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21 僕のゲームはなんかおかしい

前回のあらすじ

 先輩達の先導でボス討伐クエストを達成した

「あのご飯ホカホカにしてたのなんなの?教えてよ~」

「あの飛び道具は、なんスか?」

「【インベントリ】じゃないんですか?あれは」


僕らは今、キンブリー亭で祝勝会のはずだったんだけど、3人に囲まれて尋問されている。何かおかしいな?


―――――――


【グリフォン】を倒した後、3人が怖い顔をしていたが、結局他に敵は出なかった。


「これ解体しちゃうと勿体ないのよね~」


なんでも羽根も肉も骨も素材としてとても優秀なので【解体】で主要素材だけ取り出すよりも、そのまま持って行った方が儲かるらしい。


「じゃ、【インベントリ】で持って行ったらどうですか?」

「あはは、【インベントリ】はバックの延長だから、持ち上げて出し入れできるようなものしか入れられないのよ。

スキルのレベルが上がれば分からないけどね」


ん~。だめなのか。森崎さんなら持って行けそうな気がする。『可能でございますよ』やっぱりね。


「あの、ちょっと持って行けそうなので試してみますね」


森崎さんに依頼すると【グリフォン】の死体が消えてちゃんと収納されたようだ。

なんかヤマトさんがさらに険しい表情になったが、特に何も言われなかった。あの、持ち逃げしたりしませんよ?


帰りは順調で、森の中も行きと違って魔物は出なかったので、暗くなる前にビガンの町についた。

僕は森を抜けた後、道中で居眠りしてしまった。これじゃ一人前にはほど遠いよね。

町に着くとみんなで冒険者ギルドに向かいクエスト達成を報告した。

【グリフォン】は冒険者ギルドの裏手に訓練場のような場所があり、そこで受け渡しをした。


【フォレストウルフ】【ゴブリン】【グリフォン】の魔石と素材でかなりの売り上げになったようだ。

途中の馬車台なんかの経費もあったので、精算はカナミさんにお任せだ。僕は杖とお金だけもらった。

【グリフォン】の死体はかなり良い値段だったらしく、カナミさん達も上機嫌だった。


最終的な報酬として僕は30万(ヤーン)を頂いた。

カナミさん達は報酬の端数はいつも祝勝会でぱっと使っているらしいので、僕もそれに乗っかった。

これまでの報酬とは桁が一つ違っていた。これがレベル3冒険者の世界か。

このとき【冒険者カード】同士を突き合わせてお金の受け渡しが出来ることを初めて知った。


―――――――


キンブリー亭で祝勝会のはずが、僕に対する尋問会みたいになってる。

この感じ、どこかで体験したことがあるな。

あれだ、ARデバイス1号試作機の試運転の後のスタッフミーティングだ。

試作機が出来て、開発スタッフが試運転していたんだけど、徹夜明けのせいかみんなへたくそだったんだよな。

しょうが無いので僕が代わりに操作していろいろ検証していたら、葛西が突っかかってきて難儀したな~。


後で、僕の操作感覚が他の人と違うことが徐々に判明した訳だけど、あの時に似ている。

これは知ってる奴だ。何かは知らないがいつの間にかやらかしていたらしい。

こういうときは観念してなんでも話をするのが良いんだろう。

でも言いたく無いな。せっかく誤魔化すために【念動魔法】を覚えたのに!


『ユーキはスキル【圧迫耐性】を習得しました』


またなんか習得してしまった。そういえばスキルの【ステータス】もチェックしてないな。


「ちょっと聞いてます?!ユーキさん!」


まずい、ショートトリップしていた。


「ちょ、ちょっと落ち着きましょう。一つづつお願いします」

「そうですね。一つづついきましょうか」


声とは裏腹にヤマトさんの目が怖い。


「ちょっとユーキさんのスキルについて教えて欲しいんですけど。明らかになんか普通じゃ無いスキルありますよね?!!」

「え?いや、普通ですよ。いやだなぁ」


ますますヤマトさんが怖い。


「ちょっと【ステータス】を確認させてもらいますよ」

「あ、ちょ、ちょっと待って!!」

「俺も!」「私も~!」


全身をサウナに入ったような温感が行き渡って、思わずぶるっとなった。

やめてー!せっかくの隠蔽工作が。


「すげえ!もうスキル21個?!」

「うそ!【AFK】ってこの時点で習得できるの?!」

「既に魔法を2つですか。凄いですね」


あれ?一緒に【グリフォン】倒したじゃ無いですか、みんな【風魔法】もらってないのかな?


