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4 天突く柱が示すもの

前話のあらすじ

 ダッカに向かっていたはずが船上だったので【GMコール】するも不発だった。

湿気を含んだ重い風が吹いている。少し肌寒いぐらいだが薄い雲の合間から挿す日差しに丁度良い。

呆然としていた僕を気遣ってくれる二人が出ていって一晩が過ぎた。

船室にいると気が滅入るので外に出てみた。寝たきりだったらしいけど歩くのは辛く無かった。


船から見渡す水面は静かな風を受けて薙いでいる。繰り返す波を見つめていると僕のざわついた心も薙いでいくようだった。


「あれが鬼ヶ島だ!」

「我々は鬼ヶ島と呼びますが、あの島が修験国ガーラの中心、スートヘルになります」


一人になりたくてデッキに出たのに、目に付く場所にワイザーとシャプリーンさんが居た。ルニ達とゆっくり情報交換出来たせいか、ワイザーの顔を見ても苦笑いが出るだけで、不思議と怒りは沸いてこなかった。

怒りは無いけど、積極的に関わりたいかと聞かれるとそれは別の話だ。無視を決め込んでいるのに話しかけてくるのが煩わしい。

船が行く先には海から突き出す険しい山が見えている。

観光地の案内装置のようにシャプリーンさんの淡々とした解説が聞こえる。耳障りの良い声の解説によると、スートヘルは健康神ヘルマン様の座す所を意味するそうだ。修験国の名が示す通り山には修行者が多く集まっているという。


「初めはおっさんと数人で山籠もりの修行してたんだが、どーんどん人が増えちまってな」

鬼ヶ島(スートヘル)を囲むように湾があり、その湾を含んだ周辺一帯が修験国ガーラとなります」


鬼ヶ島を中心に左右に広がる地続きの大地がうっすらと見えているあの辺りがガーラということだろう。

ため息が出た。

少し距離を置いていても視界にチラチラと入る二人から目を逸らすように船の後方に目をやった。

結構な速度が出ているようで、船の後方には大きく波を引いている。その波の先、ヘルムートやダッカのある陸地は霞んでほとんど見えないが、雲を貫くようにそびえ立つ光の柱が存在感を示していた。

それが目に入りまた大きなため息が出た。


「そうため息をつくな。スキルを生み出せば多少の(ゆが)みも出る」

「多少だって?!」


薙いできた心に荒波が立ち、うっかりワイザーに返事してしまった。

僕は落ち込んでいた。

大切なスキルが不通になったのがその原因だ。

それはもちろん【GMコール】なんかじゃない。


はぁぁぁ。ため息が止まらない。


「【ステータス】っ!」


■■■

 ユーキ(地球人(アースリング)・男)


