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18 狩りの報酬

かなり間を開けてしまったので長めに振り返ります。


前話までのあらすじ

(1~3章)

・暇を持て余したユーキはSCWのβテストに参加し【飛剣術】を発現(1章)

・本サービスが始まり剣術道場にて発現させた【飛剣術】【見取り稽古】を指導する毎日を過ごす(2章)

・新たなメダルを求めてロックバルトに。祭モチーフのメダルを作ったら酷い事実が発覚(3章)

(4章前話まで)

・発覚した事実が広がる前にロックバルトを去りたいユーキ。

・合流した葛西に後輩藤本からの救援要請を告げられたユーキは、ヘルムートへ向かう検討を始める。

・ギルド長スール氏から依頼を受けていたスキル魔石を渡し、報酬として転移陣の利用を打診した。

・スール氏から告げられた検討結果は転移陣の利用不可。代わりの報酬にオリハルコン原石を貰う。

・失意のユーキ達は偶然会ったゲオリック氏(2章23話等)に突然ヘルムートへ転移させられた。

・急な転移により慌てたユーキ達だったが、藤本合流後に向けて行動することにした。

・最初の行動として魔の領域への移動許可を得るためにヘルムート式冒険者入門講習に参加。

・ユーキ達は依頼に居合わせたメンバーとブッシュボアの討伐に向かい、初の遭遇戦を終えた。

死体を解体し、大きな素材類を収納すると、休む暇無く教官から次の指示が飛んだ。


「リンザから群れ発見の報告があった。このまま岩場に向かって直進しろ」

「「「「はい」」」」


教官に渡された地図では目的地として目印となる岩場が描かれていた。【マップ】を確認するまでもなく、進行先に見えている岩場がそれだ。

周囲の地面より少し明るい茶色の岩肌が点々と存在する木立の間から見えており、迷いようが無い。

ガムールさんは哨戒のために再び距離を取り、他のメンバーは隊列を維持して進む。

これだけ行く先が分かりやすいと僕の道案内としての仕事は無いので、【マップ】上のマーカーで魔物の存在を確認しながら進む。

まっすぐ進む僕たちが木の脇を通ると頭上からリンザさんの声が聞こえた。


「【ブッシュボア】の数は6!このまま直進して150メートルぐらいで接触するわよ」


急に声がかかり知らなければ驚くところだ。実際、葛西はびくっとしていた。

【マップ】上の【ターゲット】が示す▼マーカーは味方の分も表示されている。

【エネミーサイン】は対峙する相手の敵意を知るスキルだが、このマーカーに色を付けてくれる働きもある。

無関心は青色だ。魔物は気づかれた段階で橙色に変わり、敵意有る状態では赤色となる。一方で【パーティ】の味方は緑色だ。


「ガムールは引き続き哨戒、他の全員で事に当たれ。打ち合わせ通りユーキが遠隔攻撃でつり出せ。さあお前らの力を見せてみろ!」

「「「「はい」」」」


道中読み込んだ【冒険者マニュアル】によれば【ブッシュボア】は5~10頭で群れを作っていて、それぞれが縄張りを持っているという。

簡単な攻略としては魔法や弓など遠目からの攻撃で敵を引き寄せ、群れが縦に伸びたところで横合いから叩くべしとあった。


敵影が目視できるようになったが【マップ】上の敵を表す【エネミーサイン】はまだ青色だ。

【マップ】上に向けていた注意を、視線の先に移す。【視力強化】スキルを意識すると表皮の皺までよく見えるようになった。

あ、なんか食べて……便がポロポロと落ちている。大自然の摂理ですね。

【ブッシュボア】の群れは大きな緑の塊を取り囲んでお食事中のようだ。群れの6頭がまとまっている。

教官の事前指導に従い、哨戒役任せにせずに、周囲に他の群れが無いことを自分でも確認する。

もう気付かれても良いので【ステータス】で強さを確認した。


■■■

 ブッシュボア(魔物・オス)

 能力値

  体力  353 /353 (252+101)

  魔力  53 /53

  筋力  257   (198+59)

  器用  32

  敏捷  102   (102+10)

