20 先輩はやっぱり凄い
前回のあらすじ
苦労して【AFK】を習得した
「これは凄いですね」
湖は透き通り、青空はただ青く、遠くの山が緑に輝いている。
僕たちは湖畔のボスモンスター討伐クエストに来ていた。
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昨日の騒動の後、カナミさんたちはとても申し訳なさそうに何度も何度も謝ってくれた。
話の流れで4つの行動目標の話をしたところ、ボスモンスター討伐に協力してくれることになった。
なんとなく固有スキルの話は名称からまた誤解を受けると嫌だなと思ったので、1つ目は武器補充、2つ目は【イクイップ】の検証という話にしておいたけれど。
昨日のうちに冒険者ギルドに連行されて、該当のボス討伐クエストを教えてくれて、4人で受領した。
湖畔に現れる【グリフォン】が討伐対象らしい。なんでも冒険者レベル3で受けられるクエストらしい。カナミさん達が居てくれたおかげで受けることが出来た。
チュートリアル先生からボス討伐指令が出たことを話した時に、しきりに首をかしげていたのも納得だ。
朝は門の前に待ち合わせをしていたので門の前で待っていると、馬車に乗って3人が現れた。
「おー!馬車ですか」
「遠くまで行くにはこれがやっぱり便利なのよー」
流石の先輩プレイヤーは手配力が違う。
初めて出る南門を抜けて街道を進んだ。途中小さな村を一つ通って、森の中に入った。
道中はカナミさんとヤマトさんが交代で御者をやってくれて順調だった。
森の中を通る時に狼の集団に囲まれた。
【フォレストウルフ】という種類の濃い茶色の狼が十重二十重に取り巻いている。
木の影になって全部は把握できないが、見える範囲でも10匹はいるようだ。
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フォレストウルフ(魔物・オス)
能力値
体力 84 /84
魔力 30 /60
筋力 85
器用 57
敏捷 131
スキル
・身体
【体力強化】1
【敏捷強化】2
・魔物
【牙術】2
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ヒロシさんは躊躇無く馬車を飛び出ると剣で盾を打ち鳴らして大きな音を出し、注意を引きつけていた。
ヤマトさんを見ると既に弓をつがえていて、次の瞬間には狼の一匹を撃ち抜いていた。
カナミさんは馬車を曳く馬を押さえていたが、どこからか杖を取り出していた。
突然先頭の狼が切り裂かれた!風魔法を放っていたようだ。
僕は3人の連携にひたすら関心しながら、このぐらいだったらパチンコ玉でもいけるかな?と考えて【森崎さん】に鋼の玉を出してもらい、【金玉飛ばし】で狼の脳天を打ち抜いた。
玉を出して打ち抜いて、玉を出して打ち抜いて、と繰り返すうちに、誰かが狼の集団のボスをやったらしい。
生き残っていた狼達は逃げだし、それで戦闘は終了となった。
先輩プレイヤー3人組の連携の前に馬車は無事だった。
僕も安心して戦いに挑むことが出来た。というか後ろでピュンピュン撃ってただけだから気楽なものだ。
戦闘後に玉を回収するために、倒した狼の死体に近づくと森崎さんが『回収ですね』とあっさり回収してくれた。
3人は【解体】スキルを使って皮や牙、魔石を回収していた。後で分けてくれるらしい。
「それは【念動魔法】かな?」
ヤマトさんが戦闘時の緊張感を維持したまま僕に話しかけてきた。
おお!残心ですね。油断しないその姿勢!見習わなきゃ。
【金玉飛ばし】ですと言おうかと思ったが、改めて考えるとちょっと恥ずかしい名前かもしれない。
【念動魔法】というのは良いアイデアだな。そう考えた僕はその質問に乗っかることにした。
「そんな感じです。まだ習得したばっかりなんですけどね」
まだ習得して3日目だ、嘘は言っていない。
でもなんかちくちく心が痛むので、道中で【念動魔法】の習得を頑張ってみよう。
森の中で再度囲まれた。囲まれるのは定番なんだろうか。
今度は小さい人型の魔物だ。右側に4匹、左側に3匹、あ、木立の後ろにも隠れているようだ。
かなりの数に囲まれているかもしれない。
今度も3人が絶妙のコンビネーションで馬車を守りながら戦っている。
そっと魔物の強さを【ステータス】で確認した。
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ゴブリン(魔物・オス)
能力値
体力 71 /71
魔力 44 /44
筋力 84
器用 41
敏捷 54
スキル
・身体
【体力強化】1
【筋力強化】1
・武器
【短剣術】1
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あ!定番の魔物だ。小鬼なんだっけ?