 通り名

  飛竜堕とし

  <隠蔽中>

  便所の魔神 邪眼 影の道場主 悪食

 能力値

  体力 466 /466

  魔力 302 /302

  筋力 421

  器用 290

  敏捷 375

  体力回復力 1/2秒

  魔力回復力 1/20秒

 状態

  調整中

 スキル

  ・身体

   <強化>

   【体力強化】7【魔力強化】5【筋力強化】6

   【器用強化】5【敏捷強化】6【視力強化】2

   【聴覚強化】2【嗅覚強化】2【並列思考】4

   【再生】10  【魔力視】7【暗視】3

   <技能>

   【体術】9【受け流し】7【回避】7

   【瞬発】4【静止】4【水泳】5

   【潜水】3【拳術】10【蹴術】5

   【歩行術】5【舞踏術】1【騎乗】1

   【気配察知】5【気配隠蔽】3

   <耐性>

   【打撃耐性】4【切断耐性】6【刺突耐性】5

   【圧迫耐性】5【疲労耐性】3【毒耐性】1

   【魅了耐性】2

   <魔力>

   【瞑想】4【魔力吸収】2【魔力操作】5+

   <隠蔽中>

   【表情隠蔽】1

  ・武器

   <切断・刺突>

   【剣術】6【騎士剣術】4【曲剣術】2

   【短剣術】6【双剣術】4【斧術】1

   【爪術】2【槍術】4【操糸術】1

   <打撃>

   【棒術】1【鎚術】5【鞭術】3

   <遠隔>

   【飛剣術】×【弓術】1【投擲術】1

   <防御>

   【盾術】5【鎧術】3

  ・魔法

   <事象魔法>

   【風魔法】6+【泥魔法】2【雷魔法】6

   【雲魔法】1【地脈魔法】1【念動魔法】1

   【植物魔法】1【渦魔法】2 

   <創造魔法>

   【火魔法】4【水魔法】4【土魔法】4

   【光魔法】5【回復魔法】5【刻印魔法】1

   【重力魔法】1【生活魔法】4【強化魔法】1

   <魔法耐性>

   【風圧耐性】1【冷寒耐性】1【炎熱耐性】3

   <魔法技能>

   【名前隠蔽】4【能力値隠蔽】3【スキル隠蔽】3

   【解錠】2

  ・芸術

   【鑑定】4【歌唱】1【弦楽器術】1

  ・加工

   【採掘】3【金属察知】2【金属加工】7

   【金属分解】5【金属合成】4【皮革加工】1

   【意匠】3【形状比較】2【魔力洗浄】4

   【調理】6【解体】1

  ・成長

   【見取り稽古】×【指導】×

  ・冒険者

   【ステータス】6【マップ】6【クロック】6

   【インタープリター】6【パーティ】6+【パーティチャット】6

   【ウィスパー】6【イクイップ】6【インベントリ】6

   【AFK】10【冒険者カード】6【冒険者マニュアル】6

   【リスポーン】×

  ・異世界

   【コンソール】×【エネミーサイン】×【ターゲット】×

   【ターゲットライン】×【ファンファーレ】×【スキルエフェクト】×

   【ブライトネス】×【ミュート】×【メール】×

   【アイテムトレード】×【ログアウト】×

   <隠蔽中>

   【ログイン】×

  ・固有

   【包丁術】× 【メダル収集】×【狭間を穿つ瞳(ピーピングアイ)】×

   <隠蔽中>

   【スキル習得】×【成長加速】×【金玉飛ばし】×

   【森崎さん(クローク)】×【GMコール】×

 装備

  右手 襲剣スカードス

  左手 護剣パイスクス

  右腕 なし

  左腕 魔猫の腕輪(魔力操作+) 連環の腕輪(パーティ+)

  頭部 なし

  胸部 皮のシャツ

  腕部 なし

  腰部 風牛の鞘(風魔法+)/飛剣スカドニオン、飛剣ブラドニオン

  脚部 皮のズボン

  足部 皮の靴

  持ち物 

 所持金

  102,088,655(ヤーン)

 犯罪履歴

  なし

■■■




【ステータス】のレベルが上がったせいか、見た目が変わって戸惑ったが、少しだけ見やすくなった気もする。


状態が調整中って!未だにメンテナンス中なんですか?

それはここに連れてこられている理由であって、無関係ではないけれど、落ち込む直接の原因では無い。


落ち込んでいる原因はレベル表記がバツ印になっているスキルだ。固有スキルと成長と異世界のカテゴリが丸ごと。それ以外のカテゴリでは、僕が作ったらしい【飛剣術】と【リスポーン】にバツ印が付いていた。


バツ印のスキルは使うことが出来なかった。

使おうとすると、スイッチは押せるけど電源が入らないような、出だしに引っかかりはあるけど失速して効果が出ないような感じだ。ちなみに持ってないスキルを使おうとするときはスイッチが重たくて押せない感じなのでスキルが消えた訳では無さそうだ。


「はぁー。異世界スキルが全滅か」


まず、冒険者カテゴリに移らず異世界カテゴリに残ったスキルが全滅だ。

異世界カテゴリに残ったのはゲームの設定やメニュー画面のようなスキルだ。【アイテムトレード】など使っていないスキルが多かったし、【ブライトネス】は便利だったんだけど【暗視】が代用になるから別にいい。【ログアウト】が使えないのも困るけど【リスポーン】も無効だから死ねばログアウト出来る……やっぱり困るが急いではいない。【メール】が使えないのはちょっと困ってる。

