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16 打ち直される体

前話のあらすじ

 ユーキは剣の従者(ルニート)魔の従者(ゾルラルル)に慕われているようだ。

一の段の生活は淡々と積み上げられた。

雑魚寝の宿舎にも慣れた。


夜中の小イベントもあった――


衝撃に目が覚めると、意外に寝相の悪いラルの寝顔が目前に迫っていた。

可愛らしい寝息に招かれて上下する胸元が目に入る。

自然と肌に目が行く自分の行動に慌てて寝返りを打つとルニと目が合う。


『お、起きてるの?』

『はい…ユーキ様の気の揺らぎを学んでいました』

『なにそれ?』

『綺麗な気の揺らぎは武技(アーツ)の研鑽に必要なものです』


ヤバい。

全然意味が分からない。


『……ルニは凄いね』

『ありがとうございます』


褒めてないのに感謝が帰ってきて困惑した。

微笑むルニの唇が月明かりに映えるのを見て、頬が熱を持つ。

誤魔化すように仰向けになってみたものの、心音が五月蠅くて寝付けなかった。


船上で目覚めてこちら、彼女達の仕草でどきりとすることが増えた。

少なくともヘルムートにいる間は野宿でも動揺せずにいられたのに。

アバターの体年齢に応じて気分が若返っているのか。

シヌメラキさんの言う呪いの影響を受けているのかもしれない。


日常も非日常も積み上げられていく――


毎日起きて、掃除し練武場へ向かい、修験者生活を見て学びながら練武場のゴミを拾う。

定刻になれば宿舎から他の修験者を叩き出し部屋を清める。

中段の食堂に手早く朝食を取った後、いつも通りの奇襲と組み手による鍛錬を行う。


週末には二の段への試しの儀が開催される。

試しの儀では選出(・・)された資格者が二の段の門番と試合うのだ。

結構な勢いで返り討ちに合っていたのだが凄く盛り上がった。

門番は三の段所属の修験者が持ち回りで担当し、負け方が良ければ昇段となる。


見習い期間を終えたルニとラルも選出され試しの儀に挑んだ。

可哀想な程に打ちのめされた門番を見てルニ達は二の段へと昇段した。

彼女達の昇段は修験者達を大いに盛り上げた。


――そして、僕はまだ一の段にいる。


「ぐぁっ」


少し意識が飛んでいた様だ。

浮遊感の後、背中に衝撃。そして、転がった。

蹴り起こされたようだ。


脇腹が痛い。

だけどこれで良い。

鈍痛が収まるのを待たずに立ち上がり、ニーラズルさんに体を向ける。


多くの修験者の集まる鬼ヶ島(スートヘル)は人種の宝庫だ。

体の大きい種族も居れば、小さい種族もいる。

ニーラズルさんは髭人の例に漏れずガッシリとしていて、背が低い。

的は小さく、当たりに強く、一撃が重い。


臑や脇腹の痛みが【再生】で収まっていくのを感じる。

全体を俯瞰すれば【気配察知】で踏み込む足と繰り出す拳の気配を拾い、

【魔力視】が体内の魔素の動き、即ち気力の気配を拾う。

動き出せば【視力強化】が腕の角度から稼働域を読み、

【瞬発】で即応した体の動きを【体術】がイメージに近づける。

【回避】が射線を活かした体の動きを作り、

【受け流し】がニーラズルさんの拳を微小の力で泳がす。


そこで力が爆ぜる。

受けたニーラズルさんの拳は受けきれずに尻餅をついた。


「あー、そうじゃない」


違う。今の僕のテーマはスキルを意識下に置くことだ。

無意識化でもスキルはそこそこ活躍してくれる。

但し、スキルレベルは能力の最大値だ。

全ての挙動に最大の能力が活かされる訳では無い。

意識することで、現在どのぐらい使えているかを知る。


自分で考えた訳では無い。

定期的に診察に訪れるシヌメラキさんの治療方針である。


あの時言われたことは――


『ユーキさんは立っている時、スキルをどう使われてますかな?』

『どう?あんまり意識してませんね』

『ふむ。まずはそこからですわいね』


呪い状態を解消するために内面を鍛えるように言われている。

ここに来たからには【体術】【拳術】【蹴術】を中心に鍛えれば良いのだと思っていた。


ちょっとだけ、それは間違っていた。


僕はワイザーに襲われた結果、内なる力、即ち、身体強化系のスキルはそこそこのレベルらしい。

新たにレベルを上げるのではなく、使いこなすことが近道だと言う。


『へえ、そうなんですか』

『普通は言われずともそうなるのよ。面白い子だねえ』

