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2 森を抜けて

前話のあらすじ

 魔の領域に入り草原地帯を抜けて森の手前で一泊。池田の勇輝に対する評価が厳しかった。

本日の行程は森を抜けて、城砦都市ダッカの手前の丘陵地帯に辿り着くことだ。

予定はあくまで予定なので、無理するつもりは無い。

無理するつもりは無いが、後輩にちょっと良いところを見せたいなぁ。


思わず口をついて出そうな最後の願望は叶いそうに無い。

ルニが森の中を飛ぶ様に走り抜けては鎧袖一触で切り伏せるし、ラルの【植物魔法】の使い方も勉強になってます。


『みんなめっちゃ強いんすけど』

『……そうだな』


池田から届くウィスパーに渋々返事をする。

僕等はなんでこんな調子でいるのか?

別にサボっている訳では無いが、無理に割り込もうとすると邪魔にしかならないので【風魔法】で補助をする程度しか仕事をしていない。


『僕も池田も出番が無いな』

『そっすね。ユーキ先輩。俺もニートっす。アハハハ』


葛西も群れの正面に立ち迎え撃つ様子は見たこと無いぐらい真剣だ。

一緒に前面に立つルニに引っ張られてるのか、道場での鍛錬の成果が出て面白いのか。

魔物を殴る顔がちょっと楽しそうだったので多分後者だと僕は思っている。


前線を張る葛西の装備は道場で貰ったという道着に僕が装甲を追加したものだ。

ピッタリと合うようにアミール銅で僕が作った胸当てと肩当てと腰巻きは何度か直すうちに改造が進んだ。

『もうちょっと可愛い感じにしてよ』というお願いに、どこかで見たようなハートと羽根で装飾した模型を用意したら真顔でやめて下さいと懇願された。

意外な葛西の反応に互いにイラストを描きながらキチンと直したのが今の形だ。

結局ほんの少し丸みが欲しかっただけらしく、最終的にはアンドロイドのボディパーツのような形に収まっている。


ルニは僕と同じように【ワイバーン】の鱗鎧を身につけ、バスはいかにも冒険者らしい魔獣の皮をなめした革鎧だった。

今、最後の一匹の首を風魔法で飛ばしたラルは魔法使いらしいローブ姿だ。

地面に付きそうな裾がふわりと浮いているのは魔道具の効果らしい。

森の中でも引っかけずに歩けるのは見ていて面白い。


『ワタルは案内人としてかなり優秀だな』

『【マップ】見て誘導するだけなんですけどね』


前衛組が大活躍しているのもそうだが、ガイドが優秀過ぎた。

戦闘以前にバスと藤本が良い仕事しすぎて敵に遭遇しない。

みんな頑張り過ぎて今日は良いとこ見せようと意気込んだ僕の気合いが抜けそうです。


ここまで遭遇したのは索敵していても動きが速くて避けにくい【フォレストホーンウルフ】の小さな群れが3つ。

【冒険者マニュアル】によれば【フォレストウルフ】と同じく、倒しきれないと別の群れを呼ぶと言う特性を持つが、そこをバスが綺麗に潰すので各個撃破出来ている。

【フォレストホーンウルフ】はこんな敵だ。


■■■

 フォレストホーンウルフ(魔物・オス)

 能力値

  体力  110 /110 (91+19)

  魔力  72 /72

  筋力  113 (102+11)

  器用  123 (102+21)

  敏捷  205 (157+48)

 スキル

  ・身体

   【体力強化】2

   【筋力強化】1

   【器用強化】2

   【敏捷強化】3

   【嗅覚強化】2

  ・魔物

   【角術】3

   【牙術】2

■■■


狼なのに角が生えてる幻想感バリバリの魔物だ。

能力値を見ればロックバルトで遭遇した【フォレストウルフ】よりも2割増し以上に強い。

【ホーンラビット】もそうだが、魔の領域では角が生えてないと生きていけないのだろうか?


かなり素早い敵で、なんと敏捷はバスよりも高い。

我々の【パーティ】で敏捷が上回るのはルニと僕。あと意外なことだが能力が伸びた葛西の3人だ。

それでも、バスは位置取りの妙なのか難なく撃退するし、ラルは【植物魔法】でまとめて罠にかけた。

そこには単純に能力値だけでは表現出来ない強さがあった。

藤本が銃の的が絞りきれず接近されて、仕事が出来ていないのとは対照的だ。

合理的な藤本は凹みもせずにさっさと戦力役割は放棄して【マップ】を使ったナビゲートに情熱を燃やしている。


『それにしてもやけにスキルの習得レベルが早いんですけど』

『あれ?ミノリンが説明するって張り切って無かったか?』

『見てから説明した方が早いと思ってさー』

『まぁ、確かにそうだな』


池田の疑問にバスと葛西の掛け合いが続いた。

森の中を進みながらなので、音で余計な魔物を呼ばない様に口パクがちょっと気持ち悪い【パーティチャット】で会話が続く。


『実ちゃんが、ちょっと驚くと思うよって言ってたのはコレのこと?』

『そうそう。具体的には【パーティ】スキルの効果ね』


相変わらず面倒な【パーティ】の効果説明に葛西が四苦八苦していた。

藤本の質問攻めに追われている葛西は大変そうだが楽しそうだ。

【パーティ】はレベルが一つ上がって腕輪の分を加えるとレベル6になったが、何か機能が解放されたのだろうか?


