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25 視線を奪う女

前話のあらすじ

 防戦の中、新たに得たスキル【狭間を穿つ瞳】で山賊の守りを抜けて攻撃が通った。

山賊の余裕の源泉が分からないけれど、駄目ならもう一手加えるだけだ。

武技(アーツ)の連続使用で魔力の残りが心許ないが、ここは畳みかける所だ。


『【二の閃】【牙突】に【雷切】!』


【吸血】特性を持つ二振りを囮にした飛剣スカドニオンによる【雷切】は綺麗に左足を断つ。

部位欠損程度なら道場で何度も見かけたので、いまさら動じることは無いがこのゲームのレーティング大丈夫だろうか。


『【金玉飛ばし】!』


今回最も役に立ったのは認めたくないがこのスキルだ。

切断した足は出番が無いかと思われていた鋼の鉄球で吹っ飛ばして泉にポチャンした。


「ちょっとおい!嘘だろ!」


山賊は地面に両手を突き、笑みを浮かべていたその顔には余裕が失われていた。

かくいう僕も魔力不足で少し頭がくらくらする。

【飛剣術】に掛かる魔力消費がほぼ無いのがありがたかった。


「ちょ!あー、なんだ。お前合格だ!合格。娘の居場な。教えてやる――」

「【撃突(げきとつ)】!」


レベル1の武技(アーツ)でも襲剣スカードスで放てば驚異の一撃だ。

流石に片足では回避は厳しく、【体力】の祝福で逸らすのが見えた。

そこからの【雷切】であっさり左腕を跳ねて、【金玉飛ばし】で右の茂みに吹っ飛ばした。

あー、くらくらする。


「ぐええ。ヤバい。誤解。誤解だ、おい」


油断出来ない。

もう一発いれてやりたいが、工夫を凝らすには魔力が足りない。

とりあえず数の暴力で挑めば削りきれるか?


ぽたりと頬に水がかかった。続けて大量の水飛沫が降ってきた。

水に続けて大きな塊がちらりと見えたので後ろに飛ぶ。


「ぐぇあ」

「あなた、やっぱり駄目ね」


その塊、水浸しのサイモンさんだった。

続けてその上にあの女が落ちて踏みつけていた。


『コイツ!魔術……お師匠殿……お嬢……スマン』


サイモンさんには切り傷が無いが、口から血を吐いている。

頭がキリキリと冷えるのは濡れたせいか、怒りのせいか、魔力不足か。

スカードスを女に走らると女が腕を払う。それを利用しくるりと急回転させ柄で腰付近を打ち付けた。


「あ」


あっさり一撃が通り山賊女は腰からその場に崩れた。

何かの罠かもしれない。山賊女の一挙手一投足を見逃せない。

山賊男と同じ回復特化であれば不用意な一撃は窮地を呼ぶ。

ふつふつと意識が揺れるのをぐっとこらえた。


山賊男のような【体力】の障壁は見えない。

何か使えない理由があるのか?油断を誘っているのか?

狙い所を探すとやけに女の胸元に目が吸い寄せられる。

ドレスの谷間から目をそらすと、今度は風にたなびくドレスの足下からちらちらと見える生足が目を引いた。

再び目をそらすと大きく空いた脇腹のスリットが気になった。


なんだこれは。

これは危険だ。

視線が誘導される。


一刻も早く倒すべきだ!

この山賊女はまだ僕の武器に習熟していないはずだ。

もう魔力が心許ない。襲剣スカードスの一撃に賭けよう。

武技(アーツ)には袈裟切り【三の閃】を選択した。


「魔の力借りて刃に秘めたる力を示せ!命を絶つ!――」

「ユーキさん!」


何かが凄い勢いで飛んできて僕に強く巻き付いた。

打撃でもなく、しなる打ち付けでもなく、刺さる痛みも無い。

こんな状況なのに、なぜか良い匂いがした。


「ユーキさん!」


あれ?山賊女じゃない声が聞こえる。

山賊女は立ち上がり縦に長い盾のようなものを構えていた。

僕の目は再びドレスと双丘が織りなす谷間に吸い寄せられる。

やめろ!邪魔するな。


「魔の力借りて刃に秘めたる力を示せ!――」

「ユーキさん!もう大丈夫です!」


山賊女よりももっと近くから声が聞こえる。

顎が捕まれぐいと右に向けられた。


「ユーキさん!ユーキさん!」


黒髪の女がそこにいた。野味溢れる力のある目が印象的だ。

懐に潜り込まれたが、何故か不思議と窮地だと感じ無かった。

断続的に精神的な攻撃を受けているのかもしれない。

だって、この女性は涙を流している。


「ユーキさん!ユーキさん!良かった!」


再び巻き付かれて、身動きが出来なかった。

誰だ?いや、この声知っているような――。


「あれ?」


山賊女の方を見ると腕を組みながらニヤニヤと笑っている。

腕を組んでいるのに小型の盾が心臓のあたりを守っている。

盾の隙間から強調された胸がちらりと見えて再び視線を奪う。

この胸、どこかで見たことがある。

ああ!大地の裂け目(ヴァーデリス)を超えた時の船にいたおっぱいだ。


「ユーキさん!」


ぐいぐいと体が締め付けられる。

魔力不足で頭が朦朧としているせいかうまく振りほどけない。

なんだか良い匂いに心がざわつく。

せめて一矢報いてやる!


そこにだめ押しのように、少女がふわりと舞い降りた。

整った顔に黒い肌、ローブを羽織り、背丈が少し低めの女の子だ。


「あ……あれ?」


ローブの女の子はにっこりとほほえむと恭しくカーテシーを決めた。

あれ、ダークエルフ?いや、魔人族(デーモン)か。

見覚えがあるような?


再会幸甚の極み(お久しぶりです)

「ラ……ゾルラルル……さん?」

主様の眷属これに(はい。ご主人様)


ということは、巻き付いているのは?

あれ、これって幻じゃなくって?!


「てことは、ル……ルニート……さん?」

「はい!」


両手の短剣を放して彼女の背中に手を回した。

ショートボブだった黒髪は背中まで掛かり、腕をくすぐる。


「髪伸びたね」

「はい!」

「大丈夫……だった?」

「はいっ!」


こうして今回の旅は目的を果たしたらしい。

誰かこの状況を説明して欲しい。

次話「26 壁の試練のワイザルド」は12/7(木)の予定です。


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