表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/226

28 世界に馴染む神器

前話のあらすじ

 ユーキは死んでもスキルレベルの回数だけ復活できる【リスポーン】というスキルを得た。

「ユーキさん。そろそろそちらの短剣についても教えて下さいな」

「ああ、そうだった。これは元々は100本あった短剣の一つだったんだけど。うーん。どこから話せばいいかな」


遠回りだけど経緯を最初から説明することにした。

ワイザーに殺された後、メンテナンスもあって、暫く来られなかったこと。

【ログイン】した直後にルニに【メール】したこと。

ラルと池田も心配していたこと。

それを話す間、ワイザーは居心地悪そうにしていた。


「サイモンさんに言われて手持ちの武器を確認したら、既にこれに変化していたんだ」


まだ仕舞っていなかった襲剣(しゅうけん)スカードスを目の前に持ってきた。

腰の後ろからスカドニオン、ブラドニオンも抜いて並べる。

興味があるのかグリベルガさんだけじゃなくて、シャプリーンさんもじっと見つめている。

相変わらずドレスの谷間や裾を中心に精神攻撃を仕掛けてくるので、少し場所をずらす。


「この長剣は元々持って居た飛剣スカッドと、血食いの剣っていうあの黒い剣と、ワイザーに潰されたマクバリーの短剣の残骸が合わさって生まれたみたい」

「なんと。禍々しいというか、神々しいというか強い力の気配がします」

「それで、こっちの短剣はこの長剣の影響を受けて魔剣化したみたい」

「どれも力ある剣ですね。手にとってもよろしいでしょうか?」

「どうぞどうぞ」


浮いている3本の剣をついっとルニの前に移す。

ルニは恐る恐るといった様子てを伸ばすのを見て【飛剣術】の制御を離す。

制御を離しても、自体が飛んでいるのであまり関係ないかもしれないけれど。


「美しい刃紋。余計な装飾は無いですが実の剣ですね」

「道具に使われているというか、あまり使いこなせている自信は無いんだよね」

「鍛錬するしか無いですね。また一緒に朝起きて型の稽古しましょう!」

「うん。そうだね」


少し困る僕にルニがニコリと笑う。

そうだ、この人はいつもこうだったな。

青い髪の女がニヤニヤしているのが目に入り、少し唇を噛む。


「これもずいぶん形が変わりましたが、私がお借りしていた剣も様変わりしまして」


ルニが腰の金具に止めてあった盾を渡してきた。

さっき、青いおっぱいさん……じゃなくてシャプリーンさんが前に構えていた盾だ。

少し小ぶりな縦長の盾、あれ?