『いろんなスキルを使った方がいいんですかね。同時に五つぐらい』

『せっかちさんだねぇ。一つずつにしときなさいな』

『……はい』

『うんうん。良い子だねぇ』


だから、今は一つずつ使うのが肝要だった。

順番になんて欲張るのを辞めようとしたのに意識が飛んだら忘れてしまっていたようだ。


よし。


「もういっちょ!」


ニーラズルさんと相対する時はそうじゃない。

もっとシンプルでいいのだ。

【打撃耐性】で受けて、【拳術】で殴り返せばいい。

支える土台が足りない今は、スキルよりもステータスを鍛えるべきなのだ。


「ええ心構えじゃ!ッセイ!!」

「ぐえええ」


痛い。痛い痛い!でも大丈夫!

ちょっとした武人なら筋力500を超える髭人の一撃でも耐えられる!

【打撃耐性】ありがとう!


「どっせい!」


僕だって筋力は400超えている。

使いこなせていると思えないが【拳術】のレベルは10もある。


かけ声を追い越して「どっせい」の「せ」で拳がニーラズルさんをはじき飛ばした。

体幹の安定した髭人だけあって滑るように後退した後、膝を突く。


「ううむ。ここまでじゃ」

「ありがとうございました」


深々と頭を下げて顔を上げれば足が迫っている。


「ゼィアー!」

「ちょあー!」


数日鬼ヶ島(スートヘル)で過ごせば奇襲攻撃があって当然となる。

戦い終わりに備えるのは当然。

残心の大切さを叩き込まれている。


飛び込んだ蹴り足はファニーズさんのものだ。

蟲人種の中でも機敏さに長ける飛蝗人(ロカシャン)で弾けるような蹴りが主体の修験者だ。


彼との応対は【受け流し】や【回避】を鍛えるチャーンス!

しっかり【受け流し】て【蹴術】で返す。

【回避】で躱して【蹴術】を差し込む。


緩急が付いた蹴り足の機を逃さず流すのは結構難しい。

かけ声に出てしまったように、ちょっと流しそびれた。


右腕が痺れている。

それが良い。修行を積み上げていることを実感できる。


「死ね!」


突き刺さるような気迫の籠められた回し蹴りに体を落として躱しながら足払い!


「あがっ」


綺麗に決まりすぎて横倒しになるファニーズさん。

空振りした彼の回し蹴りが地面を叩き、砂利が飛び散った。


「終わりだ。終わり!」

「ありがとうございました」


今度は後ろから来た!

礼の間の一幕だけで【気配察知】が磨かれている。


僕はとても恵まれている。

贔屓されていると言っても言い。

ワイザーの紹介状にあった『よしなに頼む』は驚く程の効果を発揮していた。


多くの修験者が優先して稽古を付けてくれるのだ。

修練場では相手を求めても断られることだってあるのに。

わざわざ頼まなくても組み手をしてくれるのがありがたい。


僕に被る影から上段からの攻撃だと分かる。

この高さと影はディクシブさんかデムザザンドさんのどちらか。

今度は再び【打撃耐性】だ。

ならば、上段からの回し蹴り!

くるりと回って十字受け――って違う!


「ちょっとまっ、ぐ」


目の前に迫った黒い固まりを受けてすっ飛んだ。

ゴロゴロと転がり体を起こすと今度は見えた。


「喰らえやー!」


相手はディクシブさんで合ってたけれど、膝を曲げての飛び込み。

さっきのもこれだったのか!

ただ、まだ距離が――。


「ぶっ」


無かった。

びゅんと伸びた足が一瞬で届く。

ディクシブさんの二撃目が腕越しに顔面を捕らえて僕は縦に回転した。


頭を振って意識を前に向ける。

周りの支援に嬉しくなって自然と口元が緩む。

既に立ち上がっていたディクシブさんも口元がニヤリと吊り上がる。


「いいね!すごくいい!ありがとう!」

「おっ、おう」


頬と後頭部に鈍痛を感じながら立ち上がる。


僕は今、鍛え直されている!

付き合ってくれる皆さんに感謝しながら、呪いと戦っている痛みを全身で感じていた。


いろいろ間違ってる。(>_<)


次話「17 泥沼先輩のゲーム講座」は多分きっと来週更新できると思います。(弱気)

話数が長くなってくると自分で書いた設定が首を絞めるぅ。


9:50修正 前書きでルビ使えたんだっけ…。前書きを修正。

    あと最後ニヤリとする所を間違って消していたので追加。ディクシブさんは引きつっています。


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