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12 再起する物、失われた物

前話のあらすじ

 バスピールと池田に再会し、ルニートとゾルラルルの不在と無事を確認した。さらに意外な人物と再会した

宴会の最中に模擬戦を始めてしまうのはここヘルムートでも同じだった。

ビガンの町の剣術道場と交流があるだけあって、初級、中級、上級の区分は同じだったけれど、上級剣士の層の厚さに驚いた。

その中に混じって池田とバスも参戦していたが、二人とも相当腕を上げていた。

池田は3ヶ月しか経っていないということだが上級剣士の一角に食い込んでいる。

僕も何度か挑戦を受けたが、そこにサイモンさんが割って入った。


「ユーキ!俺と手会え!バス姉さんが同行に相応しかったのか……今一度見極めてやろう!」

「カカカカ。笑わせんな。お前さんじゃ、お師匠殿を相手するにゃー50年早ぇ!俺が遊んでやろう」


そんな風に言って貰えるのは嬉しいが、ハードルが上がって大変困る。

次々と挑まれる模擬戦を短剣一本で退(しりぞ)けるサイモンさんは流石だった。

片手に乾物の肴を持って(かじ)りながらの所が特に流石だ。

【飛剣術】を織り交ぜながら短剣をひらひらと振り回す。

手に持つ短剣がいつの間にか相手の急所に突きつけられているのは手品を見るようだった。

相手は翻弄され、まともな打ち合いになる前に勝負が着いた。


道場の皆さんが盛り上がる中、サイモンさんが寝る宣言をして模擬戦は終了となった。

そのまま、サイモンさんと客間に案内され一泊したのだが……。

なんとなく焦りに駆られているせいか、僕は良く寝られなかった。

何度か断片的には寝たが、そのうち明るくなったので諦めて起き上がる。


サイモンさんは寝床に既におらず……なんてことは無く丸くなって寝ている。

ビガンの町から一般的なルートで船に乗って来ると3ヶ月はかかるというから先行してログインした池田から状況が知らされてすぐに来たのかも知れない。

長旅の疲れもあるだろうと思い、起こさないようにそっと客間の戸を引いた。


「お師匠殿。お出かけか?」

「うわっ、起きてたんですか?」

「うんにゃ。今起きた」

「おはようございます」

「おう!おはよぉーす」


挨拶は大きく伸びをして欠伸をしながらだったので、やっぱりまだお疲れなのかもしれない。


「う~~~っと、お師匠殿はどちらへお出かけで?」

「僕も昨日ようやく戻ってきたばかりで、装備の修理を手配しようと思いまして」

「そっか。そりゃ丁度良かった。急いで来た甲斐があったぜ」


やっぱり急いで来てくれたようだ。本当にありがたいことだ。


「その装備、俺にも見せて貰えっかな?」

「あっ、はい。僕も確認したかったので、ちょっとここじゃ狭いですよね?」

「寝ながら見られるし、まだ飯の時間になってないし、いいんじゃねーの?」


部屋には朝日の明かりもちゃんと入っていて十分に明るい。

サイモンさんは熟練の冒険者でもあるようなので、修理のアドバイスが貰えるかも知れない。

それならばと起き抜けの客間で作業を始めることにした。

まずはログインした時に装備していた【ワイバーン】の鱗鎧だ。


『【森崎さん】、戦っていた時の防具一式を出して貰えますか?』

『承りました』


そういえば、会社に寄ったときに森崎さんは見かけなかったな。

いつもはオフィス棟の田波部長の近くのブースに居て声を掛けてくれるのだが、出張だったのかな?

思考が余所に行っている間に客間の机に鎧が出現した。


「おっ、そんな物まであるなんてずいぶん気が効いてんな」

「……そうですね。これも貰ってきたっけな?」


ロックバルトでスールさんに報酬として貰った時と同じく、木の張り型に着せられていた。

胸の位置にぽっかり大きな穴が空き、張り型が剥き出しになっている。

他の部位には目立った欠損は見られない。

机の上には胸から外れたと思われる大きな鱗が三枚、千切れた革が付着した状態で置かれている。


「これ、綺麗に取れてますけど、修理出来そうですか?」

「確かにこいつぁ~綺麗に取れたもんだな?うん。いや違うな」


あの形で撃ち抜かれて鱗がそのまま僕を押しつぶしたのだろうか?