あの後ルニ達に【ステータス】を見せて貰ったのだが、彼女達は異世界カテゴリに残ったスキルは所持しておらず、異世界カテゴリが使えないのは僕だけなのか、他の人もなのか分からない。ちなみにワイザーやシャプリーンさんも持ってないらしい。


「冒険者スキルは向上したんだろ?いいじゃねえか」


放っておいて欲しいのにワイザーが嬉しそうに話しかけてくる。言い返しそうになるのをぐっとこらえて無視を決め込んだ。

ワイザーの言う通り異世界カテゴリだったスキルの一部は冒険者カテゴリに移動しただけではなく、レベルが上がっていた。

例えば【ステータス】がそうだ。


■■■

【ステータス】冒険者/ランク3

世界の状態をテキストとして認識できる。レベル上昇で認識できる種類と範囲が拡張される

レベル2で追加効果、レベル3でレベル変動、レベル4で時間変動、レベル5で特別な要素を認識できる

■■■


レベルが2から一気に6になり、魔力を注ぎ込まなくてもランクなどの付帯情報が全部出るようになった。

ランクという習得難易度が一つ減って4から3になっている。基本スキルのくせに高すぎるランクが気になっていたので、元が4だったのは確かだ。

冒険者カテゴリに移動した他のスキルも1ランクずつ下がっているようだ。


「俺もそうだが、普通スキルはそんなに伸びねえんだぞ」


うるさい。

冒険者カテゴリについてはゲーム世界の全てのキャラクターが影響を受けたらしい。ランクと共に必要経験値が下がっても累積経験値は維持されたようで、差分でレベルが上がるものがあった。

元々NPCは異世界カテゴリのスキル習得が苦手だったためその影響は小さかった。

小さかったとはいえ、シナリオの都合上なのかワイザーにまで情報が共有されているのは少し気にくわない。


ルニ達に比べて僕のスキルレベルは大きく上がっていた。冒険者ギルドへの貢献で上がるはずの【冒険者カード】スキルのレベルも一つ上がり6だった。ギルドに寄ってもないのに既に達人級である。

【マップ】スキルも広域をカバーし、大海原にいながら視界の隅のマップには鬼ヶ島が現れている。

ラルの喋りに何か違和感があると思ったのも【インタープリター】のレベルが上がってたお陰で翻訳が自然になったせいみたいだ。


ワイザー達から背けた視線の先、元来た大地の天付く白い柱が嫌でも目に入る。


「はぁー」


一方で僕が作ったとされる【飛剣術】【見取り稽古】【指導】【リスポーン】は全滅だ。

急ぎ必要そうなスキルではないからまぁ良いけど荒事は当分避けたい。ルニの【飛剣術】と【リスポーン】、ラルの【リスポーン】は健在だったのでこれは僕だけに起きているらしい。

冒険者カテゴリでも他の人には有効表示されている【リスポーン】にバツが付いているのが解せない。


ついでに幾つかの通り名が消えてくれれば良かったのに。

未だ消えない通り名[便所の魔神]など不本意でしか無い。

それでも、由来である【AFK】は僕に縁のあるスキルだ。今回の原因となったスキルでもある。さっきも早速ご厄介になったし、使える方がありがたいし。使えなかったら今頃トイレ探しに彷徨い歩いてるところだ。けれども。


まぁ、それはいい。


一番堪えるのは固有スキルが全滅していることだ。

【成長加速】にバツがついているのは一長一短で、無い方が【ステータス】自体は見やすかった。ひょっとしたらオン・オフできたのかもしれない。それもまぁいい。

今困っている一つは【森崎さん(クローク)】だ。主にラルから預かっていた荷物を返したいのに取り出せない。

森崎さん(クローク)】が呼びかけに応えないのを見て、僕よりもラルが落ち込んでいた。原因は多分帰ってこない荷物のせいじゃないけれど。


「なぁ、そんなことよりな」


うるさいな。

僕を一番凹ませているのは【メダル収集】が使えないことだった。

毎晩寝る前に鑑賞していたのに。今日も並びを整理しようと楽しみにしてたのに。今は念じても叫んでもバインダーが出てこない。こんな時にこそメダルを鑑賞して癒やされたい。新たなメダルを得るためにダッカに向かっていた筈が全てのコレクションを失ってしまった。

バツ印が付いたスキルは帰ってくるんだろうか。そのままデータの藻屑ってことは無いよね?


