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30 精霊の契り

前話のあらすじ

 固有スキルについて情報交換した。【金玉飛ばし】の存在がバレた。

差し込む日差しが目に掛かり目が覚めた。

【クロック】スキルを確認すると、いつも通り朝7時だ。

レベルが上がれば目覚まし時計代わりになるらしいけれど今はこれでいい。


【水洗浄】で顔と体をさっぱりさせ、【AFK】で用を済ませると道着に着替える。

魔法スキルも増えて【洗浄】【土洗浄】【火洗浄】【水洗浄】【光洗浄】と揃っているが、なんとなく【水魔法】の【水洗浄】が好きだ。

比較した所効果は違わないが、気分的にこれが一番さっぱりする。

ちなみにゾルラさんから得た【渦魔法】は天災神様由来の事象魔法なので洗浄系の魔言(スペル)は無い。

【渦洗浄】だけにサイクロンな力でとっても綺麗になりそうだったのに残念なことだ。


ドアを開けて外に出ると、いつものようにコスギさんが庭木の手入れしている。


「おはようございます」

「おはようございます。どうぞ」


半覚醒のまま挨拶を済ませると小さな水筒を渡される。

今日はコスギさんより先に挨拶をすることが出来て気分がいい。

早速受けとった水筒の中身を飲む。

フルーツと何かが入った特性のどろっとしたドリンクだ。


「ありがとうございました」

「はい。それでは頑張ってください」


朝練の前に少しお腹に入れた方がいいかと思い相談したら毎朝用意してくれるようになった。

飲み干した水筒に【洗浄】を掛けて返却すると裏庭に向かう。


「おはようございます!」

「おはようございます!」


ルニにはいつも先を越されてしまう。

彼女の朝は早い。既に軽食を済ませて身体もほぐれている状態だ。

花の咲くようなその笑顔を見て、僕も思わず笑顔になる。


バスピールさんも同様に待っていることが多いのだが今日は居なかった。

そうだ、今日は道場の日だった。

いつもは朝練が一緒の彼女も武術道場では【短剣術】の師範代だ。

週に二度は道場で朝の指導に当たっている。


実は葛西もその道場に通って毎朝朝練をしていることが発覚した。

つまりで二人とも道場に行っている。

葛西は午前中ただ寝てるのだと思ってたけれど、バスピールさんの伝手で結構前から道場に通っていたらしい。


挨拶を済ませた後、僕は入念に準備運動を行う。

その間、ルニは取り組んでいた技を確認することが多い。

今日は切り上げを何時もの数倍ゆっくりと行い、丁寧に刃筋と体捌きを確認している。

そして、僕の身体が温まるのを待って二人向き合って朝練の開始だ。


「お願いします」

「お願いします」


ビガンの町で習った型稽古は丁度真ん中から始めることで、前進と後退がうまく噛み合う。

本気の時は向かい合って剣をぶつけつつやるのだが、朝は調整目的のため一定の距離を取る。

静かな朝に風切り音と、道着の擦れる音と、僕たちの掛け声だけが聞こえる。

全身を一なる剣とすることに全神経を傾けていくとやがてそれも聞こえなくなる。

二人同時に震脚を響かせて朝練の終わりだ。


「「ありがとうございました!」」


朝練の最後はお互いの挨拶がピタリと合って気持ちがいい。


―――――――


「三の段、突いた後の切り返しでちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「強めの刺突の後、体を返す所ですね」

「そうそう。刺さった剣を警戒しながら抜いて周囲に備えるのかと思ってたんだけど」

「ほう」

「なんか、違和感があって。あれって、刺突が躱された場合の振る舞いとして、斬りつける動作が含まれてる?」

「ユーキさん!まさに今朝の鍛錬で私もそのように考えたのです!やはりそう思われますか!」

「やっぱり?ダーズ師匠の動きを思い出すとフェイントだらけの中、あの突きが無造作過ぎるというか」

「ダーズ師範の場合、その刺突が裂帛の気合いと共に繰り出されるので違和感は無いのですが、そこに着想を得ましたか」

「ルニはどこでそう思ったの?」

「私は型通りに体をひねる所で、ただ警戒しながら抜くのであれば無駄な動きが一拍入っているのが気になりました」

「あー、あのぐっと止まるとこか!確かにそうだ!」


――剣の話をしているときのルニはとても生き生きしている。

20歳ぐらいの見た目よりも、もっと若々しくころころと弾むように喋る。

僕も最近では少し【剣術】が分かってきて、そんな彼女と話をするのはとても楽しいし勉強になった。


心弾む響き(楽しそう)我の音色も加えたし(私も混ぜて欲しいわ)