「あの鉄球飛ばす奴は結局なんなの~?」

「あれは【念動魔法】ですよ!」

「嘘だー!【念動魔法】って、マッツの奴が持ってたけどよ。あんなぴゅーっとは行かんかったぜ!」


これで押し切るしか無い!!


「はー。あれは【金玉飛ばし】ってスキルです」


全然押し切れなかった。カナミさんとヤマトさんが執拗すぎる。両手で顔を覆いながら僕は言った。


「は??なにいってんすか?ユーキって子供みたいな嘘つくんすねぇ。そんなスキルないスよ」


ヒロシは町では本当にポンコツだな。ちゃんと表示を見た方がいいよ。


「あるでしょ?ちゃんと見て下さいよ。異世界カテゴリーの下の固有って所に」

「固有?なにそれ~。見えないよー」

「あ~、僕は聞いたことあります。というか、冒険者マニュアルがレベル3になってからどこかに書いてあったような?」


あれあれ?固有カテゴリのスキルってみんな持ってないの?


「あれ?皆さん固有って種類のスキル無いんですか?てっきり僕のステータスのレベルが低いから見えないのかと思ってましたが...」

「え、ないわよ~」

「俺も無いですね」

「で、その【金玉飛ばし】、どうやって取ったんスか?」


ふむ。リアルバレを避けるためにARスポーツの経験でと、詳細をぼかしながら、習得の経緯を告げる。


「それで【金玉飛ばし】か!そういや俺聞いたことあるわ!つーか、うちにもサークルあったわ。多分」

「はー。経験からスキルが発生することがあるのねぇ。スキルクリエイターズワールドってそういうことなの?」

「強い思い出がスキルになるんですか、このゲーム思ってたよりも奥が深いですね」


みんな新しいスキルが作られると思ってなかったようだ。冒頭にナレーションで言ってたのにな。


「つうか金玉!!ぷぷ!マジうけるっ。飛ばしちゃうとか改めて聞いたらちょっと凄くないっすかその名前!」

「確かにちょっと個性的ね。…ぷっ」

「だから言いたく無かったのに!!!!」


ヤマトさんはまじめな顔をしていたが、肩が小刻みに揺れている。お前もか!!


