37 問いを重ねる男
前話のあらすじ
池田はそれなりに凄かったが残念な男だった
「ふむ。カズヤは受けに徹したのが良かったですね」
「なんだお前、人のことを気にしてる場合か。次はお前の番だぞ!」
「ええ、憂鬱ですが仕方無いですよね」
「ユーキ殿。こいつはあんたより覇気が足りんが大丈夫か?」
「うーん。こういう奴なんです」
そうとしか言えない。藤本は感情の起伏が分かりにくいのだ。
ちなみに今はバスピールさんに話しかけられてちょっと嬉しそうだ。
起伏の激しい池田とは性格が対照的で。この二人は悪く無い組み合わせだと思う。
「ワタルは【銃術】の使い手か。ベルグ殿!此奴の銃の腕を見たいのだが試し人を受けて貰えるか?」
「ほう。この爺に頼まれるか。嬢ちゃんの頼みとあれば断れんのう」
「かたじけない。ワタルよ。こちらは【弓術】の先代の師範で今は【銃術】を教えてらっしゃるチャルベルグ殿だ。失礼無いようにな」
「アッハイ。チャルベルグさん、お願いします」
「ほうほうよろしい。任されましたぞ」
周囲を取り囲む門弟の中から小人族の男性が前に出てきた。
チャルベルグさんの上背は小学生低学年程だが、振る舞いや雰囲気は老成した人物のそれだった。
事前に二人の得意の獲物を聞いておらず、葛西も池田の獲物は知らなかった。
そこでバスピールさんはいろんな武術に精通した人を集めてくれたようだ。
周りに居る人は多くが師範や師範代だと言う。
チャルベルグさんもその中の一人で、相当な実力者なのだろう。
「ふむ。ワタル殿は地球人ということは【銃術】レベルは4ぐらいかな?」
「いえレベル3です。すいません……」
「なるほど。ならば危険は少ない。大概のことは何とかなりそうですな。しかし、射的では先ほどの印象が強すぎますな……」
ちらりと僕に視線を向けるのは止めて下さい。
さっきのはほら、そこの鳥人族の女性が煽ったからですから。
「銃が獲物なんで、模擬戦という訳には行かないですよね」
「そうでも無いですぞ。実戦を考えればそれを模倣した戦いはいくらでもある」
「ふむ。そうですか」
「それじゃ、門下生2人ぐらいに襲わせるからお前さんはそこの岩を拠点に見立てて近づかれんように防衛してみてくれ」
チャルベルグさんは拠点防衛シーンの模擬戦闘を提案した。
「拠点防衛ですか。これは火の魔法を放つタイプの魔銃なのですが本当に討っても良いんですか?」
「あー。問題無いぞ。攻める側はそれなりの防具を身につけるからな」
「防具ですか。その場合、どうやって倒せたと判断するんですか?」
「ある程度の傷を受けると色が変わるようになっとるからそれで倒したと判断する」
バスも余裕の構えだ。
そんな魔道具があるのか。ルニの実家の道場より道具が揃っているな。
「2人ぐらいと言われましたが、2人なんですか3人なんですか?」
「そんなことを教えてくれる相手がおるか。模擬戦とは言え実践に近くするのは当然のことよ」
なるほど、それはそうだ。
「ふむ。敵の規模や兵種・兵装について分からないのは当然か。そうですね」
「それじゃ配置について……」
「拠点防衛と言われましたが、僕の勝利条件は何ですか?」
「そりゃあ、その岩が守れたらじゃ」
「敗北条件は拠点扱いの岩の破壊ですか?それとも僕の生存ですか?敵兵の拠点到達ですか?」
「ふうむ。ワタル殿はなかなか難儀な性質ですな。それでは拠点到達されずに敵勢力を無力化すれば良しとしましょう」
「わかりました」
藤本は曖昧とかなんとなくとか苦手だからな。
恐ろしく情報整理に長けた男。それが藤本だ。
うちのARデバイスのAPI切り出しも奴だからこそできたことだと皆が言う。
「銃以外の武器の使用は許可されますか?」
「一番長けた武器が銃というのであれば、問題無い。好きにつかって良しとしましょう」
「それから……」
「まだですか。ううむ。これでは始められん。相手は敵性部隊ですからな。何も教えてくれんが、仕方無い。あと一つだけお答えしましょう」
「あと一つだけですか。残り14個あったんですが、仕方ありません」
奴のこういうところは本当に真似できない。
集中し始めると細かい事がどんどん気になるのが藤本だ。
なんとなくで正解を引き当てるのが葛西だとしたら、絶対に失敗しないのが藤本だ。
