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13 鬼ヶ島の洗礼

前話のあらすじ

 ユーキ達は見習いとして鬼ヶ島生活の説明を受けた。【洗浄】使えないと掃除が大変らしい。

僕たちが寝泊まりするという小屋を出て、木立を通り、隣の建物を紹介されたその時だった。


「返事ィしろや!」


背後で急にバチッという音がした。

振り向くとツヨシャキさんの右手をルニが掴んでいる?


「これは何故(なにゆえ)に?」

「ここでは指導する者に言われたらすぐ返事をするものだ!」

「それは、失礼しました。……が、ユーキ様に無礼を働くに足りぬお答えでは?」


やっばい。ルニートさんが殺気づいている。

ラルまで、ずいっと前に出て臨戦態勢だ。


「二つ教えてやろう」


ルニが離した拳をこするツヨシャキさんを余所にアラルキさんが話し始める。

ツヨシャキさんの拳にはルニの指の赤い跡が見えた。


「ひとつ!先輩にはすぐ返事しろ!!」


おー。超体育会系ノリだ~。

それも、お年を召したお客様や先輩が酒の席になると嬉しそうに話す奴だ。

高校時代に隣の名門校のサッカー部がそういう事やって父兄に糾弾されてたなぁ。


「返事ィ!」

「「「はい」」」


あ、もう始まってた。

アラルキさんは右手の人差し指立てている。

ルニは覇気のある声で、僕とラルは淡々と返事を返す。


「ふたぁつ!島は戦場であると心得よ!!」

「「「はい」」」


返事をするや否や、ツヨシャキさんから拳が飛んできて、ラルが手刀で落とした。

なるほど。そういう仕組みの修行場なのか。

窓口のサリットさんが班長を殴ってたのもヒントだった?

彼らは戦場と同じように気を抜くなと教えてくれているらしい。


目を覚ましてからずっと日常だと思っていたけれど……。

橋を渡ったら非日常空間だったらしい。

あの橋はヘルムートにおける世界の裂け目(ヴァーデリス)と同じようなものか。


シヌメラキさんは内なる力を鍛えるために島に渡ることを勧めてきた。

彼女は身体スキルなら使って良いとも言っていた。

内なる力を鍛え直せというのは、身体スキルを鍛えろってことだとすれば、使っても良いというより積極的に使えって事か。


ちょっと最近は体調不良を理由に朝練に参加してなかったからなぁ。

しばらく意識してスキルを使って無い。


急に殴られるのは避けたいけど。

さて、使うべきスキルは……。

知覚するために使うのは【視力強化】【聴覚強化】【気配察知】ぐらいかな?

あと、避けるなら【敏捷強化】【受け流し】【回避】ぐらいかな。

迎え撃つなら【体術】【拳術】【蹴術】ってところだけど。


スキルを便りに知覚レベルを上げてみる。

ふーん、力が抜けていく感じは無い。なんとか大丈夫そうだ。


広げた知覚領域で、早速ツヨシャキさんを捕らえる。

彼は派手に足を蹴り上げるのが見えた。

あれ、当たるの嫌だなぁ。

でも、避けたら駄目なのかな?

ルニは迎撃してたし、避けるな!とか怒られそうだよな。


仕方無い。

弧を描く様に左から頭部に迫るつま先に右手を合わせて横に引っ張った。

【受け流し】スキルが働いているのが分かる。

ワイザーとの衝突で5から7まで上がったレベルは有効なようだ。


凄い凄い。

予め設定されたムービーのようにツヨシャキさんの体が流れていく。

ぐるっと回って、勢いよく転がって行き建物の壁に撃突した。


我ながら見事な動きだったと思うけど……。

体育会系であるならば、先輩格の彼らにしていいことだったはずがない。


誤魔化そう!


「ありがとうございます!!」


勢いで誤魔化そう。


「戦場の心構え、肝に銘じます!」

「そっ、そうだ!肝に銘じよ!」


アラルキさんが乗って来た。

よしっ!行けそうだ。

あとは、ツヨシャキさんは、と。


「貴様!しっ、神聖なる山に入る心構えがなっておらん!」


変な形で壁にぶつかっていた彼は頭を振りながら立ち上がった。

これは、駄目かも。


ん?どういうことなの?戦場なら……分からない。

もっときっちりトドメを指せって事なのか。


すごいな鬼ヶ島!

そんなレベルで技を競い合っていればそれはレベルの高い修行が出来そうだ。


「なるほど?」


いつでも行けるように【体術】スキルで体の振る舞いに意識を落とす。

どちらにも動けるように腰を落としすぎず、軽く構えた。


前に立つルニはツヨシャキさんに狙いを定めている。


「待て、なんだその態度は?」

「戦場の心構えです」


ワイザーみたいなのが突然来るかも知れないってことですよね?

おー、そう考えると二人だけに意識を向けるのも駄目なのか。


それにしても先輩方の腰が引けてるのが気になる。

まぁ、ルニとラルはちょっと腕っ節上げたみたいなので、アレを向けられたら僕だって怯む。

同じ見習いらしいので、他の人から襲われるとすれば可能性は同じじゃないのかな?


