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9 内なる声に耳をすませば

前話のあらすじ

 体を治療してくれるという治療師シヌメラキさんと遭遇した。彼女は「呪い」だと言う。

診察台から見上げた視界には高い天井が見えた。

お洒落なカフェなどで見かけるような梁が丸見えの建造物だ。


視界に入る木目をぼんやりと眺めながら考える。


呪い。

ロールプレイングゲームでは定番の状態異常だ。

てことはつまり?


「ここ来るよりも教会行った方が良かったんですかね?」

「うーん。ここ来るのはええと思うけどね」


シヌメラキさんは思案顔でそう言う。

ということは、つまりここが教会?


「キョウカイが何かは知らないけど……」

「ん、あれ?教会って無いんですか?」

「それはどういうものか、(ババ)に教えてくれますか?」

「神様の教えを共有する所?とか、心の助けを得る所でしょうか?」

「であれば、尚のこと。ここに来るのが正解じゃね。ここは[健康神]ヘルマン様のお膝元だからの」


シヌメラキさんがいい顔で答えた。


神様……ああ、そうか。そうなるのか。

このゲームは神様は現存するタイプの世界観だったっけ。

となれば、呪いもここで?


「では、呪いを解いてもらって良いでしょうか?」

「まぁそのつもりじゃがな。そう簡単にも行かん」


ん?呪いを解くアイテムを取りに行くシナリオに入ったってこと?


「その前にじゃ、ちと余計な着物を脱いでくれるかね?」

「分かりました」


シャツとズボンを【インベントリ】に仕舞い、パンツ一枚になった。

ルニとラルの視線がちょっと恥ずかしい。


「まぁまぁ。恥ずかしそうにして、若いわねぇ」

「ははは」


服や体のケアが【洗浄】で、トイレシーンも【AFK】があれば済んでしまうため、意外に素肌を晒す場面は無いのだ。

二人はずっと一緒だったけど、そういった脱衣シーンを目撃するようなイベントは残念ながら無かった。

ヘルムートで衣類を買いに行く時は女性チームでまとまってたからなぁ。


「あと、そちらも一度しまってもらえるかしら?」


シヌメラキさんが示したのはベッド脇にピタっと止まって浮いている二振りの剣だ。

襲剣(しゅうけん)スカードス。これが無ければワイザーにもう一度倒されていただろう。

護剣パイスクス。盾のようなその剣は。いやその盾は?姿を変えてルニから返却されたものだ。

結構な頻度でしまって欲しいと言われるんだよな。


「えーと。片付けたいんですけど」


スカードスに手を触れて【インベントリ】に収納する。

一瞬消えるが、剣は再び同じ場所に現れた。


「こういう感じで戻って来ちゃうんですよ」

「あらまぁ。なるほどねぇ。まぁいいでしょ」


後発の2本の魔剣は素直に【インベントリ】に収まってくれるのにこの2本はダメだった。

あと、例のジョッキも今は【インベントリ】に収まっているが、食事時にはしれっと出てくる。

そこからのシヌメラキさんは無言で肩を揉んだり背中を揉んだりしている。

ちょっと痛いけど気持ちいい。

普通に良い感じのマッサージだ。


眠くなってきたけど……。

また無茶な展開にならないとも限らない。聞けることは聞いておこう。


「呪い……解けるんですか?」

「長えこと人の体を見ておれば、そういうこともたまにはあるでなぁ」

「長いことって千年ぐらいってことですか?」

「くくく、この婆をそんな若いのと一緒にしてもらっちゃ困るわ」


突っ込まれる前提で吹っかけたら、反応に難しい返事が返ってきた。

ワイザーの言い方だとワイザーより後輩で千歳よりも年上と。

幅がありすぎて分からないよ!

年齢の話題はやめよう。これは別の意味で鬼門だ。鬼ヶ島だけに。


「ふむ。大体分かったよ」

「直るんですか?それって大変ですか?」

「まぁまぁ。お茶を入れ直しましょ。服を着てこっちに座ってちょうだい」


装備は【イクイップ】で一瞬だ。

シヌメラキさんを手伝って茶器を運んでいった、シャプリーンさんに目が行ってしまう。

船ではスキルの多用を控えるようにと彼女が言うので【インベントリ】を使うと気になる。

一瞬で戻るのはレベルが上がって増えた【イクイップ】枠に今の服を登録してあるからだ。

ちなみに過去に登録していたジャージを【イクイップ】で呼び出してみたのだが、【森崎さん(クローク)】から取り出せなかった。


シャプリーンさんに湯飲みを並べさせると、一端座らせ、シヌメラキさんがお茶を注いでいく。

湯気から香る茶葉の臭いがずいぶんと心を落ち着かせてくれた。

よく分からない状態だったのが、少しずつ前進している。


「回復魔法ってあるでしょ?」

「え?はい」

「あれ、ぱっと直るじゃない?」

「ええ、そうですね」

「私はねぇ、怪我も成長のうちだと思うんだけど、古いのかねぇ」

「あー。失敗を体験するのも大事ですよね」


中断から戻ってきた途端、始まった話は何処に行くの?