「わわっ。ってゾルラさん?いつからそこに?」

魔素満ちし夜を跨ぐ(昨晩からよ)

「気がつきませんでした」


ダイニングテーブルの一角にゾルラさんが思い詰めた様子で座っていた。

毛布に包まりながらいつものように眼を閉じこちらを伺っている。

毛布が丸めて置いてあると思ったが、中身付きだった。


主様の熱に触れる機(主様とのふれあい)我同じく望む(私もしたいわ)

「え?あっ」


自分達を省みると、お互いの両手を握って踊るような格好だった。

話が盛り上がりすぎて、立ち上がって型を確認していたのだ。

ルニがハッとしてから、恥ずかしそうに顔を赤らめた。

冷静になってみれば顔が近すぎる。

お互いの目が合うと、僕も自分の頬に熱を感じる。

ルニが繋いだ手をゆるめた。

そのまま離すのが惜しい気がしたが、そっと手を離す。


「あ、えーと、ゾルラさんはどうしてこんな所で寝てるの?」

「学びのため夜遅かったのでしょうか?」

「……主の恩寵たる縛望む(主様に縛って欲しくて)

「ふぁ?!」

「だだだだダメです!」


ちょっとゾルラさん?!何言い出すんですか?

びっくりしたけれど、僕よりも慌てた様子のルニを見て逆に冷静になれた。


落ち着いてよく聞いてみれば、彼女の真意は【パーティ】効果を持つ連環の腕輪を自分にも付けて欲しいということだった。

朝が苦手な彼女は、昨晩からここで待っていたようだ。

葛西とバスピールさんがいるとややこしいので、不在の今朝を待ってから話そうと思ったそうだ。


「これ付けていると(つな)ぎの腕輪と間違えられますよ」

歓迎すれど嫌無し(むしろ歓迎するわ)


実際これが婚約者を示す(つな)ぎの腕輪だと勘違いされることが多いのだ。

僕は、女性と本当に親密になった場合、その女性に不幸が訪れるかもしれないという不安がある。

勢いに押されて葛西に渡してしまったことも少し後悔しているのだ。


「それに!急場を問わず僕に【ステータス】見られちゃいますよ」

主の興得るに嫌無し(是非見て欲しいわ)互いの深き検分を望む(お互い解析しましょ)


デメリットを主張してみたのだが芳しくなかった。

あーもう!折角なので見せて貰おうじゃないですか。


「むー。言いましたね!【ステータス】っ!」

嗚呼(あぁ)


自分でやったことととは言え、艶のある声を上げられると困る。

先に【パーティ】に誘ってから見れば良かった。

そりゃ腕輪があるとこうならないけど……。

許可を貰っているので犯罪者フラグは立たないと思うけれど……立たないですよね?


■■■

 ゾルラルル(魔人(デーモン)・女)