「これが飛剣パックだったもの?」

「ええ、そうです。元のままお返し出来ずすいません」


スコップを上下に二つくっつけたような形のそれは一見盾だが、周囲に刃があり一応剣ではあるようだ。

刃先が緑で中央部が黒いグラデーションはパックの特徴だが、残っている特徴はそれぐらいだ。

持ち手はスコップ同士の繋ぎ目についていて、片側はガードで覆われている。

ガード部分を中心に波紋のような模様が刻まれていた。

これを短剣って言ったら駄目な気がする。どれ。


■■■

護剣パイスクス

 【飛剣術】の原初の力を備える魔剣。[自在盾]パイストスの意をなぞる。

 空を裂く力に加え【盾術】の力を備える。配下の短剣にも効果を及ぼす。

■■■


パとクしか合ってない。完全に別物だ。

普通に盾として使えそうだと思ったら【盾術】が備わっていた。

名前から来る印象はそれでも剣の方に寄っていた。


「[自在盾]パイストスっていうのは?」

「ずいぶん前の武神の5高弟で【盾術】の祖である人物です」

「あーそうだ、聞いたことある。こっちのスカードスが[強襲]スカードの名前から来てるのと同じか」

「あ、ああ!なるほど」


どちらもルニが離してくれた5高弟の名前と近かったという逸話の影響が出ている。

スカッドが変化した影響を受けたのか、ルニを護るために変化したのか。

左手で持ち手を握り【盾術】の要領で振ってみる。悪く無い。

刃先を立てて【短剣術】の要領で振ってみると少し使いにくかった。

複雑な軌道の武技(アーツ)は持ったままだと撃てないだろう。

それでも【飛剣術】で使うことを考えれば悪く無い。


「無い左手の代わりにずいぶん助けになりました」

「それは良かった。これって、やっぱり盾を吸収しちゃったのかな?」

「いえ、盾ではなく一緒にお預かりしていた短剣が取り込まれたようです」

「構えているところに流れ込むような感じ?」

「それが、毎晩机に並べていたのですが、ある朝起きたらこのようになっておりまして」

「なるほど。まぁ、これはこれでしっくりくる感じだね」

「そう言って頂けて良かったです。本当に長い間ありがとうございました」

「必要なら使ってても良いけど」

「いえ、先ほど貴重なスキルも頂いて、これ以上は貰いすぎです」

「そうかな?」

「そうです!それに。この子達もユーキさんに会いたかったようですよ」


会いたかったという擬人的な感覚は分からないけれど、【飛剣術】を通じて僕の手がもう二本増えたような感じはする。

二本の神器は変遷を経て、最終的には剣と盾に近い形に収まったようだ。


「ふうむ。こいつは凄え」

「並べてみるとまーた力強いなぁ」

「なるほど。神器が馴染んだか」


グリベルガさんとサイモンさんの感想に続けてずっと黙っていたワイザーが口を開く。

この男から見ても、やはりこれは神器ということか。


「神器が馴染むというのは?」

「スキルを世に産むとその力は生まれた場所の周囲に力がな、染み出してな。定着するのよ。

ものに宿れば神器となるし、場所に宿れば聖地となり、人に宿れば、さっきの【リスポーン】みてえになる。

スキルも生まれたばっかりは不安定だからな。少ーしずつその性質を固めていくのよ」

「へー」

「そんでまぁ。スキルが世界に馴染めば、神器もまた世界に馴染んで姿と性質が定着するもんだ」

「なるほど。【飛剣術】は世に馴染んだってことか」

「そういうこった」


ワイザーがずいぶん丁寧に教えてくれた。

意外にいろいろ知ってるな。伊達に長生きじゃないってことか。

ワイザーが殊勝になった今、右横にいるドヤ顔で腕を組み胸を強調するシャプリーンさんが目に付く。


「ビガンの道場はさしずめ【見取り稽古】の聖地か。なーるほど。言えてんな」


サイモンさんによれば、ビガンでは【見取り稽古】が習得できた門弟が増えているという。

そういえば【見取り稽古】の神器は持ってなかったから、場所に影響が出ていたか。

手持ちの指導の杯は使い方がよく分からないのは【指導】スキルが馴染んでないからか。

あのスキルは僕以外誰も覚えられていないからなぁ。


とりあえず、ルニに話すべきことは話せた。

これで終わりにしたいんだけど、まだ気になることがあった。


「えっと、シャプリーンさん?」

「私に何かありましたか?」

「ありましたかじゃなくて、そのドレスの胸元や裾に目が行くような精神攻撃をやめて下さい」

「は、はい?そのようなことはしていませんが?」

「してるじゃ無いですか、今もあなたを見ればドレスの隙間から見える胸元の谷間が妙に強調されてます」

「えっと、ドレスはワイザルド様にも時々注意されますが、お気に召さなかったようであればすいません」

「服装そのものじゃなくて!えーと、ルニを見ても道着の重ね部分からちらっと見える谷間が気になって気になって」

「わ、私の谷間」


ルニが道着を少し直して困った顔をしている。

これでは僕が変態だ。本当に止めて欲しい。


「と、とにかくやめて下さい!」


場が静かになった。グリベルガさんが呆けた顔でこちらを見ている。

ワイザーまでもが同じく呆けた顔をしているってことは、水色おっぱいの独断か。ぐぬぬ。


「あの、お師匠殿よ。俺にゃそんな感じはねえんだが……」

我が間通の眼には(私の目にも)魔素の乱れ無し(そんな気配無いよ)

「え?」


サイモンさんとラルから予想しない声が上がった。

ラルが言うってことは魔術の類いどころかシャプリーンさんが言う通り?


