17 解き放つ
前回のあらすじ
凄い収納スキルを獲得した。
僕は今焦っている。まずトイレに行きたいのだ。
このゲームを始めてからトイレいっていないことを思い出したら、猛烈に便意がやってきた。
けど、トイレはどこにあるんだろうか?
そして、時間が間に合うなら閉店前に鋼の玉を買い足したいのだ。
後者の〆切があるからそっちから片付けなければいけないけど、先立つものが足りない。
なので最初にクエストの達成報告から行かないといけない。
丘陵地帯から西門にやってきた。
いつもはピッと通過するところだが、門番さんにトイレの所在を確認する。
「あー。トイレな。門の奴は今修理中でな~。あんた冒険者だから冒険者ギルドか、宿にあるやつがいいんじゃないか?」
「あ、ありがとうございますっ」
慌てて立ち去り冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドは混んでいた。
向かいの店はまだ開いていたが間に合うのか心配になる。
受付嬢さんは集団の対応中だ。
今の隙にトイレに行ってこようか?と思ったら受付嬢さんの対応していた集団の受付が終わったようだ。
「クエストの報告だね。ラージラット討伐成果の魔石は持ってきたかい?」
「あっ、はい」
慌てて魔石を出そうとしたが、そういえば森崎さんに預けたままだ。
『森崎さん、ナップサック出して貰えますか?』
『かしこまりました』
カウンターの上に迷い人の背負い袋を出すと中身を見せた。
「ここにあるんですけど、あのト…」
「あ、ああ!量があるみたいだから、ちょっと大型のトレイを用意するから待ってな!」
受付嬢さんは被せるようにそう言うと、バックヤードに行ってしまった。
トイレ行きたいんだけど、見回してみるがどこがトイレか分からない。
「ここに魔石を入れてちょうだい」
受付嬢さんが戻ってきた。彼女が出した大型のトレイに魔石を移し換える。
作業をしながら、トイレの所在を確認する。
「あの、トイレに行きたいんですけどどちらになりますか?」
「あ、トイレかい?あんたの右手の突き当たりのドアだよ。男子用は右側だから間違えないようにね。」
あっさり教えてくれたが、緊張は続く。
「悪いけど精算中は一緒に確認しておくれ。以前、報酬の受け渡しで不正をした職員がいて、それから厳しくてねぇ…」
彼女が申し訳なさそうに言うのでつきあうしかなさそうだ。焦りながらも、これが飯の種だと丁寧にトレイに移し換える。結局魔石は125個あった。
そのまま、ピッとして脱出だ。とは行かなかった。
「この4つはちょっと違うものみたいだね。確認するからまってな」
彼女は魔石のカタログみたいなものを素早くカウンターの下から取り出して確認を始めた。
うー、どうでもいいです。はやく、はやくして。
緊迫感が伝わったのか、彼女は真剣な顔をしている。
「確認できたよ。こっちは【ヒュージラット】の魔石だね。これはどこで討伐したものだい?」
「あ、同じ場所ですよ。西門先の丘陵地帯」
受付嬢さんが「あれ、とするとランクが…」なんかぶつぶつ言っている。早くして欲しい。
「ぷぴ」あ、ちょっと空気が出た。臭い。
「あの、トイレ…」
「他の魔物は見かけなかったかい?」
「えと、熊が出てきました。【フォレストベアー】とかいう…」
「【フォレストベアー】かい?おかしいね」
「はい、あのこれが魔石です」
鋼の玉と同じポーチに入れていたので取り出してカウンターに置いた。
あ、迷い人の背負い袋はもういらないな。
と思ったや否や『承りました』と聞こえたら、瞬く間に収納された。森崎さんは仕事が早かった。
それは良いけどトイレいきたい。
「あの、トイレ…」
「どのくらいの個体だったのかねぇ?何匹か居たのかい?」
