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6 その成果は強者の元に

前話のあらすじ

 甲板の上でワイザーの捕ってきた獲物でバーベキュー。ギザベルさんが話しかけてきた。

「あの光る柱が目に入るかしら?」


ギザベルさんの発声は盛り上がってきた気分に水を差すものだった。

あれの影響で僕の【森崎さん(クローク)】は、そして、【メダル収集】は不通になっているのだ。

この椅子に座っているのもあれに目を向けないようにしているのに……。


「ええ。よく見えますよね」


彼女に当たっても仕方が無いのに自然と声は固くなる。


「遠く離れていても良く見える。凄いものでしょう?」

「ええ、まぁ」


僕の体調が悪い原因だという予感はあるけれど、本当の所は僕には良く分かっていなかった。

見た目が凄いかと聞かれれば、確かに壮大な光景ではある。


「あの光る柱、なんなんですか?」

「全くあなたは……。よろしい、教えて差し上げますわ」


少し得意げな彼女はぐっと胸を張る。

細マッチョ体系なので主張は弱い。具体的にはラルよりも慎ましやかだ。その分、ボディラインがとても綺麗である。

つまり、眼福だ。


「あれは世界の広がりを告げるものであり、神の息吹と呼ばれるものです」

「へぇ」


思ったよりも象徴的な名前だ。

これはグランドストーリーに関係ありそうだね。


「良く知られたものなのですか?」

「ええ、良く知られてるんだけど、以前に神の息吹が現れたのは6500年ほど前のことよ」

「へぇ!」


そんなにも貴重なものという設定なのか。

なにか、面倒くさそうなことに巻き込まれなければいいけど。


「6500年前っていうと……」

「そう!次元神ゲルハルト様が誕生した折のことですわ」


そうだ、G歴がゲルハルト歴だった。

視界の隅で【クロック】が表示している時刻にはG6587年と表示されている。


単にスキルが生まれただけではピカッとはするけど継続して光り続けるような柱は立たなかった。

ワイザーはレベル5で根を張り、レベル10で世界を割ると言っていたけれど、柱については何も言っていなかった。

5の倍数、レベル15で柱が立つと仮定してみても、僕にはまだレベル15のスキルは無い。

どういうことだろう?


「ゲルハルト様が世界に興したのは【解析】【回復魔法】【空間魔法】に加え【スキル隠蔽】などの隠蔽系スキルや【視線誘導】などの誘導系スキル、他には【次元断】などの武術系スキルがあったと言われているわ」

「へぇ、結構あるんですね。【解析】は【ステータス】みたいな奴ですよね」

「ええ、そうよ」

「沢山スキルが生まれたら柱が立つってことですか?」

「だいたい合っているけれど、少し違うわ」


うん。なるほど。全然分からない。


「そのスキルは【浸透】という分類として世界に迎えられたの」

「分類……カテゴリですか?」

「ええ、そうよ」

「ああ!【冒険者】カテゴリ!」

「ええ!そうよ!」


ということは【冒険者】カテゴリが生まれたから柱じゃなく、神の息吹が立ったってことか。


なるほ……あれ?

【回復魔法】【名前隠蔽】【能力値隠蔽】【スキル隠蔽】は持ってるけど、【魔法】カテゴリだったよ?


「あら?急にそんな顔して。ワイザー様のご威光にようやく気がついたようね!」

「いや、そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて何なのかしら?」


ちょいちょい被せてくるなこの人は。


「あ、あの。【回復魔法】って【魔法】カテゴリですよね」

「あら?良く知ってるわね。今では【浸透】として残っているのは【解析】ぐらいかしらね?」

「ええ?!そんなんでいいんですか?」

「いいのよ。例えば偉大なる魔神セルマ様の生んだ【魔力】の分類は今ではもうないけれど、それが問題かしら?」

「問題ないんですか?」

「世界を豊かにしたのよ?そのおかげで魔法が生まれたし、武技も生まれたのだから何も問題無いわ」


なるほど、問題、は無いのだろう。

あの柱が【冒険者】カテゴリが生まれた象徴ってことは分かった。

分かったけれど、次々に疑問が沸いてくる。


【成長】カテゴリが生まれたというアナウンスの時に柱が出てないのは何故か?僕の【ステータス】では【冒険者】カテゴリはむしろ順調だ。体調が悪いとはひょっとして関係無いのか?

そして、大事なことだけど、どうしてあれがワイザーの功績なのか?

ギザベルさんが答えられそうな最後の奴だけ聞いておこう。


「うーんと、それでワイザーの功績っていうのは?」

「私の話聞いてたのかしら?」

「ええ、聞いてましたけど、あの柱……神の息吹は【冒険者】カテゴリの誕生を象徴するものなんですよね?」

「そうですわ」

「【冒険者】って分類はどう考えてもアンネ様の管轄ですよね」

「当たり前じゃないの」


やばい。この人話しずれぇ。

自分の中でだけ成立している理屈を相手も分かっている前提で話すお客さんは多い。

この場合、粘り強く教えて貰うしかないんだよね。


「ワイザーの功績って所を、もうちょっと教えて貰えますか?」

「ワイザルド様がアンネ様の興した【異世界】のスキルをこの世界に繋いだって事ですわ」


うん。待って。ワイザーが?

えっと?どうして?