『回収した時、鱗は砕けていたのですが、再生を始めました』

「え?鱗が再生してる?」

「だな。こいつは魔鎧(まがい)化が始まってるみてえだな。お師匠殿は何と戦ったんだ?」

「まがい?なんですか?戦ったのは、昨日話した通りやたら強い山賊ですけど」

魔鎧(まがい)化ってのは、強い力に触れた鎧が何かの切っ掛けで魔道具になることだぜ」

「魔道具になったんですか?これ?」

「いや、なってる最中だな。でもこれじゃ、見たかった相手の痕跡が残ってねえな」


サイモンさんは鱗が付着した部位を持ち上げると胸の穴に持っていった。

丁度ぴったり穴に三枚の黒光りした鱗が綺麗に収まっている。


「あれ?この鱗、こんな色だったかな?」


元の【ワイバーン】の色もあまりちゃんと覚えていないけど、回りの鱗と同じくメタリックな青だったような。

いや、元々これぐらい黒に近い群青色だったか?

あ、思い出した。

ミスリルが塗布されていて、やっぱりメタリックな青だったはずだ。


「これは凄いな。この勢いで魔鎧(まがい)化が進むのは初めて見たぞ」

「そうですか」


なんかずっと『そうですね』とか『そうですか』とかしか言ってない気がする。

目の前のことに驚くばかりだ。


サイモンさんの手が離れても鱗はそこに残り、ゆっくりと革が繋がり始めている。

徐々に周囲の鱗も寝食されるように黒く変わり始めた。


「これって、なんか変な呪いじゃないですよね?」

「あー。【解析】じゃ呪いって感じは出てねえが、お師匠殿の【ステータス】ならどうなんだ?」

「あ、見てみます」


■■■

再起する飛竜の胸鎧

 【ワイバーン】の鱗より生まれた魔鎧。【再生】の力を蓄える。

 内部の皮がシャツのように柔らかく加工されているため鎧下が要らない。

■■■


「呪いらしいことは書いてませんね。名前が変わって魔鎧(まがい)になったみたいです。【再生】の力を備えるらしいです」

「へぇ。そいつは良かった」

「……これ山賊の影響みたいです。山賊と戦ってるとき【再生】スキルのレベルが3つも上がったので」

「レベル3つとはまた豪気な話だなぁ。幾つになったんですかい?」

「レベル7ですね」

「はぁー。お師匠殿は相変わらずだな」


何が相変わらずか分からないけど、サイモンさんはしたり顔でうなずいている。


「鎧の痕跡からじゃ殆ど分からんな」

「どういうことです?」

「いや、ちっとぐらい山賊とやらの技量が見たくてね。鎧まぁこのまま置いとくとして、武器はどんな具合だ?」

「そうですね、そっちもありました。マクバリーの短剣も多くが粘土のように握りつぶされちゃったから、補充しないと」

「あのアミール製の短剣を握り潰すか。そいつは職人寄りなのか?」

「そうは見えませんでしたけど……」


マクバリーの短剣というのはビガンの町で取り寄せたマクバリー工房謹製の100本の短剣だ。

山賊との戦いでは刃が潰された時点で【飛剣術】の制御から外れて単なるアミールの金属塊として転がっていた。

あれが回収出来ていれば、元のようにとは行かなくても、また加工出来たかもしれない。

手持ちにアミールのインゴットもあるけれどそれほど多くは無い。

そして、もう一つ。大事なことを思い出した。


「あ!あの時飛ばした血食いの剣!」

『その剣も潰れたマクバリーの短剣も回収致しました」

「回収してくれたのか!良かった!!」

『しかし、失われました』

「え?失われた?」

「お師匠殿はどうしたんだ?武器を無くしちまったってのかい?」


驚きのあまり言葉にしてしまったけど収納の精霊である【森崎さん(クローク)】と会話する僕は不審者そのものだった。


「あ、あの、ええと」

『結果として飛剣スカッドも失われました』

「え?!スカッドも無くなった?!」


森崎さん(クローク)】から伝えられた衝撃的な内容に理解が追いつかない。

サイモンさんに説明しようとしたが、伝えられた内容を繰り返すだけで精一杯だった。

次話「13 敗戦の代償と新たな力」は7/20(木)の予定です。


見直しが充分でないため、ツッコミ歓迎します。

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