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6 迫る脅威に一矢報いて

前話のあらすじ

 山賊のスキルによる鎖で【ログアウト】できず池田、藤本、葛西が倒されてしまった。

あああ!失敗だ。失敗した。

ゲームなのは分かっているはずだけど心臓が打つ音が早鐘のように響き、呼吸が大きく乱れた。

耳に心臓の音と呼吸の音が大きく聞こえる。

酷い話だ。なんなんだこれは。どうすれば良かったのか。

冒険者達の話じゃなくて、藤本と池田の話を真面目に聞いて無理せず鍛え直せば良かった。


この山賊の狙いは何だ?

山賊だというのなら金目の物を奪えばいいのにそれをしない。

命を奪いに来ているくせに変なことを教え出す。

希望を持たせたと思ったら突然仲間を殺した。

グランドクエストに挑むには実力が足りなかったというのか。


復活(リスポーン)するとは言ってもそのリスクは0じゃない。

再度ゲームに復帰するためには暫く間を空ける必要がある。

それだけじゃなく傷害で痛みを伴うゲームだけに死に際は猛烈な痛みだろう。


冒険者入門講座(ブートキャンプ)の中で警告ぐらいあっても良かったのに。

どこかにあったフラグを見逃したのか?

性質(たち)の悪い追い込み方にシナリオライターに対していつも以上に腹が立っている。

僕は鎖も外れて【ログアウト】が出来るはずだが、一発入れてやらないと気が済まなかった。


怒りに任せて【飛剣術】を叩き込んでいく。

葛西達が健在の時には通せなかった軌道も織り交ぜて多角的に山賊を切りにかかる。

既に100本の剣に加えて、ダッゾスさんから譲り受けた指喰らう双牙(フィンガーバイト)も出している。

この魔剣はアミール製の短剣よりもずっと上質なものだ。

修理に失敗したら剣が死にそうで怖かったので、専門家の力を頼った。

伝手はあまり無いのだが、オリハルコン球を作った彫金師のおばさんにダメ元で頼んだら超格安で直してくれたのだ。


勢いを付けて、避けられない角度を狙って、次々と叩き込んでいくがうまく当たらない。

さっき見た山賊の【ステータス】は【器用】が500を越えて【敏捷】は600に届く寸前だった。

早すぎるし不可解な動きもあって、まともに捉えきれていない。


「上等だ!こいつは()りがいがあるぜ!!もっといろいろ見せてみろ!!!」


嬉しそうな山賊に心がささくれだつ。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【器用強化】のレベルが5に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【敏捷強化】のレベルが6に上がりました」

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【回避】のレベルが6に上がりました」

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【受け流し】のレベルが5に上がりました」


【見取り稽古】が山賊の動きを経験値に変えてくれるのはありがたいが欲しいのは当てる力だ。

いろいろ上がってる中で当てる力に寄与するのは【器用強化】ぐらいしかない。


「数に頼りゃなんとかなると思ってるみたいだが……」


山賊は飛んできた短剣の刃を掴むとぐしゃりと握り潰した。

更にもう一つに向かって拳打が放たれると刃先が破裂した。

アミール製の短剣がこんな簡単に潰されるなんて!


刃を潰され短剣としての機能が失われると【飛剣術】の制御から外れた。

男がぽいと放り投げると鉄塊がごろりと転がり、僕の短剣は一本、また一本と数を減らした。


「こんなちょろいのを数打っても無駄だ。無駄ぁ!」


ただ繰り出しただけの短剣は次々と潰されていく。

まずい!本数が減ってどんどん状況は悪くなる。

もっと工夫するんだ!この男が後悔するような一撃を!!


武技(アーツ)を放つ度に魔力がゆっくりと減っていく。

なるべく低コストで且つこの男に通じる一撃が欲しい。

跳躍して突きを放つ【短剣術】レベル1の武技(アーツ)である【跳ねる牙(リープバイト)】を数発放つ。

男は短剣を躱して、殴り飛ばして、掴んで潰した。

【飛剣術】との組み合わせで使い勝手が良い武技(アーツ)だったが、あっさりと止められた。


大丈夫。これは検証だ。

もう少し強力な武技(アーツ)を放てば良い。

牙突(がとつ)】を左右から2発放つ。

サイモンさんが得意とした純粋な突きを放つ武技(アーツ)だ。

男は手を伸ばすと今度は掴まずに払いのけた。

レベル5のアーツとなれば真っ正面からとは行かないようだ。


男の行動は明確で【筋力】を纏わせた短剣を避け、危険な武技(アーツ)を乗せた短剣は払う。

どうやっても男が脅威としている【筋力】を纏わせた短剣は当てられない。

死角から跳ね上げる線攻撃を放つ武技(アーツ)である【闇払い】も見えているように払われた。


よし考え方を変えよう。

避けられない軌道の刃に【筋力】の祝福を纏わせよう。

跳ねる牙(リープバイト)】を連続して放ち、刺さる瞬間に【筋力】の祝福を纏わせる。


ザシュ!

やった!ついに刺さった。


「ちっ。いいぞ!おめえ分かってきたじゃねえか!!」


刀傷を受けた山賊が何故だかうれしそうに言い放った後、体の前に構えていた両腕を降ろした。

払い落とすのをやめた山賊だが、短剣は当たらない。

いや、当たるのだが、狙った一撃を避けて、それ以外を【体力】の加護でゴリ押ししてきた。


それなら!!