『僕等の記憶だと【パーティ】組んでても敵を直接倒した人が一番経験値貰ってて、こんな貰えなかったんだけど?』

『そりゃもう先輩がなんか凄いからよ』


葛西の雑な説明はいくらなんでも酷いと思ったが訂正すると追求されそうなので、難しい顔をしてうなずいておいた。

【フォレストホーンウルフ】から取得した【嗅覚強化】スキルの効果もあって、索敵活動はさらに精度を上げていた。


「ほう。こいつは上等だ」


急に声を出した人が居る。

その声の主は一番索敵に気を遣っているバスだった。

ということは、既に敵に見つかっているとか?

僕の【マップ】上には敵影は写っていないけれども──。


「ですね。すでに丘陵地帯に入ったようです」


藤本が続く。予想に反して行程が順調だという報告だった。

森を抜けて徐々に草木が減り、硬そうな岩肌が所々に見えてきていた。

既に本日のノルマを達成して丘陵地帯に入っていたらしい。


「バス殿が急に声出すから敵影を探してしまいました」

(わり)(わり)ぃ。ちっと感心しすぎて思わず声が出ちまった」

「順調なのは嬉しい知らせです」


ルニからも驚いたという声が上がり、思わず肩に入った力が抜けた。

こんな時に肩に力が入るのは鍛錬不足な証拠だな。

【クロック】の示す時間は午後4時を過ぎたところで、時間にも相当余裕がある。


「もうちょっと進んだら身を隠せる場所にキャンプを張りましょう」

「了解だ」

『あと、そろそろ【パーティチャット】に戻したほうがいいですね』

『それもそうだな』


城砦都市ダッカにも何度か行ったことがあるというバスのアドバイスが聞けるのはとてもありがたい。

順調に丘陵地帯を登り岩の丁度良い窪みを見つけてそこを今日の宿に決めた。

少し薄雲りの天気ではあるが雨も降りそうにない。

雨の準備はそれなりにしてあるのだが、魔の領域で見通しが良い天気であることを素直に喜んだ。


周囲に魔獣の気配が無いことを充分に確認して食事は鍋にした。

コスギさんによる肉と野菜がたっぷり入って既に暖かい鉄鍋をセットした竈に取り出す。

各人が取り皿に好き好きに取り分けると、ゴツゴツした岩肌に腰を掛けて食べ始める。


『うめぇ~』

『最高ですね』


淡々とした口調はいつも通りだが一口噛んでは止まる藤本の動きが感動を表していた。

周囲の反応を見るのはそのぐらいにして僕も汁をすする。


『は~温まる』


汁に野菜のうま味がたっぷりと染み出して身体を温めた。

その汁と馴染む【スイムベアー】の肉も素晴らしい。

オスの肉は獣性に溢れ、焼き物にしてかぶりつくのに最高だが、メスの肉は軟らかく鍋に向いている。

今回はそんなメスの肉で野菜との組み合わせも最高だった。


『流石コスギ殿だな』

『これがここで食えるのはユーキとラルのおかげだよ』

『まさしく!』


こんな所で匂いが香り立つ鍋が出来るのはラルのおかげだ。

鍋から上がる湯気は【風魔法】でゆるゆると収束して、【生活魔法】の【洗浄】で消し飛ばす芸の細かさは流石だ。


精霊様に御礼奉ずる(精霊様に感謝しますわ)

『ほんと感謝しか無いよね~』

「は~旨い」


【パーティチャット】だと食べながら喋る事が出来る利点があるが、この感謝は声に出したい。


「ダハハハ。確かにこりゃあ旨そうだぜ」

「旨そうじゃなくて、旨いっすよ」


おっさんの声も、鍋の完成度に感心した様子を告げる。

ん?おっさん?

鍋を囲む僕たちの輪の中にいつの間にか野人のような大男が座っていた。

お玉を持ち、当然という顔で自分の持つ皿に鍋を取り分けていた。

誰だ?何時現れたのかも分からなかった。

前から居たように突然そこに座っていたのだ。


「……いったいどこから?いつの間に?」

「そりゃあ、ポーンと上からな。さっきだよ」


独り言のような台詞に軽い調子で返された。

気楽な感じが逆に恐ろしい。


「そこな御仁!何者だ?」


ルニの誰何(すいか)が大きく響き渡る。

ちょっと、声大きすぎじゃないですか?

魔物が来ちゃいませんか?

気付かないうちに輪の中にいるあたり、この人物のほうが危険そうだけど。


「おっと、驚かせちまったか。良い匂いしてたもんでよ」

「何者かをお聞かせ願いたい!」

「ダハハ。俺の鼻も中々利くもんだな!」

「てめえ、答えろ」


ルニに加えてバスからも鋭い声が上がった。

おっさんの声も大きいし、魔物が寄ってきてもおかしくないが幸い【マップ】には反応は無い。


「おっ、お前ら見たことある顔だな」

「せ、先輩!こいつ!!」

「コイツです!」

「ダハハハハ!知ってる奴もいるんじゃしょうがねえ、定番の自己紹介と行こうか!」


髭を蓄えた大男が高らかに笑う声が不安を呼ぶ。

どう考えても、これは駄目な相手だ。


「俺様は山賊だぁぁぁぁ─────!飯をよこせぇぇぇ──────!!」


大男の発する咆哮のような宣言に空気が震える。

本当に自分で山賊と名乗る山賊と出会ってしまうなんて。

折角のルート変更も丁寧な計画も無駄だった!あーもう!なんだよ!

山賊との遭遇は強制イベントだったようだ。

次話「3 誰が為の親切」は6/16(金)の予定です。

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