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1 魔の領域

4章までのあらすじ

・暇を持て余したユーキはSCWのβテストに参加し【飛剣術】を発現させる(1章)

・本サービスが始まり剣術道場にて発現させた【飛剣術】【見取り稽古】を指導する毎日(2章)

・新たなメダルを求めてロックバルトに。祭モチーフのメダルを作ったら酷い事実が発覚(3章)

・都合良く突然ヘルムートに転移し、着々と準備を進め池田と合流し魔の領域に向かう(4章)

大地の裂け目(ヴァーデリス)は専用船が運行しているだけあって、無事に渡ることが出来た。

甲板からうっすらと見えた大きすぎる魚影は何だったのか?

それを知る機会(クエスト)はしばらく無くて良い。

対岸に着くと旅慣れた熟練の冒険者達はそのまま船着き場を離れた。


僕達も【マップ】を開き、周辺の地形が事前情報と違わないことを確認するとすぐに出発した。

船で運んだ騎獣で移動する冒険者も居たが、魔の領域で怯まない騎獣は貴重だ。

元々少ない乗客の中でも騎獣持ちは一握りで、僕達は当然徒歩だ。

魔道馬車も魔物が反応する可能性があるというので自重することになった。


魔の領域の入り口は河向かいと同じく熱帯草原(サバナ)地帯だった。

事前確認通りだと草原の先、森林を抜けて、山を登って下ると城砦都市ダッカだ。

オタクな知識にも詳しい藤本によれば徒歩での行軍は一日40km程度だそうだが、僕達の予定は60km程度に置かれていた。

バスの経験から藤本と池田の能力値を踏まえて勘で算出した行軍速度で計画している。

安全を確認しながら余裕を持って進みたいところだが、遅いと逆に危ないという。


藤本の案内は案外優秀で魔物を避けて1日で森林地帯の手前に達した。

森の周辺では魔物の生態系が違うということもあり、明るいうちに森から離れてキャンプを張った。

久しぶりの新たな土地との出会いは楽しく、バンジョーを取り出したらバスに叱られた。

今日の行程が安定していたせいとは言え緊張していた分、緩みが出たのだ。


「ユーキ!おめえは魔の領域を舐めすぎだ!俺達まで巻き込んで全滅する気か?!」

「すいません」

「ラルは良く分かんねえが、みんな疲れた顔だ。気を張り詰めすぎてた反動なのは分かるがな」

「そうだねぇ。な~んか疲れたね」


流石の葛西も慣れない土地に何時もの元気は無い。

少し気まずくなった空気を池田が変えてくれた。


「それはそうと……ゾルラルルさんは目を閉じてるのにスイスイ歩けて凄いっすね」

「ラルちゃんは心の目で見てるからね!」

「【魔力視】は魔力の濃さを見るスキルでしたっけ?」

「されど魔の気配の逞しきかな(魔素が元気すぎるわ)


池田達の実力は道場で見極める場があったけれど、そういえば逆はまだ無かったか。

【魔力視】で周囲を見れば、ヘルムート周辺よりも魔素が少し濃いようだ。

草木だけではなく大地の魔素も濃くて、感心している池田の印象とは逆で、ラルは歩きにくそうだった。


【魔力視】はレベルが上がると魔素の透過具合や活性具合から物が良く見えるようになる。

人の表情は読み取りにくいが、魔素の活性具合で心の揺れも良く分かる。

魔素が示す情報は普通の人が光で見るよりも多い。

それが魔の領域ではさらに活性化していてまだ慣れない。


泊まり込みの魔法指導でラルの【魔力視】を【見取り稽古】して僕もレベル7まで来ているので、感覚に違いは無いと思う。

【見取り稽古】で視力スキルを得るというのは口にすれば変な話だが実際に見て覚えた。

僕達は通常反射した光を目で受けることで物の形や色を見る。

ややこしい話だが【魔力視】を使う様子を【魔力視】で見ればラルの目に吸い寄せられる魔素が見えた。

目の位置に魔素の感覚器官は無いと思うけれど、違和感は無い。


体感的にスキルの力を含むことがある魔素だが、事前に触れたものの情報も備えるようだった。

周囲を巡る魔素を積極的に受け入れて魔素が得た情報を視覚情報として得るのだ。

僕はなんとなく黒っぽい薄靄として魔素を見ているが、ラルの認識では肌の色に近いという。

魔人種(デーモン)である彼女の肌は褐色系なのだが、彼女の口ぶりではピンクに近い感じがする。


「この肉うまいっす」

「【ブッシュブル】のお肉は良いよね。少し冷めても硬すぎないし、ザ・お肉って食感が好き!」


下味を付けて焼いただけの肉だがとても美味しかった。

旨い肉を前に葛西も元気を取り戻したようで良かった。

毎日コスギさんに多めに用意してもらった料理を【森崎さん(クローク)】に溜め込んでいるので副菜も充実している。

美味しいご飯を食べる度にこのゲームの不思議を実感する。

頭に被るだけの装置で味覚はどうやって錯覚させているのだろう?


火気を控えているが、それでも臭いに釣られたのか食後の一杯を取っていると敵の接近があった。


『ユーキ!ワタル!気付いてるか?』


突然バスから【パーティチャット】が入った。


『ええ、気付いてます。こっち来ちゃいましたね』

『えっ?【マップ】には……ああ、何か居ますね』


藤本の【気配察知】レベルは2でバスは4だ。

レベル分だけ藤本の索敵範囲は少し狭い。

それでも敵の動きが速く、すぐに索敵範囲に入ったようだ。

ヘルムート側では危険性と食糧事情を脅かす性質から高額の討伐依頼が設定されていた肉食獣だろうか?