ワイザーの方を見ると、お腹がいっぱいになったのか、甲板に横になって午睡を決め込んでいた。


「偉大なるワイザルド様はついに再びスキルを興し、あの柱に貢献されたのよ」


どういうこと?あの柱が?

僕の思い違いじゃなければ【AFK】を10にしたことが切っ掛けだったよね?

ワイザー関係無いと思うんだけど。


「あの、【AF……。あーそうですよね。ワイザーるど。様が。うん」


しかし、僕は思いとどまった。

ここまで、シナリオライターの悪意に振り回されてきた。

この誤解は千載一遇のチャンスじゃないだろうか。

あれを成したのが僕だって事になったら、また筋脳なストーリー展開が待ってそうだ。

そしてまたメダルの収集を楽しむまでが遠のくよね。きっと。


「ワイザーが興したってスキルは広まってるんですか?」

「それですわ!わたくし達の中での目下の興味の的は!」

「そこは分からないけど、ワイザーの功績だっていう根拠は?」

「偉大なるワイザルド様ならば間違いないですわ!」


詳細は謎だけど、偉大なるワイザルド様なら間違い無いと……。

この世界の人の崇拝具合だと分からなくもないけど……。


ギザベルさんは、この船の副船長だ。つまり、彼女の認識はここにいるみんなの共通認識な可能性が高い。

うんそうだ。そうしよう!


ワイザーを、神の息吹を、そして再びワイザーを見る。

少し悪い笑みが出た。


「ワイザルド様凄いもんね」

「ええ、分かっていただけたようで何よりですわ」


そうだ。このシナリオを中断するためにもワイザーに肩代わりしてもらおう。

このシナリオに付き合うのもここまでだ。


鬼ヶ島に行って、約束したメダルを貰って、僕はゆっくりする。

整体師の人に治療してもらって【メダル収集】を取り戻すのだ。


よしよし。

やっと運気が向いてきた気がする。


「噂ではそれはどんなスキルってことになってるんですか?」

「ワイザルド様のことですから【再生】に関係するようなスキルなのだと言われておりますが……」


それだと、【AFK】より【リスポーン】の方が都合がいいだろうか。

ワイザーがそれを興して【異世界】カテゴリから【冒険者】カテゴリが成立したと……。


「それはきっと【リスポーン】ですね」

「やっぱりご存じなのね。それはどのようなスキルなのかしら?」

「【再生(・・)】の力を溜め込んでおいて、倒れた時に体を治すという【冒険者(・・・)】カテゴリのスキルです」

「それですわ!!リスポ、もう一度教えていただけますか?」

「【リスポーン】ですね」

「……【リスポーン】……【リスポーン】」


ギザベルさんは何度もブツブツとスキル名を繰り返している。


よし。うまくいったようだ。

満足した僕は、神の息吹と呼ばれる光を見た。

少し晴れた気持ちで見てみれば、神の息吹と言われるだけあって神々しくもある。

うん。綺麗だね。とっても。


「綺麗ですね」

「そうですわね」


ギザベルさんもニコニコだ。

僕もニコニコだ。


光る柱からは何かが出ているのだろうか、それとも吸い上げているのだろうか?

白く上空に向かって光の粒子が立ち上り、天に消えていく。

光はゆらり揺らめいて。


あれ、揺らめいて?

柱は大きくなったり小さくなったり、視界が大きく揺れている。


船が揺れてる?世界が揺れてる?

椅子に座っているのに僕が揺れている。


隣のギザベルさんも凄い勢いで揺れている。

けれど、その顔には焦りは無いように見える。

ちょっと!あり得ないぐらいすごい揺れるんですけど!

船乗りには普通のことなの?!


「ちょっ、ちょっと、これは?!」


揺れる中で、椅子から落ちそうになり、手を伸ばすと、何かに捕まることができた。

ガッチリと掴むも柔らかく不安な感触に顔をしかめる。


その瞬間、顔に衝撃を覚えて、続けて手足を打った。

何か飛んできたのか?


いつの間にか瞑ってしまった目を開くと目の前に木目が見えた。

結局椅子から転げ落ちたようだ。

そのまま床に伏せていると、少し揺れが収まってきた。


「あなた!」


くらくらする頭を声のする方に向けるとギザベルさんがしっかりと立っていた。両手で肩を抱き、少し後ろに引いている。

あれは、揺れを軽減する姿勢……には見えない。


なぜか、その前を塞ぐようにシャプリーンさんが立っている。

近くにルニとラルも立っている。

さっきの揺れで、彼女達も鍛錬を中断したのだろう。


「い、今の揺れは?」

「あ・な・た。もっと、もっとまともな言い訳をしなさいな!」


言い訳?ギザベルさんは何故か怒っている。

しかし、シャプリーンさんは笑っている。そして嬉しそうだった。

一方でルニとラルは困ったような顔をしていた。


「ユーキ様、そのようなことならば私に相談くだされば……」


ルニは何で大丈夫なんだろうか?【歩行術】に通じる彼女にはどうということは無いの?


「ユーキ様はちっちゃい胸が好きなのかしら?」


ん?んん?シャプリーンさんは何を言いだした?


「私の胸では駄目なのでしょうか?」


ラルまで変なことを言い出し、自分の胸に両手を当てている。


「ラル?ゾルラルルさん?」


……良く見ると、誰もが平気に立っている。

さっきの揺れは?さっきの手触りは?


やらかした。

それだけは確実なようだ。

次話「7 鬼ヶ島の門、ガルーチ」

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