「あ!あれ【グリフォン】の収納はどうやったの?!」


じろりと、ヤマトさんと一緒に肩を揺らすカナミさんをにらんでいたら、そう切り換えてきた。


「取得直後の【インベントリ】でも入るやりかたがあるんスかね」

「冒険者ギルドで取り出した【グリフォン】は倒した直後の状態に近かったですよね。そういえば昼ご飯に食べた食事が出来たてだったのも、同じ事ですかね?」


【インベントリ】はやっぱり某ヒーローと同じ残念仕様なのか。そしてヤマトさんはとてもよく見ていた。

もうこうなったら仕方ない。観念しましたよ。


「えっと、そっちは森崎さんと書いてクロークと読むスキルです」

「ん?なになに?ずいぶん長い名前ねぇ。モリサキサントカイ…えとなんだっけ?」

「あの、スキル名が森崎さんです。そこにルビが振ってあってクロークと書いてあります」

「なんすかそれ!自由すぎィ!超受ける!」

「ちょ、ちょっと、確かに。固有スキルになるわけですね。なるほど」


ヒロシは大笑いしている。カナミさんとヤマトさんはちょっと罪悪感があるのか、なんか微妙な空気になった。


「ぷぷっ、つーか、モリサキさんがなんで収納スキルなんスか?」


おいヒロシ!森崎さんを馬鹿にすると許さないぞ。


「それはですね、仕事で利用しているとあるホテルのクロークの人だったんですよその人が」


森崎さんの仕事ぶりを熱弁して、スキル習得の経緯を伝えた。リアルバレしないように伝えるのに苦労した。


「僕も普通にクロークとかそういうスキルになると思ったんですけどね」

「つーか【インベントリ】あるのに、どうしてそんなスキルあるって思ったんスか?」

「言えてる!ユーキさんおもろいわ~!」

「このゲームのスキルって懐が深いですね。というか、どうやってモリサキさんという人の容姿を読み取ったんですかね?

覚えた直後は出てきたんですよね?その妖精さん」

「ユーキだけに見えるみたいだし、愛の力じゃないスかね!やっぱ彼女なんすか?!」


おいヒロシ!何言い出すんだ。


「違う!仕事づきあいのある優秀な方ですよ!」


思わず低い声が出た。


「そ、そんなことより!」


お、ヤマトさんが変な流れを断ち切ってくれた。


「固有スキルって2つですか?ひょっとして他にも持ってたりしますか?」

「あーそれ、俺も聞きたいっスわ」


ヒロシは脱線させた張本人だろうに何を言ってるんだ。お前が言うな。


「固有スキルは3つですね。なんでこれが固有スキルかわからないんですが、もう一つは【スキル習得】です」

「なにそれ!!良さそうじゃない?!」

「な、なんスすかそれッ!」

「どういう効果なんですか?!説明文教えてもらっていいですか?!」


ものすごい食いつきだった。なんだろう森崎さんより食いつきが良いとイラっとするな。


「えーと、読みますね『未習得のスキルを習得しやすくなる。レベルに応じて未習得のスキル獲得が容易になる』です」

「なるほど。ユーキさんのスキルが多い理由に納得がいきましたね」

「でもどういう効果か分かりにくいっスね」


僕もよく分からないので教えて欲しい。なんとなく習得しやすいのかなって気はする。

リストもあるし。あ、リストの説明してない。


「一応スキルを使うと習得中のスキル一覧が出てきますね。取得までの経験値っぽいのも見ることが出来ます。あと、必要な経験値が減っているような表記があります」

「確かに変わったスキルですね。アクティブかつパッシブなスキルですか」

「私たちのも見られるのかしら?」


他人に【スキル習得】を使うのか、その視点は気がつかなかったな。やっぱり熟練者は経験がある分だけいろいろ考えるな。


「ちょっと試してみましょうか……」


んー、あんまり分かる気がしないな、なんか自分の知ってるスキルだったら分かりそうだけど……。


「なんかちょっと出来そうに無い感じです。特定のスキルの経験値を読むだけなら出来そうですけど。【ステータス】の単体表示みたいに」


「え!どういうことですか?【ステータス】そんなのありましたっけ?」

「また違うスキルの話なんじゃないスか?」

「どういうことなのかしら?もうちょっと教えて貰えるかな?」


あれ?みんなの反応がおかしい。【ステータス】はみんな持ってますよね?