データは単なる記号じゃない!

ゲーム内アイテムをコレクションした経験があるのならば、この気持ちが分かるはず。

オズワルド銅貨が3581枚。オズワルド銀貨が437枚。オズワルド金貨が122枚。ロックバルト記念硬貨が5枚。バーリントン二世即位記念硬貨が1枚。あの赤いシルエットにギュッとエネルギーが集約されたような質感を今日も明日も眺められないなんて。


「おい」

「なんだよ」

「あん?急に反応したな」

「あんた。ちゃんとメダルくれるんだよね?」

「あん?メダル?」

「忘れたのかよ!金色は無くても黒や赤や青のメダルがあって、それをくれるんでしょ!」

「あー、あれか。ちゃんとやるよ。それより、そんなことで凹んでんのか?」

「そんなことじゃない!僕には大事なことだ!」


それを楽しみにダッカに向かってたのに。

ワイザーが絡んできたのもそれがあってこそ、手打ちにしようという気になったのに。


その肝心のスキルが使えないのは本当に凹む。

原因はぼんやりと分かっている。あの天突く白い柱のせいだ。

【AFK】がレベル10になって冒険者カテゴリが生まれた時、周囲が白い光に包まれた。それが今もそのままになっていて、僕の【ステータス】に影響が出ている。

それも落ち着けば回復するはずというのが、ルニ達から聞いたシャプリーンさんの見立てだ。シャプリーンさんは【成体術】という回復スキルの結構な使い手らしいが今の僕はお手上げなんだとか。


こんなにバツ印が並んでいるのは僕だけだった。

まったく解せない。


固有スキルなぁ。

固有スキルだけでも生き残っていて欲しかった。

状態欄にある調整中が消えたら復帰するんだろうか?

順番に戻るなら【メダル収集】を優先で調整してください!

ゲーム運営者様!お願いします!


「おい。ユーキ様よ」


声が近いと思えば、後ろにワイザーが迫っていた。


「その呼び方止めろよ。気持ち悪い」


こいつやルニが様付けするのは、このゲームの世界設定としてはなんとなく分かる。異界神ちゃんも言ってたようにスキルを沢山生んで神になろうってことらしいので、それに近づいたってことなんだろうけど。それでもやめて欲しい。

ワイザーは経緯から積極的に関わりを持ちたく無いけど、ゲーム的には健康神の5高弟の一角で最重要NPCの一人だ。シャプリーンさんだけでなく、甲板に数名いる水夫の方々がワイザーを見る目には尊敬があった。節度を守ってプレイヤーだけを攻撃していたということも分かり、それも世のためを考えての行動であることも分かった。ルニ達の無事も確認できた今、改めて距離の取り方が難しい。


「これ、やるよ。元気だせ」


リュックサックほどの大きさの艶のある皮袋をぐいと突きだしてきた。

なんだろ、慰められてるのかな?


「あ、ありがと。ございます?」


意外な展開に何も考えずに受け取ってしまった。

袋はずしりと重くそのまま甲板に降ろした。ワイザーだから中身はきっと肉だろうと思いながら袋の口を開いたが血の匂いがしない。中身を確かめるとそこには金属の輝きがあった。


「こ、これ!」

「おう、落ち込む程にそいつが好きなんだろ?ここにあんのは魔物が持ってたのをシャプが集めたもんで、赤や青のは無えが金はあったぜ。俺はいらねえから受け取ってくれ」


このサイズが規格化された円形はオズワルド硬貨だ!ぱっと見て見たことのないモチーフの銅貨もある。整理もされずに放り混まれていてかなりの量がある。


「おおお!ありがとう!!!」

「はは、そんなにかよ」

「そんなにですよ!ありがとおお」


これ、たくさん、すごい!いやぁ、整理するのが楽しみだなぁ。

ワイザーさん、いや、ワイザルド様は良い人だな!

タイトルを予告から少し変えました。

久しぶりのステータス回だったので、読み返してみたら、ちょっと短かったですね。


次話「5 焼ける肉は言葉を呼んで」

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