3 ゲーム世界のメダルがすばらしい
前回のあらすじ
ステータスがスキルだった。鼠倒してメダルを拾った
突然だが、僕の趣味はメダル収集だ。
生活圏では同好の士は居ない。
見たことの無い意匠のメダルに出会う体験のために生きていると言っても過言ではない。
小さな盤面に意匠を懲らして挑んだ努力と工夫の成果に触れると魂が震える。
エラー硬貨には興味は無い。綺麗なメダルであれば、可能な範囲で収集した。
メダル好きが高じてオリンピックの金メダルを目指したこともある。
高校生の頃に銃で撃ち合うタイプのゲームを題材にしたeスポーツがブームとなった
大学生の頃にはeスポーツに実際のARデバイスを組み合わせたARスポーツという分野が注目を浴びた。
いつかARスポーツはオリンピック競技入りすると思った僕は迷わずその世界に飛び込んだ。
そのARデバイスをメンテナンスできるようにと、大学では機械制御を専攻するほどの入れ込みようだった。
eスポーツで培われた操作性と派手さに加えARデバイスの迫力で画期的な試合が期待された。
そして、2032年にはついにオリンピック競技となった。
――――
ARスポーツは課題を抱えていたため普及に難航した。
後にその課題が解決されて、オリンピック競技となった。
多くの人が知らないことだが、このオリンピック競技となったARスポーツの形は2026年には完成していた。
当時の協会がルール変更に難色を示し、旧式のARスポーツが続けられたのだ。
結果として2028年のオリンピック競技には選ばれなかった。
ARスポーツはARデバイスを動かして対戦する競技だ。
ARデバイスはジャイロモーターが仕込まれた金属の玉で、これを特殊なフィール上で動かしてぶつけ合う。
課題はARデバイスだった。旧式のARデバイスは地味だった。
どんどん現実を離れて進化するeスポーツに比べると地味だった。
eスポーツはあくまでも一人称視点のシューティングゲームを拡張したものであったため、ARデバイスは金属の玉を一つ制御するものだった。
機動性はどんどん改良され、操作感は向上したが、やはり地味だった。
心ない観戦者は見た目が地味な競技を「金玉飛ばし」と揶揄した。
当時大学生だった僕はARスポーツで金メダルをもらう可能性に燃えていたため、
地元の勇であるメダル製作企業の山本微章への就職を断念した。
そして、ARスポーツ専用のARデバイスを作っていたベンチャー企業に飛び込んだ。
――――
入社後3年をかけて、一人称視点シューティングの呪縛からの脱却を目指した。
既存の視点を捨て、一人で複数の金属を、複雑な軌道で制御できる新しいARデバイスを作った。
意気揚々とARスポーツの業界に売り込んだが全く売れなかった。
複数デバイスの同時制御操作が当時のトップ競技者にも難しすぎたのだ。
没頭して作っていたので僕には簡単な操作だったのだが、操作系のセオリーを変えすぎたせいだろう。
多くの現役選手が操作への適合をあきらめ、協会にマイナスキャンペーンを張ったのだ。
売れない商品を大量に作ってしまった僕は『現場の声を聞いてこい』と営業職に配置転換された。
古巣の大学を中心にOB面して、若者に新型のARデバイスを売り込んだ。
元々eスポーツは度重なる操作系の変更が常の無茶な操作を要求されるスポーツだ。
それを元にしたARスポーツに従事する若者達は新しいARデバイスも簡単に操作した。
若者には見た目の派手さも受けてあっという間に受け入れられていった。
新型のARデバイスは若者発信であっという間にARスポーツ界を席巻した。
日本から世界に広がり、弊社は一躍有名企業となった。
元々は上司も売れると見込んでいたため、先行投資気味に大量に生産してあったのが幸いした。
連日舞い込む受注に周囲もほくほくだった。ボーナスが毎月出た。
普段は電子マネーしか使わない僕は、連日学生巡りをしていたため預金残高を確認していない。
いくらもらったか見てないが、同僚が興奮して喋っているのを聞く限りだいぶ出たらしい。
「風俗に毎週行っても余裕だよ!!かよちゃんに予約するぞー!」
どんな基準だよ!相場も知らねーよ!
残念ながらかよちゃんは知ってる。やたらとお店の紹介ページの写真を見せられるから。
っと、脱線した。
弊社が抱えていた大量の在庫はすぐに品切れとなった。
自分が開発を離れて暫く経っていたが、生産ラインが既に撤去されていたため再構築中らしい。
すぐには生産の目処が立たず今回の長期休みとなったのだ。
僕が作った商品が世間に受け入れられ開発者冥利に尽きた。
しかし、当初の目的について困難が僕を待っていた。
金メダルへの道が絶たれてしまったのだ。
自分で作って自分で広めたARデバイスであるため、オリンピック参加資格が得られなかった。
世間的には成功したんだろうが、僕は失敗した。
結構なボーナスをもらったようだが、競売に流れた金メダルを獲得するほどの額は無いだろう。
――――
久しぶりに未知の出来の良いメダルに出会ってフラッシュバックしてしまった。
しかし、これは予想以上に楽しみになってきた。
このゲーム世界でもメダルのコレクションは出来るんだろうか。
僕は拾った騎士のメダルを強く握りしめた。
次話「4 普通のスキルがやってきた」