「あれ、えーと何説明すれば、そうだ、【ステータス】って魔力とかをずっと表示しておけるじゃないですか?」

「「「は?!!」」」

「あれ?じゃ、じゃあ【ステータス】で能力値とか指定して項目が5個以下だと魔力消費がゼロになりますよね?」

「「「え?!!」」」

「え?」


おかしい。会話がかみ合わない。同じゲームをやってるはずなんだけど。


「えーとそうだ、最初は【ステータス】 能力値!とか叫んで使ってみましたね」

「どれ、【ステータス】!能力値!うぉ!出来たっス」


ヒロシは行動が早いな。それを皮切りにみんな検証を始めて僕への質問ラッシュが一旦落ち着いた。

みんなぶつぶつ「【ステータス】筋肉!」とか言い出して落ち着いて見ると気持ち悪い集団だ。


さっきから気になっていた肉料理達に手を伸ばす。この唐揚げジューシーだなぁ。すでにちょっと冷めてるけど。

ネズミ肉比率が高いので、バイ菌が心配だけど、キンブリー亭のご飯はおいしい。

女将さんに肉料理の追加を頼んだ。


「なにこれ便利ー!」

「言うとおりでした。能力値表示って常駐できるんですね。さっき言っていた【スキル習得】の個別の表示っていうのも意味が分かりました」

「私、【光魔法】使ってみたいんだけど、せっかくだから覚えられそうか見て欲しい!」


みんなが検証の旅から戻ってきた。お肉…。


「やってみますね。【スキル習得】【光魔法】!」


■■■

 カナミ(地球人(アースリング)・女)

 習得中スキル

  ・魔法

   【光魔法】 521 /750

■■■


「出来ました!750分の521でした。もうちょっと経験値が必要みたいです」

「そ、そんなに具体的に数字が出るんですか!【冒険者マニュアル】ッ!経験値、経験値だ!!意味がようやくわかりました!!」


なんかヤマトさんのテンションがおかしい。


「経験値!!1時間集中して作業する単位!!あれ、数値とか見えてなし意味が…だけど!なるほど!そういうことか!」


一人で何か言い始めた。それは独り言なのかみんなに言ってるのかどっちだろう。


「えー!てことは200…230…229かな?。あと229時間も集中して光魔法練習するのー?」

「他も習得までの経験値は750なんですか?!」


カナミさんを無視するヤマトさんの食いつきがヤバい。それはそうと、ちょっとご飯食べたい。

あ、女将さんがジューシーな色してるお肉料理を持ってきた。


「僕が見てる範囲では250、500、750、1000、1250の5種類ですね。数字がずらっと並んでて、データシート見てるみたいでちょっとくらくらするんですよね」


ヤマトさんのテンションが怖いので正直に答える。


「習得難易度!!そうか、そういうことかッ!!!!すご!!凄いですねそのスキル!」


いや、むしろ、ヤマトさんのテンションの方が凄い。言ってることの意味が分からない。それはそうとそこのお肉食べたい。


「あの、数字は目安みたいですよ。例えば【AFK】は公園でのみなさんとのやりとりの間に100ぐらい増えてたみたいです。

あとは、ゲームの中でスキルに関連するような過去の体験を思い出す時に大量に経験値入ってましたね」


一応、カナミさんの質問にも答えておく。なんかヤマトさんに割り込まれてから僕を睨んでいる気がする。


「100!そんなに急に増えるんですか、いや、それは【スキル習得】持ってるからじゃないですかね?」

「そんな気もするんですけど、多分違いますね。

僕の習得中のスキルを見たとき、必要な経験値がレベルあたり10%減ってるような表示があるんで、さらに獲得する方にも効いたらやりすぎじゃないかと思って」


なんか、ちょっと共同研究してるみたいで意外と楽しくなってきた。


でも、そこまでとなった。


「ちょっと意味がわからねース。そろそろ祝勝会に復帰しようぜ」


ヒロシがそう切り出したからだ。時々良いことを言うな。そうだそうだ!ご飯たべようぜ!


「そうね。その辺りは正式サービス始まってからでも良いわね」

「そうですね。ちょっと興奮しすぎました」


ヤマトさんが急に恥ずかしそうにしている。基本まじめな人なんだよな。


僕のスキルについての詰問会は終わりになって、ようやく祝勝会が始まった。

今日のクエストの冒険について、大いに語って、大いに食べて飲んで盛り上がった。

あの【ゴブリン】戦がどうだったとか、【グリフォン】の突進がすごかったとかいろんなシーンをみんなで振り返って楽しかった。

途中何度も【AFK】を使ったのは言うまでも無い。


酒が入ったヤマトさんが「あの鉄球はずるいっすよ」と絡み酒だったことを記しておこう。

次話「22 別れと魔剣」

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