「あ、一匹でしたよ。それが出てきたら【ラージラット】が巣穴に逃げて僕に向かってきて退治しました。あと、大きさですが…毛皮を出さなきゃだな」
『承りました』
迷い人の背負い袋が置いてあったスペースに、ふんわり畳まれた状態で毛皮が出現した。
「きゃ!」
あれ、受付嬢さんは悲鳴が以外と可愛いかった。
「あ、すいません。倒した奴の毛皮です。あ、これ買い取って貰えるんですかね?」
「あ、えーと大丈夫だよ。これなら個体の大きさが分かるね。ちょっと鑑定担当を読んでくるから」
そう言うとさっさとバックヤードに行ってしまった。なんか後ろがざわざわしている。
さっきのおならが臭かったんだろうか、早くトイレ行きたい。
慌てて受付嬢さんが男性を連れてやってきた。
「これは!確かにフォレストベアーだ。こんな時期に!【鑑定】…これは若い個体だね。もうこんなところまで来ているのか、討伐を考えないといけないな」
なんかぶつぶつ言っている。さっさと精算を終わらせてトイレ行きたいのに。
「ぷぴぴ」あ、やばいかもしれない。ゆっくり話している場合じゃない!
「あの、トイレいかせて下さい!」
「あー!悪かったね」
ようやく事態を把握した受付嬢さんが慌てて精算してくれた。
「こっちの【ラージラット】の魔石114個が11500ヤーンだね。大量討伐だったから、少しボーナスが付いたよ。
【ヒュージラット】の魔石4個が450ヤーンだね。
【フォレストベアー】の魔石が1500ヤーン、毛皮が8000ヤーンだね。
合わせて21450ヤーンだよ。【冒険者カード】を渡しな」
出してあった冒険者カードを彼女に渡した。詳細はもういいので早くして欲しかった。
黒い四角いプレートにカードを載せると冒険者カードが光り、「ピロン」と音が鳴った。
『ユーキはスキル【冒険者カード】のレベルが2に上がりました』
ん?なんか上がったがそれどころじゃ無い。
「今回はいろいろ買い取りしたけど、クエスト証明以外の買い取りは専用のコーナーでやっとくれよ」
「分かりました~」
受付嬢さんに簡単に返事をすると慌ててトイレに向かう。とはいえ急いで移動すると出そうでヤバい。人混みを「通して下さい!」とお願いして、間をかき分けてトイレにたどり着いた。
トイレは意外と現代風だった。大は無情にも埋まっていた。
何人もの冒険者がトイレに来ては小を済ませて出て行った。
なんでか、僕に「失礼します」とペコペコ挨拶をしながら前を通っていった。
祈るような気持ちで待っていると、一人のおじさんが出てきた。
「お、待ってたのか?!悪かったな」
と、背中を叩いてきた。あの、先に手を洗って下さい。
そして衝撃厳禁です。揺らしたらやばいでしょう!!
ようやく入ろうとしたら、後ろから追い抜いて個室に入ろうとする奴がいた。
「オイ!!横入りすんな!さっきから待ってたんだ!」
なんか思わず低い声が出た。
「す、すいやせん」
割り込みしようとしていた若者がペコペコあやまりながら譲ってくれた。背中を叩いてたおじさんもなんか急にやさしかった。
そして、ようやく個室に入り用を足すことが出来たのだ。
座りながら【冒険者カード】を取り出し残金を確認すると21,465¥と書かれていた。
これは結構な額じゃないだろうか?ニンマリとしてしまった。
トイレで物を触るのは衛生面で不安があるけど、スキルで出た物は大丈夫だよね?
トイレは普通に水洗式だったしウォシュレットもついていた。
やけに日本っぽいのが気になったが、手をかざすと水が流れて使いやすかった。
冒険者ギルドを出るとすっかり暗くなっており、向かいの店は閉まっていた。
僕はこう思った。次は絶対に【AFK】を覚えよう!!
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