奴の起こしたプログラムは周辺機能を含めて1件も不具合を起こさない。
「それでは最後に一つ。他のスキルの使用は許可されますか?」
「模擬戦とは実践に近い力を量るものですからな。当然結構です」
そんなの当然だと思っていたけど、藤本には違う。
当たり前のことを一つづつ潰してくるのが奴だ。
演舞場の端の方に突き立った岩を自陣の砦と見立てて、反対側の端の土壁の影から敵兵に見立てた門弟の方の攻勢を退けるという模擬戦だ。
細かいルールを決める間、藤本は何か聞きたそうだったがぐっと我慢したようだ。
藤本は片手の指を一つづつ折って何かを確認していた。
「それでは始め!」
───────
結果は藤本の圧勝だった。
土壁から出てくるタイミングが予め分かっていたように火球を放ち門弟の皆さんを退けた。
弾速を調整して、綺麗に出てくるタイミングで数発当たる調整をした上でだ。
藤本の質問をさらに受け付けていたら、勝率はさらに上がっただろう。
「こいつは想像以上だな」
「藤本ちゃんは型に嵌めるの得意だからねえ」
藤本も当然のようか顔をしていてあまり嬉しそうには見えない。
見えないけれど奴の表現としては相当嬉しそうだ。
「ワタル殿。どうして相手の飛び出しが分かったのだ?」
「どうしてと言われても【マップ】上の標的が予想通り動いてくれたので」
「必ずしも当たるものでも無いだろう」
「結構当たりますよ。魔法の弾丸は風の影響も受けにくいし、前と同じにすれば良いだけですから」
今回は門弟の皆さんがセオリー通りすぎたのだと思う。
藤本は型どおりの対処を得意とする一方で、想定外の動きには本当に弱い。
藤本の天敵のタイプは葛西だ。
「それよりも、最初の質問の続き良いでしょうか?」
「うーむ。どうかなバスピール殿。腕試しはこれまでとして良いですかな?」
「問題ありませぬ。ベルグ殿ありがとうございました」
「いやいや。なかなかに楽しめましたぞ」
「バーチも、ヤンゴも、ニースも、ラーも皆ありがとな!」
「「「「はい」」」」
彼らは槍を持ったり弓を持ったりと武器が違う集団だったのだが、バスピールさんは他の武器を扱う門弟の名前も覚えているようだ。
この人やっぱりここに居た方が良いんじゃ無いかな?
「それで、チャルベルクさん。質問なんですけれど」
「おっと、やはり忘れてはくれませぬか、はいはい。何でしょうかな?」
「敵勢力は結局4人でしたがこれはどういった意図で……」
こうなると藤本は厄介だ
奴は問いを重ねる程疑問が増えていくのだ。
問いを遮るのも悪手だ。ただ問いを増やす結果に繋がる。
『話せない理由があるんでしょうか?』『質問の仕方が悪かったですか?』
そんな意味の無い問いに答えたい人は多くは無いだろう。
そしてそれは、対象に対して一定の理解を得るまで止まらない。
一定がどれほどかは奴本人にしか分からない。
解法は、質問しても無駄だと思わせることだ。
葛西はそれを自然にやってのけるので相性が良い。
組ませることで葛西の無駄話も封じるので僕にも丁度良い。
意外と上下関係は弁えているので、上司からの静止だけは聞くが……。
チャルベルグさんすいません。本当にすいません。
藤本はそっと放置しておくことにした。
ちなみに池田は未だに甲斐甲斐しく介抱されている。
カメラ相当だという【スクリーンショット】スキルがあれば残しておけたのに。
「バスピールさんも、ルニも、ゾルラさんもこれで良いですか?」
「うむ。問題無い」
「ユーキさんの同輩に相応しい実力でした」
「主星に従う綺羅星元より輝きに疑い無し」
3人共、藤本と池田の実力について納得してくれたようだ。
正直僕もあまり期待してなかったのだけど、結果は驚きではなく納得だった。
「それにしても、ユーキ殿」
「なんですか?」
「お主の知り合いは中々の粒揃いだな」
バスピールさんの言う通りだ。
結果だけ見れば、いつもそうなんですよね。
「そうですね。どいつこいつも結構な変わり者ですけどね」
「お主がそれを言うか」
「先輩に言われたくな~い!」
「主殿の煌き並ぶ光無し」
「然り。ユーキさんは突き抜けた存在であればこそです」
え?どうしてそうなるの?!
最近はそれほど皆と違わないと思ってたのに!
藤本にはこの謎を是非解明してほしい。
次話「38 同門の絆」は5/19(金)の予定です。