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16 キャンプと食事

前回のあらすじ

 ヘルムート式初心者講習での装備確認で、ダイキさんの大事な装備が壊れ……。

魔境都市ヘルムート周辺の土地はかつての大戦の影響で真っ平らに開けた大地に大河の恵みが流れ込んだため周囲はサバナ気候の様相を呈している。

高い草原の中にポツポツと背の高い樹木が群生しており、見通しは良いようで遮蔽物は意外と多い。

また、魔の領域から流れてきた遮蔽物を頼りとしない強力な魔物が多いのもこの地方の特徴である。


クエストの目的となるブッシュボアの群れは移動することが知られているが、ヘルムートの南側に繋がる広大な土地に生活圏を置いている。

ヘルムートより南は大河が氾濫することと、さらに南下すると海へと出るため草木の魔物と、それを食する魔物が多い。

ブッシュボアは雑食だが群れで移動することから弱い魔物を押し上げて大きな災害を招くことも少なく無いと言う。

そこで我々のように定期的な討伐が行われている。


大きく移動するブッシュボアの群れだが、ある程度季節で移動先の傾向が判明している上に、毎週討伐に出ているため大凡の位置はギルドで把握しているという。

ちなみに冒険者入門講習(ブートキャンプ)の獲物は曜日で変わるらしい。

犬鬼(コボルト)小鬼(ゴブリン)、ブッシュブル等、教官の言う魔物はどれも十分な脅威だった。

審査に使うだけあって、ヘルムートに至るまでの装備では通用しなくなる強さの魔物が設定されていた。

ただ、教官によれば定期的な討伐で相手にするのは数が多いがそれほど強くない魔物が多く、本当に危険な魔物は高位の冒険者や領主の私兵が討伐に当たるという。


我々7人はパーティとして作戦会議(ブリーフィング)で教官から伝えられたルートを【マップ】を頼りに移動した。

【マップ】持ちは僕だけだったので僕がマップを見ながら方向を指示し、教官の指導で交代で哨戒を立てて進んだ。

街を出て夕暮れまで歩いたが何故か殆ど魔物に出会わなかった。

ブッシュタイガーというハイエナのような魔物の斥候が遠巻きにこちらを監視していたが寄ってくることは無かった。

ちなみに教官は魔物よけ効果が高すぎるので、ギルド支給の隠蔽効果の高い魔道具の指輪でその存在を隠している。


「今日は移動だけだったんで、軽めに汁物にしときますか」

「私はお肉が無いと厳しいわね」

「じゃ、パンと肉入りの汁物ということで」


【調理】スキルが高めのリンザさん、ルニ、そして僕が食事を用意することになった。

他のメンバーはキャンプの設営と警戒にあたっている。


僕はビガンの町で用意した、魔道具のコンロと鍋、調理台を出した。

ベースのスープをリンザさんに、野菜をルニが、肉を僕が担当する。

狼の獣人で肉となると、熊肉が行けそうだ。


「スイムベアーの肉でいいですか?」

「わあ!最高ね!」


ロックバルトの山中で大量に獲得して処分に困る肉が喜ばれて僕も嬉しい。

一応高級肉ではあるのだが、毎日食べると流石に飽きるので最近は食べていなかった。

既に【解体】によって簡単に腑分けされているその肉を食べるのに丁度良いように部位を選んで切り分けていく。


キャンプなので匂いが強く無い料理ではあったが個性の強い肉に良く合うスープだった。

リンザさんはよく使われるという万能スープの素だけでなく自分でブレンドしたというペースト状の調味料を入れていた。

獣性の強い肉とロックバルトで買ってあった甘みの強い野菜をうまく合わせている。


「結構な味だった。では行ってくる」

「よろしくお願いします」


ガムールさんがいち早く食事を終えて周囲の警戒に向かうと、ダイキさんが交代で戻ってきた。

彼は【洗浄】で汚れを落とすと早速食事の席に着く。


「このスープうまい!ユーキさんっ!最高です!!」

「えっと?味付けはリンザさんだから」

「確かにこの味は素晴らしいです。でも、この生野菜や調理器具はユーキさんの持ち込みだとリンザさんに聞きましたよ!」

「あー。そこは僕の力というかスキルの力だから」

「いやいや【クローク】なんてスキル、初めて聞きましたよ」


生野菜の持ち運びは【フリーザー】という冷蔵庫版【インベントリ】という固有スキルを持ったプレイヤーがちらほらと居るらしい。

なのでそれに似たような物だとみんなが勝手に納得してくれた。

葛西以外は……。


「【クローク】か~。先輩って、のぞみん先輩のこと尊敬してるもんね」

「収納といえばクローク時代の森崎さんの仕事が至高だったことは疑い無いな」

「それ、私はイベント担当してないから分からんな~い」


