べてもらったら、念願の光魔法もそろそろ覚えられるって分かって嬉しかった。


オリエンテーリングサークルのみんなに話したいことが一杯できちゃった。

経験からスキルが発生する。彼はそんなことを言っていたわね。

私の経験がどんなスキルに繋がるのかしら。今から楽しみだわ。


でも、自分の経験から……【金玉飛ばし】は無いわよね!ふふっ

本日と明日は9時と21時に番外編を更新し来週から2章。

次話「ex4 異界神アンネの悩み」

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