「俺にもそんな感じはねえな」

「シャプはこう見えて直情的な性格でな。絡め手は得意じゃねえぞ」

「え?」

「お師匠殿には何か心当たりねえのか?」

「うーん」

「何か薬飲んだとか?」

「……無いですね」

「装備品の類いで呪いがあるものは?」

「……無いですね」

「使った反動で精神異常を呼ぶスキルは?」

「……無いですね」

「怪しい動きが気になるとか、布の隙間が気になるとかそんなのは?」

「……無い、うん?……あ!」


ひょっとして、これか?


■■■

狭間を穿つ瞳(ピーピングアイ)】固有/ランク2

相対する者の鎧の隙間を見通す。

相手が隙を見せる好機を見逃さず捕らえる力を得る。

■■■


やった!ビンゴだ!

山賊の【体力】の祝福の狭間を割ったスキルが原因でした。

固有スキルは本当に癖が強いなぁ。


「サイモンさん正解!さっき覚えた固有スキルの影響でした!」


女性陣の視線が一際厳しくなる。

それにしても、ルビのピーピングアイって覗き魔的なこと?

いや、ルビじゃ無い方の名称が大事でしょ。こっちはちょっと格好いいし……中二病的だけど。


「あ、えーと。シャプリーンさん。おっぱい直視してごめんなさい」

「ゴホン。まぁ男の子だからねぇ。仕方ないわよね」

「ルニもごめんなさい」

「謝られても困ってしまうというか……そのぐらい……えっとはい」


ラルは隙間が無いローブで良かった。本当に良かった。

心からそう思ったのだが、ラルが怖い顔で睨んでいるのは何でだろうか。

いや、本当にラルのことは見てないのに!


そういえば【聴覚強化】は意図してオフにすることが出来たな。

このスキルもオフに出来そう……だけど、これをオフにするなんてとんでもない。

うん。ワイザーがね。ほら。また悪さするかもしれないから!

魔の領域では何が襲ってくるか分からないしね!

持ってて良かった【表情隠蔽】!


今回の教訓……固有スキルはヤバい。

次話「29 その衝動が世界を開く」は12/12(火)の予定です。



アイテム名を補足しておきます

■失われた魔剣

血食いの剣

 吸血鬼が愛用した剣。長い間帯剣されたことで魔の力を得て魔剣となった。

 切りつけた対象から体力と魔力を吸収し使用者に還元する。

 カナミ、ヒロシ、ヤマトからの贈り物

飛剣スカッド

 【飛剣術】の原初の力を備える魔剣。銘付けにより攻撃の権能を備えた。

 浮遊の力と空気を切り裂く力を持つ。配下の短剣にも効果を及ぼす。

飛剣パック

 【飛剣術】の原初の力を備える魔剣。銘付けにより守備の権能を備えた。

 浮遊の力と空気を切り裂く力を持つ。配下の短剣にも効果を及ぼす。


■現在の魔剣

襲剣スカードス

 【飛剣術】の原初の力を備える魔剣。[強襲]スカードの威をなぞる。

 空を裂く力と奪う力を併せ持つ。配下の短剣にも効果を及ぼす。

飛剣スカドニオン

 【飛剣術】の力を備える魔剣。襲剣スカードスの眷属。

 力ある剣の影響を受けマクバリー工房製の短剣が魔剣化した。

飛剣ブラドニオン

 【吸血】の力を備える魔剣。襲剣スカードスの眷属。

 力ある剣の影響を受けマクバリー工房製の短剣が魔剣化した。

護剣パイスクス NEW

 【飛剣術】の原初の力を備える魔剣。[自在盾]パイストスの意をなぞる。

 空を裂く力に加え【盾術】の力を備える。配下の短剣にも効果を及ぼす。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクセス研究所
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