 通り名:暗夜の歌い手

 能力値

  体力 210 /210 (140+70) +149 Up

  魔力 359 /359 (239+120) +84 Up

  筋力 194  (129+65) +145 Up

  器用 195  (162+33) +57 Up

  敏捷 145  (103+42) +93 Up

 スキル

  ・身体

   【体力強化】5 New

   【魔力強化】5 +2 Up

   【筋力強化】5 New

   【器用強化】2 +1 Up

   【敏捷強化】4 New

   【瞬発】3 New

   【水泳】3 New

   【打撃耐性】4 New

   【切断耐性】3 New

   【刺突耐性】3 New

   【圧迫体制】4 New

   【気配察知】2 New

   【瞑想】4

   【魔力吸収】2

   【魔力操作】5

   【暗視】3

   【魔力視】8

   【解析】3

  ・武器

   【棒術】2

   【鞭術】4 New

  ・魔法

   【風魔法】6

   【泥魔法】2

   【雲魔法】2

   【雷魔法】7

   【地脈魔法】2

   【念動魔法】1

   【植物魔法】4

   【渦魔法】3

   【火魔法】5

   【水魔法】5

   【土魔法】3 +1 Up

   【光魔法】4 +1 Up

   【重力魔法】1

   【回復魔法】4 +1 Up

   【刻印魔法】2

   【生活魔法】1

  ・芸術

   【歌唱】2

   【詩吟】5

  ・加工

   【調薬】3

   【魔力洗浄】4

   【魔石圧縮】2

   【調理】1

   【解体】2

  ・成長

   【見取り稽古】2 New

  ・異世界

   【ステータス】1 New

   【イクイップ】1 New

   【インベントリ】1 New

   【インタープリター】3 +1 Up

   【パーティ】4 New

   【パーティチャット】1 New

   【ウィスパー】2

   【冒険者カード】4 +2 Up

   【冒険者マニュアル】3 +1 Up

  ・固有

   【詩吟の囁き】3

■■■


僕の【ステータス】レベルが上がったせいか、魔力が増えて潤沢に仕えるようになったせいか、差分表示の起点を変えられるようになった。

今はゾルラさんと合流した頃を起点に差分を表示している。


ゾルラさんは魔法に愛された存在だ。

【詩吟の囁き】スキルの持ち主だけあっていろんな魔法スキルを持っている。

そんな彼女の一番得意なのは【雷魔法】だ。僕が重点的に指導してもらった【風魔法】もかなり高い。

コスギさんによれば80歳の若さでこのレベルは相当な天才児らしい。

80歳で天才()っていう言い回しの魔人感覚はちょっと慣れないけれど、あのコスギさんが熱く語ってたので間違い無い。

そんな彼女の【回復魔法】スキルは、僕が逆に指導して上がったもので、それがとても誇らしい。


相次ぐ乱獲の日々で、彼女のステータスも大きく伸びている。

【ブッシュボア】【ブッシュタイドン】【ブッシュブル】に加えて、何処にでもいる【ゴブリン】【コボルト】を主に相手にした。

それらの魔物の多くは体力や筋力が高く、伸びるステータスもその傾向が強かった。

華奢なゾルラさんはそれらのステータスは上がりにくかったのだが、それでも、一緒に行動し初めてから2倍以上に伸びている。

見た目は華奢なままだが、中身が大分マッチョになってしまった。


地の呪縛深き書の山(重たい本の山も)我腕にて移すに苦無し(持てるようになったよ)


見た目は細身の中高生風だがその筋力は一緒に行動し始めた時の3倍以上となった。

笑顔で重たい本を重ねて持ち歩く彼女を見かけるようになったのは、多分良かったんだろう。


「この魔力量は流石ですね」

主様纏う魔素日々増し(主様の魔力も増えてて)力に及ぶ日々僅か也(もう抜かれるけどね~)


一方で乱獲した魔物達が餌として狙う植物系の魔物は体を動かすのが苦手な分、魔法の扱いに長けていた。

当然のように魔力も高く、討伐すると魔力が増えた。それを狙って積極的に討伐した。

食事中にまだ息があるものを倒すことも多かったし、逆に植物の魔物を捕食されている魔物と一緒に倒すこともあった。

結果として、僕の魔力も順当に増えて、元々魔力が高いゾルラさんもそれなりに増えたようだ。


祝福たる主が視線(主様の視線を)集めるに永きを求むも(集めていたいけど)縛たる魔具語るを望む(腕輪の話をしたいわ)

「ゾルラさん。その主人っての止めましょうよ」

魔眼に輝く魔の廻り(あなた様に巡る輝き)真摯に主従を望む(改めて主従を望むわ)

「ゾルラさん程の人にそう言って貰えるのは光栄ですけど。それほどじゃないというか、責任が重たいと言うか……」

「ふふ。主惑わすを望まず(困らせたくは無いのよ)急ぎ言を求めず(答えは急がないわ)