【クローク】の名称で森崎さんにすぐ行き着くとは!僕が言いすぎたのが原因なんだけど。

スキルの本当の名称は【森崎さん(クローク)】であることをますます言いにくくなってしまった。


「この【スイムベアー】のお肉の保存状態も素晴らしいわ。このお肉が毎日食べられるなら、うちのガムールとユーキ君を交換しちゃいたいぐらいだわ」

「本当、この肉最高っすよね。流石ユーキさんですっっ!!」

「ね~」


ちょっと誰か彼のテンションを落ち着かせて欲しい。リンザさんも煽らないで欲しい。

その肉は半分以上はルニの討伐した分なんだって言っても聞いてくれなかった。


あの後、結局教官はその場を何とかしてくれなかった。

その場の空気に耐えられず、折れちゃったなら触っても許されるだろうと彼の槍を直したのが失敗だった。

【金属加工】でうまいこと繋がった槍と鎧に対して、手元に大量にある安価な魔法金属であるアミールを混ぜ込んでみたら、教官のOKが出た。

葛西の防具も補強する羽目になったが、僕はハンマーでトントンとするだけなので頑張ったのは【金属合成】などのスキル達だ。

スキルの力って凄い!そういうゲームだったことを強く思い出す場面だった。


まぁ、そのような訳で子供のように泣きじゃくっていたダイキさんが落ち着いたのは良かった。

本当に困っていた教官の僕に対する印象も良くなったようだ。

予定では、不合格となった場合は、装備品を補うために装備品を揃える指導があったようだ。

僕がそれを解決してしまったため、行程をスキップしてしまったのだが、教官はあまりやりたくなかったようで歓迎された。

そこがクリアできたので、行軍のために必要な調理器具、寝装具、食料品の確認へとステップが進んだがそれはあっさりOKが出て、すぐに出立となった。


「それじゃ、俺も見張りに戻ります!」

「よろしくお願いします」

「頼むわね」


ダイキさんは再び見張りに出かけて、入れ替わりで葛西が戻ってきた。

既に装備は格納されて【洗浄】も済ませたようだ。

一緒にクエストに出て気がついたのだが、彼女は【イクイップ】による装備の入れ替えを使いこなしていて意外と凄い。

女子力が足りないので哨戒の役割なのだが、本人はあっけらかんとしたものだ。


「お肉お肉~。お!熊ちゃんお肉だね!」

「見ただけで分かるのかよ」

「見た目と匂いだよ。ね!リンザ姉さん」

「そうそう、匂いが良いのよねえ」


魔物が寄ってこないように匂いが余り出ないようなスープにしたのだが、彼女達には十分に分かるらしい。

だとすれば結局魔物が来るんじゃ無いかと思ったが、教官によるとこの辺りの魔物はそれぐらいでは寄ってこないとのこと。

結界というキャンプ用の魔道具を使えばもう少し派手にやっても大丈夫らしい。

結界は【気配隠蔽】【魔力隠蔽】【臭気隠蔽】【迷彩】という複数のスキル効果が詰まった魔道具で大変高価な物だ。

教官も一つ持っているそうだが、今回はトレーニング目的なので無しだ。といいつつ見せびらかしてくれた。

見るだけだと単なる四角いキューブで、凄さがイマイチ良く分からないけれどみんなと一緒に拍手しておいた。


「おめえら、確かにこいつは旅先で食うには立派すぎる食事だが本当の目的を見失うなよ!

明日の早朝6時にはここを立って、昼前には今回のターゲットとご対面だ!

あまり食い過ぎて動けなくならないように明日に備えろ!」

「「「「「「はい!」」」」」」


指導者が居るというのはとても有りがたい事だ。明日の朝の日程までがパパッと決まって悩む余地が無い分、自分の準備に集中できる。

とはいえ、準備することも殆ど無くて、【冒険者マニュアル】を再確認するぐらいなんですけどね。


「おう、ユーキ。このスープ。もう一杯くれ」

「あ、はい」


教官のお替わりは既に10杯目だ。鍋は空になり、もう一度作り直す羽目になった。

お替わり分については、リンザさんの特製ペーストを大量に消費するのも申し訳無いので僕の持参のものを利用した。

ロックバルト産のスパイシーな固形スープの中で少し匂いが弱いものを使ったのだが教官にはそれがヒットしてしまったらしい。

鬼人(オーガ)だから大食いなのかな?と思っていたのだが──


「は~。これは極楽だな。おお、もう動けねえ」


食事後に片付けをする我々の傍らに、満腹で動けない鬼人(オーガ)が居た。

教官!さっきの感動を返して下さい!

次話「遭遇ブッシュボア」は12/20(火)の予定です。


想定以上に年末が多忙になってしまったため、ストックがありません。

明日以降の更新が未確定です。

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