そんな不安が顔に出ていたのだろうか。


「あらいやだわ。そうじゃなくて。これは呪いだけど、呪いじゃ無くて」


ん?むしろよく分からない。


「愛や祝福にあなたが負けちゃってるのよ」


そこ、詳しくお願いします。


「愛や祝福。愛は一番強いのはこの感じだとご家族ね。多分、お父様かしら?」

「え?!」


え?ここでお父さん?ゲームなのに?


「それから、そちらのお嬢さん方ね。他にもお嬢さんの気配がするわね」

「はい。助けて貰ってます」

「良く刺されれちゃう子がいるから気をつけてね?」


何そのアドバイス?

え?

思わずルニとラルを振り返るとちょっと困った様子だ。

ルニは刺さないと思う。ラルは、ちょっと雰囲気あるけど、大量の魔道具借りっぱなしだから刺されても文句は言えない。


「祝福はそちらの武器とこのコップからが強いかしら」

「あ、はい」


いつの間にか僕の湯飲みが指導の杯に入れ替わっていた。

湯飲み感が失われるけど、冷めないし、まぁこれ便利なんだよ。


「あと、その体に何かいろんなところから、それこそ世界からの祝福が強いわね」

「はぁ」


これはちょっと分かりにくい。

という顔が分かったのか補足が付いてきた。


「あなた【地球人】(アースリング)だからなのかねぇ。魔具神様や、異界神様、次元神様の気配が少しするわね」

「そういうのも分かるんですか?」

「ええ。この島の者達は健康神様の気配がとっても強いからあなたは際立ってるわね」

「へ~。そうなんですね」


すごい鑑定能力だ。

ヴァースの人が【ステータス】の代わりに使うのは【解析】だったっけ?

【ステータス】にはまだそういう表示は無い。

なるほどなるほど。愛と祝福が強い。

で?どうしたらいいんでしょうか?


「外なる祝いを己が力に変える強さを得なさい」

「えっとー。つまり、どうすれば?」

「肉体の力は己の力。それを鍛えなさい」


―――――――


木々に囲まれて涼やかな風が吹いている。地面は固く踏みしめられ、砂埃も舞いそうにない。

このゲームでは良くあるタイプの鍛錬のスペースが診療所の裏手にあった。


「ほら、そんなに慕ってくれてるのに。ちゃんと従えてあげなさい」

「なんか分からなくて【ウィスパー】みたいな感じじゃダメですか?」

「ダメよ。伝えるってことじゃなくて、その子達はあなたの中で繋がっているはずよ」


目の前に浮かぶ剣と盾が【インベントリ】に収まってくれない。

手始めに、これをなんとかすることから着手した。

【飛剣術】が使えないのはそう言うことらしい。

「体の内なる声に耳を傾けなさい」


姿勢を正し、脱力し、目を瞑る。


「心臓の音が聞こえます」

「それは入口ね。血と一緒に巡る気の気配は分かるかしら?」


気の気配。気とはどうやら体内の魔力の流れだ。

【魔力操作】スキルはまだ生きているので、先生の話によればちゃんと従えているということだ。

魔力の流れが体の中にを循環しているのは分かる。


「その子達と繋がっているのは何処かしら?」

「ええっと、腕?いや、手の先?じゃなくて、これは肩か?」

「あらあら。見えたのかしら。続けて」


【飛剣術】は魔力の腕で剣技を振るうスキルだ。腕から繋がっているのでは確かにおかしい。

イメージ的にも体との接点で言えば肩だ。

左肩にパイスクスとの繋がりを感じる。ぐっと盾を握る。

右肩にスカードスとの繋がりを感じる。しっかりと剣を握る。

腰を落とし、二振りの武器を構えると、2本との繋がりがいつもよりしっかりと感じられた。

武器から強い気配が僕にやってきて……。


「あれ?」

「あらまぁ、負けちゃってるようねぇ。さあさあ。もう一度、しっかり掴んであげなさい」


もう一度……。


僕の剣術のスタートはビガンの道場だ。

道場でやっていたように自然に構え、下腹に軽く力を入れる。

目を閉じ、体を巡る気の気配に耳を傾ける。

ゴロゴロ


ん?体の中を気泡が動くような気配がする。


ぐぅ~~~ぅう。


いい音が鳴ってしまった。


「あらあら、まぁまぁ。そろそろご飯にしましょうね」


まだすぐには難しそうだけど。

前進の気配に食堂に向かう僕の足取りは軽かった。

次話「10 修験の門が開く時」は3/18(月)の予定です。


早い進行にしたかったのですが、進行上二話に割りました。次週は更新できる見込みです。

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