食べかけの食事は各自【インベントリ】に収納して敵に備えた。


『予定通り初戦はワタルとカズヤは見学ってことで。よし、行きますよ!【ブライトネス】!』


見学するにしても藤本と池田、それに肝心の葛西も【暗視】スキルが無かった。

そこで、久しぶりの【ブライトネス】の出番だ。

続けて【パーティチャット】に【マップ】と【気配察知】から把握した情報を流す。


『全部で5!正面に3体、左右から1体づつ回り込んでます!』

『よし。良く見えてるな』

『いっくよー!!』

『行きます!』


相手は群れでの狩りが出来る魔物のようだ。

強力な敵一体よりも厄介な相手だが僕たちのやることは変わらない。

ヘルムートの冒険者生活で役割は決まっている。

心得た物でルニと葛西が合図と共に飛び出して行った。

何時もの狩りでもフロントはこの二人だった。


ギンっとルニの剣と打ち合う音がして、正面に現れた敵の姿が目に入った。

ルニの腰ほどの魔獣だった。あれは小型の熊か?

即座に【ステータス】を確認する。


■■■

 ホーンラビット (魔物・オス)

 能力値

  体力  102 /102

  魔力  92 /92

  筋力  64

  器用  111  (92+19)

  敏捷  199  (153+46)

 スキル

  ・身体

   【器用強化】2

   【敏捷強化】3

   【蹴術】2

   【気配察知】2

  ・魔物

   【角術】3

■■■


大きさから熊かと思ったら兎だった。

脚が速いし跳ねるように進むのも道理だ。


左右の敵影の動きが止まった。

ラルの【植物魔法】によるもので、雨天時の【雷魔法】による落雷や【風魔法】による突風と並んで定番の足止めだ。

既にバスは気配を抑えて右側面から迫る個体に近寄っていた。

僕は左側面から来る個体に向かって飛剣スカッドを飛ばした。


『テッテレテー!!』

『ルニートはスキル【蹴術】を習得しました』

『テッテレテー!!』

『ゾルラルルはスキル【蹴術】を習得しました』

『テッテレテー!!』

『ワタルはスキル【蹴術】を習得しました』

『テッテレテー!!』

『ワタルはスキル【敏捷強化】のレベルが2に上がりました』

『テッテレテー!!』

『カズヤはスキル【蹴術】を習得しました』


あっという間に片付いて順調に経験値にされたようだ。

そういえば【蹴術】を持っている敵は珍しいかもしれない。


「ちょっ。ちょっと初めて見たけど皆さん凄く無いですか?!」

「実ちゃんも凄い!」

「そうか?今の熊みたいな兎は動きが派手だったからかな?」


敏捷特化型の敵だったので、それほど耐久力が無くて良かった。

ルニもバスも後の先を取って軽々と首を撥ねていた。刀剣女子恐るべしである。

葛西も道場での鍛錬もあってか綺麗にカウンターを入れていた。

敵影は先ほどの5体のみで、他は大丈夫そうだ。

そうこうする間にもみんなが戻ってきた。


「みんなお疲れ様。ルニから見て魔の領域の敵はどうだった?」

「ヘルムート周辺では見ない敵でしたが、素早さもそれほどでもありませんでしたから、落ち着いて対処すれば問題ないでしょう」

「だな。解体して取れたのは角と肉だ。ユーキ預かっといてくれ」

「あ、はい」


ルニも葛西もインベントリから角と美味しそうな肉片を取り出した。

各人の【インベントリ】の収納は装備品に使いたいので、戦利品の収納は【森崎さん(クローク)】頼みだ。

左側面から迫ってきていた個体についてはさっさと収納済みである。


中断された食事はラルが教えてくれた【生活魔法】レベル2の魔言(スペル)である【加熱】でチンして手早く片付けた。

明日も早いため、言葉少なめに挨拶を交わして順番に寝に入った。

夜の警戒は葛西、藤本、池田の3人から初めて、夜は僕とラル、明け方は朝に強いルニとバスへと繋いだ。

藤本によれば交代際に【フォレストバット】という蝙蝠が近くまで来たそうだが森からは出てこなかったそうだ。


「おはよう。敵は平気だった?」

「肩すかしな程だったぞ。フッ。ルニート殿が鍛錬を始めてしまう程にな」

「と、当然軽めに致しましたよ。型を一巡り確認しただけです」


何を慌てているのか分からないけど、ルニは平常運転だった。

慣れた物なので心配はしていないが、型を一巡りといっても本気でやれば相当な負担だ。

いつもの二人に引っ張られ、不思議と穏やかな朝を迎え軽めの食事を取った。


「今日も無理せず行きましょう。地形が変わってなければ森を抜けるのが目標です」


みんなからは同意の合図がそれぞれ帰ってきた。さあ二日目だ!

池田が軽い調子で話しかけてきた。


「先輩。すごい面子ですね」

「そうだな。今更気付いたのか?」

「ええ。それにしても……」

「なんだ?」


なにか気付いたことでもあるんだろうか?

満面の笑みでこう続けた。


「先輩って殆ど何もしてないっすね?ニートって奴みたいな?」

「え?!」


何を言い出すのかと思ったが、言われてみると目立つ動きはしてない。

【飛剣術】による仕事は目に留まっていなかったようだ。

今日はちょっとだけ活躍しよう。そう心に誓った。


次話「2 森を抜けて」は6/12(月)の予定です。

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