遠くから見ると良く分からないけど、背が小さくて腕が長い。
手に持ったナイフみたいなのを器用に使っている。
人型ってのが何とも怖い。盗賊に襲われるとこんな気持ちなんだろうか?
よく見ると剣と盾を持った個体もいるし、弓を構えている奴もいた。
結構怖い。カナミさん達と来てなかったら一目散に帰りたくなるところだ。先輩達がいる安心感が凄い。
ヒロシさんとヤマトさんが体を入れ替えてお互いの死角から狙ってきた【ゴブリン】を切って捨てた!
すごい!映画で見たような殺陣をが繰り広げられている。
カナミさんも、少し開けた場所をうまく使って【火魔法】を放っている。
僕はそれを後ろから見ながら、馬車の中からピュンピュンとパチンコ玉を飛ばして【ゴブリン】を減らした。
なんか、後ろの方に杖を持ったゴブリンが居た。あれは魔法使いかな?あの杖も魔力節約効果あるのかな?と思いながら、やっぱり頭を打ち抜いて倒した。
ふと見ると、ゴブリンが撤退し始めた。また、ピュンピュンとパチンコ玉を飛ばして数を減らしておいた。
『ユーキはスキル【筋力強化】を習得しました。』
『ユーキはスキル【剣術】を習得しました。』
『ユーキはスキル【短剣術】を習得しました。』
ゴブリンをどんどん倒していくと奴らが持っていたと思わしきスキルを習得した。
『ユーキはスキル【念動魔法】を習得しました。』
懸案だった【念動魔法】をあっさり習得した。
【金玉飛ばし】を撃った後に、同じ軌道をイメージして【念動魔法】!とやるのを続けていたのがよかったかもしれない。
カナミさん達は戦闘後速やかに【解体】で戦利品に変えていた。
【ゴブリン】の持っていた杖はそれほど効果は高くないらしいけれど、一応魔力低減効果があるらしい。
材木自体が貴重なものらしく後で加工も出来るらしい。
カナミさんはもっと良いものを持ってるから、と、ちゃっかりとそれをいただいてしまった。
【ゴブリン】を【解体】しても魔石ぐらいしか取れないそうだ。
持っている弓、剣、盾、短剣と防具など、装備品が主な報酬になるらしい。
なんか杖以外に魔石もくれようとしていたけど、手伝ってもらってるのに申し訳ないので杖以外は辞退した。
ちなみに【念動魔法】は鉄球を敵にぶつけるには向かないスキルだった。
対象は特に制限が無かったので鋼の玉も木の棒も持ち上げられたが、レベル1ではそれほど勢いよく飛ばすことが出来なかった。
これは、戦闘中に相手の体勢を崩すのに使うと良いかもしれない。
アリバイ工作完了としてはひとまず問題無いだろう。少し後ろめたいが、恥ずかしいから仕方ない。
その後は特に魔物と遭遇することなく、森を抜けて湖畔にたどり着いた。
カナミさん達は何年も冒険者をやってるだけあって本当にすごい。
敵が沢山襲ってきても乱れないし、馬車の手配も含めて、あっさりクエストのステージまでやってこられた。
ヤマトさんの【クロック】スキルによれば、既にお昼時になっているらしい。
既に木の影に入り、馬車を木陰に隠して簡単な食事を取る。
朝、宿屋で女将さんに用意してもらった食事を【森崎さん】に出してもらった。
「そ、それは結構あったかそうね?」
「うまそうスね?ちょっと分けてもらっても良いスか?」
「キンブリー亭の料理ですね。もってきたんですか?」
「人数分用意したので、どうぞどうぞ!」
3人が興味を示してくれたので、昼ご飯をごちそうする。といっても買ってきた物を渡すだけだ。
【森崎さん】が暖かいまま運べるというので、今回要らないと言われても特に困らないだろうと思っての準備だ。
「火魔法?いや、念動魔法で揺らして?」
「違うでしょ?【インベントリ】がまだ未習得だから…」
ヤマトさんとカナミさんがなにか食事中にも研鑽に余念が無いらしい。これが一人前の冒険者か!とても勉強になる。
食事を終わらせ、各自準備を済ませるといよいよボス戦だ。
湖畔がボスの狩り場になっているらしく、姿を見せて暫くすると山の方から飛んでくるんだそうだ。
4人で少し間隔を開けて菱形の陣形を取った。
山に近い位置にヒロシさんが立ち、右後ろに僕、左後ろにヤマトさん、最後尾がカナミさんという布陣だ。
「来たよ!集中して!」
じりじりしながら周囲を見回していると、ヤマトさんが指さしながら合図をくれた。
山の中腹から鳥のようなものがぐんぐん近づいてきている。かなり早い。どんどん大きくなってくる。
「ケェエエエエエ――!!」
【グリフォン】は大きな叫び声と共に滑空してきた。ヤマトさんは弓をつがえている。
あれ、飛ぶのやっかいだなぁ。羽根をもげばいいのかな?