「待て待て、心構えを言ったまででまだ指導の時間ではない」

「あれ、そうなんですか?」


なんだ、意外と凄くないぞ鬼ヶ島。

オン・オフがあるなら普通だったな。


「それじゃさっきのは?」

「やはりユーキ様に無礼を働くには理由が足りませんね」


ルニが完全にやる気である。

僕の右後ろからラルが一歩踏み出す。

僕より小柄な彼女だが、踏み込みで地面が揺れた気がした。


「み、みーっつ!!見習いの折に先輩に指導されるは必定!」


三つ目?!

アラルキさんは堂々と指を三つ立てている。

ちょっと待って。さっき二つって言ってましたよね?


「はいぃ?」

「返事は?」

「ほら、二人とも」

「「はい」」


頭を下げたが、ルニの目は笑っていない。

ラルは……ずっと目を閉じているけど口元に不満げな様子が浮かんでいる。


一の段の建物廻りは続いた。

僕達は最初から分かりやすく警戒しているし、先輩方の案内もおざなりで空気が悪い。


鬼ヶ島には意外と木が生えていたが、汐風が厳しいせいか、海側の木は少ない。

山肌沿いにある緑の中に建物が建っている。


一の段は登山道に沿って3つの階層があり、下層には入山事務所以外は居住空間があって我々はこちらの掃除が担当だった。

中層には食堂とお風呂があり、こちらは専門の職人が常駐しているようだ。

建物の前を通っただけなので、詳しくは今日の夜からか。

上層には昇段試験を受ける際に使うという練武場と教官の詰め所があった。


各所を回れば、我々見習いではない先輩方とも出会う。


「おーす!小僧共!ようやく後輩が出来たか」

「お、新入りか!頑張れよ」

「なんだぁ、近頃は細いのばっかりだな。ちゃんと飯食えよ」

「おっ、あんたら出来るねぇ。怖い怖い」


声がかかる中を挨拶をして抜けていく。

アラルキさん達も見習いなので扱いが僕達と同様だ。

そんな雰囲気に飲まれて最初の険悪な空気は霧散してしまった。


「「戻りました!」」

「あら、お帰りなさい」


入山事務所に戻るとサリットさんが向かえてくれた。

班長さんも起きていて、何かを書き物をしている。

事務所まで案内してくれたガニヤルさんの姿は既に無かった。


「紹介状、読んだわ」

「ありがとうございます」


ルニが当然の顔で一歩前に出て対応をしている。


「あなたたち、試しの儀受けてここに来た訳だけど……」

「はい」


なんだろう、何か問題があったのかな?


「ガニアル君、ダルマース君、あと、ジャコバ君はぶっとばされ損だったわね」

「どういうことでしょうか」

「聞いたわよ。あんた達、彼らのことずいぶんと痛めつけたらしいじゃない」

「そうでしたか」


ルニの反応は、あれ、そうなの?である。僕も同感だ。

一発入れただけなので、それほどでも無いとおもうんだけど。

殺しに来るワイザーに比べれば可愛いもんです。

っと!!いつの間にかワイザー基準になってる!

これは駄目だ。


「最初にこれを見せればフリーパスだったのに」

「シヌメラキ師からは入山事務所で出すようにと言付かって来ましたので」

「じゃーしょうが無いわね」


試しの儀は受けといた方が良いという判断だったみたいだ。

じゃ、紹介状は他に意味あったのかな?


「中身を知らないのですが、他にはどのようなことが?」

「あなた達3人の簡単な紹介ね。そして、とりあえず五の段抜けるまでは稽古付けなさいってさ」

「五の段ですか」

「あなたとそっちのゾルララ……ちゃんはすぐだと思うわ」


ラルの名前言いにくいからなぁ。

僕も時々、ゾルラルラだったかゾルララルだったかとか悩む事がある。

正解はゾルラルルでした。同じ魔人族でもサリットさんは言いやすそうだからな。


それより言ってる内容が問題だ。僕だけ不味いことがあるのかな?


「見習い期間が終わるとね、試しの儀で見極めた段位に移るの、多分、あなたたちは少し上からになるわ」

「ユーキ様は違うのですか?」

「それが紹介状の中身ね。シヌメラキ師はユーキ殿は一の段から順に進ませろってさ。あと週に一度は診察しに来るってさ」

「そうですか」

「そうですかじゃないわよ。大変なのよ。だってシヌメラキ師なのよ?」


だっての後が分からない。

シャプリーンさんの伝手ではあるが、結構な人物だってことだろうか。

シャプリーンさんもそれなりの身分なのかな?


「まぁ、それは良いわ。班長が苦労するだけだから」

「そうですか」


良いのか!じゃあ何で言ったの?

班長はと言えば、何かカリカリと書いている。

インテリヤクザが書き物してると、不正請求な何かに見えるから不思議だ。


「それよりはこっちよ」


サリットさんは、机の上にを指さした。

油紙のような茶色の封筒が置いてある。


「おれもそれが知りてえな」


班長も筆を止めてこちらを向いた。

そこそこの威圧感を持って僕を睨んでいる。

ルニが応対してるのに、なぜこっち見たの?


分からないけど、荒事の予感がする。

改めて【気配察知】スキルに意識を通した。

次話「残念な紹介状」は来週更新予定です。


誤字報告ありがとうございます。

感想も、ブクマも誤字報告もみんな嬉しく受けとっております。

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