 スキル

  ・身体

   【体力強化】4

   【筋力強化】3

   【敏捷強化】1

   【瞬発】2

   【打撃耐性】1

   【切断耐性】1

   【刺突耐性】1

   【圧迫耐性】2

  ・魔物

   【牙術】2

■■■


とてもオーソドックスな肉体派のステータスだ。

思ったよりも耐性スキルのレベルが低い。元来備わった能力がある魔物はスキルで補助されずとも力を備えていることが多いという。

もちろんこれも【冒険者マニュアル】由来の情報だ。


「それでは行きます!【投火】(ファイアシュート)!」


大きな声で合図をすると【火魔法】で目立つ攻撃を【ブッシュボア】向けて飛ばす。

投げる火と書いてファイアシュートである。魔言(スペル)はカタカナなのか漢字なのか悩んだこともあったが、結論としてはどちらでもよかった。

悔しいが葛西の言う通り【冒険者マニュアル】にはいつのまにかページが増えて、十分な説明が載っていた。

"なげび"でも"とうか"でも"ファイアシュート"でも"ファイアスロー"でも、本人がそれだと強く認識出来れば良いらしい。

但し、他人が声高に叫んで効果を発揮した魔言(スペル)はイメージを固めやすいことから【冒険者マニュアル】には多く使われる言い回しを記述しているという。

慌てた時でもはっきりイメージ出来ることが魔言(スペル)の最大の効果であると【冒険者マニュアル】にしっかり記述してあった。


群れの一頭に火の玉がぶつかり毛皮が少し焦げたような色になったが、煩わしそうにこちらに目を向けただけで動き出さない。

僕の役割は遠隔攻撃で引きつけて魔物の群れを縦に伸張させることだ。ならばと勢いを付けて、続けて【投火】を飛ばす。

大量に飛ばすと今度は相手が逃げそうだが、【ブッシュボア】は自分より大きなものでない限り、逃げずに攻撃に向かう修正があるという。

オスかメスか不明だが、まとめて男前な生き物だ。魔法の細かい調整は苦手なので都合が良かった。


敵に向かう2投目の火の玉を見ながら、さらに3投目を繰り出したところで【ブッシュボア】がこちらに向かって走り出した。

図体の割に意外と早い!土埃を上げながら群れがどんどん近づいてくるが、先頭の個体が途中にある木立を抜けるところで縦に隊列を変えていた。

火の玉が抜けるぐらいの隙間だらけだったが、その図体では並んで通り抜けることが出来ない。


【マップ】を確認すれば、後ろの4体は木立の前で足止めされている。

事前の打ち合わせでリンザさんが罠を張ると言っていたがそれがうまくハマったようだ。

発見の報告が入ってから時間はあまり無かったはずだが、すばらしい手際だ。

釣り出して、群れを縦に伸ばすことまではセオリー通りに成功している。


「おまえらは真面目でつまらんが、決まった作戦をこなすには向いてるな。こいつは早い飯にありつけそうだ。ほら慌てずに行け!」


教官はいつの間にか木立の上に移動して文字通り高みの見物をしていた。

いよいよ討伐だ。軽く息を吐き、武器を持つ手を握り気合いを入れ直す。

真っ正面を僕とルニが受け持ち、盾役としてその突進を一度止めるのだ。左右後方にはダイキさんと葛西が位置している。

ガムールさんは哨戒に出ており、リンザさんは敵を罠に落とした後、まだこちらに合流していない。


「【漆黒(しっこく)】!」


勢いを付けないと恥ずかしくて発言できない魔言(スペル)によって迫り来る【ブッシュボア】の目の前に暗闇を展開した。

これも、僕が考えた手段ではなく【冒険者マニュアル】に書かれていた攻略法で目を潰すことで敏捷が足りなくても、突進を躱しやすくなるという。

視界を奪うとビクっと一瞬動きが硬直し、移動速度が落ちるのがありがたい。


【冒険者マニュアル】には闇を発生させるスペルとしてこれが書いてあったが、声に出すのが地味に辛い。

【生活魔法】の【暗闇(くらやみ)】は眠るのに丁度良い闇を生み出す効果程度で、こうは行かないらしい。

持ってて良かった【光魔法】。とも言い切れないこの魔言(スペル)。非常に残念だ。


移動速度は落ちたがまだ十分に早い。僕の役割は敵の足を止めることだ。

戦鎚を持ったままぐるりと旋回して、勢いをそのままに暗闇を纏う眉間のあたりを狙って打ち込んだ。


「フゴッ!」


衝撃とともに敵の悲鳴が聞こえた。

打撃が通った感触があったが、敵の質量に戦鎚が押し返される。

奥歯を噛みしめて全力で打ち込んだのだ。重心が前のめりになっていたため、予想より大きな反動に思わず体勢を崩し、戦鎚を手放してしまった。

そのまま後ろに押されて尻餅をつくかと思ったが、【歩行術】のサポートが入ったのか、足がなめらかに動いて勢いを殺した。


「ハアッッ!」


その時、僕の右手からルニが戦斧で切り込むと【ブッシュボア】の動きが完全に止まった。

一枚物の大きな鱗から切り出した斧は彼女の獲物にしては重さのあるものだが、剣術の申し子のような彼女はあっさりと使いこなしていた。

うん、僕とは経験が全然違うんだから落ち込むことは何も無い。


「ダイキさん!ミノリン!任せた!」

「がってん承知!」

「承知しました!」


葛西の返事が若干おかしいが申し送りは十分だ。

彼女は左側から駆け込むと、完全に足を止めた【ブッシュボア】の脇腹に潜り込む。

ドーンと炸裂音が鳴ると同時に右手のグローブを中心に一瞬火が見えて、敵の体が数十センチほど持ち上がった。

そこに反対側からダイキさんが槍を構えながら飛び込んで心臓付近に突き刺した。

四肢が力を失いバタリと倒れた個体は他の人に任せて、後続の【ブッシュボア】に挑む。


「【漆黒(しっこく)】!」

「ぷっ!」


葛西が吹き出しているのが聞こえる。お前は目の前の敵に集中しろ。

笑った葛西は後で反省してもらうとして、目の前の【ブッシュボア】を何とかしなければいけない。


と、そうだ、武器を落としたのだ。

別の武器を取り出すか?それとも魔法で応戦するか?ええと、盾を出して貰った方が良かったか?