もっと引きつけて、攻撃の瞬間に避けられない奴を入れてやる!!!

舞う剣の群れで男の攻撃を必死に誘導した。

狙い通りここしかないという場所に向かって男の腕が伸びる。

血食いの剣に【筋力】の祝福を纏わせてその軌道に飛ばす───


どんっ


前面に張った【体力】の恩恵で山賊の攻撃を受けようと準備していたが、打撃は横から来た。

転がされながら僕が居た方向を必死で目で追うと、その場所を山賊の一撃が貫く。


どうして!!!


僕が居た場所。その横にルニが立っていた。


どうしてだ?!!!


「ど、どうして?!どうしてこっちに来たんだ!!!」


一撃を入れたら【ログアウト】しようと考えていたのに!

そんなことせずに【ログアウト】すれば良かったのか。

そもそも、こちらに来てしまった時点で僕が居なくても無駄だったのか。


「我々を逃がす作戦を無為にして申し訳ありません。されど!!」

「だって!!だってルニ、腕が!」


ルニはその一撃で左手を吹き飛ばされていた。


「ユーキ殿が守れれば安いものです」


ルニは悪く無い。この山賊が悪い。

山賊に目を向けると、首を血食いの剣に貫かれていた。

首は中程までをごっそりと抉られ、ぐるんと地面に倒れ込んだ。

もう既に事切れているようだが、それでも許せない。


「……バスは?ラルは?」

「彼女達であれば無事です。先に行って貰いました。ここには私一人で来ました」

「そうか」

「……ところで、ミノリン殿達は?」

「ミノリンもワタルもカズヤもみんなやられた。残るは僕一人だけだ」


何が悪かったというのか。

左腕の付け根から血が流れ落ちるのが見える。

まずは止血か。【回復魔法】で再生するための魔言(スペル)は何だったか?

【再生】スキルがあれば元に戻るのか?

慌てて起き上がったが、考えがまとまらない。


「驚いたな!やるじゃねえか。ユーキ!」


既に事切れたと思っていた山賊の声がした。

ゆっくりと膝を立てて立ち上がる山賊の頭はだらりと垂れている。

先ほど断ち切った首の傷が大きく見えた。

その傷が徐々に塞がっていた。

なんだあれは?!

【再生】スキルは僕も持っているが、あれほど急には傷は治らないはずだ。


『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【再生】のレベルが5に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【再生】のレベルが6に上がりました』

『テッテレテー!!』

『ユーキはスキル【再生】のレベルが7に上がりました』


認めたくないが、恐ろしい勢いで上がるスキルレベルが【再生】による効果であることを告げていた。

この男の【再生】スキルのレベルは見えなかったが勢いからしてレベル7よりずっと上だ。

こんなの倒しようが無いじゃ無いか!!!

なんだよコイツ!!


いや、その前にルニだ。ルニの安全!どうすれば。

だから僕は女性に好意を寄せちゃいけないんだ。

僕から彼女に愛の言葉を告げたことは無い。

それにまだルニは生きてる。

泣き言を言う前にどうかしなければ。


「パック!!!ルニを守れ!!!」


守備の権能を備える飛剣パックがすいっと移動し、ルニの左手に付いた。

従えている5本の短剣も一緒に持っていったようだ。

それでいい。なんとかルニを守ってくれ。


「おい!山賊!」

「なんだ。ユーキ」


山賊が馴れ馴れしい。そうか【ステータス】を見られたんだった。


「お前が狙ってるのは復活(リスポーン)できる地球人(アースリング)なんだろ?!」

「まぁそうだな」


やはり僕達の予想は合っていた。

……それなら!!


「この子は地球人(アースリング)じゃない。彼女のことは見逃せ」

「そんなこたぁ約束出来ねえな。余計な事考えてねえでヒリヒリする戦いを楽しもうじゃねえか」


なんだよコイツ!楽しいのはお前だけだ!!

怒りに任せて攻撃を……いや、冷静になろう。

試合でも営業でもその時の感情に身を投げ出してうまく行ったことは無い。

得意先に連れて行かれたゲイバーの皆さんも大いに乱れているようで最後の所では冷静だった。


「ルニ!!逃げてくれ!頼む!!僕はまた再生できるし、【ログアウト】だって使えるんだ」

「……承知できませぬ。私はユーキ殿と肩を並べるために旅に出たのです!!日々の鍛錬を積んだのです!!ここで頑張らずになんとしましょうか!!」


ああもう!どうすれば良いんだ。

やるしかないのか?

やってやる!!!

さっきだって首を半分取ったのだ。ルニと力を合わせれば!!


「あーもう!よし!やるぞ!!」

「い~つまでぐだぐだやってんだぁ?!興ざめだ」


山賊はさっき起き上がっていた場所に居なかった。

まずい!どこだ?


「一回死んでこい」


呟くような山賊の声が近くに聞こえた。

その時、胸に焼けるような痛みを感じ、僕の目の前は真っ暗になった。

次話「7 望まぬ目覚めに朝を待つ男」は6/29(木)の予定です。

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