13 金玉は財布に痛い
前回のあらすじ
スキル習得を駆使してスキル【イクイップ】を習得した
「んん!?」
黙想はそのまま睡眠になって、布団も掛けずに寝てしまったようだ。
エアコンも無いのに快適な室温なのも眠気に追い風だったかもしれない。
昨日は意外といろいろあったから、ゲーム中とはいえ疲れてたんだな。
大きく伸びをすると目が覚めてきた。
寝る前に取り組んでいた【瞑想】の経験値はどうかな?
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ユーキ(地球人・男)
習得中スキル
・身体
【黙想】25 /600 (-150)
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おお!寝てしまった割には結構入ってた。このペースで毎晩続ければ一ヶ月ぐらいで習得できそうだ。
『武具店に訪問し装備を調えましょう』
おっと、チュートリアル先生が朝から割り込んできた。
なるほど、昨日の体験を思い出せば、確かに準備は必要だろう。
このゲームはβテストとはいえ、ヤマトさんはゲーム内であと1年半ぐらい遊べると言っていた。
ちょっと面白くなってきたので、もう少しβテストを楽しみたい。
流通していないとはいえ、敵が溜め込んだメダルを集めて回るのも悪く無い。
そのためには、ゲーム内の活動基盤が必要だ。
ご飯と宿ぐらいは維持できるようにしないと、そこでβテストが終わってしまうことになる。
ヤマトさんが言うには迷い人の服は優秀で暫く使えるようだ。
だけど、昨日の経験を思い出してみるに、予備の武器はあった方が良さそうだ。
【金玉飛ばし】を使うにも、メダルが毎回失われるのは辛いので金属の玉を手に入れたい。
スキルの説明では金属の塊を飛ばすと書いてあったので短剣等を使うのもありかもしれない。
今日は午前中に装備を調えて、午後には昨日は不調だった【ラージラット】討伐のリベンジをしたい。
とりあえず、朝ご飯食べよう!階段を降りて食堂に向かう。
「ユーキさん、おはようございます!」「おはようございます」
まだ早い時間だけど、一階はそこそこ混んでいた。動物の耳が付いた人とか角が付いた人がそこらでご飯を食べていてイベント会場のようだ。
朝ご飯はサンドイッチとスープとコーヒーだった。
よく見たら食堂の隅の床でヒロシさんが寝ていた。あのままここで酒でも飲んでたようだ。
ご飯を食べて、カウンター脇を抜けて部屋に戻ろうとすると女将さんが話しかけてきた。
「今日も宿泊いただけますか?今のうちに連泊を申し込まれると少しお安くできますよ」
確認したら100ヤーンまけてくれるらしい。
「よろしくお願いします」
冒険者カードを渡して魔道マネー決裁を済ませて、今日の宿を早速確保した。
部屋に行って、迷い人の背負い袋と剣帯を手早く身につけるとキンブリー亭を後にした。
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冒険者ギルド向かいの店は冒険者で混んでいた。
【金玉飛ばし】に丁度良い金属の塊として鉄球や短剣を買いたい。
入り口付近は武器ではなく、ロープや金属の食器類や着火道具、バッグ類、手袋、外套などが陳列されていて雑貨屋のようだった。
人混みを抜けて奥の方に進んでいくと左側に防具類、右側に武器類の棚が用意されていた。
防具の棚には手のひらよりも大きな鱗が使われた盾が展示されていて、素材的にも面白い。
これはどんな魔物の鱗なんだろう。とてもファンタジー世界って感じがする。
武器の棚は手前側が小さめの獲物が陳列されていた。片手で運用するような剣から
両手じゃ無いと持てないようなサイズの剣まで陳列されていた。
数打ち品の同じ形のものは筒にまとめて放り込まれていたが、一点物の武器は高価なものらしく専用にしつらえたような棚に見やすい形で収められていた。
剣は結構高くてナイフぐらいのサイズでも5300ヤーンとかついていて、到底手が出そうに無い。
もう少し安い武器として、 投擲用のナイフが陳列されていたが、どうもピンと来ない。
【金玉飛ばし】で飛んでいって潰れたメダルのように、ナイフが折れたり、潰れたりするイメージが脳裏に浮かぶ。
少し奥に行くと大きめの武器が置いてあり、持ち手とトゲ付きの鉄球が鎖で繋がっている武器が陳列されていた。
トゲ付き鉄球か、手元に引き寄せて手に刺さって大変なことになるイメージが沸いた。これもパスだな。
さらに奥に行くと弓や機械式弓などが展示されており、その奥に銃器も置いてあった。
ファンタジーな世界観だが、どうやら火薬で飛ばすらしい。
『火種や火薬はカウンターでお求め下さい』と書いてあった。
お!ありそうじゃ無いですか、銃と言えば弾丸。まさに金属の塊ですよ。
「あった!!」
銃器には大砲というにはちょっと小さい砲身のものもあり、そこにまさにお目当ての鉄球を発見した。
サイズがパチンコ玉ぐらいからボーリングの玉サイズまでいろいろあった。
【金玉飛ばし】は火薬ではなくファンタジーな力で直接飛んでいくので大きくても良さそうだけど、どうだろうか?