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グリフォン(魔物・メス)
能力値
体力 644 /644
魔力 215 /215
筋力 212
器用 105
敏捷 198
スキル
・身体
【体力強化】2
【筋力強化】2
【敏捷強化】1
・魔法
【風魔法】3
【風圧耐性】3
【冷寒耐性】2
・魔物
【嘴術】3
【爪術】2
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うわーこれは強そうだ。能力値がそのまま強さではないと思いたい。
今回は慣れない杖を持つのはあきらめて、左右の手にはそれぞれピンポン球サイズの鋼の玉を準備してある。
来た!来た来た!こ、怖い。ヒロシさんが前で良かった。
うまいこと落ちたらいいなと考えて、右の羽根の付け根を抉るイメージで勢いよく鉄球を飛ばす。
【金玉飛ばし】!!
真っ正面から飛び込んできた【グリフォン】にまっすぐ鉄球がぶつかった!
【グリフォン】は突然きりもみ状態になって地面に落下した。
あれ?あっさり羽根がもげたぞ?ヤマトさんが何かしたのかな?
あ、カナミさんの【風魔法】か!それなら納得だ。
【グリフォン】はちょっと大丈夫には見えなかったが、起き上がると勢いを付けてこちらに向かってきた。
かなりデカい。馬車の馬より一回りデカい。地面が揺れ、凄い勢いで突っ込んで来ている。
「ケエエエエエエエ――――――!!!」
「うわ、わわ!!」
怖い怖い怖い。焦って左手で持っていた鋼の玉を落としてしまった。
そのまま【グリフォン】がヒロシさんに爪で襲いかかる。
ヒロシさんが勢いを付けて盾を突き出し、「ドーン」という音がして【グリフォン】が食い止められた。
ヒロシさんすげえ!!アレが止められるのか!凄い勇気が出た。
俺も一発撃ち込んでやる!『承りました』右手の上には鋼の玉が!って、重い!
砲丸じゃんこれ!持ち替えてる余裕が無い。
飛ばしたこと無いんですけど!森崎さん!!ええい!
森崎さんに間違いは無い!砲丸はかっ飛んで行くに違いない!!
顔面…は嘴が固そうだから、心臓をぶち抜いてやるぞ!!
かっとべ!【金玉飛ばし】!
「ドゴーーーーーーン!!」
恐ろしい音がした。4人が一斉にびくってなった。
ドッシリ構えていたヒロシさんでさえちょっと飛び跳ねていた。
【グリフォン】はビクビクして、そして小さく何か声を上げると気絶するようにバタリと倒れた。
『ユーキはスキル【風魔法】を習得しました。』
『ユーキはスキル【風圧耐性】を習得しました。』
『ユーキはスキル【冷寒耐性】を習得しました。』
『ユーキはスキル【爪術】を習得しました。』
僕は【グリフォン】が持っていたスキルを習得した。
「っはー!倒せましたね。怖かった」
安心してそう言うと3人もそれに同意してくれた。
「た、倒せたわねー!」
「なんかあっさり逝ったな」
「あれ、どうやって落ちたんでしょうか?」
3人の顔はまだ緊張感を持っている。まだ何かあるのだろうか?
ともあれ、こうして初めての遠征となるボスクエストは激戦の末に達成された。
『一連のチュートリアルをコンプリートしました。報酬としてスキルが送られます』
『ユーキはスキル【インベントリ】を習得しました』
『残るβテスト期間の間、しばしこの世界で冒険をお楽しみ下さい』
そして成功報酬はやっぱり【インベントリ】だった。
必要性は低いけど、コレクター的にはいろいろ集まるのは嬉しいので良しとしよう。
晴れやかな気持ちで振り返るとカナミさん達3人が、険しい顔でこちらを見ていた。
次話「21 僕のゲームはなんかおかしい」