いろんなスキルを得て順調だと思っていたけれど、こんな時、手管の数が増えすぎて逆に迷う。


『こちらをどうぞ』

『あ、どうも』


ふと声がかかり、落としたはずの戦鎚が手元にあらわれその手を握りしめた。

森崎さん(クローク)】がそういうことが出来ることをすっかり失念していた。

【イクイップ】でも同様のことができるのに、【森崎さん(クローク)】に出来ない訳が無い。

森崎さん(クローク)】の場合制限無く取り出せるのがメリットだと思っていたが、【イクイップ】の事前登録制は使い手にとっても混乱しないために役立つのかも知れない。


僕が慌てている間に、倒れた個体をぐりぐりと押しながら【ブッシュボア】が向かってくる。

さっきの衝突で大体の突進の威力が分かったと思う。


「ふんっ!」


目の前に迫る個体に向かって、下顎を狙ってすくい上げるように全力の一撃をお見舞いした。

先ほど弾かれた反省から、真っ正面からではなく、少し勢いを殺すため角度を付けて打撃を叩き込んだ。

下顎を突き上げられ、悲鳴は聞こえない。突進の勢いが上に逃がされ、【ブッシュボア】は一瞬、後ろ足で立ち上がった。


「【大切断】!」


ルニはその瞬間を逃がさず、持ち上がった顎の付け根を狙い戦斧を振り抜いた。

【ブッシュボア】の首はその大きな頭に比べれば細くはあるが、同サイズの熊程度はある。

斧の刃渡りより太いその首が一撃で切り落とされた。


『テッテレテー!』

『ユーキはスキル【打撃耐性】を習得しました』


武技(アーツ)って凄い。

2人以上で戦う場合、お互いに隙をフォローできるため、事後に隙が発生しがちな武技(アーツ)が使いやすかった。

道場では一対一が多かったし、ロックバルト山では各個撃破する戦い方が多かったので気がつかなかったが、大型の個体に対してアドバンテージがある。

後続はまだ見えていない。場所を確保するために【解体】で素材に分解した。


『森崎さん、一旦収納しておいてください』

『承りました。足下の硬貨も一緒に格納いたします』

「えっ?硬貨?!」


思わず声が出た。ばっと足下に顔を向けると、一瞬銅貨らしきものが視界に入り、すぐ回収された。

あれは、何度も見た物だから間違い無い。オズワルド銅貨だ。


『次行ったわよ!2体行くから気をつけて!』


どうしてオズワルド銅貨が?と考える時間は無かった。リンザさんから【ウィスパー】が入り、後続がやってくる。

リンザさんがどうやって調整しているのか分からないけれど、さっきと同じく2体の【ブッシュボア】が縦に連なってやってきた。

先ほどと同様に先を行く一体に【漆黒】を使い視界を奪うと、ルニが足下を払って転がした。

連なって後から来る一体にも素早く【漆黒】を貼り付ける。


「転がった一体は任せました!」

「承知しました!」

「あいあいさー!」


見えていないはずだが、匂いで見当を付けているのだろうか、後続の一体は明らかに僕を狙っている。

目の前に転がる仲間に阻まれながらもこちらに向かってきた。

こんどは先ほどと違って十分に余裕があった。先ほどと同じく眉間に照準をつけ、詠唱を口に出して武技(アーツ)を放った。


「その重量に我が意を乗せて敵を打ち抜け!【重打撃】(ヘビーストライク)!」


それは名前の通り単なる打撃だった。

ただし武技(アーツ)であるそれは、僕に恐ろしく洗練された体捌きを強要し、一切の無駄なく力を打点に集めた。

生み出した打撃は魔物の頭蓋を大きく陥没させ、そのまま【ターゲット】のマーカーが消失した。

先ほど一体のマーカーも消えており、葛西とダイキさんも転がした一体を倒したようだ。


後続は?まだ来ない。急いで【解体】を行うと……あった!

今度ははっきりと確認出来た。足下にオズワルド銅貨が3枚程落ちていた。

【ブッシュボア】はオズワルド硬貨を落とすのだ。


僕は俄然やる気に満ちていた。


次話「19 相応しい一撃」は2/20(月)更新予定です。


思ったより難航しているため、しばらく週一連載で再開します。よろしくお願いします。

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