メロン玉大のものはどうだろうか、飛ばすのに魔力がごっそり持って行かれる気がする、あと持ち運びが無理そうだ。
パチンコ玉ぐらいのものはどうだろうか、魔力消費的にも悪くなさそうだな。
と、そこで、先ほどの防具棚にあった盾を思い出した。
あの大きさの鱗の魔物に対して、パチンコ玉サイズの玉が飛んできてもダメージを与えられる気がしない。
どっちつかずな気がしたが、今回はピンポン球ぐらいのものにすることにした。
サイズを決めたら終わりだと思っていたが、よくよく見ていくと玉の種類もいろいろあるみたいだ。これはちょっと想定外だ。
材質としては黒いのや白いの、宝石のようなもの、魔物の角や牙を削り出したものもあった。
重さもいろいろあった。現実世界だと重たいのは放射性物質だったりで危ないし、鉛や金は柔らかい。
魔力で重さが変わりますなんていう一点物もあったが値段を見て無かったことにした。
いろいろ悩んでいた。弾丸は消耗品だが結構高かった。
残金が心配になり昨晩覚えた小出し表示の【ステータス】で確認する。
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ユーキ(地球人・男)
所持金
1465¥
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予算的にはこれから昼ご飯も食べるし1000¥ぐらいにしておきたい。
数発分買いたかったけど、予備武器だし再利用できるしということで、2つだけ購入することにした。
普通の鉄球なら結構な数を買えたのだが、固いという説明書きにやられて鋼の玉にした。
「1050ヤーンになります」
弾丸2つだけなら予算内だったが、弾丸持ち運び用の腰ポーチと戻ってきた玉を受け止めたら痛そうなので手袋を加えたら少し足が出た。
金玉は財布に痛いな。これぐらい気楽に買えるような財政状態にすることも活動目標に加えておこう。
買い物袋のような気が利いたものには入れてくれないようなので、店を出る前に早速ポーチを腰に巻き、手袋をはめた。
この状態で弾丸だけを【イクイップ】で呼び出す予定だったけど、よく考えれば一式を交換できるスキルだった。
右手に一つ鋼の玉を持ってみる。手袋は悪く無いが日常生活には不便そうだなー。
一旦この状態を記憶したいのでなんとなく「【イクイップ】セーブ」とつぶやくと魔力を使ったようだ。
魔力消費もだんだん慣れてきてクラっとしなくなり、魔力が減る感覚が分かるようになってきた。
早速ポーチと手袋を外して迷い人の背負い袋にしまった。
装備無しの状態も記憶しておこうか?【イクイップ】はもう少し装備パターンが記憶出来そうなので「【イクイップ】セーブ」とつぶやいた。
その場で装備を交換してみたかったが悪目立ちしそうなのでやめておいた。
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店を出ると向かいの冒険者ギルドに入り、受付嬢さんにキンブリー亭紹介のお礼を伝えた。
そして、依頼が張り出されている壁面に移動するとリベンジのため【ラージラット】討伐クエストを受けた。
クエストを受けなくても魔石の売却は出来るけど、最低価格保証は良いよね。
受付嬢さんは今日もなんかニヤニヤしながらこっちを見てた。
昼ご飯は昨日と同じ店でサンドイッチにコーヒーで100¥だ。
営業では昼飯のために日程組む奴がいるけど、僕はそうでも無いので適当に食べるが、チェーン店に行くことも多いので変化が無い方が好きなのかもしれない。
金玉選びに時間がかかったが、今日の予定は計画通りだ。
所持金はちょっと計画通りとはいかなかった。残りは出町税と入町税を払ったらほぼ空だ。
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ユーキ(地球人・男)
所持金
315¥
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コーヒーカップを持ちながら手に物を持っている状態で【イクイップ】使ったらどうなっちゃうんだろうと、変なことを考え出す。
俺だったら、寝る前に入っていた収納に収まりそうだけど、その場でつかんだコーヒーカップだとどうなるか分からないな。
(1) 先に持っていた武装が弾かれて周囲にすっ飛ぶ
(2) 先に持っていた武装と呼び出す物が合成されて新しい武器が産まれる
(3) 【イクイップ】に失敗して装備がもとのまま
(4) 先に持っていた武装が無い箇所のみ着替える。
いろんなパターンが起こりえるな。
コーヒーカップがすっ飛んでったら困るので、一旦机に置くと、道ばたに落ちていた石を左手で掴んだ。
鋼の玉を右手に持った状態を思い出して【イクイップ】を使ってみた。
左手に手袋、右手に手袋と鋼の玉、腰にポーチが呼び出された。左手には石を握った状態だ。
まずは装備が重ならない変更であれば特に問題がないようだ。
右手の鋼の玉をポーチに入れ、石を右手に持ち替えて【イクイップ】で再び装備を呼び出した。
右手には鋼の玉を持っている状態で、石は左手に戻っていた!
(1)~(4)のどれでもなくて、(5) 先に持っていた武装を元の位置に戻し、設定した装備に着替える。
だった。最もご都合主義な結果だった。すごい!
今度はカフェから離れた場所に鋼の玉を置いて【イクイップ】で武装を呼び出した。
鋼の玉は手元には来ないで、遠くに転がったままだった。
気合いを入れ直して今度は少し声を出して「【イクイップ】!!」と武装を呼び出した。
すると頭がくらっとしたが、今度は鋼の玉が手元に呼び出された。
距離は根性でカバーできるようだ。この場合、根性と書いて魔力だけど。
最後に、【イクイップ】で装備なしの状態を呼び出した。
ちゃんと両手の手袋と腰の弾薬ポーチ、右手の鋼の玉は無くなっている。
迷い人の背負い袋を確認すると手袋とポーチが入っていた。
よし!準備万端だ。冒険に出かけよう。
西門の先の丘陵地帯で【ラージラット】が待っている。
次話「14 初めてのクエストにリベンジ」