「あっ、はい」


困ったような、思い詰めたような表情をパッと切り換えてニコリとほほえむと毛布をずるずると引きずって部屋から出て行った。

ふー。困ったな。問題は先送りしたけれど……。

またどこぞのシナリオライターの悪戯は続いているらしい。


「先生は本気のようですから、断るのであればユーキ様もきちんとお願いします」


もう昼ご飯の時間だった。

ゾルラさんと入れ替わるように入ってきたコスギさんがどこからともなくお盆を出した。

湯気が出ている皿から空腹を刺激する匂いが漂ってきた。


「今日はシチューを用意してみました」


昼からお肉と野菜が透明なスープに入った割と重めのシチューだ。

コスギさんとゾルラさんは食が細いので、朝練をしていた僕達に配慮してくれたようだ。


「いつもありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いえ、先生がお世話になっていますから」


正直お世話をしている実感は無いのだが、スキルレベルが上がるというのは相当なことらしい。

【指導】による地獄の特訓で【インベントリ】を覚えた彼は早速使いこなしてご飯を配膳していた。

丁寧にお皿を並べながら、言葉を続ける。


「そもそも我々魔人族(デーモン)は長寿種のため、一つの事に執着するのは珍しいのですが、先生はユーキ様の精霊の力に傾倒しているようでして……」

「精霊とは私も聞き慣れないのですが、珍しいのですか?」

「僕も知りたいです」

「そうですか。少し長くなりますが、ご飯を召し上がりながら聞いて下さい」


精霊をその身に宿した精霊使いはそれほど多くなく、コスギさんも著名な人物を数名知っているだけとのことだ。

[付け火の凶人]ポルクルル、[宿寄らず]ダースリン、[鼻曲がり]リューリュー。絵本にもなる有名人らしい。

それも、悪い見本の方の有名人だ。親から『ポルクルルみたいになっちゃうわよ!』と言われるのだ。


例えば[付け火の凶人]ポルクルルは燃えさかる炎が大好きな小人族(ホビット)で、炎の精霊使いだ。

炎が大好きな彼のために精霊はあれもこれも燃やしてしまうらしい。

例えば[鼻曲がり]リューリューは身の回りに気を使うのが苦手な森人族(エルフ)で、花の精霊使いだ。

臭い匂いを覆い隠すように花の香りを身に纏い。歩く匂い災害らしい。


「精霊はとても世話好きなのです。一方で我々魔人族(デーモン)の多くは他に頼るを良しとしません」

「というと?」

魔人族(デーモン)に付いた精霊はおらず、先生はそこを嘆いておられるのです」


ゾルラさんは本当は自立した立派な女性らしく一人で何でも出来るのだが、精霊と仲良くなりたい一心でだらしなくしているらしい。

ちょっと信じられないけれど、コスギさんが言うのであればそうかもしれない。


「しかし、ユーキさんはそれほどの偏りがあるように見受けられません」

「そうですかね」

「ええ。そう言う意味でもとても興味深い存在なのです。精霊との契約を得るのは大変なことですから」

「け、契約って何ですか?」

「契約とは精霊からの愛情の証です。何か見返りを求めるものではなく、ただ与える喜びを得るのだそうです」


それは、確かに駄目人間になってしまいそうだ。

そう言われてみれば森崎さんに何かを求められたことは無い。

単にスキルってそういうものだと思って居たけど、言われてみれば【森崎さん(クローク)】の愛情を感じる。


「ユーキ殿、何をやっておられるのですか?」


ルニの急なツッコミに己を顧みると、両手を顔の前でブンブンと振っている自分がいた。

森崎さんの愛情とか。ちょっと口には出来そうに無いけれど、大好物です。


「え、いや。なんでも無いです」


誤魔化したけれど、顔が熱い。きっと赤くなっているだろう。


「そのような訳で、先生は今、暫しの間、ユーキ様に興味一杯なのです」

「そうですか。魔人族(デーモン)の特性に照らし合わせれば一時的なものですか」

「そのように思います」


ちょっと残念な気もするが、ぬか喜びさせる部分もセットのシナリオなのだろう。


「そうでしょうか?」

「おそらくとしか申せません。とは言え、我々は時間の感覚が少し長いもので、まずは先ほどの件一考をお願いしますね」

「あっ、はい」


コスギさんの少し強い語尾に思わずたじろぐ。

彼は結構師匠思いだ。それはラブとは違うのだろうか?

正面のルニもご飯に手を付けずに腕を組んで難しい顔をしていた。

キリリと締まった顔の彼女もまた美しいが今話しかけると何か困ったモノが出てきそうだ。

既にご飯を平らげた僕はごちそうさまを告げると逃げるように退室するのだった。

次話「31 貴族と趣味人」は4/24(月)の予定です。

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