22 再生する壁を穿つ金の玉
前話のあらすじ
山賊の何かに気がついたグリベルガが倒され、追い詰められたユーキはオリハルコン球を取り出した
――ヒュゴォンッツ!!
オリハルコン球は一瞬で姿を消し、遅れて空気を切り裂き、岩を砕く音が聞こえる。
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【金玉飛ばし】のレベルが3に上がりました』
【コンソール】に響くアナウンスの中、山賊の後ろの泉を取り囲む岩が幾つか砕けて飛び散ったのが見える。
岩が飛ぶ様は戦隊ヒーローものの爆破シーンのようだ。
遅れてバラバラと小石が降ってきた。
音が気になるのか後ろ向いている山賊には狙い通り当たらず太ももを軽くかすっただけだ。
振り向いた姿勢から太ももが良く見えたが、周囲の肉が抉られ真っ赤だった。
『ぷぷっ。お師匠殿。見事にハズしたな!』
『隙を作って貰ったのにすいません。今度は良く狙います!』
レベルも上がったので誘導性も上がったと思ったが甘かった。
あの速度では誘導性に意味があるかの前に、あの山賊が良く避けたと言うべきか。
『逆だ、逆!お師匠殿は狙いすぎてガッチガチだからタイミングまでバレバレなんだよ』
『あっ。弛緩……ですか?』
『そういうことよ。グリーのアホも寝てるだけみてえだから大丈夫。肩の力抜きな』
殴り飛ばされての気絶を寝てるだけと言い切るのはこの世界では普通なのだろうか?
バラバラと降る小石には拳よりも大きなものも混ざってるけど、大丈夫かな?
倒れているグリベルガさんに視線を向けるとお腹にドスンと拳大の岩が落ちた。
……うん。
……大丈夫!大丈夫!
ギャリッ!
後ろを向いていた山賊の横をサイモンさんが駆け抜け様に切りつけるが当たり前のように弾かれた。
そのまま山賊と距離を取るサイモンさんを追いかけるように短剣が飛んできて先ほどの太ももに刺さった。
「いてえ!」
『うまい!』
『そうは行かねえようだ』
『……ですね』
刺さった短剣は筋肉に押し戻されるように抜けて落ちた。
恐ろしい【再生】速度であっという間に傷口が塞がれてしまったようだ。
「余韻を味わってるってのによ。邪魔すんな!」
相手の言い分を聞く必要なんてない。
ゆっくりとこちらを向く山賊に再び狙いを付ける。
「あんだけの威力。感心したぜ!おっさんが見たら喜びそうだ!」
なんて言った?コイツとは別に首魁がいるのか!!
「そうそう使えるもんでもねえのが残念だな」
ん?何か誤解されているようだ。ちょっと魔力を込めたけどレベル2時点の魔力消費は10ぐらいで、もう回復しつつある。
さっき放った一発はすぐには回収出来そうにないけれど、既に右手にはしっかりとした重さが感じられる別の球が乗っていた。
これはチャンスか?えっと【金玉飛ばし】。
ギャリッ!!
―――ゴォンッツ!!
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【金玉飛ばし】のレベルが4に上がりました』
足止めだとか細かいことを考えるのは止めて、的が大きい心臓付近を撃ったのだが正直すぎたようだ。
正中に構えられた腕に弾かれて、今度は傷も付けられなかった。
レベル上昇に伴いちょっと勢いを増した気がしたが届かない。
【体力】の祝福は厄介だ。
「ッオイ。っぶねえな!まーだ使えんのかよ!」
山賊に答える義理は無いが、レベルが上がれば必要な魔力も下がるのでまだまだ使える。
問題はオリハルコン球がすぐには回収出来そうもないことだ。
手元に残るのはあと6発。
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ワイザー(鬼人・男)
能力値
体力 ???/???
魔力 283 /335
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【再生】スキルは【体力】を回復した余剰で身体欠損を直すスキルだ。
腕に纏った【体力】の祝福は言わば生体バリアで、【体力】の祝福はそれを偏在させる。
身体に加わるダメージを【体力】が肩代わりした後だから減ったら数値が見えるかもと思ったが甘かった。
ということで、続けて2発。
ギャッ!!
――――ゴォンッ!!
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【金玉飛ばし】のレベルが5に上がりました』
一発は躱されて、一発は払い飛ばされて背後に流れていった。
ターゲットが難敵なせいか、スキルのレベルが凄い勢いで上がる。
かなりの勢いで岩を崩しているので少し音が届くのが遅くなり、飛沫も小さなものしか飛んでこなくなった。
泉に流れ込む水の流れが変わってしまったかもしれない。
生態系に異常が出たら……いや、ここは魔の領域だから元より異常だった。
気にするだけ無駄だ。それより残弾が残り4発。
そして。
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ワイザー(鬼人・男)
能力値
体力 652/???
魔力 283 /335
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あっ見えた!
やっぱり!この山賊は性格的に【能力値隠蔽】とか使ってそうに無いと思ったんだ。
見えないのは素直に【ステータス】のレベル不足だったようだ。
でも、なんだこれは。凄い勢いで回復していく。
「ちょっと待て!お前!そんな離れ技じゃなくて体を使え!体をよ!」
山賊が何か言っているが、相手にしてはいけない。
体力の値に注目すると、1秒間にえーと、8ぐらい?いや10ぐらい…10だね。
1秒間に【体力】が10回復しているようだ。
じっと見ていると、900の手前で再び表示が???になってしまった。
自分の能力値も相当伸びたなと思って居たがこの男を前にするとまだまだのようだ。
「おい!おーい!話を聞け!!」
『お師匠殿。どしたー?どんどん行っちゃって下さいよ』
そうだ。何やってんの僕!敵の回復を待ってどうするんだよ。
『すいません、続けて行きます!』
ギャ!!ギャギャンッ!!
―――――グォンッツ!!
『テッテレテー!!』
『ユーキはスキル【金玉飛ばし】のレベルが6に上がりました』
山賊は不思議な動きでゆらゆらと回避したが、2本の黄金の筋が綺麗に追いかけて行った。
1発は右手で払い飛ばされたが、1発は払いに来た左手を押し返して肩を抉った。
【金玉飛ばし】の球威は山賊の【器用】の祝福を上回ったようだ。
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ワイザー(鬼人・男)
能力値
体力 326 /???
魔力 283 /335
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あっ結構減ってる!
これは行けそうだ。もう一回で削りきれるか?!
待てよ。そしたら山賊が死んでルニの情報が取れなくなる?
いや、狙いを間違えなければ……脳と心臓は危なそうだな。
前回やられたとき、首を落としたが、回復は一瞬では無かった。
【体力】の値よりも肉体へのダメージのほうが回復は困難かもしれない。
と意識を離したその一瞬でステータスが更新された。
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ワイザー(鬼人・男)
能力値
体力 ??? /???
魔力 153 /335
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所持するスキルに【回復魔法】は見当たらなかったが【魔力】を使った回復手段があるようだ。
でも、残りの【魔力】は多くない。残りオリハルコン球は2発。
……あれ?なんとかなりそうかもしれない。
次話「23 流れを断つ落下物」は12/4(月)の予定です。